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毒2「暴食」

 辺り一面真っ黒だ。全てを飲み込む闇が広がっている。闇が蠢き、また一つ飲み込まれた。闇が満たされることはなく、全てを喰らい尽くすまで消えることは無い。


 ……どうしてこうなったんだ。ついさっきまで皆で普通に悪魔達にスキルの並列起動について教えて貰っていだけなのに。


 〜時は少し遡り、ニールが妖狐の里に入った頃〜


 悪魔達の元で修行を始めて数日が経った。今は魔素の精密操作が終わり、スキルの並列起動に移っている。


「なぁ、ニールって結構広範囲を『探知』で知覚してるけど処理出来てるのか?」


 隣で炎と氷を出したり消したりしてるマクスウェルに聞いてみると大体予想していたのと同じ回答が返ってきた。


「マスターは『並列思考』を所持していますからね。われわれとは処理能力に圧倒的な差があるんですよ」


「そんなものか。そう言えばニールって常に『人化』やら『探知』を使ってるけど疲れないのか?」


「勿論、疲労はしますがそれよりも早く再生しているのでしょう」


 やっぱデタラメだな。俺達がやっと習得した事を平然と出来てるんだよな。それも複数。そういう才能でもあるのか?『暴食』だって俺より上手く使うしなぁ。


「そう言う貴方も念話を使用せずに、魔素を介して思念を飛ばしてるじゃないですか。それも肉声と同じように。今貴方が平然とやったそれは私でも少し集中しないと出来ないことですよ」


 ニールの理不尽について考えていると、マクスウェルが褒めてくれた。


「それはお前達悪魔が教えてくれたからだ。現に魔力操作が基礎程度にしか出来なかったリードが元素魔法の最適化が出来るようになったし」


 そう、まだ悪魔達に師事してもらってから数日しか経っていないないのに皆かなり成長した。勿論その中に俺も含まれている。フェンリルだけは既に悪魔が教える事を出来てたから例外だけど……。


「いえ、これも全てマスターの利になると判断しただけです。あの女がいつまでもマスターの横にいるのは気に食わないですしね。成果を上げればマスターの傍にいられるでしょう」


「それでもだ。お前を筆頭とした悪魔達には感謝してる。ベルゼブブとも会わせてくれたしな」


「……そうですか。はぁ、本当に貴方達異世界人はマスターと違い疑うことを知りませんね」


 俺が本心から感謝の言葉を告げると、マクスウェルはしばらく俺を見つめると呆れた風にそんな事を言った。


 あれ、何故だろう。凄い今憐れまれた気がする。お礼を言っただけなのに……。もしかしてマクスウェルって感謝された事がないのか?


「お〜い、ヴェノムく〜ん!そろそろ休憩時間は終わりにして一緒に食べ合おう?大丈夫死にやしないさ!」


 俺の中でマクスウェルの認識が感謝された事がない変人に変わろうとしていると、俺の中での変人悪魔第一号が大声で叫びながらこっちに向かってきた。


 あぁ……来てしまった。折角マクスウェルとの会話で忘れていたのに。アイツとの修行ってスキルの練習としては効率が良いんだけど内容が変人の発想そのものなんだよ……。


「黙れ、暴食。今回は他の者がいないので許すが、次にそのような事を口走れば数十年眠らせるぞ。分かったな?」


「ちぇっ、分かったよ。相変わらず堅いなぁ、半端者は」


 瞬間、2人の雰囲気が豹変した。どちらも相手へそこら辺の魔物が浴びればそれだけで死ぬような殺気を放っている。


「ほ、ほら、早く行こうぜベルゼブブ。マクスウェルもそろそろフェンリルと模擬戦する頃じゃないか?」


 なんで俺が仲裁しなくてはいけないんだ。2人って同じ悪魔なのに仲が悪いよな。一応上下関係としてマクスウェルが上らしいけど、それも形だけか。……それにしてもやっぱり悪魔って変わり者が多いのか?リードの所のマモンも聞いた話だとかなり変人らしいし。


