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勇5「授業」

 俺と早紀は指定された教室へと入る。中には既にクラスメイトの半分程が着席していた。丸太さんを筆頭に強い力を持った俺達は意外と忙しいのだ。……5歳なのに。


「おっ、王子様のご登場だぜ。随分様になってんじゃねえか、英樹」


 机に足を乗せて、手をポケットに突っ込んだ男の子が不良みたいな口調で話しかけてくる。


 今話しかけてきたのはカッティノ・コーシン。前世は新羅 良介という名前だった。その態度からわかる通り聖さんとタメを張れるほどの不良だ。


「もう、そんなこと言わないの!2人が仲良いの皆知ってるんだからね!」

「うっせぇ、委員長」


 そんな新羅をお下げの少女が注意する。前世で新羅のご近所であり、お目付け役でもあるこの少女は上村 統子――通称委員長だ。今世の名はリサ・トウコと奇しくも前世と同じ名前だ。


 余談だが、新羅が委員長と呼んでいるのは前世からであり愛称として定着していたりする。素っ気ない呼び方のように聞こえるかもしれないが、傍から見てもすぐ分かるほど「委員長」と呼ぶ声には親しみが込められていた。


「足邪魔。切り落とすよ」

「鈴切君もそういうこと言わない!」


 言葉少なく、かつ伝えたい事を言った切れ長の目の美少年はキルディス・キャメロン。委員長の呼んだ通り、姓は鈴切で名は龍哉だった。言動からわかる通り武器は刃物だ。


「おう、切れるもんならやってみろよ」

「本当にやるよ」

「新羅君は煽らない!鈴切君も挑発に乗らないで」


 2人は互いに睨みながら戦闘態勢に入る。それを委員長が止める。しかし、2人は聞く耳持たず直ぐにでも飛びかかりそうな一触即発な状態だった。


「……2人も知らない恥ずかしいことをバラすよ?」

「「今回はこれで勘弁してやる(よ)」」


 言う事を聞かない2人にキレた委員長が静かな、それでいてよく響く声で2人を説得した(脅した)


 委員長のスキルは『統制』仲間を導き、指揮する事が最も得意なスキルだ。戦術に関する知識は勿論、指揮する対象の体調まで分かったりする。体温や大まかな感情を始め、癖、習慣、果てには自覚してないものまで知られてたりする。


