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説明

 聖女が元クラスメイトか……。いや、有り得ない話ではないけどさ。既に『勇者』の称号を持ってるのに聖女になるかなぁ。


「言いたいことは分かるぞぅ。お前らは『勇者』の称号持ちなのに聖女になれるのか疑問だよなぁ」


 心でも呼んだかのように俺の疑問を言い当てるブラッド。ニヤニヤしてるのを見ると無性に腹が立つ。


「そこら辺は大丈夫だぁ。聖女は称号ってあって称号じゃないからなぁ。ステータスに現れないから問題はないぞぅ」


 ふむ、称号であって称号じゃない、か……。つまり、ステータス的な称号じゃなく真の意味での称号ということか。


「理解したようだなぁ」

「……一つ質問がある」

「なんだァ?答えられるものならいいぞぅ」

「……どうやって聖女と見分ける?見えやすい何かでもあるのか?」


 ブラッドは「そこからかよぅ」と気の抜けた声で呟いて説明してくれた。

 曰く、神聖魔法を持つ者は根拠もなく分かるらしい。ブラッドも会う度に体験してたみたいだけど、あまりいいものじゃないと言っていた。


「……俺も分かるのか?」

「神は分からないみたいだなぁ。俺を使徒にした神は分からなかったみたいだぞぅ。逆に聖女の方からは分かるみたいだけどなぁ」


 成程、上下関係の様なものがあるのか。神聖魔法所持者の頂点が聖女でその上に神がいると。ただ、強制力みたいなものは無いみたいだから無視で大丈夫かな。……神聖魔法に干渉したら強制出来そうだけど。


「はいはーい!一つ質問。聖女さんの力によって、それは変わったりするの?」


 聖女が転生者だと言われてから顎に手を当てて何事か考えていたジャックが、手を挙げて質問した。


「比べた事ねぇから分からねぇなぁ。そもそも聖女自体が短命の運命で、産まれてくる周期が長いしよぅ。そんな事するやつはいないぞぅ」

「そっか。もし感知できる範囲が個人差で今の聖女さんが広かったらここも分かっちゃうなって」


 あぁ、そういう事か。確かにここは王城から近い方だからな。今聖女が王都にいたら危なかったな。……いつまでもクラスメイトを称号で呼ぶのは寂しいな。


「……今更だけど聖女の名前は?」

「本当に今更だなぁ。というか、お前にも名前で呼ぼうという気があったんだなぁ。てっきりどうでもいいのかと思ってたぞぅ」


 無言で魔法陣を展開すると、ブラッドの体がビクッと震えて硬直する。ブラッドの顔に一筋の汗が流れる。


「じょ、冗談に決まってるだろぅ。本気にするなよぅ」


 ははは、ブラッド君は冗談が上手だなぁ。危うく、魔法を撃っちゃうところだったよ。


「気を持ち直してぇ。聖女の名前はセイン・ハイリ。前世の名前は……何だったかぁ?」


 まぁ、さっきの似顔絵で大体見当ついてるんだけどな。……それにしても俺と清川、宮沢以外前世と似てる顔立ちなのか?少なくとも面影が見当たるくらいには似てるぞ。


「思い出したぁ。前世は丸田 聖っていう名前だったなぁ」


 ブラッドは俺の予想と同じ名前を口にした。若干片言だったのは、この世界の住人にとっては漢字は発音しにくいからだろう。……それにしても。


「丸田 聖か」

「どうしたぁ?何か問題でもあったかぁ?」

「……いや、とても聖女というような人格じゃなかった気がしてな」


 前世の聖は不良だった。流石に煙草や飲酒はしていなかったが、聖女と呼ばれるような性格じゃないのは確かだ。男勝りで一部の男からは姉御と呼ばれていた。俺が下の名前で呼んでる時点で察してくれ。


「そうかぁ?俺が会った時は聖女の中の聖女だったけどなぁ。鑑定してみても神聖系ばかりだったぞぅ」

「そんな馬鹿な……ッ!」


 おっと、本音が。少々衝撃が強すぎたな。


「あ〜、だがセインの嬢ちゃんはちょっと特殊なしゅ――」

「えへへ〜、ニールちゃ〜ん」


 バッ、と転移門の方へ顔を向けると、そこには酒瓶片手にフラフラしているシルビアの姿があった。


「うっ、酒臭い……」

「シルビアちゃん?私達は待っててって言ったよね?」


 俺とブラッドが話している間空気になっていたジャックが威圧感いっぱいに話しかける。……怒ってるのか?