「うん、そうだね。今日も沢山食べ合おうね!僕、ヴェノム君の魔力を早く食べたいよ」


「……そうですね。では私はフェンリル殿の所へ向かいます」


 2人はそう言って笑い合った。その目は全く笑ってないけど。


「ほら、早く行こ?僕のシモべに命令して人払いは出来てるからさ!」


 マクスウェルが転移で去ったのを確認したベルゼブブは俺を抱えて【転移門】を開いて転移した。転移した先には本来この空間には有り得ない緑が広がっていた。土も光もないこの空間でどうやって育てたのだろうか?


「ん?あぁ!これはね、僕のシモべの奴の一人の能力で一時的に生やしたものだよ。純粋な魔力の塊だからおいしいんだ!」


「いや、俺はお前と違って魔力の味とか分からないから……」


「折角『暴食』を持ってるのに勿体ないなぁ。ん〜、まぁ、いっか!それじゃあこれは後で僕が処理しておくとして、ちゃちゃっとスキルの練習を終わらせちゃおうか!」


 スキルの練習というのは先程ベルゼブブが言っていた『暴食』で互いを喰らい合うというものだ。勿論、殺されることはないし痛みも感じない。だからと言ってやりたいかと聞かれたらやりたくない。……まぁ、効率が良いことと食われたところを再生するために使う『超速再生』も練習出来るからこれを続けてるんだよな。


「そうだな。そろそろ俺もこれに慣れてきたし、今回はいつもよりも少し早くしても良いぞ」


「え!良いの?ヴェノム君の魔力は美味しいからもっと食べたいって思ってたんだよね!それじゃあ、僕の全力でヴェノム君を食べようかな」


「それで頼む。俺も本気でいくから覚悟しとけよ?」


「うん!じゃあ、いつも通り魔法での合図で始めるね?」


 そう言ったベルゼブブは左手に闇色の魔法球を作り出しそれを離れた位置に飛ばした。魔法球は俺達からある程度離れるとその見た目に反して明るい光を伴って爆発した。


 その瞬間からベルゼブブと俺との喰らい合いが始まる。ベルゼブブは宣言通りに全力を出しているのか、一瞬で俺の体の半分近くを食べた。俺も負けじとベルゼブブへ『暴食』を発動させその体を食らった。


 さて、突然だかスライムの得意とする事は捕食だ。スライムはその体内にある酸で何でも溶かして食べてしまう。そして、そのスライムの上位種の俺の捕食が早いのは自明の理であり、一瞬でベルゼブブの左腕を食べ切った。


「わぁ、もうこんなに速くなってたんだね!僕、ゾクゾクしてきたよ」


「俺もだ。不本意だが、スライムとしての本能なのか何かを食べることはとても楽しく感じる」


 ベルゼブブへと返事をしながら左腕を食べた事で得た魔力を使って体を再生させる。しかし、再生させた所からどんどん食われて中々再生しない。それを気にせずベルゼブブを喰らい、体を再生させる。


 喰らう、再生、喰らう、再生、喰らう再生喰らう再生喰らう再生喰らう再生喰らう再生喰らう喰らう喰らう再生喰らう喰らう喰らう再生喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰ーー。


 俺は再生させるのも忘れてベルゼブブを喰らい続けた。しかし、体を再生せずに活動出来る訳もなくそのまま意識を失った。







「おーい、ヴェノム君聞こえるかい?僕だよ、ベルゼブブだよ?」


 誰かの声に呼ばれ意識を向けてみると、ベルゼブブが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。いや、その表現は違うな。正しくは俺を抱えたベルゼブブが顔を向けていた、か。


