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冒険者

 並列存在たちと別れた俺とラプラスはこの街唯一の冒険者ギルドの前に立っていた。ギルド前には女冒険者と思われる人達がいくつかの集団になって話し合っている。そこで仮面を被って立っている俺とラプラスはかなり異様だ。認識阻害のお陰で気づかれていないのを確認し、改めて魔法の異常さを知った。


「……ヴェノム、出てきてくれ」


『……良いのか?街中に魔物が出てくるとかかなり問題だと思うんだが……』


 俺が影に向かって話しかけると、少しの間の後ヴェノムの声が返ってきた。しかし、ヴェノムは影の中に入ったままで何故俺が出てくるように命じたのか気になるようだ。


「……大丈夫だ。冒険者にはテイマーという職業があるからな。役割は大体ゲームとか漫画と同じだ」


『へぇ、そんなのまであるんだな……。あれ、じゃあ、人化を使えなくても外に出ることができるのか』


「……分かったらさっさと出てこい」


 中々出てこないヴェノムに少しイラつき、今度は主として命じた。すると直ぐに影からヴェノムが飛び出してきて俺の腕の中へと収まった。


「……お前をこうやって抱えるのも久しぶりだな」


『そうだな、ダンジョンの中では気にしなかったけど、改めて自分の状態を見てみると恥ずかしいんだが……』


『ヴェノムよ、我らは外にすら出ていないのだぞ?』


『本当だよっ。おい、てめぇ。何で人化出来ないヴェノムは出して俺らは出さねぇんだよ』


 ヴェノムが俺に抱えられていることに対して不満そうに呟くと、影からフェンリルとリードがそれぞれ文句を言ってきた。


「……別に出しても構わないけど何をするんだよ」


『そ、それはあれだよ。適当にそこら辺を散歩でもすんだよ』


 試しに外に出すよう文句を言ってきたリードに外に出て何をするのか聞いてみるとどうでもいい答えが返ってきた。


「……じゃあ別に大丈夫だな。影の中でも出来るんだろ?」


『一面真っ暗なとこでひたすら歩き続けても楽しくねぇよ!てか、てめぇだけ外に出てずりぃぞ』


「……また今度な」


『おい、今言質取ったかんな?て、聞いてんのかよ、おいっ』


 俺はしつこいリードを無視して冒険者ギルドの中へと入っていた。正直言ってあまり長い時間留まっていたくない空間だった。まず、右手側には小さな酒場があり酒の匂いがそこら中に充満しており、まだ昼間なのに顔を赤くするまで飲み叫び暴れている男たちがいる。左手側では何かの書類を奪いとり、殴り合いにまで発展している武装した男たち。正面にはこの空間でたった一つの癒しと思われる美人(時々イケメン)の受付係が並んでいた。


「……ここっていつもこんなもんなのか?もしそうなら外で女冒険者が待ってたのがわかる気がする」


「少なくとも私が来ていた時はいつもこうだね」


『想像よりもかなり荒れてるな……』


 その惨状を見た俺たちは三者三様の反応をし、しばらく何も言葉が出てこないままその場で立ち尽くしていた。


「邪魔だチビ。何でこんな所で突っ立てるんだよ」


 しばらく動かずに立っていると後ろから声をかけられて背中を押された。振り向いてみると数人の男たちがおり、俺が邪魔で立ち止まっていた。


「……ん?」


「ったく、入口で立ち止まるとか常識がねぇのか?どうせ田舎から来たばっかで、ランクも黒とかなんだろ。……あ?抱えてんのスライムかよ。溶かす以外に何も攻撃出来ねえは雑魚なのに燃やさねえと死なねえんだよな。雑魚のクセに先輩に対する礼儀がなってねぇんだよ」


 ……なんだこいつ。少し通路の邪魔になっただけなのにそれは言い過ぎだろ。というか、まだ冒険者として登録してないから先輩じゃないし。


『なぁ、こいつら食っていいか?俺ならバレないぞ?』


『……まだ食うな。いや、まだじゃなかった、絶対に食うな。……これは振りじゃない』


 おっと、後ろから来た冒険者の態度に頭に血が上って危うくヴェノムの問いに許可を出しそうになってしまったな、一旦落ち着け。……こういうのは先に手をだしたら駄目だからな。わざわざ自分から問題を起こす必要はない。


