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西方民族の長に嫁ぐことになりました


「いきなりすまないな、イェディカ」


「いえ、覚悟はしておりました。お父さま」


私はお父さまの書斎に呼び出されていた。妹のルチルが私の婚約者()()()()()()のベリルと浮気しているのに気が付いてから、ずっと。


「そうか。王家のとりなしでな、ベリル殿下の婚約者がルチルに変更になった」


「そう、ですか」


「未練はないのか」


「ないですよ。だってあのひと」


「何か言われたのか?」


「私の吊り目が、嫌なのですって」


「―――そうか」

お父さまはそれを聞いて自虐的に苦笑した。私の吊り目は、お父さま譲りだ。つまりは未来の義父のことも吊り目だから嫌だと言うことになる。


「私の髪も老婆みたいでいやだと」

「お前の髪は、私よりも随分と薄く出てしまったからな」

ライトグレーの髪のお父さまに比べ、私の髪は完全に真っ白である。


「グレーの瞳も、暗い色で華がないと」

「はは、それはそれは」

お父さまが私と同じグレーの瞳を細めて苦笑する。目が笑っていない。


「急な婚約の変更だ。王家はお前に嫁入り先を紹介してくれるそうだ」

「婚約ではなく?」

「あぁ、嫁入りの方だ」

「それは随分とまぁ」

そちらさんこそ、急なことで。


「西の国境を守るイールーを知っているな」

「もちろんです。おばあさまの出身ですから」

「そうだ。そのおさにお前を嫁がせるそうだ」

「えっ」


西の国境を守るとはいえ、イールーは私たちセーレン国の大多数の国民とは違う文化、習慣、言葉を持つ西方民族だ。言葉自体は普通に通じるが、彼ら独自の言葉も存在するのだ。言葉が通じるのは大変ありがたいのだが、文字はかなり違ったりする。


セーレン国とは利益が一致しているからこそ、セーレン国側にいるものの、いざとなれば他国側に渡ってしまうことも考えられる。


そんなイールーのひとたちに西の国境を任せてまで何故セーレン国に止めおきたいかと言えば、彼らの戦闘能力が飛びぬけているからだ。更には独自の文化の中には私たちには遠く及ばない付与魔法なんかもあると言う。


「元々、両民族の絆を深めるためにあちらに姫を嫁がせる気だったらしいが、いかんせん、今の王家には王子たちしかいない。そこで、我がローゼライト公爵家が選ばれた。我が公爵家の子はイェディカと、その妹のルチルだけだ。もともとイェディカの婚約は決まっていたから、ルチルをと言う話だったのだが」


「むしろ、その話を掴んだからルチルはベリル殿下に手を出したんですよ。ぶっちゃけ、ずっと狙っていましたもの。このままではイールーに嫁がなくてはいけないから本格的に寝取ったんでしょうね」


「だろうな。全く、なぜあぁなった」

「お父さま()悪くないと思いますよ」

「そう言ってくれると救われるよ」

お父さまは静かに息を吐く。そして再びその双眸を私に向けた。


「私が思うに、あの子にイールーの長の妻は無理だろう」

「イールーの文字がわからないから、ですか?まぁなんとかなると思いますが」

「いや、あの子がイールーの文化や風習を思いやると思うか?」

「あぁ、そう言うことですか。なら、思わないかと」


「そうだろう?そうなればイールーがウチの国から出て行ってしまうかもしれない。イールーの砦の先には無数のイージャが住む。イージャはイールーには敬意を示す。だが、イールーがセーレン国を見限った時は別だ。更にはラムド王国のこともある」

セーレン国の西の国境を守るイールー。そして、その先の草原地帯に住む草原民族イージャ、そしてその草原と共にセーレン国の国境の先にあるラムド王国。


イールーがセーレン国を見限れば、イージャが怒る。そしてラムド王国は資源が豊かなセーレン国に攻めいってくる。それほどまでにイールーの力は強いのだ。


そんなイールーにルチルが嫁ぐだなんて。―――百歩譲っても、無理。


「私は、お前が嫁ぐことになってむしろホッとしてしまった。こんな父親ですまない」

「お父さまは悪くありませんよ。むしろ、私はイールーの文化や文字、風習を学ぶのは好きなので」

「そうか。イェディカはおばあさまに懐いていたからな」

お父さまにとってはお母さまにあたる、イールー出身のおばあさま。思えばその婚姻も、イールーとセーレン国の友好のための婚姻だった。いつの時代も、王家の尻ぬぐいと言うか予備として身を差し出すのは我が公爵家の務めってことか。


まぁ、私は楽しみなのだけど。


「ベリル殿下の妻よりはましですよ」

決して悪い方ではない。王族として優秀に育ったと思う。ただ、ルチルに誘惑されて簡単に寝返りやがったけども。でも、どちらかと言えばやさ王子よりもイールーの戦士の方がカッコいいかも。

私の旦那さまはどんな方だろうと、今からでも気になってしまう。


「ベリル殿下は第2王子ですが、やはりウチに婿入りするのですか?」


「―――さぁな」


「さぁな、ってお父さまったら」


「何せ、私の顔が気に入らないのだろう?」

「正確にはお父さまに似た私の顔です」


「同じことだ。それに、婚約者に不誠実な男は少しな。私もイールーの血を引いている」

「では、ルチルは?」


「さぁな。案外、引いていないのかもしれないぞ?」

ちょっ、お父さまったら。縁起でもないことを言わないで欲しいのだけど。


「まぁ、こちらのことは私に任せて、お前は嫁入りの準備にかかりなさい」

「はい、お父さま」

私はお父さまに一礼し、まだ見ぬイールーの戦士であり長の旦那さまに思いを馳せた。

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