「やっと静かになったのです」

「そうだよなぁ。その反応が普通だと思うぜ」


 後ろから幼い少女の声と少年の声が聞こえる。片方は岩切の声だ。そして少女の方はその独特な口調から振り向かなくとも分かった。


「あら、久しぶりね。幸奈」

「ん、久しぶりなのです」


 顔を向けると背後には岩切と幸薄そうな少女がいた。早紀の呼んだように、彼女の前世は有住 幸奈。現在はラクエル・ルビナスと呼ばれている。


「あれ?なんか飛んできてないか?見てみろよ」

「本当だ、なんだあれ。……人?」


 岩切に促されて目を凝らすと入口の方から人型の何かが飛んでくる。それ程早い訳では無いが当たったら痛そうだ。


「……す………れ……」

「何か言ってないかしら?」


 確かに何が言ってるような……。掠れてるせいで、『五感強化』でも聞き取りにくいな。


「誰か助けてくれ〜!」

「あれは無川君なのです。私が捕まえに行くので皆は待ってるのです」


 そう言って有住さんは走っていく。途中で、体が光ったかと思うと跳んだ。そのまま空中で見事にキャッチして一回転。シュタッと着地する。


「あ、ありがとう有住」

「別にいいのです。今日は何があったのですか?」


 俺達が駆け寄ると2人は妙に慣れを感じさせる声音で話していた。それもそうだ。なんせ、これと似たような光景が前世から繰り返されているのだから。


「今日は卵を踏んで転んじゃってね。尻餅を着いたのが投石器だったんだよ。そのまま投げ飛ばされた後、色んな物にぶつかって何とか登校出来たんだ」


 この不幸な男はクロ・ユリス。前世は無川 春幸という名前だった。有住さんとは家も近いということでいつも一緒にいた。


「無川君はもっと注意深くなった方がいいと思うのです。今週で7回目なのです。そんな事では私から離れられないのですよ?」

「そうだね、善処するよ」


 このように、無川は不幸体質だ。それも命に関わるレベルで。対して有住さんは座敷わらしと例えられる程の幸運体質。どちらもスキルに発言するほど強い体質だ。


 つまり、2人が一緒にいるのは有住さんの幸運体質で無川の不幸を中和する為だ。


「お〜、流石無川だな。投石器に尻餅ついて飛ぶとか浪漫だぜ!」

「そう言ってくれるのは崇之君だけだよ。ははは」


 岩切は茶化すように親指を立ててそう言った。これが岩切が無川の不幸を見た時の反応だ。本人達の間では恒例になってるが、こっちからすると笑えない。


 奇跡としか言えない程、無川にしか不幸が起こらず新羅が憐れむほどの不幸体質だからなぁ。岩切は本当に優しいやつだよな。


「はい、お話もそれぐらいにして教室に戻りましょう。もう時間は過ぎてますよ」


 俺達が廊下で話していると、教室の方から声がかけられる。


「あら、マユちゃん先生じゃない。いつの間に来たのかしら?」


 今俺たちを呼んだのは浜名 真由子先生だ。早紀や清川さんを筆頭に女子はマユちゃんと呼んでいる。そう言えば、今の名前を聞いても教えてくれないから新しい呼び名を作れないって早紀が呟いていたな。


「だから浜名先生と呼びなさい、と言っているでしょう……。まったく、鈴木さんは」


 呆れたように手を当てて頭を振る先生。困ったように眉尻を下げるが、どこか楽しそうだった。


「それじゃあ私達は行くのです。無川君も早く手を繋ぐのです」

「あ、ああ。今日もよろしく頼むよ」

「任せるがいいのです」


 無川と有住さんは手を繋いで教室に向かう。5歳児ということもあってとても微笑ましい。


「じゃあ、俺も行くとするかな。マユちゃん怒ると怖いし」

「せめて先生をつけてあげなよ……」

「あ〜、それもそうだな。んじゃ、マユちゃん先生とこ行くとするか」


 俺が指摘すると岩切は顔を少し上げて言い直した。そしてそのままスタスタと歩いていく。


「私達も行く?」

「そうだね。岩切の言ってたけど、浜名先生怒らせるのは良くないしね」

「ええ、マユちゃん先生程怒ると怖い人は見たことないわ。……本当に」


 早紀の提案に同意し俺は笑顔で歩き出した。早紀は一度体を震わせて着いてくる。若干顔色が悪くなっている気がする。


 俺と早紀は小走りで教室に入って着席する。先生は少しだけ待ってもう他に来ないのを確認すると扉を閉めた。


「はい、それでは始めましょうか。今日は初授業で生徒も半分以下と少ないですが、関係なく進めていきます」


 そう言って先生は指を鳴らす。すると、先生の傍にあった紙束が全て均等に全員の机に配られた。


 ……この世界で紙って結構貴重だったと思うんだけど。品質によって上下はするけど、この紙だったら一枚で1食食えるんじゃないか?


