進化
どうやら進化できるらしい。ま、まずはヘルハウンドを倒したことをアマルテイアに報告するか。
『ヘルハウンドを倒しました』
『まさかこの短期間――いえ、数回の戦闘でヘルハウンドを倒しきることができるようになるとは……。あなたの成長速度はとても速いですね。前の子達にはとても苦労させられましたから、なんだか新鮮です』
『俺の兄弟子、ですか?』
『はい。とてもやんちゃで元気のある子でしたから教えるのにも一苦労でしたよ』
アマルテイアでも苦労するほどのやんちゃ……。どんだけ元気なんだよそいつ。仲良くなれそうにないな。
『あと……進化が可能になったらしいです』
『誰がですか?』
『俺です』
『そうですか……。え?もう進化できるようになったのですか?成長が速いと言いましたが……まさかこれ程とは』
まぁ、俺には『勇者』があるしアマルテイアの『育成者』の効果もあるからそれは早いだろ。でも、そんなに驚くほど速いか?……速いな。
『そうですか。参考にしたいのですが、師匠はどれくらいで最初の進化ができるようになったのですか?』
『私ですか?そうですね……今回は三年くらいはかかったと思います』
言い方に少々引っかかけるけど、……三年もかかったのか。うん、これは俺の成長速度がおかしいわ。今更だけど、俺ってチートなのでは?能力だけでなく、成長も。だって既にスキルがアマルテイアに追いつきそうだし。
うーん、罪悪感が凄い。アマルテイアがいるからこの速さなのに、アマルテイアの努力を嘲笑っているみたいでなぁ……。勿論そんな気はないが。
一人で見当外れな葛藤を続けていると、こちらの方が重要だとばかりにアマルテイアが話し始めた。
『とにかく進化先はどれだけ時間がかかっても慎重に選びなさい。いいですか?戦闘力で最も重要なのは種族です。多少の例外あれど、基本的により高位の存在の者が勝ちます。ここで生き残りたいなら慎重に選びなさい』
アマルテイアはそれだけ言うと、これ以上話すことはないのか、寝床の方へと向かって行った。
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レベルが上がって鑑定の性能も上がったため、俺の進化先とランクというのが分かった。どうやら『ファイアドラゴン』『ライトニングドラゴン』『デスドラゴン』へと進化できるようだ。それぞれのドラゴンの鑑定結果はこんな感じ。
『ファイアドラゴン』
火属性を得意としているドラゴン。攻撃力とSPが高く、素早さの低いドラゴン。
『ライトニングドラゴン』
雷属性を得意としているドラゴン。素早さとMPが高く、防御力の低いドラゴン。
『デスドラゴン』
死属性を得意としているドラゴン。防御力とHPが高く、攻撃力の低いドラゴン。致死性の高い能力を多く持っており、常に周りの生命力を吸っているため一部の地域では死神と言われ恐れられている。
ファイアドラゴン、ライトニングドラゴンは属性の違いかな。デスドラゴンはもはや別物だろ。歩く災厄のような説明しかない。
今、アマルテイアと近くで過ごしている俺は生命力を吸うデスドラゴンは選択肢には入らない。となると、残りはファイアドラゴンかライトニングドラゴンか。ファイアドラゴンはパワー型でライトニングドラゴンは魔法型だな。
現在の俺のステータスは魔法スキルの方が量も質も勝っている。戦闘でも今まで速さに助けられているところがあるからなぁ。物理特化も捨てがたいが……進化するならライトニングドラゴンかな。
俺はライトニングドラゴンを選択した。すると睡魔が襲ってきて、抗うこともできずにそのまま眠ってしまった。
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『進化が始まりましたか。生まれたてにしては知能が高い方ですが、心配ですね。ですがこれは他者が介入してはいけない問題です。選択を間違えなければいいのですが』
アマルテイアが俺に近づいてきて、毛布代わりに魔物の毛皮を被せる。この毛皮、俺が殺したウルフマンのもので割とズタズタだが、アマルテイアは気に入っているようだ。