「はっ、怖くて何も言えないのか雑魚が。目の前でそのスライムを焼いてやろうか?」


「おい、やめてやれよ可哀想だろ」


 俺にぶつかってきたやつが好き勝手言っているとそいつの仲間と思われる金髪で肩まで髪を伸ばしているチャラそうな男が見た目とは違い真面目な顔で男の言葉を止めた……かと思うと途端に口元を歪めて一瞬で下衆の顔に変え、俺の方を見て


「だってこんなに小さいんだ。もっと可愛かってあげなくちゃ可哀想だろ?ほら、冒険者のことについて教えてあげるからちょっと路地裏まで着いてきてよ」


 と、下心丸出しの小さな女の子に言ってはいけないようなことを言い出した。周りの冒険者達の喧騒もいつの間にかおさまっており、「あいつに目をつけられるなんて可哀想に……」や「あんな小さい子まで狙うとかあいつマジで変態だよな」とか聞こえる。


 ……この世界の人間の男は変態しかいないのか?これが普通なのかとも思ったけど、女の人達は少し逞しいけど言動は普通だし、男がおかしいんだろ。……ん?なんかヴェノムから殺意が出てきてるな。ちゃんと隠しててパッと見分からないけどこいつ滅茶苦茶冒険者のことを殺そうとしてるな。……ヴェノムに対してはそこまで煽ってないし何でそんなに怒ってるんだ?


 俺は冒険者に対してどう接すれば良いのか分からず、ヴェノムのことも聞きたいため後ろにいるラプラスの方へ顔を振り向けた。ラプラスも俺の方を見ており気のせいかもしれないが少し楽しそうな雰囲気を出している。俺はラフの雰囲気が気になりながらも思考加速を発動させてヴェノムとラプラスに念話で話しかけた。


『……なぁ、こいつらどうすればいい?』


『俺が食う』


『それは駄目だとさっき言っただろ。……ラプラスはこういう経験はないのか?』


『私の時はわざと路地裏に連れてかれてその場で殺したよ。もちろん血痕は残していないし死体も燃やして証拠は何一つ残していないからね』


 俺がヴェノムの意見を却下した後ラプラスの意見を求めると冷静なラプラスから出てくるとは思えない過激意見が出てきた。


『……おい、いつも問題起こすなと言ってるのにお前もかなり問題起こしてるじゃねぇか』


『私は何も証拠を残さなかったから大丈夫だよ。最初は不審がられたけど最終的には夜逃げしたことになったから問題にはなってないね』


『……そうか。でも俺はもうちょっと穏便に済ませたい』


『それじゃあ、色欲で魅了するのはどうだい?人間に効くのか私も知りたいし。君もいつかは実験するんだろう?』


『……そうだな。この場が解決すれば解除すれば良いか。……その意見を実行しよう。ヴェノム、分解しちゃ駄目だけどこいつらの魔力を食うのは良いぞ』


『分かった、こいつらの魔力全部食べ付くしてやるよ』


 冒険者達の処遇をヴェノムとラプラスと話し合って決めた俺は念話を切断し、思考加速も解除した。


「……分かりました。それじゃあ、行きましょうか」


「お、物分りがいいじゃん。俺そういう娘好きだよ」


 俺は冒険者の後をついていき、冒険者ギルドを出てかなり歩いてスラム街に近い人気のない路地裏に入った。ラプラスは着いてこようとしていたけれど男たちが何故か拒否した。はっきり言って俺よりもラプラスの方が魅力的な体をしていると思うんだけど俺とヴェノムだけが連れてこられた。


