王都へ
部屋の中にはブラッドと顔色の悪い人が長椅子に座っていた。顔色の悪い人を見てみるとこちらを警戒しており、ブラッドの方はシェリーの胸を凝視していた。
……前言撤回、やっぱりブラッドには優しくしない。別に男が女の胸に興味を持つのは普通だと思う。前世の俺は興味無かったが、英樹でさえ多少意識していたのだからそれに文句を言っていたらキリがない。しかし初対面のやつに、それも知り合いの女性のを堂々と見るのは興味以前に礼儀がなってない。本人が気にしてないから強くは言えないのが悔やまれる。
「貴方達がブラッドの言っていたーー」
「……おい、それ以上シェリーのを見たら両目を一度潰すぞ」
我慢しようと思ったけどできなかった……。ブラッドの視線がどんどんと卑猥なものになっていくから見てるだけで気持ち悪くなってくるんだよ。
「止める、止めるから潰さないで欲しいなぁ。ん?何か言ったのかぁ、トード」
おっと、何か言おうとしていたのにぶった切ってしまったな。不機嫌にさせちゃったかな?……ブラッドがシェリーのを見てたせいで第一印象悪くなったかもな。
「いえ、何も。それでそちらの方々がお前の言っていた者ですか?聞いていたよりも人数が多いですが……」
「いや、俺もここまで多いとは聞いてなかったんだよなぁ。ええと、俺が知ってるのは2人だけだなぁ」
「……そうですか。失礼、名乗り遅れました。私の名はグリム・トードと申します」
俺がどうすれば良いのか分からず、ブラッドの方を見つめているとトードと呼ばれた人が名乗ってくれた。……というか、グリム・トードか、名前まで死神みたいだな。
「……俺の名前はニールと言います。貴族の作法に疎いので無礼があってもお許しください」
「いえ、私の口調は気にしないでください。貴方が合わせなくても構いませんよ。現にこちらのバk……ブラッドが敬語ではありませんし」
「そうだなぁ、いつもお前と話す時はこんな感じだなぁ。周りの奴らも誰も止めなかったし、別に大丈夫だろぉ?」
「ええ、今はね。昔はお前のせいで苦情が多数きて大変だったのですよ?」
……ブラッドは気付いてないけど今グリムさん馬鹿って言おうとしたんだろうな。こいつ戦闘とかなら天才なんだろうけど勉学の方はそこまでなのか。
「……それじゃあそうさせてもらう。おい、ブラッド。何でここに呼んだんだよ。……王都に行くだけなら街の出口で合流すれば良いだろ」
「いやぁ、俺もそうしようかと思ったんだけど、こいつに会わせた方が良いと思ったんだよなぁ。お前も会いたかっただろぉ?」
ブラッドにここに呼んだ理由を問いかけるとブラッドはグリムの方を向きながらドヤ顔で答えた。話を振られたグリムは一度ため息を吐き、話し始めた。
「はい、昨日ブラッドから貴方の話を聞き、一度話してみたいと思っていました。質問ばかりしてしまうかもしれませんが、よろしいですか?」
質問か……。別に大丈夫かな、答えたくなかったら無視すれば大丈夫だろ。もし無理矢理聞き出そうとしてきたら殺気か腕一本貰って再生させれば諦めてくれるかな?今の俺の神聖魔法なら部位欠損も治せるからそれで行こう。
「……答えれるものは答えます。明日には出発したいので早めに質問してくれると助かります」
「承知しました。では初めにーー」
グリムからは俺の出自やこの世界で行ったこと、人類への敵意の有無や種族など色々なことを聞かれた。答えている途中で新たな疑問が湧いたらしく、実際にはもっと多く質問されたが、大まかに分けたらこの4つだな。話していくうちにグリムから俺に対する警戒が消えたせいで質問に遠慮がなくなっていったからどんどんと質問が増えてしまった。
並列思考とブラッドなんかは俺とグリムとの会話に早々に飽きてコアとブラッドが部屋の中で殺し以外なら何でもありの模擬戦を始めてしまった。止めようかとも思ったけど、シルビアとルルが結界を張って周りに被害を出さなかったので止めなかった。皆楽しそうだったしな。
グリムからの質問攻め(というか、半分くらい愚痴)が終わったのは日が沈み始めた頃だった。質問を全て追えたグリムの顔は出会った時よりも顔色が良く、肌も心做しかツヤツヤしている。ちなみに、ブラッドは何度も体力を回復され並列思考全員と模擬戦をやらされていた。結果は全敗でシルビアとルルにすら近接戦で負けていて自信を失っていた。
「今日はありがとうございました。途中、質問から愚痴に変わってしまい申し訳ありません。感謝の証としてこれを受け取ってください」
そう言うとグリムはメイド服を着た使用人らしき人から弁護士バッジの様なものを受け取り俺に渡してきた。本物の弁護士バッジを見たことはないが、写真で見たものよりも二回り程大きい。
「……これは何に使うんだ?何かの紋章に見えるけど」
「それは私の家系の紋章です。もし王都で貴族との間に問題事が起こった場合、これを見せてください。そしたら余程のことがない限り解決すると思います」
「……分かった。問題が起きた時は有難く使わせてもらう。……ありがとう」
「いえ、貴方の助けになれば幸いです。それでは私はまだ書類仕事があるので戻らせてもらいます。王都まで気を付けてください」
俺はグリムに頷き落ち込んでるブラッドを引きずってこの街に入って来た時に通った砦へと向かった。少女が大人を引き摺ってる姿はかなり目立ち周りの視線を集めたが、ブラッドが落ち込んで立ってくれなかったので結局砦まで引き摺った。