『我の預けたドラゴンはどうですかな、アマルテイア殿』
『……盗み聞きですか?鹿の悪魔』
『なんのことやらさっぱりわかりませんな』
『はぁ、だから悪魔は……いえ、今はいいです。それで今日は何の用ですか。大方察しはつきますが』
アマルテイアが呆れたように首を振る。呆れ慣れたかのような動作からは、なんとなく哀愁を感じる。
『ここら辺で用事がありましたので、ついでに我の預けたドラゴンの様子を見に来ただけです』
『……そうですか。貴方の問への答えですが、凄まじい成長速度です。今は進化の眠りの途中ですよ』
『ほう、既に……。やはり貴女に預けたのは正解でしたな。それでは我はこれで。そのドラゴン、頼みますぞ』
フルフルはそう言うと、闇の中へ溶けるようにと消えていった。
『貴方に頼まれなくとも私の誇りにかけて育て上げますよ。首を洗って楽しみに待っていることでしょう』
誰に言うでもなく、しかし届いていると確信して独白した。
―――――
―――
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ん……、身体が重いな。進化を選択したら眠くなって……そのまま寝たのか?これだと戦闘中に進化で逆転とかできないな。密かに憧れてた王道が一つ潰れてしまった。それで、ちゃんと進化出来たのか?
(鑑定)
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種族:ライトニングドラゴン
名前:成田 龍輝
年齢:0
レベル:1
HP:600/600
MP:700/700
SP:500/500
スキル:『鑑定Lv8』『模倣Lv7』『気配感知Lv7』『危険察知Lv4』『スタミナ回復速度LvMAX』『念話Lv6』『魔力感知Lv8』『魔力操作Lv7』『身体強化魔法Lv7』『火魔法Lv5』『闇魔法Lv5』『神聖魔法Lv5』『雷魔法Lv5』『即死魔法Lv2』『痛覚耐性Lv5』『熱耐性Lv2』『自己再生Lv2』『未来予測Lv5』『人化Lv5』『龍鱗Lv1』
称号:『勇者』『村を率いる者』『殺戮者』
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よし、出来てるな。少しステータスにも変化があるみたいだな。……ん?『龍鱗』というスキルを獲得しているな。
『龍鱗』
身体の表面に龍の鱗を作り出す。レベルによって強度が異なる。
防御系スキルか?レベルを上げれば少し無茶な戦闘もできるようになればいいが。魔力消費が少ないようなら、常時発動させとけばレベルが上がっていくだろ。
(龍鱗!)
スキルを発動させると、青みがかった白の鱗から、光を全て飲み込むような黒い鱗が生えた。爪で弾いてみると、コンという軽い音と共に腕に僅かな衝撃が走った。
あれ、よく見たら俺の身体大きくなってないか?四肢や翼が伸びて動きやすくなったな。
『目覚めましたか。無事に進化が完了したようですね。ドラゴンは特に進化時に注意しておかないと、失敗して亜龍になったりしますからね』
『えっ?そうなんですか!?それならそうと事前に言っておいて下さいよ』
『ひとえに失敗、と言っても基本邪魔が入るなどの外的要因です。あとは望んでなるくらいでしょうか。稀にどちらでもない個体が現れるのが未だ謎ですがね』
ホントにびっくりした。いきなりの爆弾発言は心臓に悪い。長生きしてるとこういうとこで感覚の違いが出てくるな。は〜、進化に成功して本当に良かったぁ。
『ふむ……ライトニングドラゴンにしたのですね。長所を伸ばす方針ですか』
『はい。悩みましたが、短所をなくすよりも長所をのばすことにしました。それで……どれくらい寝てました?』
『およそ四日くらいでしょうか』
四日も寝てたのかよ!四日で身体がこんなに変化するのもおかしいけど、異世界なんだしポ〇モンみたいに謎の白い光に包まれたら進化してるとかないのかぁ。
『今日もなにかするんですか?』
『本日は私が直接指導します。『人化』というスキルを持っていますか?』
『人化』かそういえばコピーしたけど、一回も使ってなかったな。既に最大レベルだけどどれくらい人間なんだろう?
