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耳飾り


遂に、やってきた嫁入り当日。当日は旦那さまの使いが迎えに来てくれることになっている。当然、朝から我がローゼライト公爵家は大忙しだ。メイドたちがこぞって朝から私を磨け上げ、婚礼衣装を着付けていく。


―――そんな時だった。


「お嬢さま、大変です!」

メイドのアンがあせった表情で駆けてきた。


「どうしたの?」

ルチルでも出たの?一応、ルチルはお父さまより本日部屋から出てはいけないと厳命を下されているはずなのだが。


「宝飾品が、足りません!」


「―――えぇっ!?」


私はその言葉に、慌ててアンと一緒に宝飾品を確認する。おさに嫁ぐ花嫁の宝飾品は、長の一族出身であったおばあさまのと同じ数のはずだし、贈られてきた時もそれを確認しているはずなのだが。


ベールを止める金色の飾り、そして五属性を表す色を宿した首飾りが5つ、後は―――。


「耳飾り、ね」

「えぇ。長の家紋を施した金色の耳飾りが、―――ありません」

「うぅ、魔法で施錠までかけていたのに、うかつだった」

本来ならば開けることができないようにしていた。そして、ルチルに見つからないようにクローゼットの奥に収納していたと言うのに。


「解錠に使用したのは、恐らく魔動具よね」

「えぇ、恐らくは」


「屋敷中を探すと見せかけて、ルチルの部屋を重点的に探すわよ。お父さまにもそう伝えて」

「承知いたしました、お嬢さま」

アンが頷くと、他のメイドたちも頷きを返してくれる。私は婚礼衣装を身に着けているので動き回れない。

あとはお父さまや使用人たちがルチルから回収してくれることを願うまでだ。


―――あぁ、どうかまだ身に着けていませんように。



そんな私の願いは、あっさりと裏切られた。



私の部屋に泣きじゃくるルチルを連れて、お父さまがやって来たのだ。そのルチルの両耳にはしっかりとなくなった金色の耳飾りが付けられていた。


「これを見てくれ、イェディカ」

お父さまが私に差し出したのは魔動具だった。


「解錠用の魔道具だ」

「こんなもの、どこで?」


「ベリル殿下に便宜をはかってもらい、手に入れたそうだ」

いや、てかプロが使うやつじゃない?これ。解錠するためのパスワードなどを忘れた時などに専門の魔法使いに頼んで開けてもらう時に使うものだ。


「どうやって言い訳をしてこれを?」

「ベリル殿下に、大切なものをしまった箱を開けられなくなったが、とても緻密な施錠魔法を使っており、他のひとに見られたくないものだから秘密裏に開けたいと言ったそうだ」

「それを信じて渡しちゃうベリル殿下もどうかとおもうけど。どうやって専門の魔法使いからもらったんだか」

そこら辺は、お父さまに真相究明を任せるか。多分、魔法使いの方も王子に言われてしまえばなかなか断れなかったのだろうけど。


「―――そんなことより、早くこの耳飾りをどうにかしてよ!!」

そう、お父さまとの会話の最中に口を挟んできたのはルチルだった。


「ルチル、今はイェディカと話を」

「今日この家を出ていくお姉さまのことなんて関係ないじゃない!公爵令嬢である私を心配しなさいよ!」


「ルチル、それは私に命令していると言うことか?」

お父さまの声がぐぐっと低くなり、ルチルは黙り込む。


「イェディカは嫁いでこの公爵家から籍を外すが、私の娘であることに変わりはない。そして、私はいつでもお前を公爵家から除籍させることができる、ローゼライト公爵だ。それを忘れるな」


「ひ、ぅ。でも、私がいなくなったら、誰が公爵家を継ぐの!?」


「そんなのは、分家から優秀な養子を迎えて跡取りにすればいい」


「な、それじゃぁベリルさまは!?ベリルさまは王子なのよ!?」


「だからなんだ。公爵家の跡取りは後に第1王子殿下に仕える臣となる。それに相応しいものを次期公爵に任じることを、お前やベリル殿下がとやかく言う権利はないぞ」


「そんなっ、酷いわお父さま!」

うぅっと泣き崩れるルチル。でも涙はきっと流れていない。これは確実である。


「酷い酷い酷い~~~っ!早く外してよぉ~」


「無理だな」

「無理ね」

お父さまも私も即答した。


「何で!?」


「―――それがイールーの婚礼のための宝飾品だからよ」

おばあさまには幼い頃から言い聞かせられていた。そう言えば、その時ルチルはいたっけ?だが、普通に考えて姉の婚礼のための宝飾品を魔道具まで使って勝手に盗んでつけるなんてことは考えられないことだ。まぁ、そんなことをしでかすのが我が妹なわけだが。


「イールーの宝飾品には、本来それを身に着けるべきもの以外が身に着けた時、呪いが発動するの。イールーの嫁入り先に不当に紛れ込もうとしている不埒な者に罰を与えるために」


「いやあぁぁぁっっ!何とかしてよ!やっぱり蛮族じゃない、こんなことするなんて!」


「盗っ人に言われたくはないわ」


「いいじゃない!だって私の方がこの耳飾り、似合うじゃない!地味で陰気で吊り目なお姉さまに比べたら!」

はぁー、全国の地味で陰気で吊り目なひとたちに謝れ、妹よ。


「私のために用意されたものなんだから、そもそもルチルが身に着けていいものじゃないの」


「何でよ!お姉さまに用意されたものは私に用意されたものだったじゃない!」

そうね。ベリル殿下からのプレゼントを度々強奪していったのはあなたよね。そしてそれを身に着けたルチルを、ベリル殿下は普通に褒めていた。何なんだあの王子。私は内心舌打ちしていた。


「別に。いらなかったから何も言わなかっただけ」

お父さまにも、そんなものはいらないから別にいいと私は言っていた。どうせ妹にとられるのだから。お父さまも注意はしてくれたものの、私が全く興味を示さないのでせめて取られないものを代わりに買ってくださった。主にイールーの伝統工芸品で、その一部は嫁入り先に持って行くつもりだ。おばあさまの嫁入り道具と共に。


だから積年の恨みを果たすため、このざまぁを狙っていた?―――いやいや、まさか。何も起こらないことを願ってしっかり施錠魔法を掛けましたとも。それを解錠してまで盗んだのはルチルの方である。


「婚礼は、事情を話してこのまま行くしかないですね」

「あぁ、事情は私から話そう。ルチルは部屋へ」

そう、お父さまが命じると、男性の使用人たちが無理矢理ルチルを部屋から引っ張り出す。


「いやあぁぁぁ―――っ!どうにかしてよぉっ!私の耳を治してよぉ―――っ!」

そう泣き叫ぶルチルの耳は、耳飾りの留め具からじわじわとどす黒い何かが這い出ていた。


―――はいはい。嫁ぎ先のおさである旦那さまが許せば、無事解錠されますよ。

そう心の中で呟き、私はお父さまやメイドたちと共に使いの方を出迎えに向かった。


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