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毒5「勧誘」

あけましておめでとうございます

 あの増殖事件の後、事件のことを俺やフェンリルなどの一部の者以外は全員忘れていた。“真の力”を使ってベルゼブブが記憶を喰ったからだ。


「そういえばリード達の記憶も喰ったのはどうしてだ?」

「リード君達はまだ未熟だからね。知っててもいい事はないからさ。ヴェノム君は自分の能力は知っておいた方が良いでしょ?」


 リード達というのはリード、フランチェスカ、アレンの3人の事だ。この3人は記憶が覗かれる可能性があるとかで記憶を喰われたのだ。


「そうだけど、仲間に隠し事するのはくるものがあるな」

「僕達悪魔には、分からないな。ほら、敵を騙すなら味方からって言うでしょ?」

「確かに言うな。けどなんでそれをお前が知ってんだよ」

「ふふっ、秘密」


 ベルゼブブは顔の前に人差し指を立てて微笑んだ。


 ―――――

 ―――

 ―

 一週間程経った。新たに霊山 美結ことレイ・サザーランドが眷属になった。


 そして……これが一番重要だが、邪神がニールと接触した。龍神と対面してから最低でも囮になれるように強くなったつもりだったけど、瞬殺される未来しか見えなかった。


「……」

「おい、黙ってどうしたんだよ」


 考えに耽っていると、人化を解除したリードが目の前に立っていた。


「この前の邪神は覚えてるな?」

「忘れるわけねぇだろ。俺とおめェをこの世界に喚んだ張本人だかんな」

「そうだな」

「んで、その邪神がどうしたんだよ」


 リードが人化を発動させて体が縮んでいく。ニールみたいな裸ではなく、ちゃんと服を着てだ。


「あの時俺達は動きすら目で追えなかっただろ?」

「そうでもねぇけどな」

「……追えなかっただろ?それで、どうやったらもっと強くなれるか考えてたんだよ」

「そうだな」


 少々不満気に同意するリード。その身からはうっすらと威圧が放たれている。


「俺も最初はニールに勝つ気で眷属になったんだよ。けど、この数年で差が縮むどころか開かれてな。ずっと前に悩んだんだよ」


 ……そう、だよな。前世から好戦的な性格だったんだ。このルールのない世界で自由に生きたかったんだろうな。


「ま、答えなんか案外単純なもんだろ」


 と、今まで張り詰めていた空気を霧散させて飄々とした態度でそう言い放った。


「お前はもう出てんのかよ」

「当たりめぇだろ。おめェには教えねぇけどな」

「ケチるなよ。友達だろ?」

「はっ!ダチだからこそだろ。そんじゃあな」


 何かの魔法を発動させるとリードの姿が消えた。


「透明化……?いや、転移魔法か。いつの間に覚えたんだよ……」


 そういえばリードの奴、ドラゴン状態でも喋ってたな。前は咆哮をあげることしか出来なかったのに……。


「俺も本気(ガチ)で強さを求めるか」


 思い立つや否や、俺はベルゼブブの元へと駆け出した。いや、跳ねた。


「どうしたのヴェノム君?まさか僕と食べ合う気になってくれたとか?」

「そのまさかだ。……今のは語弊があるな」


 うん。確かに頼んでる内容としては間違ってないんだけど、食べ合うって言うのはヤバい奴だ。


「でもごめんね。僕ね、今マスターから仕事を頼まれてるんだ」

「はい?」

「あ!でも安心してね?僕の眷属に頼めば手伝ってくれると思うから」

「マジか」

「うん。それじゃあね!」


 ベルゼブブは影魔法の【潜影】を使って影から出た。


「……マジか」






 さて、いつまでも凹んでないで具体的な案でも出すか。まずベルゼブブに頼めないから『暴食』の練習は無理だな。