「ん、大丈夫だ。というか、いつの間にか意識を失ってたのか。あれ、修行の記憶が途中から無いんだけど……。結局どうなったんだ?」


「いやぁ、あの時のヴェノム君は凄かったよ!気を失ってたのに僕を食べるのを止めなかったんだよ。まさに、僕の理想の姿そのものだったよ!」


 俺が結果を聞くとベルゼブブは目を輝かせて俺の事を褒めたたえた。その姿はかなり美化されており、要約すると黒いスライ厶が自分ーーベルゼブブーーを食べているというだけだった。それと、何故か分からないが俺に教えることはもう無いと言われた。


「いや、もう分かったから。それくらいにしてくれ。それで俺どれくらい気を失ってた?」


「むぅ、まだヴェノム君のカッコ良さを伝えきれてないのに」


 流石に長くなってきたのでベルゼブブを落ち着かせて、俺を褒めたたえるのを中断させると、ベルゼブブが不満そうに唇を尖らせた。その姿は普段のとは異なりとても可愛らしかった。


 悪魔に性別はないので仕方ないかもしれないけど、折角美少女の姿なんだからいつもそれなら良いのに。


「今度マモンに話したら良いんじゃないか?アイツなら喜ぶだろ」


「ん〜、そうだね。そうするよ!それと、ヴェノムが気を失ってた時間だったね。大体2日くらいかな!」


 えぇ、そんなに時間経ってたのかよ。半日くらいを予想してたんだけどなぁ。とりあえず皆で集まるか。


「マクスウェルの所に【転移門】を繋げてくれないか?」


「了解!少し時間がかかるから待っててね」


 俺は頷いてベルゼブブから飛び退いた。まぁ、頷くと言っても体ごと前に倒すだけだけどな。そのままベルゼブブから離れた位置へ移動して皆に『念話』でマクスウェルの所へ集まるように頼んだ。


「はい、出来たよ。あいつ、僕達に来られるのが嫌なのか気配を消してるから場所が分かりずらいんだよね」


「まぁ、そう怒るなって。後でマクスウェルには非常時以外気配を消さないように頼んでおくから」


「うん、お願いね!また今度食べ合おうね!」


 俺はベルゼブブの全くブレない言葉を背に【転移門】を潜った。そこには既に全員揃っており俺が最後だった。


「無事だったか。2日前から連絡が取れなくて心配してたのだぞ?」


「ホントだよ。ヴェノムに念話を送っても返事が来ねぇし、場所も分からなかったからな」


 俺が到着するなり、フェンリルとリードに心配されてしまった。少々過保護だと思ったけど、俺も誰かが二日間練習が取れなかったら心配すると思い直し素直に謝ると、


「まぁ、生存を確信してはいたが何かあったら主殿に申し訳ないからな。それに我は貴様の事を気に入ってるしな」


 とフェンリルに言われた。とても嬉しかったが、どこかこそばゆいところもあった。


「それで、皆に集まって貰った訳だけど俺の修行が一段落着いたからちょっとニールの様子を見てみたくてな。皆で見た方が気付く事も多いだろうと思って呼んだ」


「そんな理由だったんだ……。大変な事だと勘違いしてて恥ずかしいな。でも、確かにニールちゃんを観察するのはいい案だと思う」


 俺の提案にそう答えたのはニールの元クラスメイトだと言う清川だ。いや、今はフランチェスカだったな。


「確かにあいつを観察するのは良いかもな」


「……ニールを見れるなら俺は構わない」


「私達も見たいかも」


「俺は強くなれるなら見る」


「僕も興味があるかな。マスターがどうやって修行してるのか気になる」


「「「我らは強さのみを求める」」」


 フランチェスカに続いて他の皆も賛同してくれた。アレンだけは俺達とは目的が違うようだが、気にしない。

 皆から賛同を得た俺は最近覚えた『念話』と『闇魔法』の応用で空中に外の様子を映し出した。そこにはここと同じ周りが真っ黒の空間で白いトカゲをポコポコ生み出すニールの姿が映っていた。


 えぇ……。何これ。しばらく見ない内に一体何があったらこんな事になるんだよ。

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