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裏組織

 新たにキャシュと共に行動することになった俺は妖狐の里を出発し、現在王都の入口で検問ーーもとい持ち物検査を受けていた。


「はい、特に怪しい物はありませんでした。こちらはお返しさせていただきます。王都へようこそ。若い冒険者さん」


 そう言って美人な受付から一般的な旅人が持ってる物の入った鞄を受け取った。勿論ダミーだ。中に入っている物は何一つとして俺達に必要のないものだ。

 唯一ブラッドのみが必要かと思えたが流石は神の使徒。一ヶ月程度は水だけで生活出来るらしい。それを超えると体に影響が出るようだ。


「嬢ちゃん。獣人も泊まれる宿って知らないか?」

「ニャニ!?私は獣人じゃニャむぐぐ〜」


 ブラッドがあらかじめ決めていた設定の為に質問をするとそれを聞いたキャシュが騒ぎ出したのでシェリーに目配せして口を塞いでもらった。


「獣人ですか……。難しいですね。私は違いますが、この国では神聖教が主ですからね。剣聖様の権力を使えばそれなりの宿には泊まれると思いますよ?」

「それはあまりやりたくない。ある程度品質は落ちても良いから何処かないか?」


 ブラッドの質問に受付は首を、横に振って答えた。どうやら本当に知らないらしい。


 ……めんどくさいな。人種差別というのは世界共通で発生するのか?この世界では人という括りで地球のよりも大雑把だけど、俺には差別する意味が分からない。耳や尾が生えているだけで何を嫌うんだよ。種族だけを見て個人を見ようとしないなんて、それこそ下等生物が考えることじゃないのか?


「……そうか。まぁ、いざとなったら権力を使わせてもらうか。ありがとうな、嬢ちゃん」

「い、いえ、こちらこそお力になれず申し訳ありません」


 ブラッドが普段とは違う普通の喋り方でお礼を言い笑いかけると、受付は頬を赤らめて顔を伏せた。


 俺達と一緒に行動してる時は影が薄くて忘れてたけどブラッドも結構なイケメンなんだよな。そりゃあ、それに近距離での笑顔は普通の女性には破壊力あるよな。


 検問を終えた俺達はそのまま王都へと入り、キャシュが加入した事で発生した宿問題を解決するべく王都を回ることにした。


「……そう言えばお前ここで住んでたんだ時は何処で住んでたんだ?」

「以前はこの剣聖の称号のせいで教会の横に住んでたなぁ。何でも国と教会勢力との関係を深める為らしいぞぉ」

「……いや、絶対抑止力の為だろ。国最強が横にいる状態で後暗い事は出来ないからな」


 案外これで正解なんじゃないだろうか。国としては力を持っている神聖教に自由に動かれたくなかったんだろうな。だから睨みをきかせるためにブラッドを配置したのかな?


「私もニールちゃんの意見に賛成かな。でも、それだとブラッドさんの家は借りれないね」

「はい。こうなった原因の教会が横にいたら本末転倒ですからね」


 そうだよなぁ。まだブラッドの家は使えるようだけど、神聖教を気にして獣人も泊まれる宿を探してるのに教会の横の家を使ったら意味ないよな。『叡智』という手段もあるけど、こんな事には使いたくない。


「あ、俺の知人に聞いたら許してくれるかもしれねぇなぁ。聞いてくるかぁ?」


 俺が悩んでいると同じく悩んでいたブラッドが思いついたように、そう提案した。


 ふむ、知り合いか。確かに宿じゃなくてはならない訳でもないからな。それなら俺にも宛があるかもしれない。


「お!知り合いに会いに行くのか?そいつは強いのか?強いなら行きたいぞ!」

「あたしも行ってみたいね。あんたの知人ってことはそれなりなんだろう?妖狐に教わった技も使ってみたいからね」


 俺がブラッドの提案について考えていると、脳筋……もとい、武闘派の2人組がふつうに考えたら無理なお願いをしていた。


 いや、人間じゃ俺達の相手は無理だから。こちら側に殺意がなくても相手は簡単に死んじゃうから。……この二人はそこら辺をちゃんと理解してるのだろうか?


「今から会いに行くのはグリムみたいな奴じゃなくて普通の奴だからなぁ。戦闘以前に運動すらまともに出来ない奴だけど良いのかぁ?」

「ふうん、なら行かないぞ!姉貴との方が楽しそうだ」

「あたしも止めることにするよ。弱い奴には興味ないからね」

「じゃあ聞いてくるぞぉ。終わったら魔力を高めるからなぁ。それが合図で良いだろぉ?」


 武闘派2人にジト目を送っているとブラッドがこちら側に来てそう言ってきた。


 ……『念話』がないのって意外と面倒くさいんだな。まぁ、『探知』の範囲を広げておけば多分大丈夫だろ。流石に王都全域は無理だからあまり離れないようにしないとな。


 俺は頷いて了承の意を示し、ブラッドを見送った。ブラッドの姿が見えなくなったのを確認し、全員連れて路地裏へと移動した。


 ……ここなら大丈夫かな?周囲に人の気配もないし呼んでみるか。前に会ってから一度も連絡を取ってないけど今はどんな感じなんだろうな。……会うのが楽しみだ。


 俺は念話を発動させてとある人物を呼び出した。しばらくすると、以前どこかで見たような気がする人間の気配が近づいてきた。そいつは俺達のいる路地裏に入って来るなり、胸に手を当てて礼をした。


「お迎えに参りました。現在、急な頭の変更により組織内が荒れている為、主に代わり私が来ました」

「……分かった。それにしてもお前随分変わったな。中身も外見も」


 そう、俺達に近づいてきたのは以前リビスで魅了させた冒険者だった。冒険者ギルドで見た時は使い古した鎧とボサボサした髪というまさにチンピラのような格好だったのに対して、今目の前にいるこいつには以前の面影が全くなかった。

