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後始末

 山奥、妖狐の里内で誰もが倒れ伏す中、ただ一人白銀の髪をもつ少女だけが起き上がった。もちろん、その少女は俺である。


 う〜ん、気を失ってたのか。……ん?何故か昨日の記憶が無いな。えぇと、確か一昨日この里に来て宴に参加したんだよな。そこでシルビアとウカノミタマに弄ばれて、無駄に本気を出したシルビアに無理やり酒を飲まされたんだよな。……やっぱりその先の記憶が無い。まぁ、別にいいかな。何か気分も良いし、最近溜まってた精神的な疲労も取れてて絶好調だし、さっさとこの惨状をどうにかするか。


 現在俺の目の前には並列思考や妖狐達、ウカノミタマまでもが倒れており、死屍累々としたありさまだった。

 俺はまずコアとルル達のいる酒を飲んでない集団を起こすことにした。流石にもう酔いは醒めてると思うけど心配だったのもあるが、確実に人手を増やす為にもコア達から起こすことにした。


「……もう朝だぞ。みんなを起こしたいから手伝ってくれないか?」


「んぅ、もう朝ですか?……後5分だけ待ってください」


「まだ眠いから俺は寝るぞ。姉貴達を起こすのはニールに任せたぞぉ……」


 面倒くさい……。俺達に睡眠は必要ないから文句なく起きてくれると思ってたのに何故こういう時だけ思い通りにいかないのだろう……。仕方ない、脅すことになるけどそれが一番手っ取り早いか。


「……並列存在没収」


「今すぐ、起こさせていただきます。さぁ、姉貴達を起こしに行こうかな!」


 あれ、コアは起きたけどルルはまだ寝たフリしてるな。子供かよ。……はぁ、やっぱり魔法を扱うのに肉体はそこまで必要ないからかな?


「……魔力供給の停ーー」


「起きるです!お酒に呑まれたシルビアさんを起こしに行くでありますです」


 俺が魔力供給量を少なくさせながらお願い(強制)すると妖狐の尻尾を抱き枕にして寝ていたルルが音速を超えた速度で起き上がった。……口調がおかしくなるほど焦るとは思わなかった。


 この2人ってある意味扱いやすいよね。情緒が発達しきってないからかな?いつか危ない奴に騙されそうだな。もしそうなったら中身が大人である俺がしっかりと責任を持って守ってやらないとな。

 さて、俺も見てないで寝てる奴らを起こすか。……まだ酔ってるかもしれないから先に魔法で解毒してからにしよ。べ、別に昨日のシルビアが怖くて酔っ払いが怖いという訳ではないからな!?……俺は誰に言い訳をしてるんだ。こんな所で寝てたら風邪引くし、早くおこしてあげないと。


 俺とコア、ルルはどんどんと寝てる者たちを起こしていった。俺は普通に話しかけて起こしているけど、ルルは魔法で無理やり起こしていた。コアは……額を人差し指で突いたら勝手に人が起きてるな。どこかの世紀末の覇者みたいに秘孔でも突いてるのだろうか?

 そんな感じで寝ている者たちを起こしていき、残りは並列思考とウカノミタマだけになった。妖狐達は明らかにシルビア達を避けてて俺達が起こすしかなさそうだ。


「……誰が起こす?一応解毒してあるからもう酔ってないと思うけど」


「俺は嫌だぞ。姉貴なら大丈夫だと思うけどな。べ、別に怖いわけじゃないんだからな!」


「私もやりたくありません。そもそも、何でシルビアさんはドラゴンは酒に弱いというのを知っていたのに飲んだんですか?」


 俺がコアとルルのことを見つつそう言うと速攻で否定された。ルルに至っては、何故私がやらなきゃいけないんですか?とでも言いたそうな顔だ。


 あ、やっぱりドラゴンって酒に弱いんだ。ついでに酒癖も悪そうだけどそれは個人差があるのかな?試してみたい気持ちもあるけど今はやめとこうかな。それよりもシルビア達を俺が起こさなきゃいけないのか……。自主的に起きるまで待っちゃ駄目なのか?端に寄せとけば邪魔にならないだろ。


「起こさないという選択肢はありませんよ?はぁ、そんなに嫌なのでしたら、そこで寝たフリをしてるラプラスさんにでも頼めばいいじゃないですか」


「……天才か?」


 ルルは俺の心を呼んだかのように逃げ道を潰すと、新しい手段を示してくれた。その時の俺は神から天啓を授かったかのような気持ちになった。


 あぁ、何故気づかなかったのだろう。ラプラスが既に起きていたのは分かっていたのに何故自分達でやらなきゃいけないと思っていたのだろう。いや、何故ラプラスを使っちゃいけないと思い込んでいたんだろうか?……もしかして思考誘導されてた?


