妖狐
妖狐の里で能力統合をした俺は世界神の愚痴を聞いていた。基本俺のせいで世界神に苦情が届いていたので申し訳なかった。ラプラスだけは例外で俺と一緒にいることを自慢してるらしい。……あいつ、たまに機嫌が良い時があったけど世界神に自慢してたのかよ。
『ふぅ、また僕の愚痴を聞いてくれて助かったよ。ニールちゃんは見てて面白いからそのままでも良いけど、もう少し僕のことを考えてくれると嬉しいかな』
『……善処する』
『ニールちゃんはそのままでもいいんだけどね。じゃあ、僕の愚痴を聞いてくれたお礼にニールちゃんの話を聞いてあげるよ。ほら、何でも言っていいんだよ?』
『……それじゃあ幾つか質問を。まず、この世界の神の年齢について教えてくれ』
『ん?どういう意味だい?』
これを説明するのは難しいな。俺が聞きたいのはルティヤとかアマルテイアとかの生きてる年数がおかしい。さっきの双子よりも短いし。神話に登場してるのに数百年しか生きてないし。
『あぁ、そういう意味かい。それを説明すると長くなるから簡単に言うけどルティヤ君が500年前にダンジョン内の神を全員殺したからだね』
『は……?いやいや、500年前って言ったらルティヤが生まれたばかりだろ?その頃からそんな出鱈目な力を持ってるのかよ』
俺が自分の事を棚に上げて世界神に聞いてみると世界神は少し楽しんでる雰囲気で答えてくれた。
『ん〜、ルティヤ君はちょっと特殊で1000年周期で転生してるんだよ。もちろん、記憶を継承してね。ステータスが5万程度しかないのもその影響かな。転生当初は2万弱あったと思うよ』
色々ツッコミたいけどそういうものだと納得するしかないか。とりあえずこれで一つの謎が解けたな。さっきシロナとクロナを見た時に違和感から疑問に変わってからずっと意識の隅にあったんだけど、早めに解決出来て良かった。
『……それじゃあ次だ。お前と会話できる存在ってどれくらいいるんだ?』
『それなら簡単だよ。ニールちゃんとルティヤ君、ラプラス君や宇迦之御魂神ちゃんかなぁ。あ、後は会話とまでは行かないけど教皇やゼウス君と勇者くん達の意見は暇な時に聞いてあげてるよ』
あれ、意外と少なかったな。サラッと今から会う奴の名前が出てたのは気の所為だろうか?……いや現実逃避はやめよう。この里の長は世界神の関係者だと言うのを念頭に置いておこう。というか名前的には後者の方が重要な気がするんだが、世界神は違うのか?ローマ教皇とか世界の影響力高いけど。
『この世界では凄くないよ。今の教皇君は熱心だから意見を聞いてあげてるけど基本的に歴代の教皇は腐ってるからね。ギリシャの最高神は記憶は継いでるけど今は力が弱いしね』
『……そうなのか。まぁ、俺には関係ないし別にいい。……次で最後の質問だが、神域のレベルが全く上がらないんだけど何故だ?』
『あ!い、いや、なんでもないよ?べ、別に忘れていたとかじゃなくてちゃんと理由があるんだよ』
……この反応は絶対に忘れてたやつだな。ここ数年で確かに魔力は増えてるんだけど神域のレベルが上がってた頃よりも明らかに上昇していない。次話す時に聞けばいいかと先延ばしにしていたら約3年も経過してしまった。確かに今のままでも充分かもしれないが、最近ステータスの高い奴らに遭遇するから少しでも戦力を上げておきたい。
『神域のレベルを上げないのはニールちゃんの才能が僕の予想以上にあったからなんだよね』
『……それの何が悪いんだよ』
