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亜神

 光が収まっていき、球になって落ち着く。しかし、依然魔力が放出されたままだ。いくら俺が魔力を注いだと言っても、この調子ではものの数分としないうちに尽きるだろう。


「……大丈夫か?」


 俺は光球に向かって声をかける。返事は返ってこない。『探知』に反応はあるので生きてるはずだ。


「大丈夫でしょうか?」

「教皇さん死んじゃった?」


 ルルとジャックの2人が心配するように声を出す。そう、不安気な顔をしないで欲しい。


「……死んだ、ということはないだろうが、何かはありそうだな」


 安心させるように2人に答える。正確には『探知』で生死までは判断出来ないのだが、言う必要は無いだろう。この2人はスキルを多用しないしな。


「そうですか。ニールさんがそう言うならそうなのでしょうね」

「うん!ニールちゃんが間違えたことなんてないもんね」


 し、信頼が重い。不確定な情報を本当の事のように教えたせいで罪悪感が……。


「あ、見て!光が散ってくよ」


 ジャックに言われて見てみると光球が外側から魔素になってボロボロと崩れていた。それは人1人くらいの大きさまで続き、一気に霧散した。


「ああ、神よ。貴方様の周囲に不純な魔力を流してしまった愚かな私をお許しください」


 光の粒子の中から中性的な声が聞こえてくる。加えて、男女どちらが見ようとも惚れそうな程の美貌も粒子の中から現れる。ちょっと若くなった気がしなくもないが、教皇だ。


「……予想以上に神性が定着したな」

「はい。ニールさんが注いだ半分は保持していますね。ブラッドさんよりもあるのは……気の毒です」


 そうなのだ。ルルの言う通りアマルテイアに聞いたよりも俺の注いだ神性が漏れなかった。恐らくは神聖魔法が関係してるのだろうが、教皇の才能も関係するのだろう。


「……本人の前では言うなよ?」

「分かってますよ」


 当然だと言うようにそっぽを向くルル。だが悲しいかな。体をソワソワさせてるせいで説得力が全くない。


「はい、教皇さん。早くこれ着てね!……あれ?」


 俺がジト目でルルを見つめていると、教皇の服を持ったジャックが教皇の傍に立っていた。


「どうして服を着ているの?しかもこれ……ニールちゃんの魔力で出来てる?」


 裸だった筈の教皇が服を着ていた。それも、神性を帯びて淡く光っている。よく見なくても神器級じゃないか、あれ?


「これが神の御加護。貴方様の力を強く感じます」

「ひっ!」


 ジャックに言われて気付いた教皇が自らの体――というより俺の魔力で出来た法衣を抱き締める。それを見た瞬間背中がゾワッとした


 さ、寒気が。見ろよ、これ。発疹みたいに鳥肌が……。なんなんだ一体……。


「無事に成功したので、私は皆さんを呼んできますね。ニールさんはその間に話したい事話してください」


 そう早口で言って、ルルは【虚無空間】の中に入ってく。どうしてだろう、逃げたように感じるのは。俺の心が汚れてるのか?


「私達も部下のお兄さんのところに先に戻ってるね!後はよろしく、ニールちゃん」

「あ、ちょっ」


 返事をする間もなくジャックは転移した。今頃あっちは酒宴の片付けをしてる頃だろうか。……俺も行きたいなぁ。


「……」

「……」


 俺と教皇との間に沈黙が漂う。教皇は完全に受けの姿勢だ。俺が話し出すまで何も喋らないだろう。


 き、気まずい……。どうして俺がこんな事をしなくちゃいけないんだ……。というか、その場の感情で教皇を亜神にしたけど、その後の事を何も考えてなかったな。……どうするか。


「……身体に異常はないか?」

「何も問題は御座いません」

「……違和感も?」

「はい。貴方様の力で満ちていますが、まるでずっとそうだったかのように扱う事が出来ます」


 そりゃそうだ。なんせ俺の魔力と一緒に知識も送ったからな。最低限しかないけど、人間では到底たどり着けないレベル程度にはあるぞ。


「ああ、今も感じます。貴方様の力の極一端をこの身に授かれた事に深く感謝を」


 また目を閉じて祈り始める教皇。さっきから祈りっぱなしだな。……ん?


