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王都からの手紙


「刺繍は順調そうだな」


「はい。婦人会の方々のお陰で、なんとか」

私はミラさまからいただいたデザインを元ににらめっこ中で、長の屋敷のリビングルームでソファーに座りながら刺繍を仕上げていた。


シュラがやってきて私の隣に腰掛ければ。


「ふゅるるるる―――っ!」


もふっ


すかさずフーちゃんが逆隣に座り、ふわもふボディを擦り付けてくれる。


「あんまり近づくと危ないわよ?針を持っているから」

キランっと刺繍針を構えれば。


「ひゅるるっ!?」

しゅたっとソファーの上から飛び降りたフーちゃんは、私の足元にもふっとボディを押し当てて丸くなってすやすやと休みだした。

おぉっ、頭いいこの子。


「こいつも考えたものだなぁ」

と、シュラさまが言えば。


「ふーりゅー」

“まぁね”とばかりにフーちゃんが鳴く。


「そうだ。イェディカ。実は王都から手紙が届いている」


「手紙、ですか?」

お父さまから届く手紙なら、いつもユラが渡してくれる。そうじゃなくてシュラさまからと言うことは、何か別件の手紙なのだろう。

一体、誰からだろう?


「要件は2つあってな。王城の夜会に呼ばれた」


「お、王城の!?」


「こちらはトールやミラ姉と行くからまぁいいんだが、問題はもうひとつ。むしろそのために呼ばれたんだろうな」

そう言うと、シュラさまは困ったような気まずそうな表情を浮かべる。


「一体、何が?」


「その、第2王子がな、イェディカに謝罪したいと」

「―――っ!?」

だ、だだだ、第2王子って。バカ王子のベリルじゃねぇか。あのクソ王子が謝罪だと?浮気者で私の外見が気に入らないと言う理由で好き勝手してきやがったアレが、謝・罪!?


「何か、すごい嫌そうだな」

「まぁ、嫌いですから」

「そうか、なら安心だな」

安心されるとは思わなかった。


「それならどんなクズでも容赦しなくて済むだろう」

「いや、一応王子ですよ?」


「王子でいられるウチは、だろ?」

シュラさま、何かすっごい黒い顔してるんだけど。


「トールは王太子と幼馴染みなんだよ」

「あぁ、王太子殿下。本当に第2王子殿下と血がつながっているのかどうか疑ってしまうくらい良い方でした」

「あぁ、トールもそう言っていたよ」

え、それは部分的に?それとも全体的に?全体的だとしたら、どんだけ評判落ちたのかしら。いつから?―――浮気し始めてから本格的にだろうなぁ。本当に、あのひとと婚約解消されて良かった。今や私は優しくてステキな旦那さま・シュラさまのお嫁さんになったのだから。

ざまぁ見ろ、バカ王子め。


「この謝罪には今後の王族としての存続がかかっているらしい」

「じゃぁ、嘘でも謝罪してくるのかしら」

「受けるかどうかはイェディカの自由だし、こちらには辺境伯のトールもいるし。トール曰く王太子殿下もトール側だから安心していいそうだ」


「辺境伯さまが?」

ミラさまもだけれど、辺境伯さまもシュラさまだけではなく、私のことも気にしてくださって。本当にお優しくて頼もしい方だ。


「私、行きます」

「いいのか?」


「シュラさまが一緒なら、大丈夫な気がするんです」


「―――そうか。そうだな。大丈夫だ。何があっても俺が守るよ」

そう言うと、ぽふっと頭に掌を乗せてくれる。何だか、嬉しいなぁ。


「あの、ダンスの件なんですが」


「あぁ、無理しなくていいぞ」


「そ、そうなんですけど!さすがに王家からの縁談で踊らないのは、国王陛下に失礼に当たると思うんです」


「まぁ、言われてみれば、だな。だが、言いわけならいくらでもあるぞ」

そ、それはそうかも。体調不良とか、靴擦れとか?


「辺境伯邸ではシュラさまに甘えてしまったのですが、克服、しないといけないのかなと。私、トラウマが、あるんです」


「トラウマ?」


「―――はい、本当にいい思い出がなくて」


王子妃教育の一環で、第2王子殿下とのダンスレッスンがあった。けれどその場では下手だ、とろい、もっとうまく合わせられないのかと暴言を吐かれ、足をわざと蹴られたり、踏まれたり。怪我をしてもダンスレッスンでくじいただの言われ、真実は王族の特権で隠された。だってダンスレッスンの教師も第2王子殿下にいい顔ばかりする回し者だったんだもの。


―――しかも、王子殿下がいないところでは、教師に服で隠れて見えない部分を鞭で叩かれたり、怒鳴られることなんて日常茶飯事で。公爵邸で私のメイドとして仕えてくれていたアンはさすがにお父さまに言いましょうと言ってくれたけど。


けど、お父さまの立場のこともある。それにこれは政略結婚だ。私のせいで破談になれば、公爵家だって打撃を受けてしまう。だから、耐えて、耐えた。


足が血だらけになるまで踊らされたその日、お父さまが怒ってその教師を追放し、国王陛下に怒ってくださって、陛下はお父さまと私に謝罪された。

その時初めてわかった。無理する必要なんてなかったのだと。お父さまは何があっても私を守ってくれるんだと。


だけど王子殿下の悪事は明らかにされなかった。できなかった。報復が恐くて。そしてその後王子殿下は妹と浮気をし、公式の場で踊る時まで妹の手を取った。さすがにその時はお父さまも陛下も見ていらっしゃって、陛下は殿下を叱ってくださったけれど。


そう言ったことが度重なって、私はダンスから距離を取っていた。

そのことをシュラさまに打ち明ければ。


「―――自分の妻になる子に、何でそんなことができるのか。本当にクズだな」

「はい、クズです」

即、同意してしまったが。でもシュラさまの目は確実に魔獣をほふる時のものだった。断言しよう。


「大丈夫だ」

シュラさまの手が、私の頭をそっと抱き寄せてくれた。


「これからは、俺が付いている」

「はい、シュラさま」

シュラさまのその優しさとあたたかさが伝わってきて、とても安心した。



フーちゃん「ひゅーるるー」(訳:自分らイチャラブやんけ)

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