 その服装はブラックタキシードに蝶ネクタイ……まぁ所謂執事服を着ており、立ち振る舞いは紳士的だ。


「あ、あの。この人はニールちゃんの知り合い?」

「……お前らは知らなかったな。こいつはリビスで俺を襲おうとした馬鹿の内の一人だ。今はジャックと一緒に行動させてる」

「あぁ、この方が以前言っていた方でしたか。ですが、ニールさんが言っていた特徴と一致しませんね」


 シルビアの問に答えると、ルルがこの場の誰もが思っているであろう疑問を口にした。直接会ってる俺が一瞬分からなかったのだから言伝だけの並列思考達が分かるわけがない。


「……俺もどうしてこうなったのかは知らない」

「私も同意見だよ。魅了した影響だと言われればそれまでたけど、これは他種族と比べても変化しやすい人間とはいえ変わり過ぎだと思うよ」


 どうやらラプラスも俺と同じ事を思っていたらしい。見てみると若干だが、驚いている気がしなくもない。


「フッ、何年経とうと変わらぬ下郎流転し続ける造られし者だ。深淵に認められし者のみが進化の螺旋を巡る」

「ボロス様の仰る通りジャック様のお陰で私は変わる事ができました。同時に、新たなる力も獲得する事が出来たのです」


 ボロスの意味の分からない発言に執事服は淀みなく答えた。まるでその発言の意味を正確に読み取っているかのように。


 新しいスキルを獲得してたから魔力量が上がってたのか。というか、ボロスの言っていることが分かるのか?もしそうなら旅に連れていきたいんだけど……。


「後ろのお二人が退屈しているようですし、ジャック様の下へとご案内させていただきます」


 俺の視線を察してか執事服が話を切り上げて路地の奥へと歩き出した。来た時とは反対方向にだ。


「……逆じゃないのか?お前あっちから来ただろ?」

「いえ、こちらで合っています。私がここに来た時は組織のルールとして遠回りをしてきたのです」

「深淵に存在を委ねた者は必ず深淵に縛られる運命にある」

「はい、私はもう真っ当な生き方は出来ませんしする気もありません。目的の為ならばどんな事でも実行する覚悟があります。ですが、真に大切な物は守るつもりです」


 へぇ、いい事言うじゃん。前は頭のなか空っぽだったのにな。本当に変わったよな。俺が妖狐の里で修行してた数日で一体何が起きたんだよ。……でもやっぱりボロスの言ってる事は分からない。


 そんな会話をしばらく続けていると、不意に執事服が止まり会った時と同じように礼をした。


「到着しました。そして歓迎します。ここが我ら日陰者の楽園。金と力によって全てが決まる世界へようこそ」


 まるで大人に遊園地の楽しさを教える子供のように、執事服はそう言うと壁に手を当て石レンガの内の一つを押し込んだ。すると直ぐ隣の壁が音を立ててゆっくりと開いて一本の道が現れた。


「……この先にジャックがいるのか?」

「はい。この先に私の主人でもあり組織のボスでもあるジャック様がおります。ですが、道中にはお気を付けください。立場を弁えない愚か者がいるでしょうから」

「……お前は来ないのか?」

「私にはまだ仕事が残っているので、御一緒する事は出来ません。代わりの者が中におりますので御安心ください」


 いや、本当に変わったな。実際に会った期間は短いけど一度こいつの記憶を見てるからある程度は分かるんだけどな。その俺から見てもこの変わりようは凄まじい。


 俺が執事服の変化に再度驚いていると、ルルが質問をしていた。


「あの、一つ質問なのですが中には何があるんですか?」

「中には奴隷、酒、骨董品、魔道具など様々な物があります。ですが、ここで売られてる物は表では違法な物が多いのでご注意を。性能は保証致します」

「ありがとうございます。……お酒があるんですか。ちょっと心配ですね」


 心外な。俺は酒なんか買わないし、飲まない。妖狐の里では不覚にも匂いで酔ってしまったけど、ここでは大丈夫だろ。売ってると言っても匂いが充満してる訳ではないんだし。


「他に質問はございますか?……無いようですね。それでは私は別の仕事に向かわせて頂きます。しつこい様ですが、中の連中にはお気をつけください」

「……分かった。お前も気を付けろよ」


 執事服はもう一度礼をすると闇に消えていった。どうやらこれが新しく手に入れた力らしい。ちなみに、コピーはしてない。既に獲得してるスキルの権能に含まれていたからだ。


「……それじゃあ、行くぞ。ここからは法とかは気にしなくても良いからな。……ただ、限度はあるのを忘れるなよ?」

「あたし達を何だと思ってるんだい。余程の事でも怒らなければ大丈夫だよ。まぁ、強者がいたら話は別だけどね」

「うん。シェリーさんの言うように私達のことは心配しなくて大丈夫だよ。寧ろ私達よりニールちゃんの方が心配だよ」

「シルビア君の言う通りだ。君は何かと問題を起こすからね。私は楽しいけど君はそれを良しとしないからね」


 ちょっと並列思考達の俺に対する認識を詳しく聞いてみたくなったが、一応忠告は聞いて貰えたようだ。


「……余計なお世話だ」

「全てを飲み込む闇に召されし者の集い……か。ククッ、血湧き肉躍る」


 何か聞こえた気がしたが無視して、壁に現れた道へと歩いた。中は真っ暗だったが、ドラゴンの目のお陰で問題なく見ることができた。


 ……裏組織か。日本では縁もゆかりも無いものだったから楽しい気持ちもあるな。ジャックが今どうなってるのかも知りたいしちょっとだけ、本当に少しだけわくわくする。

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