「うおっ」


 前触れもなく魔力が吸われる。貯蔵してた方ではなく、体内の方だ。……まぁ、原因は目の前にあるけどな。


 最早見慣れてしまったが、祈ってる教皇の周囲に神聖魔法の光が現れている。魔力を失う不快感があるが、同時に自分の神格が上がるのも感じる。


「……これが信仰と『信仰と加護の秘技』か。これを世界中の神聖魔法保持者にやってる世界神って大変だったんだな」

「何か不快な事をしてしまいましたか?」


 視線を上げると、教皇が祈るのを止めて不安そうな顔をしていた。


 既視感(デジャブ)だ……。なんか最近こんな事があったような。えっと……、そうだ!教皇の私室で似たような事があったな。確かあの時は世界神が原因だったか?


「……いや、じっけ――ごほんごほん。……儀式が成功した事に感動していてな」


 俺は仮面の下でニヤケながら同じように返答しようとして失敗した。おもわず本音が出てきちゃったな。


「そうでしたか……。私も貴方様の力を授かることができ、光栄至極にございます」


 若干声に疑問の色が浮かんでいるが、流暢に返す教皇。どうやら種族や外見だけでなく、内面でも進化したみたいだ。


 え?単に気を使っただけだろって?……そう言わなくもないかもな。


「本当に教皇さんを神にしたんだね。流石私たちのニールちゃん!」


 声のした方を向くと、【虚無空間】から並列思考達とボロ雑巾のようなブラッドが出てきていた。ついでにぐでっとしたキャシュ猫を抱えてるラプラスも出てくる。


 ……戻って来た時いないとは思ってたけど、いつの間に入ってたんだ。キャシュも流れでシルビア達に連れてかれてたし……災難だったな。


「なんでニールちゃん仮面をつけてるの?もしかして何かあった?」


 心配するように俺の顔をシルビアが覗き込む。アマルテイアの前で被ってからそのままだったのを忘れていた。


 何もなかったという訳ではないけど仮面とは全く関係ないな。……そんな事もないか。教皇の裸体を見るのが恥ずかしかったのも理由にあるかもな。


「……ちょっと視界を狭くしたくなる事があってな。外すのを忘れていただけだ」

「本当に?」


 シルビアが俺の返答を聞き返すなんて珍しいな。一体どういう心境の変化が……なんだこの顔。


 不思議に思い、見上げてみるとシルビアがニマニマとした笑みを浮かべていた。更に、やけにラプラスに似た雰囲気も纏っている。


「本当に?」


 黙っていた俺を見て、シルビアが同じ質問を繰り返す。


 ……どういう意味だ?本当に、と言われても何か出てくる訳では無いぞ?一体何を聞きた――あ。


「ふふ、どうしたの?」


 まるですべて見透かしたようにシルビアが微笑む。奥にいるラプラスが単眼の仮面越しに笑っている気がする……。


「いや、なんでも……。さっき説明した通りだ」

「へぇ、そうなの。じゃあ、アマルテイアさんに聞いても大丈夫だね」

「私もシルビア君を手伝うとも。この魔神の力にも慣れたしね。存分に力を振るわせてもらうよ」


 それは駄目だ!いや、何か理由がある訳じゃないけど、とにかく駄目だ。アマルテイアにバレるのは恥ずか死ぬ。……別に隠し事とかはしてないけど!


