魔力操作
ウカノミタマの【転移門】を潜るとそこはアマルテイアと修行していた魔素濃度の高いドーム状の空間だった。
「……あれ、ここってダンジョンの中だよな?何でここに来たんだ?」
「む、知っていたか。そうじゃ、主の言う通りここはダンジョンの中じゃ。魔素が満ちていて邪魔の入らないここは、今回主に教える場所としては最高なのじゃ」
「……そうなんだな。」
アマルテイアも似たような理由でここを修行場所に選んだのかな?……それにしても今見ても不思議な空間だよな、ここ。これだけの魔素が自然に一箇所に留まるなんてな。以前アマルテイアに連れてかれた最下層と同じくらい、いや、寧ろこっちの方が魔素が多くあるんじゃないか?……いや、それはないか。
「……それで、お前に魔力操作を教えて欲しいと頼んだけどここで何をするんだ?」
「うむ、主にはまずスキルの扱いを上達してもらうのじゃ。幸いにもお主は支配系のスキルを所持している様じゃからな」
「……何でそこでスキルが出てくるんだよ。俺が頼んだのは魔力操作だからな?」
「もちろん今回主に教えることに大いに関係してることじゃ。別にこれを飛ばしても妾は構わんが、ある程度妥協することになってしまうの」
……それは嫌だな。せっかく教えて貰えるんだから妥協はしたくない。それに、魔力操作というのは強者との戦闘の時に一番大事な技術だからな。それだけで勝敗が決まることだってあるのだ。
「……妥協はしない。全力で厳しく頼む」
「うむ、やる気十分の様じゃな。それならば妾に言われた通りに動くのじゃ」
俺はウカノミタマに向かって力強く頷いた。
「まずは周囲の魔素を支配するのじゃ。そうすることでより精密に操作出来るだろう。お主の鑑定を防げたのも妾が庵の中を支配してたからなのじゃ」
ウカノミタマはそう言うと腰に両手を当てて自慢げに胸を張った。そのせいでウカノミタマの豊満な胸が強調されている。……ブラッドが見たら鼻血を吹き出しそうだな。
「……そんな気配は全くなかったぞ?干渉してる素振りだってなかっただろ」
「それ程完全に支配してたのじゃ。妾程になると強者すらも欺くことも可能になるのじゃ」
「……そうか」
成程、魔素を支配したらそういうことも出来るのか。ウカノミタマを見た感じ他にも出来そうだ。……シルビアと話し合って考えるか。
俺はウカノミタマから魔力操作を教わった後の事を考えながら『空間支配』で周囲の魔素を支配した。
「うむ、支配出来たようじゃな。それでは次に妾の魔法の発動を止めるのじゃ。失敗しても避けては駄目じゃぞ」
ウカノミタマはそう言うなり、俺から魔素の支配権を奪い、魔法を放ってきた。それも当たったら体の半分が吹っ飛ぶヤツを。火、雷、風魔法が次々に飛んでくる。
「ほれほれ、早く支配権を取り戻さぬといつまでも妾の魔法を食らうことになるぞ」
いや、確かに厳しくとは頼んだけどこれはやりすぎだと思うんだが。しかも痛覚遮断してるのに痛いし。……というか、あれ絶対楽しんでるだろ。ウカノミタマってまさかのサディストだったのか?
俺は内心ウカノミタマに向かって愚痴りながら少しずつ魔素の支配権を奪い取り始めた。ウカノミタマに抵抗されるため時間がかかったけど何とか魔法の発動を妨害出来る程まで支配権を取り戻せた。……直接魔法を妨害出来たならここまで面倒くさくなかったのに。
「むぅ、もう妾から支配を奪い取ったのか。やはりお主は異常じゃな。シロナとクロナにも、この技術を教えたが何年もかかったのじゃぞ?」
「……それはお前が一番危険だけど一番上達する方法で俺に教えたからだろ。わざわざ闇魔法で痛みを情報として当ててきたし……」
「確かにそうなのじゃがな。しかし、妾の想像的にはもう数日かかる計算だったのじゃ。なのに主は数時間で習得したのじゃ」
「……似たようなことを他の人にも言われたことがある。そんなに俺は異常なのか?」
確かに成長速度は早いんだろうけど異常だ、化け物だと言われる程かなぁ……。この世界には神様がいるんだからそこまでおかしくはないだろ。俺なんか前世の知識があって原理を理解しやすいってだけなんだし。
「うむ、十分異常なのじゃ。お主よりも強いものならば数人知っておるが、その強さは長い年月をかけて得たものだったの。生まれて数年のお主がそれ程の強さを持つのは異常なのじゃ」
「……そうか」
「まぁ、別に妾は気にしないのじゃ。大事なのは過程じゃなく結果じゃからな。もしかしたらお主ならば今日中に全て教えることが出来そうなのじゃ」
そこまで早くは出来ないだろ。だけど俺の事をそれ程評価してくれてるって事だよな。……ちょっとだけ嬉しいかも。
「それでは次の段階に移るのじゃ。次は先程の魔法の妨害を応用して空間移動……原理としては魔法の妨害なのじゃが、それだけでは出来ぬのじゃ」
何が違うんだ?空間魔法も魔法なんだから発動させなければいいんじゃないのか?……駄目だ、分からん
「ふふん、お主が理解してないじゃから妾が教えてやるのじゃ。空間魔法というのは魔法でもあり、技術でもあるのじゃ」
ん〜、ちょっとだけ分かったかもしれない。魔法の中にも一部魔法とは言いきれないやつもあるからな。……シルビアが開発してる魔法だって技術的な面が多いし。