 となると毒か増殖か身体操作か。……とりあえず身体操作やっとこ。


「うーん、人型を維持出来るようにはなったんだよなぁ」


 これまでの練習でどんな形でも一応維持出来るようになったのである。プルプルだけど。で、鎧なんかに入って動かしてみたら予想以上に実践的だったからビックリしたな。


「いっその事、増殖しちゃうか?いや、毒を纏って――」


 若干危険な事を考えていると、結構な時間が過ぎていた。


「よし決めた!毒を遠隔操作出来るようになろう!」


 〜数日後〜


「出来た〜〜!」


 俺は毒の遠隔操作のみでならず、様々な毒を混ぜた鎧をも作り出していた。まぁ、実戦レベルじゃないけど。


 あと、人間形態を細かく調整したりして更にリアルにしてある。色以外、例えば質感まで本物の人間にそっくりだ。


「ん?なんか外が荒れてるな。相手は……ラプラスさん?」


 軽い気持ちで外界の様子を覗いてみるとニールがラプラスさんと戦っていた。それも修業みたいな遊びじゃなく、本気の殺し合いだ。


「……助けに行くか?」

「ふむ、それは困るな」

「ッ!」


 気づいたら、俺は飛び退いていた。


「やれやれ、数年振りの再会がそれか」


 感情の籠っていない無機質な声がやけに記憶に引っかかる。目の前の男は顔も名前も知らないのに何処かで見たことがある気がした。


「お前、情野か?」

「む?」


 男は一瞬、眉を八の字にして首を傾げたが、すぐに戻して頷いた。


「ああ、その名で呼ばれるのが懐かしくてな。いや、嬉しかったの間違いか」


 男――情野 大気は全く思ってなさそうにそう返した。こう見えて、本当に喜んでいるから不思議だ。


「ふむ、今の名前はフィルだ。いや、どちらで呼んでも構わないがな?」


 ……やっぱり読めないな。黙って観察してたけど表情や行動から意図を予想出来なかった。最有力なのが俺の排除だけど、今更やるか?


「ああ、他の仲間が心配なのか?」

「当たり前だ」


 意図が読めない今、話を合わせて探ることにした。


「おや、こちら側としては想定内だが、説得に失敗したみたいだ」

「誰のだ?」

「ふむ、黒崎……リードの元だ。ああ、向かったのはライこと儘田だ」


 儘田か。あいつ前世ではリードと相性悪かったからなぁ。もし説得目的だったなら成功させる気はないだろ。


「まぁ、私も説得するきは無いがな。いや、諦めるわけではないぞ?」


 言っちゃったよ、こいつ。見た感じ邪神からの命令みたいだけど大丈夫なのか?


「それでは、スキルだけ試そう。どうだ、こちら側になる気はしないか?」

「……仲間になるどころか、お前に対する憎悪が湧いてきた」

「ふむ、失敗か」


 おかしいな。本当に殺したいぐらい目の前のコイツが憎い。名前を呼ぶのすら嫌だ。一秒でも早く視界から消し去りたいな。


「では、解除しよう」


 情野が指を鳴らすと、内側に燻っていた憎悪が綺麗に消えた。


「今何をした?」

「おや、気づかなかったのか。ふむ、感情操作をした、と言ったら分かるか?まぁ、抵抗されたがな」


 感情操作……。それに無意識に抵抗した結果、または抵抗し切れなかったのがあの感情か。……抵抗してなかったら恐ろしいな。


「さて、始めようか」


 情野は腰を屈めて腰の鞘から刀身を覗かせる。さっきまでのが演技だったと錯覚する程、プレッシャーが圧力となって放たれている。


「ふっ!」


 刹那、闇の中でも輝く剣が振り抜かれていた。


「何して――っ!?」


 ずるり、と情野が斜めに裂けてく。が、情野は表情を変えることなく剣を収めた。


 違う!情野がズレたんじゃない!俺が斬られたんだ。クソッ、いつ剣を抜いた。いつ俺を斬った!


