その後
断罪の後、私は王太子殿下の計らいで、お城のサロンに案内されていた。そこにはお父さまと辺境伯さま、ミラさまも同席してくれて、ユラも来てくれた。ロダさまはシュラさまに同行したらしい。
「久々に会えて嬉しいよ、イェディカ」
「私もです、お父さま」
「彼とはうまくやっているのか?」
「え、えぇ。とても優しくしてもらってますし」
まさに至れり尽くせりである。
「そうか。あの時からそうだったからな」
「―――あの時?」
「あぁ、城の庭で、楽しそうに踊っていたな」
あの時の、シュラさまと踊っていた時のこと!?
「ご、ご存じだったのですか?」
「城で仕事をしていたら、窓から偶然見えたんだ」
「は、はしたないところを」
「そんなことはない。とても楽しそうだった。本当はもっと早く、―――っ」
「お父さま?」
「いいや、何でもない」
「そう、ですか。―――そう言えばルチルのことですが」
「あぁ、あんな問題さえ起こさなければ、無難な嫁入り先を探すつもりだったがな」
「でも、そのおかげでシュラさまと結婚できたのも事実なので。できればあのバカと結婚するのはどうにかならないかなぁと思っちゃいます」
「確かに、まぁあれとの婚約は早く解消させたかったのだが、何分王家との婚約だ。なかなか進まなくてな。辛い思いをさせた」
「い、いえ。政略結婚なのですから」
「―――だが、一番はイェディカ、お前の幸せだろう?」
「お父さま」
「だから、幸せになってほしい」
「私は幸せですよ。シュラさまと結婚できましたから」
「そうか、イェディカが笑ってくれているのなら、それで満足だ」
「はい、お父さま」
「―――それなら、そうだな。ルチルのことも、陛下に奏上し、考えておこう」
「はい、お願いします。お父さま」
ルチルとは色々あったけれど、今があるのはルチルのおかげでもあるのだ。あの子には、立ち直ってまっとうに生きて欲しいと願う。
***
やがて、シュラさまとロダさまが帰って来た。
「ただいま、イェディカ」
そう言って、いつものようにただいまの口づけをくれる。
「そ、そういうのは、だなっ!」
その時お父さまが立ち上がり。
「ひゃっ」
ここはお父さまの前だったのだと思い出し、一気に顔の熱が上がってしまった。
「あらあら、相変わらずね。羨ましい。ね?旦那さま?」
「そ、その。後でな」
という、ミラさまと辺境伯さまの先輩夫婦のイチャイチャも聞こえるが。
「そ、その。その後ベリルはどうなったのですか?」
こういう時は、話題を逸らすに限る。
「あぁ、もう二度とイェディカの目の前に現れることはないから、安心していい」
それは一体どういう?でも何となく聞かない方がいいような気がした。
***
その後、私たちはお父さまに公爵家の晩餐に招待された。シュラさまと辺境伯さまとミラさまも一緒だ。お父さまとの晩餐は本当に久しぶりで、そこには跡継ぎとなる従弟も来てくれた。
とてもいいひとそうで安心した。これからは公爵家で過ごすことになるそうで、公爵家のメイドであるアンによろしくと頼めば、「もちろんです」と快諾してもらえた。
***
そして西方に無事に帰還した私たちは、フーちゃんの熱烈ふわもふアタックに出迎えられた。
「ふーりゅーっ!!」
「わぁっ!もふっ!」
フーちゃんを胸元で受け止めれば思わずのけ反り、慌ててシュラさまが背中を支えてくれた。
みんなの楽しそうな声が響く中、またいつもの日常に帰ってきたのだと感じて一安心である。
その後聞いた話だが。
ベリルは大事なところを潰されて野に放り出されたらしい。そのため、ベリルの子孫が残ることもないらしい。なお、それはイールーの制裁のひとつらしい。―――って、ことはまだあるのか。でも、詳しくは触れない方がいい気がする。
その後のベリルの消息はしれない。
一方のルチルは下町の工房を紹介され、そこでせっせと働き生計を立てているらしい。結局ルチルはベリルと結婚することはなかった。それは本人の意思に任せるとの陛下の計らいである。その計らいは、お父さまが奏上してくれて実現したそうだ。
ルチルはベリルを選ぶことはなかった。制裁を受けたベリルを見て、百年の恋も冷めたらしい。今では真面目に暮らしている。
―――一体何をしたのだろう、シュラさまたち。知りたくないわぁ、ぶるぶるる。
***
その後私は、ミラさまの図案の刺繍を完成させた。テーブルクロスやストールに刺繍を施せば、「これは王都でも売れる!」とミラさまは大興奮だった。今はミラさまと一緒に商品開発のために共同でイールーを含む辺境伯領の発展のために少しでも役に立てるように活動している。
―――そしてもうひとつ。
「できました、シュラさま」
私は最近、料理を勉強している。もちろん師匠はユラや婦人会のみなさん。
シュラさまが狩ってきてくれた魔獣のアレンジレシピなどを生み出して、こうしてシュラさまにふるまっている。
「今日も美味しそうだな」
そう言って、いただきますの口づけをくれる。
「も、もぅ、シュラさまったら」
相変わらず甘々で、優しい日々。
「味は、どうですか?」
「あぁ、とっても美味しいよ」
「良かったです!」
シュラさまに褒められて、思わず笑みがこぼれた。今日も、明日もずっと、こんな幸せな日々が続くことを願って。
(完)
フーちゃん「ふゅーるー」(訳:もう1話やるで)