 そう思い闇魔法で自分の精神を見てみると微かに、本当少しだけ干渉された形跡があった。感知されず、ギリギリ効果が出る程度に干渉されていた。それを妨害したらラプラスの体が驚いたように揺れたということは、そういうことなのだろう。


「……今すぐシルビア達を起こしたら今回のことは無かったことにするけどどうする」


 俺は笑顔でラプラスを怖がらせないようにそう言った。またラプラスの体がビクッと揺れ、何事もなかったかのように立ち上がった。


「も、もちろん起こすさ。君に思考誘導をかけたのは謝るし、今後なるべくやらないからその顔をやめてくれないかい?それに昨日の君達を見てたら私の気持ちも当然だと思うけどね」


「確かに昨日のニール達は凄かったぞ。姉貴達が超困ってたぞ」


「はい、ニールさんがあんな風になるなんて想像出来ませんでした。覚えてないようですが反省してください」


 ラプラスがそう言うと周りの妖狐達が全員揃って頷いた。コアとルルまでも同意見らしく、ルルに至っては反省を求めてきた。それ程昨晩の俺は凄かったらしい。


 む、そんなに酷かったのか?全く覚えてないけど少々はしゃぎすぎてたみたいだな。……というか、何で俺が悪いみたいになってるんだよ。解せぬ。


「さて、君に言いたいことも言えたしシルビア君を起こそうかな。別に私は君達と違ってそれほど怖くはないからね。そこまで嫌ではないんだよ」


 ラプラスは挑発するようにそう言うとシルビア達が集まってる場所へと体を向けた。


「おい、俺は怖がってるわけじゃないぞ。面倒くさいだけで俺が起こしてもいいんだからな!」


「そうなのかい?それじゃあ私は少しだけ怖いからシルビア君達を起こすのは、君に頼むとするよ。もちろん引き受けてくれるよね?」


 コアはラプラスの挑発にのり、若干興奮した様子で返事をしてしまった。それを聞いたラプラスは足を止め、こちらを振り向いた。仮面で表情は隠れているけど、きっとコアから言質を取って笑っているのだろう。


「い、いや、それは遠慮させてもらうぞ。こ、怖くて逃げる訳では無いんだからな!ただ、面倒くさいだけなんだらな!」


「へぇ、私にはシルビア君達が暴れるのを予想して怖がっているだけにしか見えないなぁ」


「そこまで言うんだったらやってやる!お、俺は怖くないからな。怖い奴はやらなくてもいいぞ」


 あーあ、言っちゃったよ。怖くないって言ってる割には声が震えてるな。そんなに怖いんだったら素直に怖いって言えばいいの。

 ……それにしても、確かに昨日のシルビアは怖かったけどそこまでだったかな?俺が気を失った後に酷くなったのかもな。


「よ、よし、起こすぞ。まずはこの中で一番酔ってなかった姉貴からだ。あ、姉貴、起きてくれ」


 コアはまるで爆弾を扱うかのように慎重にシェリーの体を揺らした。しばらく揺らすとシェリーの目が開いた。


「うっ……頭が痛いね。これが二日酔いというやつかい?」


 目覚めたシェリーは体を起こすと頭に触れて痛みで表情を歪めた。近くにいるコアに気付いてないということは、それ程痛いのだろう。


「あ、姉貴。大丈夫か?もう、暴れたりしないで欲しいぞ……」


「何を言ってるんだい?アタシが暴れる訳ないじゃないか。ニールじゃないんだから無闇に暴れたりしないよ」


「そ、そうか。それならそれで構わないぞ」


 ……何故俺の方が暴れてるみたいな言い方をされてるんだ。普段近接戦しかしないシェリー達の方が圧倒的に暴れてるだろ。それなのに誰も反論しないのは何でだ?


「ニールさん……。不思議そうな顔をしてますが事実ですよ?昨日のニールさんは今まで見たことがない暴れっぷりでした」


 俺がシェリーの発言に対して心のなかで文句を言っていると、ルルが呆れた目でそう言ってきた。


「……そんなにか。全く記憶がないんだが」


「そうですか……。とにかく、ニールさんはお酒を飲む時は量を気をつけてください」


「……善処する」


 むぅ、怒られた。前世のと合わせて20歳超えてるから飲んでも大丈夫だと思ったけどやっぱり体が成長するのを待った方が良いだろうか……。でも、この体5年経っても全く変化しないもんなぁ。


 俺が今後の酒の扱いについて考えているとコアがボロスを起こしていた。中々起きないことにコアの我慢が続かず、割と本気で蹴ってた。それでも起きなくてシェリーに助けを求めたら一発で起きたな。


 ……聞くだけで恥ずかしくなるような台詞を言ったら残像すら残す勢いで起きたな。本当に何故ボロスが並列思考から発生してしまったのだろう。


「フッ、幾ばくか気を失っていたようだ」


 ほら、起きて早々あんな事を言ってるぞ。思い出したくもないけど、確かに俺の中にああいう時期があったけどあそこまで酷くはなかったな。


 ボロスを起こした後は、何の問題もなくウカノミタマとシルビアを起こした。ただ、シルビアが俺の事を見てまるで怖がるかのように体を揺らしたのは不思議だな。その後は妖狐達と協力してゴミを片付けたりなど約2日続いた宴の後始末をした。



____________________


 という事があって現在妖狐の村に招かれてる。今考えると、2日しか経っていないのに色んなことがあったんだな。


「さて、お主と約束した通り魔力操作を教えるのじゃ。妾の庵が壊れたら困るので移動するぞ」


 俺がコタツで寛ぎながら回想していたら、同じくコタツで寛いでいたウカノミタマが突然立ち上がってそう言った。


「……分かった」


 俺の答えを聞くとウカノミタマは頷いて、【転移門】を開いた。どうやら周囲に被害が出ても問題ないところに繋いでくれたらしい。……別に戦闘狂じゃないけど強くなるのは少しだけ楽しみだな。


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