翌朝
―――うわぁ、なんだろ。これ、昔お父さまが言ってた、あれ?
『30代を過ぎてからかな、朝が、キツイ』
―――いや、違う。私、いま18歳!
ごめんなさい、お父さま。18歳なのに何となく、お父さまの朝の気持ちが分かってしまった気がする。いや、違う。これ、ただの寝不足―――。
そう言えば何故私は寝不足に。
眠くて瞼が重い。むくりと上半身を起こせば。太ももに横辺りでフーちゃんがふわもふをふわもふしてくれる。ぎゃぁ、なにこれかわいすぎー。
―――お饅頭、おいしそう?
「ふぎゅっ!?」
あ、違う。これ、フーちゃんだった。
「大丈夫か、イェディカ?」
そんな感じでとろーんとしていれば。昨夜ぶりの、旦那さま・シュラさまの声がする。フーちゃんを挟んで向こう側でむくりと身体を起こしたシュラさまの姿が視界の端に映った。
くるりと首を横に向ければ。
「あ、シュラさまー」
どうしよう。何か適当な相槌になってしまった。旦那さまとの初夜の翌朝なのに。
※但し、キスだけ
こういう時は寝そべりながら互いの顔を見ながらイチャイチャと?
※あくまでも恋愛小説での知識
―――あぁ、いえ。間にフーちゃんいるから寝そべってたら互いの顔は見えないし、更にはもう二人とも身体を起こしてしまっている。
―――もう、引き返せない!
「やはり昨日の疲れが残っているのかもしれない」
そうかなー、シュラさまー。
「ふゅーるー」
フーちゃんも賛成のようだ。
「今日は少し休んでな」
そう言って、シュラさまの手がぽふっと頭に乗る。
なんだろう、この安心感。
「シュラさまって、―――お兄ちゃんみたいれすー」
※“れ”は誤字じゃないよ。呂律が回っていないだけだぞっ☆
「え゛っ」
シュラさまの驚いた声がする。
「あはは、私お兄ちゃんいませんけどねー」
いるのは残念な妹だけですー。あれ、妹?私、やっぱり何か忘れているような。
「まぁ、疲れているんだな。ゆっくり休め」
再びのぽふぽふっ。
うん、お兄ちゃんー。
お兄ちゃんがいたらきっとこんな感じなのかなー。
※夫です
「それじゃ。何かあったらユラに言ってくれ。ユラにはこちらから伝えておくから」
「ふぁ~い」
私は再び布団に潜り込み、ふわもふフーちゃんのふわもふに顔をうずめた。
やはり、ふわもふは最強である。
すーやー。
シュラさまが音を立てないように身支度を済ませ、「行ってくる」そう言って頬に柔らかい感触が―――。
そしてパタンと閉まる寝室の扉の音。
―――ん?
―――今、私、頬に?
―――うーわわわわわぁぁぁぁ―――っ!寝不足の原・因―――――っ!!!
やばい。ゆっくり休めと言われても、また二日寝不足(※NOT二日酔い)になりそう~~~っ!
もふっ
「ふゅるるー」
何となく“若いのぅ~”と言うフーちゃんの呟きが聴こえた気がした。
―――フーちゃんって、何歳なんだろ。達観してるなぁ。
***
「んんっ、朝ぁ?」
「お昼ですよ」
もぞもぞと寝返りをうてば、前髪を優しく撫でる指の感触がする。
そしてこの優しい声は。
「んぅっ、ユラ?」
「はい、ユラですよ。イェディカさま」
「もう、お昼?」
眼を擦っていれば。
「えぇ。お腹空いているでしょう?今、お昼ご飯のご用意をしますね」
そう言えば、朝ご飯食べてない。
「うん」
コクリと頷き、まだ重たい瞼をうっすらと開けば、優しく微笑むユラの顔が見えた。
―――まさに、至れり尽くせり。
こんなにほんわか和やかでいいのだろうか。何か王都でめちゃムカつくことがあって、妹のことで何か旦那さまに頼むことがあったような。
―――あれ、妹のことで、頼む??
何で私が妹のことで旦那さまに頼まなきゃいけないのだろう?婚約者を寝取られたんだぞ私は。だけどそのおかげで旦那さまに出会えてこうして至れり尽くせりなわけで。
だから少しは妹に感謝してもいいかも。
それじゃ、お昼ご飯食べてー、またひと眠りして。思い出したらー、旦那さまに聞いてみよ。
うにゃぁ~。
ユラがご飯持ってきてくれるまで、すやすや。すーやー。
「ふゅーるー」
もふっ。
あ、フーちゃんふわもふっ!まったりのんびり~、最高の新天地での生活を私は謳歌していた。