「空間魔法というのは本来、術式が必要ないのじゃ。魔素濃度を高め、空間を歪めることが空間魔法の根本じゃからな。術式はそれを安定させ座標を固定させるためにあるのじゃ」
ふむふむ、つまり魔法を妨害しても空間は歪むのか。それも術式がなくなって不安定に歪んでしまう、と。
「それで、本題に入るのじゃが空間魔法の対処方は2つあるのじゃ。相手に魔法発動させる余裕を与えない、又は空間すらも支配して妨害するのじゃ」
「……成程、魔法だけでなく空間への干渉も制限するのか。確かにそれならいけるな」
「うむ、その通りじゃ。しかし魔素とは違って空間の支配は難しいぞ?最低でも空間魔法を極めていないと無理なのじゃ」
「……それなら多分出来てる。というか、既に出来ると思う」
俺はウカノミタマにそう言い、目の前で実践してみせた。
「……やはりお主はおかしいぞ。あやつの眷属だからといってもここまでの技術を持つのは有り得ぬのじゃ。むぅ、仕方ないのぅ。今日はやりたくなかったが次に移るのじゃ」
「……助かる。頼んだ俺が言うのもおかしいけど、なるべく早くに終わらせたい」
「分かったのじゃ。次は先程と同じように妾の空間魔法を妨害してもらうのじゃ。妾は遠慮なくお主を攻撃するから覚悟するのじゃ」
「……分かった。回避はしていいのか?」
「本当は駄目じゃと言いたいところじゃが、一方的に攻撃するのもつまらぬし許すのじゃ。……どうせなら実戦形式にするかの!その方が妾も面白いのじゃ」
「……俺からも攻撃していいのか?」
「それは駄目じゃ。それではお主の修行にならぬじゃろ?お主は回避と妨害しかしてはならぬのじゃ」
結構理不尽だな。自分は攻撃するけど俺は駄目なのか。……ウカノミタマの考えも分からなくもないけど字面だけみたら新手のイジメとも取れるよね。ま、妨害を成功させれば良いんだし、アマルテイアとフルフルに比べたらまだ優しい方かな?
「納得してくれたようじゃし、始めるのじゃ。お主を殺さぬ程度に手加減はするので安心するのじゃ」
いや、それは安心出来ないだろ、と思ったがウカノミタマは空間転移で俺の背後に移動すると同時に魔法を放ってきた。俺はそれを難なく回避し、ウカノミタマから距離を取った。
回避した魔法は背後で壁に当たったのか轟音を出して爆発した。音の大きさに気になって後ろを見てみると直径2mのクレーターが出来てた。
「……おい」
「む、なんじゃ?」
「む、なんじゃ?じゃないだろ!さっきまでと明らかに魔法の威力が違うぞ!修行なのに何であんな威力なんだよ」
「ふむ、そんなことか。これは実戦形式なのじゃから威力が高いのは当たり前じゃろう?」
……そうなのか?そういえばアマルテイアとかケイローンとかも模擬戦の時は厳しかったな。この世界での実戦形式ってのは死なない程度に戦うってことなのか?
「別の事を考えるとは随分と余裕じゃな。それならばもう少し魔法の数とお主への妨害を強くするのじゃ」
ウカノミタマがそう言った途端、ウカノミタマから放たれる魔法が倍に増え、支配権が簡単に取られた。
その後魔法を回避しながら直ぐに取り返したが、取り返した瞬間にウカノミタマに取られた。それを何度も繰り返し少しずつ空間の支配に慣れてきた。
意外と難しいな。支配は簡単に出来るんだけどそれを維持するのが案外難しい。ウカノミタマに簡単に支配権を奪い取られるな。……一瞬で支配してもそれ程強く支配出来てないのか。それじゃあちょっとずつ自分の周囲を支配していったら奪われないのかな?
俺はウカノミタマの魔法を回避しながら少しずつ確実に空間を支配した。すると、今まで簡単に支配権を奪われて転移されていたのに、初めて妨害することに成功した。
「やった、できた!……あ」
やばい、成功したことに喜んで気が緩んでウカノミタマに支配権取られた。は、早く取り戻さないと。
「成功したからと言って、気を抜いては駄目なのじゃ。集中せぬと簡単に奪われるぞ?」
その言葉と同時に俺の目の前に魔法を飛んできた。ウカノミタマから支配権を取り戻すのに必死だった俺は咄嗟に『暴食』を発動させ、それを魔力に分解した。
「む、今のはルール違反なのじゃ。お主のスキルの使用を許可したら修行にならぬからな」
「……すまない。焦って発動させてしまった」
「別に責めておらぬ。まだ初日なのに妾の転移を一度妨害しただけでも凄いのじゃ。ふむ、丁度夕暮れじゃし続きを明日にするのじゃ」
「……分かった。少し遅れたが今日からよろしく頼む」
「うむ、頼まれたのじゃ。まぁ、お主は飲み込みが早いからあと数日の間だけじゃろうな」
ウカノミタマはそう言うと妖狐の里にへと繋がる【転移門】を出した。ウカノミタマの魔法の影響で周囲の地形が変わってるが、直す気はないらしい。
まぁ、ダンジョンはいつの間にか直るし放っておいても大丈夫だろ。そんなことよりもボロス達が何かしてないか心配だ。ラプラスがいるけど、あいつ大抵の事は見過ごすし……。
俺はウカノミタマに続いて【転移門】を潜ると妖狐の里では初日程ではないが宴が開かれており、どんちゃん騒ぎだった。
「む、もう始めておったのか。仕方ないのぅ。妾達も速く参加するのじゃ」
えぇ……。またやるのか?明日も修行するんじゃなかったのかよ。……まぁ、良いか。並列思考達も楽しそうだし。
俺は諦めてウカノミタマを追いかけた。その口元に小さな笑みを浮かべて。