「えへ、えへへ。ジャックちゃん小ちゃ〜い。ギュってしちゃお!」


 ジャックの頭がシルビアの豊満な胸に埋もれる。酒に呑まれているシルビアも怖いけど、無言無表情で無抵抗なジャックの方がもっと怖い。


「ホントにドラゴンは酒に弱ぇなぁ。酒好きが多いのにどうしてだァ?」

「……知らない。ただ、美味しく感じるようには出来てる」


 俺も酔ってる時、あんな感じだと思うと笑えない。今後は解毒の効果が付与された物でも持ち歩くか。


「シルビアちゃん?私達は待っててって言ったよね?」


 ジャックは胸から顔を出してもう一度、一言一句違わずに繰り返す。ただし、今度は威圧感多めでだ。シルビアの体がビクッと震える。一応理性は残ってたみたいだ。


「わ、私はニールちゃんに用事があるんだった。あはは」


 体が光ったかと思うとシルビアの理性が完全に戻る。流石はその道のプロ。泥酔していたとしても僅かに理性があったら魔法が使えるみたいだ。


 そう。たとえ、自らの醜態を晒して身悶えそうになっていたとしても!羞恥心で顔が真っ赤になって、恐怖とは別の意味で体が震えていたとしても!問題なく魔法を行使出来ちゃうのだ!


「……俺に用ってなんだ?」

「あ、うん。えっと、シェリーさんとボロス君が模擬戦?を始めちゃったんだ」


 あぁ……そういうのか。用と言うよりは報告だな。どれくらい被害が出たんだ?


「……周りへの被害は?」

「それは大丈夫だよ。ルルちゃんとコア君が守ってくれたみたいだから。シェリーさん達も、私程お酒弱くないみたいだし……」


 シルビアの声がどんどん小さくなっていく。その顔を見れば一目瞭然だが、自分の酔ってる時を思い出してしまったのだろう。分かる、分かるぞ。


「それと、もうお酒がなくなっちゃったからそれの報告にも来たんだよ」


 これをあの泥酔してる時に判断してたのか……。やっぱり術式構築が趣味なだけあるな。判断力が異常だ。


「はぁ……。俺も飲みたかったんだけどなぁ。仕方ないかぁ」


 黙って聞いていたブラッドが溜息をついて肩を落とす。そんな姿を見たらキャシュが悲しむぞ。


「……そう言えばキャシュはどうした?」

「キャシュちゃんはお酒を飲んだら倒れたよ。ニールちゃん以上に弱かったのが可笑しくてお腹痛くなったよ」


 あれ、その言い方だと俺が酔うのも面白いと言っているように聞こえるんだけど。俺の気のせいかな?


「……分かった。後始末は頼んだぞ」

「ニールちゃん……。話聞いてた?見なくても良いの?」

「……周りに被害は出てないんだろ?」

「それはそうだけど……」


 不服そうだな。ブラッドなんか暇そうなんだし頼めばいいんじゃないか?


