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イールーの伴侶


辺境伯邸のパーティーはさすが辺境伯と言わんばかりの豪華さであった。


「あの、シュラさまはこういった場では踊られますか?」

私はドキドキしながら聞いてみた。


「いや、あまり。でもイェディカが踊りたいのなら、一曲踊ろうか?」

「いえ、何と言うか。あまりダンスにいい思い出がなくて」

主にバカ王子のせいで。

ダンスの練習ではいつも下手だのとろいだの言われたし、足は踏まれるし、更にはおおやけの場で踊る機会があっても私は無視、妹と踊りやがったあいつ。

なのでダンスに対してはいい思い出が本当にない。


「なら、おそろいだな」

「シュラさまも、ですか?」

何だか意外である。おばあさまは、イールーの伝統的な舞踊の他にも、長の一族として王城でも踊れるダンスを完璧に習得していたので、長のシュラさまも当然踊れるとは思うけれど。


「王都に出向いた時に、何度か踊ったが。あちらは香水や化粧品の匂いが、ちょっとな」

「確かに、そこら辺を重視する方もいますからね」

私は苦手なのであまり用いないけれど。


「珍しいもの見たさなのか、誘いが多くてな。4人目でギブアップして、トールに押し付けて逃げたよ」

ぐはっ。辺境伯さまに押し付けたんですか、シュラさま。まぁ、仲は良さそうだしね。パーティーの最初に挨拶に伺った時もとても仲良く会話しておられたし。


でも、珍しいもの見たさと言うか、一番の原因はシュラさまもなかなかの美男だから、じゃないかなぁとちょっと思ったりもする。


「おいしいものもたくさんあるから、回ってみようか」

「はい、是非」

何だろう。花より団子とはよく言ったものだが、私たち夫婦にとってはダンスより食べ物でいいようだ。


「あ、これ美味しいです」

「あぁ、それはワニの魔獣の串焼きな」

「ワニ!?」

衝撃である。いや、イールーの地でも散々魔獣のお肉は食べてきたけど!

※魔獣のため、地球のワニの生態系とは異なります。


「でも、美味しいのが一番です」

「それもそうだ」

そう言って、もう一口頬張った。


「こっちも美味いぞ」

「それは?」

シュラさまが差し出してきたのは、キッシュのようだった。


「辺境伯領で採れる甘みのあるジャガイモでつくったキッシュだ」

「へぇ、甘いジャガイモですか」

一口頬張ってみれば。


「本当です!甘くておいしいです」

これを知って、普通のジャガイモに戻れなくなったらどうしようとちょっとだけ不安になったが、美味しいのでま、いいかと思い直す私。


そうやってシュラさまと辺境伯邸のご飯を楽しんでいれば、シュラさまが辺境伯さまに呼ばれて行った。どうやら警備関連で紹介したい人がいるらしい。私はそこら辺はさっぱりなので、ミラさまに見事に回収されて行った。


「辺境伯邸のご飯はどう?」

「お、おいしいです!特に甘いジャガイモ!」


「ふふ、近年人気の品種なの。収穫量が増えたら、王都にも進出させる予定よ」

「ミラさまは農業分野の流行も担っていらっしゃるのですね」

「これでも辺境夫人だからね。主人のためにも、辺境伯家のみんなのためにも、この土地のみんなのためにも頑張らなくちゃ」


「私も、そんな風になりたいです。けど、何から始めればいいのか」


「焦らなくてもいいのよ。ゆっくり、ゆっくり見つけていけば。そうだ。シュラから聞いたけど、イェディカちゃんは刺繍が好きなんですってね」


「あ、はい。まだまだ勉強中ですが」


「ふふ、でもシュラの帯の刺繍は見事だったわ」


「え、シュラさまに、お聞きに?」


「いいえ。手作りの刺繍帯をわざわざするなんて。伴侶の女性のプレゼントに決まってるじゃない。ウチの旦那も付けてるわ。ほら」

ミラさまが指示した辺境伯の方を見やれば。確かに刺繍帯を付けている!


「な、なるほど」


「ねぇ、もし私が刺繍の図案を書いたら、刺繍をお願いできない?」


「わ、私でいいのですか?まだまだ下手なのに」


「平気よ。思いが籠っていればね。付与魔法使いとしてもそれが一番だから」


「確かに、付与魔法使いの子たちも言ってました」


「それじゃ、お願いできる?」


「はい、もちろんです!」

何だか、楽しみだなぁ。わくわくしてくる。そんな風にミラさまと会話を楽しんでいれば。


「そこのレディたち、もしよろしければ私たちと」

何だか数名の令息が集まって来た。


「申し訳ないわね。夫がヤキモチきだし、それに私イールー出身なの」

だから、主人以外のひととは踊りたくないわ。そう言う意味だろう。


「私も、イールーの妻ですから」

イールーは伴侶に対する愛情が深いと言うか、他者の伴侶への手出しを厭うし、自身の伴侶にむやみやたらに異性が絡むのも厭うのだ。


だからこうして断ることができる。役得役得。むしろダンスは苦手なのだ。精神的な意味で。


「ははは、そんな古臭い風習気にしないでさ」

「俺たちと踊ろうぜ?」

「そうそう、そんな古臭い風習なんて捨てちまえばいいんだ」

いや、古臭いとかとちゃうし。女性にも選ぶ権利があるって話だし。そもそも、伴侶に許可取れば踊れるけど、踊りたくないだけやし。むしろ、こんなチャラ男軍団、頼まれてもいやだ。


「一体何の騒ぎだ?私の妻に何か?」

「俺の妻も、嫌がっているようですが」

そこで颯爽と現れてくれたのが、辺境伯さまとシュラさまだった。お話はもう終わったようで、助かったぁ。


「げっ、辺境伯さま!?」

「マジかよ、やべー」

いや、お前ら話しかけといてミラさまの顔、覚えてなかったの?最初に挨拶したでしょーに。


「君らの顔と名前は頭に入っている。西方の国境を守る勇敢な民族・イールーの風習をけなし、あまつさえその伴侶に手出しをするなどと、とんでもない」

そう、辺境伯さまが低い声で言い放つと、チャラ男たちはビクンと肩を震わせる。


「シュラ、この者たちの処分は、私に一任してくれるか?」

「まぁ、トールがそう言うんなら任せるよ」

「あぁ、だから安心していい。イェディカ殿もな」


「え?あ、はい」

そして私たち夫婦とミラさまは、この一件があったため早めにパーティー会場を後にさせてもらった。案内されたのはミラさまのサロンであった。


「今日は嫌な思いをさせてしまってごめんなさいね」


「いえ、ミラさまも同じでしょう?」


「ほんと、あぁ言うのたまにでるのよね。ちょっと前に私にしつこく絡んできた男もいて。イールー出身だからって珍しいもの見たさの輩もいるのよ」

加えて美人だからなぁ、ミラさま。


「その時も旦那さまに徹底的に絞られて、暫くは出なかったんだけどね。シュラもごめんなさいね」

「いや、トールが責任持ってくれんなら、俺はいい」


「信頼されているのですね」

「まぁな」

私がそう言うと、シュラさまもニカっと笑う。辺境伯さまとイールーの長が互いに信頼を寄せている。だからこそ、この地の平和も守られているのだろう。



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