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ベッドの上のヌシと旦那さま


―――宴の終わり。その後はもちろん、初夜である。

結婚したのだから、初夜である。


「ふゅーるるー♪」

私は、先ほど仮眠を取らせてもらっていたベッドの上に戻ってきていた。やはりここは夫婦の寝室らしい。そして相変わらずこのベッドの上のヌシの如く鎮座しているフーリー。


もっこもこ。相変わらずもっこもこである。おばあさま曰く、このイールーの地で愛される小動物。―――小動物である。


だけどおばあさま。大型犬サイズのもこもこは、小動物なのですか?


もふっ


わぁ、すっごいふわっふわな毛並み。


「ふぉーるー」


まぁ、カニャーシカに比べたら十分小動物なのだろうけど。やっぱりカニャーシカ基準なのかな。こっちは。そんな風にもっふもっふを楽しんでいれば。


ガチャリと寝室の扉が開き、旦那さまがやって来た。


緊張の瞬間。いや、先ほどまで隣で和んでいたけれど、やはりこういうことって緊張するものよね。でも、私だって貴族令嬢として産まれた身。ここはしっかりとお役目を果たさなくては。


「先に来ていたのか」

「は、はいっ!」

私はベッドに腰掛けるシュラさまにぴしっと背を伸ばして正座して向かい合う。

「もふぁー?」

ふわもふのまったり鳴き声にめちゃ和む。この緊張感を緩めてくれる。やはりふわもふは最強だ。


「やはり、いきなり2人で寝るのは荷が重いか?なら別の寝室に、」

と、シュラさまが言いかける。


「い、いえ!平気です!夫婦、なんですから!」

それに、嫌なわけは本当になくて。


「ほ、ほら、この子も一緒ですし!」

「あぁ、こいつか」

そう言うとシュラさまがベッドに上がり込んで来て、もふっとフーリーを抱き上げる。


「お前はまたベッドに上がり込んで」

「もふぁ―――っ!!」

ベッドの外に連行されそうになり、もっふもふ四肢をわっさわっささせながらフーリーが抵抗する。


「あの、別に私はいいんですけど」

「ん?暑苦しくないか?」


「あ、いえ。むしろあったかいかと」

そろそろ寒くなる時期。むしろもふもふはありがたい。


「ふゅるっ!」

フーリーも“そうだそうだ”と言いたげだ。


「そうか?なら」

シュラさまが再びフーリーを私の横に戻してくれる。


「ふゅるー♪」

再び私に寄り添ってくれるふわもふ。ふわもふ、尊すぎるぜ本当に。


「そう言えば、この子の名前は?」

「んー、適当に“フー”とか“まんじゅう”とかかな」

ぐはっ。

ほんっとに適当だ。


それにしても、饅頭。白い、―――お饅頭。に、似合うぅっ!!


「もふひゃあああぁぁぁっっ!?」

あれ、もしかして考えていることわかったの?


「大丈夫よ。フーちゃんは食べないから」

「もふぁー」


「ん?フーちゃんで決まりか」

そう言って、シュラさまがフーちゃんの頭をぽふぽふする。


「え、いいのですか?」

「まぁ、そうだな。そろそろまんじゅうは卒業だな」


「もふひゃ―――っ!!」

何だか不満げにフーちゃんが威嚇する。かわいいな。頭をなでてあげると再び私のお膝にすりすりとふわもふをり付けてくれる。


「もーふぁー♡」


「おいおい、言っとくけどイェディカは俺の嫁さんだぞ?」

シュラさまがそうは言うものの、フーちゃんはふいっとそっぽを向く。―――でも、“嫁さん”か。そう言ってもらえるとちょっとドキッと来る。


「さて、今日は色々と疲れただろう?」


「は、はい。それは、そうですけど」


「まぁ、今日はゆっくり休め」


「えっと、や、やらないの、ですか?」


「さすがに馬に乗せて疾走して宴の席に参加させた上にそこまでさせる趣味はないが」

「あ、そ、そうですよね」


「不満だったか?」

「そ、それはっ」


「けど、身体のこともあるだろう。今日はこれだけで」

これだけ?


シュラさまが私の顎に指をそっとあてた。そして。


唇に柔らかいものが触れる。


え?


―――え?


ええええぇぇぇぇっっ!!?


き、キス~~~っ!!!


「じゃ、おやすみ」

「おやすみ、なさい」


シュラさまは布団の中にもぐり、向こう側を向いて寝入ってしまったようだ。フーちゃんがのそのそと歩いてその隣にもふっと伏せると、こっちこっちと言うようにぽふぽふとその隣を示す。私は素直にフーちゃんの隣に寝そべり毛布と掛布団を引き上げる。


王都では掛布団だけだから、この時期の西方はそれほど冷えるのだろうとわかる。


―――しかし、寝られない。


だって、だってぇ~~~っ!初夜冷遇と言うテンプレ恋愛小説なら山のように読んだけども!あの、やらなかったのに冷遇とは真逆感のあるこの初夜ってありなの!?間にもふっとフーちゃんが鎮座してるけど!それはそれで甘々って言っていいのかどうかわからないけれど!


ひょっとしたら、シュラさまから私への配慮なのだろうか。それとも単にフーちゃんの定位置なんだろうか。


「もふぁっ」


フーちゃんのふわもふお手手を頭の上に感じつつ、私は暫く寝付けず布団の中で苦悶したのだった。






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