「俺は嫌だぞぅ。そこのジャックの嬢ちゃんに頼めば良いだろぅ」


 俺がブラッドの方を向いて頼む前に覆いかぶせるようにブラッドが言葉を発した。心を読んだみたいなタイミングだな。


「私達も嫌だよ。でも、部下のお兄さん達にお願いしとくから放置してて大丈夫だよ!」


 可愛い笑顔でなんて事を言うんだろう。でも、俺もブラッドを頼ろうとしてたから何も言えないな。


「……俺はもう一度教皇に会いに行く。座標は覚えてるからな」

「そうなの?行ってらっしゃい!」


 ジャックの見送りの言葉に頷いて再び教皇の私室へと【転移門】を繋げた。


「……一つ質問ができ――」


 教皇の気配を探り、気配のする方に向けて話しかけて――俺は硬直した。


 視線の先には裸で祈っている教皇がいたからだ。教皇の目が静かに開かれた。教皇はこちらを向きながら立ち上がろうとする。服を着てないのだから勿論アレが見えそうになる。


「お戻りになられましたか。少々お待ちを。ただ今服を着替え……おや?」


 教皇の言葉を最後まで聞かずに俺は部屋の外に転移した。既に体の硬直はないが思い出したように体が震える。顔は火が出そうな熱くなっている。


 中からゴソゴソと衣擦れような音が聞こえる。俺の意図を察して服を着てくれてるのだろう。


「……入るぞ」

「どうぞ」


 しばらく待ち、ノックをすると中から教皇の声が返ってくる。扉を開けるとちゃんと服を着て座ってる教皇がいた。


「質問とはなんでしょうか?」

「ちょっと待て。……さっきのを説明してくれ」


 本当に何もなかったかのように話すな。もしかして一見冷静そうだけど、内面焦ってるのか?……俺みたいに。


「いえ、あれは私の習慣でして。神に祈る際にはああして私そのものの姿で祈っているのです」

「……そ、そうか」


 俺は苦笑いしか出来なかった。教皇は当然のように言ってるけど普通は違うよね。伊達に教皇やってる訳ではないな。


「話しを戻しますが、質問とは何なのでしょうか?」

「……そうだな。……お前死ぬのか?」


 俺はブラッドの話しを聞いて生じた疑問をそのまま口にした。


「聞いてしまいましたか……。はい。貴方様の仰る通り私は死ぬのでしょう」


 教皇は事も無げに自らの死を予言する。死ぬのが怖くないのか?


「いえ、死ぬのは怖いです。貴方様方神とは違い不死ではありませんから」

「……俺は何も言ってないが」

「貴方様は正直ですので……。私は黒く染まってしまいましたから」


 それは褒めてるのか?……多分褒めてるんだろうな。というか、本当に怖くないのか?一回死んでる俺ですら怖いのに。


「私は多くの罪を犯してきました。殺人、冤罪、果ては神の冒涜まで。全て神の意志という大義名分(言い訳)を使って」

「……だけど正しい事だったんだろ?」


 俺の問に教皇は押し黙った。俯き、自分を責めるように拳を握り締めている。


「それは私が答えていいものでは御座いません」

「……重く考えすぎじゃないか?」


 俺の他人事のような言葉に教皇は苦笑した。どうしてかその顔を見ていると胸の奥が締められるように痛くなる。


「……決めた」

「何をですか?」

「……お前を神にして生かす」

「はぇ?」


 教皇の口から気の抜けたような声が漏れる。裸を見られても動じなかった顔が馬鹿みたいに口をパクパクさせているのが面白い。


「で、ですがどうやって?」


 ん、よっぽど慌ててるみたいだな。出来るのを前提にして話しを進めちゃってるよ。


「……出来るかは疑わないのか?」

「いえ、貴方様ならば可能なのは明白ですから」


 そう言って爽やかに笑った。俺みたいのじゃなかったら簡単に堕ちそうな笑顔だ。……イケメンだよなぁ。


「それに、私としましてもいつまでも神を崇められるというのはとても嬉しいことですしね」


 その崇める神にすると言ってるんだけど分かってるのかな?不老にする訳じゃないからね?


「いえ、やはり無礼……。失礼ですが、不老には出来ないのでしょうか?」

「……出来る。だけど神に嫌われてるアンデッドだぞ?神聖魔法も使えなくなる」

「そうですか……」


 教皇は子供のように肩を落としてシュンとする。ブラッドの言った通り神が絡むと性格が変わるのな。


「で、では私を神にとはどうするのでしょうか?アンデッド化よりも高度な術式を使用するとは思うのですが……」

「……安心しろ。宛はある」


 俺は力強く教皇に頷いた――他力本願だと悟らせないように。


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