『いや、僕にとっては問題じゃないんだけど、他の神が煩くてさぁ。僕ってこう見えても高位の神だから色んな奴に狙われてるんだよね。で、そんな僕が新しく神を増やすとなると殺すのが難しくなるからやめてくれって言われてるんだよ』
今の話だけでも気になる事が沢山あったけど俺が聞いても今はわからないんだろうな。とにかく、俺が神化すると世界神の苦労が増えるからやってないっていうことか……。
『うん、分かってくれて何よりだよ。別にニールちゃんが本気で望むなら今すぐ出来るけど数ヶ月かかるよ?』
『いや、良い。今の状態でも一応ステータスが上がってるから今はそれで満足する。……頼む時は【天啓】で言う』
『それで大丈夫だよ。ニールちゃんの思念は最優先に受け取るようにしてて聞き逃すことはないから安心してね。それじゃあニールちゃんの質問も終わったし、僕は帰るね。あ、宇迦之御魂神ちゃんにはニールちゃんが僕の眷属だって話しといたからね』
世界神は最後にそれだけ言うと話しかけてきた時と同じように一方的に念話を切った。同時に強制的発動させられていた思考加速も解除された。
……あいつ本当に善意でやってるのか?何か俺の反応を見て楽しんでる気がするんだけど。今から会いに行くの嫌だなぁ。また面倒くさいことが起きそうだな。
「フッ、どうしたのだニールよ。何か悩み事でもあるのか?我で良ければ聞いてやろうではないか。なに、並列思考の旧知の仲だ。気兼ねなく話すがいい」
面倒な時に面倒な奴が来たな。相談にのってくれるのは嬉しいんだろうけど、こいつだと何故か素直に喜べない。……俺の前世の姿で恥ずかしいことを言ってるからか?
「……別に大丈夫だ。それよりも何でここにボロスがいるんだよ。さっきまで反対側にいたじゃん」
「フッ、気にするでない。貴様の奇蹟の波動を我が深淵が知覚し様子を見に来たのだ。ついでに妖狐共の準備が完了したことを伝えに来たのだ」
ボロスにここに来た用事を聞くと、ボロスは【虚無空間】からいつ手に入れたのか分からない俺の身長くらいある杖を取り出すと、自らの背後に小規模爆発を起こしてポーズを取って答えた。例えそれが前世みたアニメにいた厨二病の上位魔術師に似ていたとしても気にしない!
「明らかに後者の方が重要だろ。なんでそっちがついでなんだよ。……速く行くぞ。あまり会いたくないけど聞きたいことができた」
「ほう、聞きたいことか……。我が観測せし時間軸、つまり記憶の再生の眠りからどれほどの真理が起こるか想像する、たったこれだけのことで血湧き肉躍る」
ボロスが訳の分からないことを言って興奮しているが、この世界に来てより高くなったスルースキルで無視した。念話で並列思考達を集めて双子と別れた地点に集まった。俺が到着した時には双子が既に立っていた。
「「主、宇迦之御魂神の準備が完了しました。ご案内します」」
双子は並列思考が全員集まったのを確認すると、そう言って里の奥へと歩き始めた。俺たちがその後をついて行くと周りの妖狐達が道を開けてくれた。
しばらく進むと来た時と同じように認識阻害の霧が発生したが、同時に空間も歪み始め異空間へと引き込まれた。
「ご安心ください。この空間歪曲は主の存在を隠すためのものです」
「当然危険もございませんのでどうかご警戒なさらず」
俺と並列思考、ラプラスは何をされても対応出来るから何も反応を示さなかったが、ブラッドだけは警戒していたようだ。双子とブラッドの力の差は歴然でブラッドが警戒しても無意味なのだが、今までの冒険者の経験からこういう場所では警戒しないと落ち着かないらしい。……その気持ちも分からなくはないが、敵意もないのにそんなに気を張り続けて疲れないのだろうか?