『持ってますね。このスキルで何をするんですか?』
『まずはスキルを発動してください。技術的な面での修行を始めていきます』
『技術面の稽古……分かりました』
返事をしてから人化を発動させる。すると身体が熱くなり、どんどんと小さくなっていく。
ぐうぅ、フルフルにボコされた時程じゃないが、ここまで熱くなるとツラいな。前世だったらこの熱で寝込んでるだろうな。
「ふふふ、随分可愛らしくなりましたね。自分の姿を見たいのですか?それではこれで見てください。『反射』」
変化が完了した頃には熱も引いていき、ぼんやりしていた意識も覚醒してくる。最初に回復していた聴覚に鈴のようにキレイな声が飛びんできた。
(誰?)
次に視覚からの情報を認識。目の前には羊か山羊のような角を生やした美女が立っていた。白いゆったりとした服を着ており胸元は大胆に開かれているため、その豊満な胸がこれでもかと存在を主張していた。
もしかしてアマルテイアか?念話の声と同じなのに全く気づかなかったな。しかし、本当に整ってるなぁ。誰かの理想の女性を現実に再現した、と言われても納得できそうだ。
そして右斜め前で俺の方を向いている鏡に、とても可愛い白銀の髪の美少女が立っている。そうこちらを向いた鏡に、美少女が映っているのだ。
大変認めたくないが、これ……俺か?ドラゴンにしただけでは飽き足らずに女にまでしやがったのか世界神は。……マジか。
いやまだ諦めるのは早いな。あえて言わないが、まだ失ったのが確定したわけではない。絶望するのはそれからだ。
もう一度、見逃しがないように、じっくりと鏡に映る美少女を観察する。幸い?俺は一糸まとわぬ生まれたままの姿だ。確認は簡単だった。
ない、な。……別に性別が変わったことを悲しんでる訳じゃない。だが、十数年共に過ごした仲だ。返してくれとは言わない。しかしせめてお別れくらいはさせて欲しかった。
一旦二度と会えない友のことは置いとくか。裸は目に悪いし、久しぶりの人体は鱗がなくて色々スースーするので手足と胴体、下半身に『龍鱗』を発動させた。
『いや~、ごめんね龍輝君。本当は人間の男の子の身体に魂を入れようとしたんだけど、君の魂だけ邪神の影響を受けていてさー予想外なことにドラゴンの身体に移動したんだよ。』
この声、世界神か!しかも表面上謝ってはいるけど、愉悦の感情が隠しきれてねぇぞ!
『何が急に話しかけてきて 、いやーごめんねだよ!しかも話せるのならもっと早くに話しかけろし!』
『ん?違うよ。龍輝君が努力して神聖魔法のレベルを上げたから話せるようになったんだよ。僕だって話せるならそうしたかったよ』
神聖魔法がなんで関係してくるんだよ。神聖魔法を確認してみるか……あった。『天啓』だろ絶対。俺たち勇者とかじゃないと持っててもいらないだろコレ。
『そんなことないよ。僕以下だけれども神はいるし、そういう子達に話しかけてるんだ。ごく一部の神霊種とかね』
ふーん、そうなんだ。ん?今思念として送ってたか?なんでもないように心を読んでくるんだな。
『心の中と会話するな。話を戻すが、俺の性別は変わったのか?』
『うん、そうだよ。あと、本当はダメなんだけど、君には迷惑をかけたからね~。特別にこのスキルを獲得させて上げるから、服とか作ってね。これで許してね?』
《スキル『物質創造』を獲得しました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『物質創造』のレベルがMAXになりました》
『うん。うまく獲得出来たみたいだね。それじゃあバイバイ。頑張ってたのし――魔王を倒してね。応援してるよ〜』
あいつ、言いたいことだけ言って消えやがった。とりあえずスキルの能力を確認してから、要望通り服でも作るか。どれどれ?
(鑑定)
『物質創造』
魔力を消費して物質を作る。込めた魔力とレベルによって作成した物の強度が変化する。
うわぁ、なにこれ。服を作るために渡すものじゃないだろ。……世界神怖いな。