指輪
―――シュラさまに刺繍入りのハンカチをプレゼントして数日後のことである。
「あ、あの、シュラさま」
その日の晩、いつも通り夫婦のベッドの上にて。私はドキドキしながらシュラさまに話しかけた。
「ん?どうした」
「ふゅーるー」
あ、もちろんフーちゃんも定位置にいる。
「あの、これを」
私はその日出来上がって双子の付与魔法使い、アオイちゃんとソラちゃんに付与魔法を掛けてもらった刺繍帯を差し出した。
「これは、―――イェディカが刺繍したのか?」
帯を手に取り、シュラさまはしげしげとそれを見つめていた。うわわっ、そんなに見つめられたらちょっと失敗したところとかがバレてしまうっ!
「は、はい。えと、ただ付与魔法はアオイちゃんとソラちゃんが」
「あぁ、あの二人か。まだ子どもだが腕はピカイチだからな」
「はい。見ているだけで癒されますよね」
あの付与魔法のかけ方を見るだけで何か元気が出てくる。
「付与魔法って、見ているだけでも楽しくていいですね」
「―――あの掛け方をするのは、あの双子だけだぞ?」
「えっ、そうなのですか?」
じゃぁ、他のひとは違うのかな。だが、私は引き続きアオイちゃんとソラちゃんにお願いしようと思った。一度あれを知ったら、他のには行けない!!
「それにしても、上手いもんだな」
「あ、あの。婦人会のみなさんやアオイちゃんとソラちゃんに教えてもらったので」
「そうか。嬉しいよ」
「い、いえ」
「そうだ、俺も渡す物があってな」
そう言うと、シュラさまがベッドわきの小卓の引き出しから小箱を取り出した。
「以前、約束していたものだ」
私の手にその小箱を乗せてくれると、開けてみてと視線をくれた。すこっと小箱の蓋を取れば、その中に入っていたのは。
「け、結婚指輪、ですね」
「あぁ、そうだ。俺もつけた」
そう言うと、シュラさまが手を見せてくれる。その左手の薬指には結婚指輪がはめられている。
「それを、イェディカの指にもはめていいか?」
「は、はい!もちろんです!」
緊張しながら左手を差し出せば、小箱から指輪をとり、そしてシュラさまが薬指にはめてくれた。
「わぁ、金色だ」
「辺境伯領では、伴侶の目の色の指輪を作るんだ。誰が始めたかは知らないが、それが普通になっている」
そう言うシュラさまの指輪は、私の瞳の色であるグレーだった。結婚指輪と言えばシルバーのイメージが王都では根強いが、これはこれで何だか特別感があっていい。
因みに、指輪の裏に相手の名前を彫るのは、こちらでも王都でも同じだ。
「それでな、辺境伯の件なんだが」
「何かあったのですか?」
この西方、イールーの地は西方の辺境を預かる辺境伯領の一部である。
「今度、辺境伯家で夜会があるんだ。その場で是非、イェディカのことを紹介してくれと頼まれた」
「わ、私をですか!?」
「俺と結婚したのがどんな子なのか、興味があるようだ」
「そ、そのっ!が、頑張ります!」
「そんな気負わなくても大丈夫だ。辺境伯とは旧知だし、その嫁さんは俺の従姉だからな」
「い、従姉さんが、辺境伯家のお嫁さんに?」
「あぁ、ウチとの縁を強めるためにあちらに嫁いだんだ。彼女も興味津々なようでな。虐められたりすることはないと思うから、安心して」
「そ、それは良かったです」
小姑問題とか、あったらやだもんなぁ。
まぁ、従姉のお姉さんなわけだから小姑とはちょっと違うかもだけど。
「そ、それで、夜会はいつ頃で?」
「2週間後だ。ドレスや何かは準備が済んでいるから、後でユラとサイズの確認をしてくれ」
「わ、わかりました!」
「あんまり緊張しないようにな。前みたいに目の下にクマを作られたら困るから」
「あ、あれは、そのー」
緊張したと言うかドキドキしたと言うか、その、口づけに。―――あれ、意味同じかな、これ。
そして今夜もお休みのキスを贈られて布団に入る。そりゃぁ、最初の頃に比べたら寝られないほどではないけど、やっぱりときめいてしまうのは変わらない。
ぽふっ
あ、フーちゃん。
フーちゃんがふわもふお手手を私の口に押し付けていた。
何だろう。そのぽふっをしてもらうと何だか冷静になって寝られるのよね。
あぁ、ふわもふセラピーありがたや。
「ふゅるる~♪」
今日も今日とて、ステキな結婚生活(+ぷれもふ付き)である。