龍神
依頼を受けた俺たちはワイバーンが発生したと言う森に向かっていた。街を出て馬車で30分くらいかかると言われていたが、認識阻害を発動させて走ったら10分くらいで見えてきた。
ちなみに、森まで移動している途中、
「……実際のところワイバーンって人間で倒せるのか?」
「英雄なら単独で倒せるだろうね。冒険者は基本パーティーを組むからワイバーンを倒すことはそこまで難しくないみたいだよ」
「……そうか。俺とリードと同じドラゴンらしいから期待してたけどやっぱり弱いんだな」
「厳密に言うと君とは少し違うけどね。人間の住んでいるところのワイバーンはかなり退化しているから弱いんだよ。魔族が住んでるところなら今から会いにいくワイバーンの3倍くらいはあるんじゃないのかな?」
「……いつか見てみたいな」
という会話があった。ちなみにパーティーというのは冒険者達が協力して戦う為に作る仲間のことだ。作る条件は特にない。しかし、ギルドにしっかりと登録していないと依頼の報酬などを山分け出来ないことになっている。俺とラプラスは来る前に登録しておいた。
今回ラプラスの説明を聞いて、案外元の世界にあったラノベや漫画の知識って合ってるのかもしれないと本気で思った。ラプラスから地上について色々教えてもらっていたら普通に森に着いた。もう隠す必要も無いので、認識阻害も解除して探知を発動させた。現在の俺の索敵範囲はかなり広く約半径十数kmくらいまで索敵できる。
「……いた。ここから右斜め前4km先にいる。……ん?何だこれ。……正面から物凄い速度で人型の何かが接近してきてる」
「へぇ、君でも分からないものか。楽しみだけどちょっとだけ不安でもあるかな。得体の知れないのって変なのが多いからね」
「……そうなのか。それじゃあ警戒しておこうかな」
俺は『創造』で火尖槍を創り出し、近づいてくる気配に向かって身構えていつでも戦闘出来るようにした。気配はどんどんと速度を上げ、ダンジョンの下層にいる魔物でも出せない速度まで加速した。気配は俺たちの10mくらい前で一度立ち止まったかと思うと、そこから歩いて近づいてきた。
気配が森から出てきてその姿が顕になった。日本人とは違い少し灰色がかった黒髪、海を想像させるような青い瞳、服の上からでも分かるそのがっしりとした筋肉、そしてその身からは俺と同じ神性が含まれた魔力が放たれていた。
「あ〜?俺様と同じ気配がして来てみたら仮面を被ったマブい女とガキかよ。……あ?よく見たら同類か。しかも俺様よりも強いんじゃねぇか、おい」
「本当に君といると面白いことばかり起こるね。……でも流石にこれは笑えないかな」
……何だこいつ。絶対人間の街の近くの森にいたら駄目な奴だろ。だって自然に放ってる魔力だけで人間が死ぬレベルだぞ。ここにいるのは俺のせいっぽいけどそれはひとまず置いておこう。
神性を放ってるということは神霊か神話に登場している生物だな。俺と同類って言ってたから間違ってないだろ。……それを踏まえて鑑定していくか。
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種族:バハムート
名前:ルティヤ
年齢:302
レベル:100
HP:54000/54000
MP:56000/56000
SP:52000/52000
スキル:『鑑定LvMAX』『探知LvMAX』『神速再生LvMAX』『思考超加速LvMAX』『念話LvMAX』『千里眼LvMAX』『神腕LvMAX』『魔力操作LvMAX』『身体強化魔法LvMAX』『森羅万象LvMAX』『闇魔法LvMAX』『即死魔法LvMAX』『死霊魔法LvMAX』『空間魔法LvMAX』『未来予測LvMAX』『人化LvMAX』『飛行LvMAX』『龍鱗鎧LvMAX』『分身LvMAX』『忍耐LvMAX』
称号:『龍神』『世界を支える者』『虐殺者』『不老不死』『叡智』『賢者』
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『龍鱗鎧』
魔力を消費してドラゴンの鱗で出来た鎧を喚び出す。レベルによって鎧の強度が異なる。
『龍神』
ドラゴンの頂点。格下のドラゴンを支配することができる。自分よりも強い者や同格の者には不可能。
『世界を支える者』
世界の均衡を保つ者。条件が満たされた時、世界神の力を一部使用できる。
一部を除いたら普通だな。……その一部のせいで異常なんだけどな!なんなんだよ龍神って。ドラゴンの頂点?何でそんなのがこんな所にいるんだよ。もう一度言おう、何でそんなのがこんな所にいるんだよ!