「値段の方は心配しないでください。材料を用意してもらって私が加工しましたので」

「はいはーい、質問があるけどいいかなマユちゃん先生!」


 事務的に先生が凄いことを説明していると、疲れを知らないような声で一人の男の子が手を挙げた。


「何ですか、応本さん?」

「えっとね、これに書いてある事を読んだんだけど魔法使えない人ってどうするの?」

「もう読んだのですか……!まだ一分程度しか経っていませんよ」

「へへーん、自分を『支援』したら楽勝だって」


 この頗る元気な男の子は応本 励だ。本人が言ったようにスキルは『支援』で、現在の名はクレイン・シストだ。


 前世と後世で共通しているのと、その男子とは思えない愛らしい見た目のせいで『レイちゃん』と呼ばれている。


「それは後に紹介します。幸いこの場にいるのは皆魔法適正が高い人達なのでその心配はないですね」

「そうだね〜」


 応本と先生が教室を見渡す。確かに今日登校しているのは魔法の使える人だけだな。2名ほど魔法適正が低い者がいるけど今日は来てないみたいだし。


「あの、俺魔法適正低いんですけど」

「うおっ、いたのかてめぇ。わざわざ気配消して来るんじゃねぇよ」

「俺普通に座ってただけなのに……」


 突然何もない空間から声が発生した。否――何も無いと()()()()()が正しい。視線を向けるとそこには今にも見失いそうな……というか半透明に見える程気配のない少年が座っている。


 この消えてなくなってしまいそうな少年はアッシン・シャーウッド。前世は臼井 影久。そして特技――ごほん!失礼、スキルは『暗殺』だ。


「あら、臼井じゃない。あなたいつからいたの?」

「最初からいたわ!それなのに皆俺の事スルーするからもう俺の心のライフはもう瀕死だよ!」


 あ、ちょっと濃くなった?いや、顔を埋めて隠れたせいで目が髪で見えないという唯一の特徴が隠れて薄くなった。


「そ、その、すみません臼井君。新羅君の体で隠れてしまっていて」

「ぐふっ」

「おいおい、俺のせいかよ。普通にコイツの影が薄いって言った方が潔良いぜ」

「ぐはあっ」


 自分の生徒をいないもの扱いしてしまった先生が言い訳ともフォローともとれる言葉を臼井に送る。


 だがしかし、臼井のSAN値にダメージ!クソ雑魚精神(メンタル)の臼井は胸を抑えて膝をついた。更に新羅の言葉が追い討ちをかけていく!悪意がない分鋭そうだ!


「止めて!もう臼井君のSAN値はゼロなのです!」


 臼井が胸を抑えて倒れるのを見て、割とノリノリで有住さんが遊〇王のセリフを言う。隣で手を握られてる無川はまるで仲間を見つけたように目を輝かせていた。


「や、やめろ。その目をやめてくれぇ。その同族でも見るような目を止めるんだ、無川ぁ」


 俺と同じ事を思ったらしい臼井が無川側への参加を拒否する。拒否された無川はシュンとしている。


「ん〜、支援いる?」

「……頼む」

「じゃあ私も幸運を与えるのですよ」

「女神はここにいた!」


 2人が腕を振ると続けざまに二度、臼井の体が発光する。すると目に見えて臼井の存在感が増した。……実際は有住さんの幸運と応本の支援を知覚してるだけで、臼井自体は見失いそうだけど。


「大体分かる」

「てめぇと一緒ってのは気に食わねぇが有住達の魔力を辿ればそこに臼井がいんだろ」


 臼井の存在感が増したことに鈴切は頷き、新羅は終わった事に興味はない、と言うように話をまとめた。


「これで大体って……。もうお前らの目が節穴だろ?」

「あ゛?」

「いえ、なんでもないです」


 ボソッと臼井が悪態をつくが、新羅にガンかけられただけで土下座した。……委員長辺りから「ヘタレ」と聞こえる。


「ふぃ〜、遅刻したけど来たぞ」


 俺達が臼井の事で騒いでいると、不意に教室の扉が開かれる。そこに立っていたのは法衣を纏った金髪の美少女。選挙でいないはずの丸田さんが立っていた。


「「どうして丸田さんがここに?」」


 俺とほぼ同時に委員長が同じ質問をする。どうやら俺と同じく、異変に気付いたらしい。


「あ?そんなの選挙が終わったからにきまってるじゃないか。突然候補共の悪事が溢れ出てきてよ。現教皇がそのまま引き継ぐみたいだな」


 教室にいた者は全員、なんでもない事のように言われた不可解な事に驚愕する。一週間もかからずに教皇選挙が集結するという聞いていたものと違う異常事態に。


「あの、授業を……」


 ただ一人を除いて。

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