そのまま双子に案内され、数分歩くと突然霧が晴れた。そこは先程までいた森の中ではなく山の頂上だった。周りを見渡してみるとぽつんと1件だけ家があった。神が住んでいると言う割には小さく、この世界では見たことがない和風建築だった。大きさと建築様式からまるで庵みたいだな。建物を観察していると扉が開き、その中から遠目からでも分かるほど綺麗な美女が出てきた。
「「あちらにおられる方が我らが主である宇迦之御魂神です」」
双子がそう言っている間にも宇迦之御魂神と呼ばれた美女が近づいてきて双子の前に立った。近くで見てみるとその美貌が顕になった。その服は白を基調とした和服でその素材は今まで見たことがないほど綺麗な絹で編まれていた。髪は金糸を編んだように美しい金髪で、背後の9本の尾は髪と同じ金だが先の方に近づくにつれ黄金色になっていた。
「ふむ、主があやつの言っておったニールか。……あやつが興味を持つのも少しだけ分かるかもしれんのう。ほれ、こちらが呼んだのじゃ。もてなすので妾の庵まで来るが良い」
美女はそれだけ言うと庵へと戻って行った。双子達は俺達に一礼だけすると手馴れた動作で美女の後ろへ着いて行った。
成り行きに任せてたらいつの間にか置いてかれてたな。というか、世界神は本当に俺の事を話したのかよ。……ん?おかしくないか?世界神が俺の事を話したのはここに招待された後だよな?じゃあ、なんで俺は招待されたんだよ。
そこら辺も聞かないとな。もし知らない内に目立つことをやっていたなら直したいしな。それに、今後同じように絡まれることも減るかもしれないし。
俺は鼻の下を伸ばして上の空のブラッドを叩いて正気に戻し、美女と双子の後を追いかけた。少々強く叩いてブラッドの頬に赤く跡が着いたが気にしない。
双子に扉を開けてもらい中に入ると何処か懐かしく感じる下駄箱のある玄関があった。オーガの家もグリムの屋敷も土足だったのが原因だと思うが、やはり俺が元日本人だからここまで懐かしいのだろうか。
「あ、あれ?ニールちゃんもしかして感動してる?た、確かにこの世界で下駄箱は珍しいけど無いわけじゃないよ」
「へぇ、私達はアンタの記憶を持ってるけどそこまで何かを感じてはないね。やっぱり記憶と経験じゃあ重みが違うのかね?」
俺が数年振りに見た和風な玄関を感慨深く眺めていると見た目が大人の2人から何故か子供を見るような目で見られた。ちなみに、ルルとコアは初めて見た和風建築に興味津々でボロスは意味不明なことを呟いていた。
俺たちは騒がしいまま玄関を上がり宇迦之御魂神のいる部屋へと入って行った。この庵、外から見たら小さかったけど中は空間が歪められてかなり広かった。妖狐達を含めて10人居るのに窮屈に感じないのはそれが理由だ。
「遅いぞ。待ちくたびれてしまったではないか」
「……そこまで待たせてない。それよりも、それ何処で手に入れた?」
「む、これはやらぬぞ?妾のお気に入りなのじゃ。ちなみにこれは昔ドワーフが作っておったのを貰ったものじゃ」
そう、宇迦之御魂神はコタツに入っていた。それもかなり大きめの。コタツの上にはみかんのような柚のような果物が皿に乗せられており、冬に一般家庭でよく見る光景そのものだった。
「いつまでも立っておらんで主らも入ったらどうだ。この人数なら余裕で入るのじゃ。リラックスできるのじゃ」
「……それじゃあ入らせてもらうけど、何か変な効果とかないよな?」
「そう疑うでない。妾が何しようが主には通じぬであろう。それくらい妾が一番よく分かるわ」
確かにそうなんだけど、やっぱり不安だなぁ。魔力量は俺の方が多いけど所持スキルによっては危ないこともある。特に大罪とか美徳系があったらやばい。……ということで鑑定しようと思う。
「む、乙女の中身を勝手に視るでない。主は元男だと言うのだから尚更じゃ」
《『鑑定』の効果が妨害されました。成功した一部を表示します》
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種族:稲荷神
名前:宇迦之御魂
年齢:???
レベル:100
HP:???
MP:???
SP:???
スキル:???
称号:『農耕神』『穀霊神』『空狐』『九尾』
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本気では無かったが俺の鑑定を妨害した。それはつまり、宇迦之御魂神は俺と同程度かそれ以上に魔力操作能力が高いことを示していた。