……百歩譲ってそれは認めよう。でも世界を支える者って何!?条件が必要とは言え、世界神の力を行使できるとか世界神の何だよ。眷属の俺ですら世界神の力を見たことが無いのに、それを使えるとかおかしい。なのに素は俺よりも弱いとか歪だろ。……もちろん『龍鱗鎧』はコピーするけどな。
《スキル『複製』の能力により、『龍鱗鎧』を獲得しました。スキル『龍鱗』が『龍鱗鎧』に統合されます》
《熟練度が一定に達しました。スキル『龍鱗鎧』のレベルが上がります》
「鑑定持ちかよ、面倒くせぇな。じゃ、そっちが鑑定したんだし俺もするか。妨害すんじゃねぇぞ」
ルティヤはそう言うと『鑑定』を発動させた。瞬間体の内側を見られるような不快感が発生したが、ルティヤが言うように俺も同じことをやったので抵抗しなかった。数秒待つと不快感は無くなったが、ルティヤから今まで会ったどんな奴よりも強力な威圧を受けた。
「……ッ!」
いきなり威圧してくるとか俺が何かしたのかよ。とりあえず魔力で威圧を防いでおくか。『忍耐』のお陰で慣れてきたけど防いでおくに越したことはないだろ。……別に怖い訳ではない。
「何ビビってんだガキ。何で俺よりも強え奴が俺にビビってんだよ、おい。世界神の野郎の眷属の癖にこれぐらいの威圧でビビるとかおかしいだろ、おい」
しばらく身構えたまま見つめているとルティヤが威圧を強めながら話しかけてきた。俺は警戒を強めながら一つ質問してみた。
「……別にビビってない。そんなことよりも、お前はなんなんだ?」
「あ?それは俺が聞きてえよ、おい。世界神の眷属ならさっさと魔王やら邪神やらを倒しにいけよ、おい」
俺が問いかけるとルティヤは威圧を殺気に変え、何も言い返すことが出来ない疑問を投げかけてきた。
「……どうするんだい?彼の言っていることは正論だし、君の疑問も間違っていない。でも言い争いでは君の方が分が悪いだろうね」
ルティヤの質問への返答に悩んでいるとラプラスが小声で話しかけてきた。ちなみに俺は身構えているけどラプラスは多少緊張しているが大体いつも通りだ。
「……とりあえず会話を続ける。戦闘になっても勝てると思うけど、なるべく穏便に済ませたい。……多分悪いやつじゃないしな」
「分かったよ。もちろん戦闘になった場合、私は君と一緒に戦うつもりだよ。……まぁ、役に立つかは怪しいけどね」
……そうだよな。この数年でラプラスのステータスも上がったけど流石に数万も上がったりはしていない。眷属達も上がりはしたけどルティヤには届いてないんだよな。……威圧が殺気に変わってるけどまだ会話を続けられそうだし頑張るか。俺とアイツが争ったらこの辺どうなるか分からないし。
「何ボソボソ喋ってんだよ、おい。それとも今すぐ闘るか?それなら楽だし俺も歓迎だぞ、おい」
「……いや、良い。俺たちが戦ったら周囲の被害がやばいと思う。……俺もこれをしまうからお前も殺気を抑えてくれ」
俺は火尖槍を魔力に戻して敵意が無いことをルティヤに示した。ルティヤはしばらく俺の事を見ていたが、俺に戦意が無いことを確認したのか殺気を霧散してくれた。
「はっ、そんだけ力を持ってるのに驕ってねえのかよ、おい。心配してた俺が馬鹿みてえじゃねえか、おい」
「……分かってくれて何よりだ。もう一回聞くんだがお前世界神の何だよ」
「あ?俺のステータス見たんじゃねえのかよ、おい。……簡単に言ったら俺は裁定者だな、おい。だから世界神の力を行使できるんだよ」
……裁定者か。恐らく少し意味合いが違うんだろうな。善悪を決めて裁くんだったら邪神問題とか勝手に解決してるだろ。……多分だけどこの世界のバランスを乱す奴を消す役割じゃないか?邪神はまだ表立った悪事とかは働いてないみたいだし。
「次は俺の質問だよ、おい。何でお前が世界神の眷属なんだよ、おい」
「……俺は元勇者なんだがその時にアイツから特殊なスキルを貰うんだよ。……それをすると何か擬似的な眷属みたいな繋がりが出来るらしいんだが、アイツが俺を魔物に転生させたせいで正式な眷属になった。……だから詳しくは世界神に聞け」
大体こんな感じだろ。まぁ、俺が意図して眷属になった訳ではないことは伝わったと思う。……これで伝わらなければちょっともう俺の説明だと無理だ。
「……じゃあ世界神の野郎が悪ぃんだな。アイツが勝手にドジったんだな?おい」
俺の説明を聞いていたルティヤはどこか呆れた風に確かめてきた。苦労人のような雰囲気に変わり、どこか哀れみを感じるのは何故だろうか。
「……そう思ってくれて大丈夫だ」
「またアイツのせいかよ、おい。今までは許容してきたが今回は許せねぇぞ、おい。眷属にしたら新しい神を作り出すということを理解してるのかよ、おい」
ルティヤの問に再度肯定するとルティヤはここにはいない誰かに文句を言うようにそう言った。
「……ということで俺達に聞くことはもうないよな?」
「待てよ、おい」
俺はそろそろ移動しようとするとルティヤが止めてきた。
「まだあるぞ、おい。これはマジな質問だから嘘なしで答えろよ、おい。その影の中にいる二体は邪神の眷属だよな?おい」
「……そうだが、今はちがーーッ!」
俺が答え終わる前にルティヤが一瞬で俺の懐まで潜り込んできて殴ってきた。油断していた俺はそれをモロに喰らい右腕は消し飛ばされ、後方へと吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされた俺はいきなり殴られたことに混乱しつつも消し飛んだ右腕を再生させ、身体強化と思考加速、未来予測を発動させ追撃に備えたが予想していた追撃は来ず、ルティヤは前方から悠々と歩いてきた。
「……何で急に攻撃してきた」
「あ?お前が邪神の眷属を匿ってたからに決まってるだろ、おい。それ以外に何があんだよ、おい」
ルティヤからは出会った時の牽制とは違い、絶対に殺すという殺意が乗せられた殺気が放たれ、その表情は憎悪に満ちていた。