「……早く立て。そもそも俺たちは基本的に技術は共有してるからコアとシルビアの体術は大して変わらないぞ」
「え、そうなのか?それだったらもっと早くに言って欲しかったなぁ。そしたらこんなに落ち込まなくて済んだのになぁ」
「……お前が早とちりしてただけだ。……やってる途中に気づかなかったのか?」
「一瞬だったからなぁ。確かに思い出したらコアと似てたかもなぁ。それにしても強かったなぁ。……俺とも技術を共有してくれよぉ」
「……それは出来ない。スキルを使ってるからな。……コアに頼めば教えて貰えるんじゃないか?」
俺がそう提案するとブラッドはばっ、と顔を上げ俺の方を見てきた。その顔は期待に満ちており、目が輝いているように見える。
「で、できるのかぁ?」
「……頼めば教えてくれそうだけどな。コアとシェリーは強いヤツと戦えるなら何でも良いみたいだし」
「俺はあんたらから見て強いのかぁ?今日だけで今までの自信が全部無くなったんだけどなぁ」
ブラッドはさっきまでの態度が嘘だったように元気になり、ちらちらと俺の方を見ながらそう言った。
それを俺に言われても困るんだが。そもそもコア達に模擬戦を挑んだのはブラッドだったよな?それなのにそれを理由に俺に頼み事をしようとしてるとかおかしいだろ。……まぁ、貸し一つでいいかな。
「……俺からも頼んでやるよ。……その代わり貸し一つだからな」
「それで頼むぞぉ。借りはちゃんとかえすからなぁ。……なんかどんどん借りが増えていきそうな気がするなぁ」
「……そうか。まぁ、返せるように頑張ってくれ。俺のは返しにくいからな?」
「が、頑張って返させてもらおうかなぁ。……優しくしてくれよ?俺はお前みたいにデタラメじゃないからなぁ?」
ブラッドが何か言ってたが、俺はそれを無視してコアの方へと歩いた。そろそろ日が沈んできて暗くなってきたから早く出発したいのだ。
「……なぁ、あいつに体術教えてくれないか?今度戦ってやるから」
「え、やだぞ。ニールと喧嘩できるのは楽しそうだけど、面倒くさいし姉貴で満足出来てるからな」
やっぱりそうなるよな。コアって基本的にお願い事は聞いてくれるけど身内以外が絡むと嫌がるんだよな。……俺との戦闘で駄目だったの意外と辛いな。俺に興味ないのか?
「……育てたらあいつも強くなると思う。そしたら今後楽しくなるかもしれないな?……頼まれてくれたら本気で戦ってやるぞ」
「え、本当か!?あいつに体術教えたらニールが本気で喧嘩してくれるんだな!?それだったらやってあげるぞ。ニールの全力楽しみだな〜」
本当は嫌だったが、ブラッドに貸しを作るために全力戦闘を約束してやるとコアは満面の笑みでブラッドの方へ走っていった。そのままブラッドの手を掴み【虚無空間】へと放り込むと自分も入った。数秒経つとボロボロなのに口が笑ってるブラッドが放り出された後、入った時と何も変わらないコアが出てきた。
……あ、虚無空間の中は時間が進まないことを利用したのか。王都への移動中にブラッドに修行してもらおうと思ってたんだけどな。……別に問題ないか。むしろこれが一番効率的なのかもな。
ボロボロになったブラッドを眺めながら考えているとコアが子供のようにこちらへ走ってきた。
「なぁなぁ、あいつに教えたから良いよな。早く喧嘩しようよ。ちゃんと約束通り本気でやってくれよ」
「……ここじゃあ危ないから王都に移動してる時な。……ちゃんと全力でやるからそんなに慌てるな」
俺は興奮してるコアを宥めてボロボロになってるブラッドを回復させ無理矢理立たせた後、ギルドカードを持って砦へと向かった。
……今が夕暮れで良かった。もし昼間だったら軽く騒ぎが起こってただろうな。……まぁ、人通りが0という訳ではないから注目は集めてるけどそれも数人だ。それぐらいなら許容範囲だろう。
砦に入ると来た時と同じように通行証を見せるか通行料を払うように言われた。俺がステータスを非表示にさせた冒険者カードを見せると受付の人は若干頬を引き攣らせた笑顔で通してくれた。少し疑問に思ったが無視し、砦を通過した。
「……それじゃあ、今から王都に向かう。もう暗くなってるけど移動するつもりだ。……ブラッドもそれで良いよな?」
「だ、大丈夫だと思うんだよなぁ。でも少し遅めに移動してくれるとたすーー」
「大丈夫だぞ。そんな甘い鍛え方はしてないぞ。だから遠慮せずに移動してくれていいぞ」
俺がブラッドに問いかけるとコアがブラッドの返事を遮って答えた。それを聞いたブラッドの顔は若干青ざめており、その姿は人類最強の剣士には到底見えない。
「……分かった。それじゃあ、歩いて行こう。コアとの約束もあるからな。……急ぐ理由も無いしな」
「そ、それで良いと思うよ」
「私はそれで構いません」
「約束守ってくらるなら良いぞ」
「約束って何の話をしてるんだい?」
「フッ、聖なる審判を実行し、其を許そうではないか」
「私もそれが一番正しいと思うね。君たちが走って移動したら後々大変な事になると思うよ」
俺が結論を出すと並列思考とラプラスが了承してくれた。シェリーが約束について興味を持ってたのが不安だが一旦頭の隅に置いといて王都への移動を始めた。……歩いて数日かかるらしいのでその間に問題が起こらないか不安だ。