「まさか、その程度か?」

「ナメんじゃねぇ!」


 斬られた身体を治し、スキルを発動させる。幸い、周りには誰もいない。

 ここでなら誰にも迷惑かけないだろ。反対に言えば助けを呼べないってことだけど。


「増殖!」


 全てを飲み込む暴威が情野を襲う。


 情野は動かない。動かないのに、一瞬、柄が光ったと思えば、周囲のスライム全てがバラバラに斬られている。


 周囲の魔素を喰らって増殖するスライムが斬られた傍から情野に向かっていく。


 が、尽くが斬られ、光となって魔素に還っていった。


「感情とは、時に限界を超えて能力を増減させる」


 一歩、情野が近づく。


「怒りは膂力を、悲しみは魔力を、苦悩は忍耐を高める」


 また一歩、俺と情野との距離が縮まる。


「そして、それらを支配し、操作するということは能力を支配するということだ。例えば、こんなふうに」


 一歩、たったそれだけの動きなのに俺から生み出されたスライムは全て切り刻まれた。


「最後に、何か言い残すことは――」

「ァァァアアアア!」

「ふむ」


 情野が片手を上げると、そこに半分人化を解いたリードの頭が突っ込んできた。リードが飛んできた方向を見ると、ダークエルフの男が跳んできていた。


「クソが!てめぇドンだけ強くなってんだよ」

「貴様が弱いのだ、愚図が。貴様の主のような小さな脳みそを働かせて考えろ。貴様は屑以下なのだから上位者に従えばいいのだ」


 ダークエルフは傲慢な態度で口汚く罵る。その言葉が絶対であると信じて疑っていない。


「ライ、それほどにしとけ。おや、丁度上も片付いたか。ふむ、潮時だな」

「愚者が命令するな。外界の状況など分かっている。貴様は賢者である俺に従えばいいのだ」

「いや、お前が態度を改めるべきだ」


 そのまま、2人はやいのやいのと言い争い始める。その隙に、リードの元へと近づいて状況の確認だ。


「あ?おめぇも襲われたのかよ。てか、ぜってぇあの無表情野郎の方が強ぇのによく生きてんな」

「あれ、情野だからな?因みに、ダークエルフは儘田らしいぞ。俺が生きてんのは9割9部運だ」

「はっ、運も実力って言うだろうが。んで、どうすんだよ、あれ」


 リードが顎を上げて言い争う2人を見る。言い争いはエスカレートして、殺気を放ち始めていた。


「ああ、お前らを忘れていたな。ふむ、上も片付いたので、私達は帰る。いや、見逃す訳ではないので調子にのらいよう」


 一方的にそれだけ言うと、2人は取っ組み合いながら転移した。


 残された俺達は呆然として、無言になった。それも数秒で、すぐに他の眷属、特にマクスウェルかフェンリルを探し始める。





『おい、いたぞ』

「分かった。今行く」


 指定された場所まで行くと、リードとフェンリルだけしかいなかった。アンデッドや悪魔など、他にも沢山いた眷属は誰一人としていない。


「他の皆は?」

「……マクスウェル殿がやられてから悪魔全員が地獄へと向かった。アンデッド達はジャック殿を助けに行ったきり戻ってこないのだ。主殿は……敗けた」


 駄目元で聞いてみると、フェンリルがそう説明してくれた。リードは既に説明されているようで無言だった。


「我らは現在主殿との繋がりがない。恐らく邪神に切られたのだろう」

「邪神……」

「よって、我らはすぐに影を出て主殿を守護する。シルビア殿を目の前で失ったショックで、主殿は現在力を使えないようなのだ」

「……分かった」


 言いたいことは沢山あったけれど、後にしてなんとか飲み込む。珍しくリードは静かで頷くのみだ。


「主殿!……無事か」


 俺達は影から出てすぐに臨戦態勢に入る。フェンリルだけは力なく座ってるニールの安否を確かめたが。


「主殿……?大丈夫か?」

「待て、様子がおかしくないか?」

「確かにらしくねぇな」


 目の前のニールはオドオドとした瞳で困惑したように俺達を見つめるだけだ。リードの言うように、普段なら何か言っている頃だ。


「貴方達、だれ?」

「「「は?」」」

今年もよろしくお願いします

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