「……わざわざ聞く必要はないんじゃないか?」

「そうかな?ニールちゃんが何も隠してないなら聞いても構わないよね。止めるって言うことは認めるっていうことだよ?」


 くっ……!昔はおどおどしてたのに、最近はラプラスに似てきて言う事言うようになったな。むぅ、なんか掌の上で踊らされてる気が……。


「か、顔を隠さなくちゃいけない事情があっただけだ……!」


 俺は何とか言い切る。何度も内側からさっさと『吐いて楽になっちまえよ』と悪魔の囁きが聞こえたが全て無視した。シルビアはもとよりラプラスなんかには口が裂けても、羞恥心を隠すためなんていえないもんな。


「ふ〜ん……。元々ニールちゃんの言う事は疑ってないんだけどね!」


 そう言ってシルビアは無邪気に笑う。秘書服を着ているせいで妙に艶があった。


「とにかく……!教皇を神に出来たんだし戻るぞ」

「あ、話を逸らして逃げた」


 シルビアが悪気なさそうにザクッと俺の心を抉る。俺の精神はもう両膝をついて吐血した上に刺されてボロボロだ。


「……もうやだぁ」

「ニールちゃん!?そんなに傷ついたの!?」


 俺は『龍鱗鎧』を喚んで結界を張り、更に認識阻害を使用する。そんな徹底振りを目の前でされたシルビアは、それはもう驚きと心配がごちゃ混ぜになったような声を上げた。


「に、ニールちゃん……。からかったのは悪かったと思ってるから機嫌を直して?『並列思考』越しに悪感情が流れてきてるんだ」

「嫌」


 俺はより深く顔を埋める。鎧のせいで、あまり縮こまれないけど意思表示をするのを邪魔する程ではない。


「わ、私から皆に呼びかけるのは?」

「やだ」


 慰める、というよりは子供をあやすような声で問いかけるシルビア。今まで聞いたことないくらい優しい声だった。


 ……最近感じてたけど、シルビアを筆頭として俺を舐めてきてないだろうか。タイミングも良いし、この機会に改善してやる。


「ラプラスさぁん。助けてくれませんか?」

「私は傍観者だよ。直接手を出すのは私の流儀に反するんだ」


 非常に楽しそうに、ラプラスは助けを求めたシルビアを突き放す。それに負けじとシルビアが反論した。


「アマルテイアさんの前でニールちゃんを硬直させた人が言う言葉じゃないと思うな」

「まさかシルビア君が反論してくるとはね。良いだろう、私も本気を出そうじゃないか」


 そこからは正に怒涛の展開だった。シルビアとラプラスが感情剥き出しで言い合うという、珍しい姿を見せられた。


 途中からはシェリー達も結界の内側に入って、見学していた。だが、忘れないで欲しい。……俺が拗ねている事を。


「……なんだかんだで有耶無耶になったけど、許してないのに」

「ん?どうしたんだい、ニール?」


 誰にも聞こえないように呟くと、目敏く――いや耳聡くシェリーが聞いてくる。……普段は欠片も気にしてないのに。


「俺が拗ねてるのは分かるだろ?」

「まぁ……そうだね。あたしでも分かるほど露骨に表してるじゃないか」


 若干ぎこちないが、肯定の言葉が返ってくる。


「……それなのに、この扱いは酷くないか?」

「そうかい?あたしはこれも愛情だと思うけどね。あの2人は意図してどうかは知らないけどニールを励ます為に、ああやって感情豊かに言い争ってるんじゃないかい」


 シェリーが言い争ってる2人の方を見る。探知を切っていたのと兜のせいで気づかなかったが、いつの間にか魔法が飛び交っていた。


 むぅ……シェリーの言う通りなのだろうか。言われてみれば2人の言動がわざとっぽい気がしなくもないけど……。普段賢い2人がこんな回りくどいことをするかなぁ。


「ま、考え方は人それぞれだ。無理にあたしに同調する必要はないよ」


 そう言ってシェリーは軽やかに立ち上がる。ブラッドをボコボコにしているコアの方に向かったという事は、もう付き合う気はないのだろう。


 考え方は人それぞれか……。『念話』か『並列思考』で感情が分かれば簡単なんだけど。……あっちから俺の感情は読めるんだし何かある筈なんだけどなぁ


 その後、ダンジョンの天井が崩れるまで俺の苦悩とシルビアとラプラスの言い争い、もとい魔法戦は続いた。

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