「お前も物好きだよな。あっちの一つ目の仮面を付けた奴の方がいい体つきをしてたじゃねぇかよ」


「ん?あぁ、確かにそうだけどたまにはこういうガキともやってみたくなってさ。おい、流石にその歳でも俺たちがお前で何したいか分かるよな?」


 俺は怯えている女の子のように俯いたままこくりと頷き認識阻害の仮面を外して顔を上げた。


「お、可愛いじゃん。俺には何でそんな仮面で顔を隠してたのか分からないくらい可愛いね。……あれ?何で俺仮面のことを不思議に思わなかったんだ?」


「……そんなことはどうでもいい。で?俺をどうするんだ?」


「あれ、意外と乗り気だねぇ。それじゃあ初めていこうか。さ、君も準備をして俺とやろうよ」


 そう言うと男は下卑た顔でズボンのベルトをカチャカチャと音を鳴らして弄り始めた。


「……じゃ、俺は外で見張ってるわ。程々にな」


「分かってるって。というか、お前が参加しないなんて珍しいな」


「いや、今日は気乗りしなくてな。また今度にするわ」


 そう言って俺にぶつかってきた方は離れていった。俺はチャライ男の足元にヴェノムを置いて少し離れた。


「……やめだ。最初は魅了状態にするだけのつもりだったけどやっぱりお前は駄目だ。あっちも屑だったけど記憶を見た感じ一応罪悪感は持ってたし、いつもお前に誘われていたからな。……だけどお前は駄目だ。死んだ方がマシと思うくらいに辛い思いをさせてやるよ」


「何を言ってるんだ?さっさと服を脱いで始めようぜ」


 俺はチャラ男がギリギリ意識を失わない程度の殺意をのせて笑った。何も知らない奴が見ればきっと顔満面に喜色を堪えているように見えるだろう。しかし、今のこいつには恐怖以外は感じる事が出来ないようになっている。


「……今まで何人の娘をそうやってしてきた?その後そいつらに何をした?何故そんなことができる?」


 俺は恐怖を与えるようにゆっくりと近づいていった。俺が近づくとチャラ男は逆に後ろに下がり俺から距離を取ろうとする。


「ひっ、や、やめっ。な、何なんだよお前ぇ。く、来るなぁ。謝る、謝るからぁ」


「……駄目だ。そもそも謝る相手が違う。まずはお前の四肢を少しずつ溶かしていく。もちろん意識は失わないようにな。……やれ」


『分かった。……本当にそれでいいんだな?』


「……良い、許可する。スキルは使うな」


『了解』


 俺が命令するとヴェノムはチャラ男の右腕を覆うとスライム系統の魔物が元々持っている体質の一つである溶解液を出して男の腕を溶かした。


「あ゛あああぁぁぁっ。痛えっ、や、やめてくれ。これからはもうしない。心を入れ替えるから許してくれ」


 ……こいつは本当に馬鹿なのか?さっき謝るべきなのはおれじゃないと言っただろ……。そもそも、俺が止める気がないのはこの殺気で分からないのかなぁ。……はぁ、もうこいつについては考えるのをやめよう。さっさと始めるか。




 その日、この街から一つの命が消えた。そして俺は新たな称号を手に入れ、久しぶりに『並列思考』のスキルのレベルが上がった。そして現在、チャラ男を処理した俺はギルドの前まで戻って来ていた。時間が経ち夕方になっていたが、俺はそのまま初めてここに来たように仮面を付け、ヴェノムを抱えて中へ入っていった。


「……あいつはどうなりましたか?」


 中へ入ると、昼間の喧騒が嘘のように静かで、辺りを見渡すとラプラスと同じ席に座っていた最初俺にぶつかってきた男がこちらに来て話しかけてきた。そう、俺は路地裏に連れていく途中にこいつに『色欲』の能力を試していたのだ。無事に成功し、権能の一つである魅了した者の記憶の閲覧を行っていたところチャラ男の今まで行ってきたことを見た。だから俺はあいつを殺した。


「……始末した。お前のパートナーを奪ってしまったな。……だけど俺は謝る気はない、お前だってあいつと同じように数々の命を侮辱してきたんだからな」


「恥ずかしい限りです。それで、俺はこれからどうなるんですか?」


 周りから声が聞こえてくる。どうやら、この数時間で口調ががらりと変わったことに驚いているようだ。そして敬語を使われている俺は周りからかなり奇妙な存在に見えるらしい。


「……とりあえず、新しくお前のパートナーを用意するからまた明日来い」


「……分かりました」


 その日はラプラスを連れて並列思考たちと別れた広場へと戻って合流し、今日泊まる予定の宿へと向かった。途中でみんなで今日の出来事について話し合いながら歩くとあっという間に宿に着いてしまった。


「……それじゃあ、明日も俺の都合で自由行動にしようと思う。俺らは寝る必要がないけどこの街で夜出歩いたら多分何かしら問題が起こると思うから今日はここで一晩すごしてくれ」


 俺はそう言って並列思考達に宿の中のみの自由行動を許可して久しぶりに寝た。本来寝る必要が無い体だが、今日起きたことの精神的疲労からすぐに寝ることができた。

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