付与魔法使い
―――妹の問題を解決した私はその日、ユラの紹介で城の刺繍教室にお邪魔していた。ここは城で働く女性やその伴侶の女性たちが集まって刺繍を教えあったりお茶をしたりして楽しんでいる場だそうだ。
外から嫁いできた長の妻である私が受け入れられるかどうか不安だったが。
「あらあら、かわいい子ね」
「シュラさまも隅に置けないわぁ」
と、割とご婦人たちに優しい言葉をかけていただいた。いや、一応政略結婚なのだけど。まぁ、歓迎してもらえたようなのでいいか。
「それはシュラさまから?」
「あら、かわいらしいわね」
婦人方が注目したのは、私のエプロンだった。イールーの風習では、既婚の女性はこうやって民族衣装のスカートの上に、様々な色とりどりの柄のエプロンを身に着ける。民族衣装の時はこうして既婚者かどうかを見分けることができる。それ以外は基本的に立襟に右側に釦の打ち合わせのあるワンピースのようなデザインがこちらの民族衣装の普段着の基本である。
因みに私のエプロンは椿の柄だった。他にも縞模様や格子模様、花柄など、婦人方やユラのエプロンを見ても様々だ。
最近では王都の風習も伝播しており、薬指に指輪を身に着けることもある。私たちの分も民族衣装ではない時用にシュラさまが手配してくれているそうだ。
「シュラさまのお嫁さん」
「わぁ、本物だー」
と、かわいらしく私に駆け寄ってきてくれたのは、私よりも2~3歳年下と思われる双子の少女であった。黒いロングヘアーに青い瞳の子と、水色の瞳の子である。
「こらこら、あなたたちったら。ちゃんとご挨拶しなさいな」
そう、ご婦人に言われ、ハッとなった2人がかわいらしくカテーシーもどきをしてくれる。本物のカテーシーには及ばないものの、これはこれでかわいすぎる。
「アオイでーす!」
そう名乗ったのは、青い瞳の方の少女。
「ソラでーす!」
続いて名乗ってくれたのは、水色の瞳の少女だ。
「イェディカです。これからよろしくね」
『よろしくねー!』
「この子たちったら」
そのフレンドリーさに、ユラも他の婦人たちもクスクスと苦笑する。
そして私は、双子に囲まれながらユラたちに見守られ、刺繍に勤しんでいる。
「おねーちゃんは何を刺繍するの?」
と、青い瞳のアオイ。
「うん、何がいいかな。旦那さまに関わるものがいいなって思うんだけど」
『シュラさま!!』
「それでしたら、シュラさまは木と土の魔法が得意なので、以前仰っていた碧桔梗はどうでしょう?」
と、ユラ。
「えっと、縫えるかしら」
「教えたげるよー」
「私たちも得意なのー」
と、アオイとソラ。
「それじゃぁ、お願いね」
『おうさっ!』
と、胸を張る双子。何だかとてもかわいらしい。わぁ、私、この子たち妹にしたい。そんな衝動に襲われた。
「ここはね、こーするといいよー」
「おねーちゃんじょーずっ!」
と、双子にレクチャーしてもらい、何とか碧桔梗を1輪刺繍し終わった。
「シュラさまにあげるの?」
と、ソラ。
「う~ん、でも単なるハンカチだし。私は付与魔法が使えないから」
「それなら、私たちがかけるよ」
「え、いいの?」
アオイの提案に驚いて双子を見やれば。
「誰しも付与魔法を使えるわけではありませんから。そう言う場合は付与魔法使いに頼むのです。アオイとソラはその中でも特に優秀なのですよ」
「そうだぜ」
「まかしたれ」
と、かわいく言ってくれるアオイとソラ。
「それじゃぁ、お願いしようかな。これだけでもいいのかしら」
「もち」
「シュラさまへの思いを込めて縫ったればやりやすいから!」
そうなんだ。シュラさまのことを。―――ぽっ。ヤバい何だか恥ずかしくなってきたぁ―――っ!
『リンリンルンルン付与魔法~、付与魔法~、シュラさまに木の属性加護を~、ルンルンリン~』
と、仲良く歌いながら付与魔法を掛けてくれた。
付与魔法の掛け方は人それぞれ違うらしく、双子の付与魔法はそれだけで癒された。あぁ、えぇリハビリやわぁ~。まったりほっこり。
***
「そうだ、もしよろしければ、刺繍帯を作りませんか?」
そう、ユラに提案された。
「刺繍帯?」
「妻が旦那さまにお贈りする代表的な刺繍作品です。シュラさまもきっと喜ばれますよ」
「そ、それならやってみようかな?でも、私にできるかな」
「大丈夫ですよ。ちゃんとお教えしますから」
「私たちも」「いつでも頼ってね」
ユラを始め、婦人方から温かい言葉をいただいて、私は刺繍帯の刺繍に移ることにしたのだった。
※碧桔梗のモデルはトルコ桔梗です