弓術
魔法の名前を【】で囲ってみました。
区切りやすかったため少し少ないです。
「それでは弓の修行を始めていきましょうか」
そう言うとケイローンは背中から和弓に似たロングボウを取り出し、その場でまるでお手本のように綺麗な構えで弓を放った。
日本にいた時に嗜み程度に弓道をやっていて、ある程度の知識があるがここまで綺麗な構えは見たことがない。人間は弓を引く時に肩を後ろに逃がしてしまうことが多いがケイローンは流れるような動作で矢を放った。
「最低でもこれくらいに自然にできるようになってもらいます。威力は弓によって多少変わってしまうので、その弓で木を貫通できるくらいになってもらいます」
コレで木を貫通させるのかよ……。現実では無理だろうけど、この世界では出来ちゃいそうだな。
「……木を貫通ですか。矢はなんでもいいんですか?」
「そうですね、修行中は鉄製の鏃までにしてください。あまり矢の性能に頼っていると修行になりませんから」
「分かりました」
俺は鉄製の鏃で出来ている矢を20作った。ガーンデーヴァの時のような制御ミスもせずにピッタリ20、作ることができた。
「それでは構えてみてください。直すべきところは私が指摘していきますので力を抜いて弦を引いてください」
う〜ん、普通に和弓の利き方でもいいかな?形が独特な和弓だけど、大した差はないだろうし大丈夫だろ。
俺は日本にいた頃にやっていた方法で弦を引いた。ケイローンと違い、本当に嗜み程度しかやっていなかったので、不格好な構えになってしまった。
「……?もしかして弓を使ったことがありますか?」
「は、はい。あります」
「そうですか……。それではそのまま撃ってください。」
「……分かりました」
俺は弦を離し矢を放った。人間だった頃よりも力が上がったために矢のスピードは上がったが、技術は変わっていないので速いだけの矢が放たれた。
あれ、心無しか上手になってないか?……まぁ、気のせいだろ。かなり放置してるし練習もしてないのに上手くなってるわけがないしな。
「……あなたの弓の撃ち方は分かりました。それを考慮して修行していきましょうか」
「ありがとうございます!」
よかった。あの構えで失望される可能性も考えてしまっていたから、不安だったけど杞憂だったな。教えられたことは素直に受け止めて早く木を貫通できるようにならないとな。
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ケイローンと弓の修行を始めて1ヶ月経った。ケイローンは教えるのが上手く的確に直すべきところを教えてくれて、どんどんと構えが綺麗になっていった。
既に渡された弓で矢を放ち、木を貫通させることには成功していた。
次の修行に移るときにケイローンから新しい弓を渡された。性能はそのままで、耐久性を高めた弓で、ケイローンが作ってくれたらしい。
現在は身体強化を最大にした状態で高速異動しながら動くゾンビに当てるという修行をやっている。最初はこの修行をやることをあまりよく思っておらず撃つことを躊躇っていたが、最近では慣れて普通に撃っている。
たまに素早い個体がいるが、現在ではなんの問題もなく対処(矢で頭を吹き飛ばすことが)できるようになった。
「素晴らしい成長速度です。止まった状態で高威力の矢を撃てるようになっても、移動し始めると途端に威力が落ちてしまう者が多いのですが貴方は直ぐに慣れてしまいました。それでは次は矢に属性を纏わせれるようにしましょう」
そう言うとケイローンは弓を構えて矢を撃った。いつもは普通に矢が飛んでいくだけだが、今回は矢の周囲に緑色の風があった。ゾンビに直撃すると矢は貫通したが、風はゾンビに纏わりつき、ゾンビの体をバラバラに切り刻んだ。
「このように矢に魔法を付与し、追加効果を発生させることができます。これは本来魔法で矢を作る時に使う技法なのですが、本来の矢と同時に放つことでリフレクションなどを無効化することができるのです」
なるほど。魔法や物理だけだと反射されてしまうが、両方あればそれも対応できるのか。だけど、どうやって矢に魔法を付与できるんだ?
「先ずは魔法のみで矢を作ってください。矢への付与はその後です」
1回でやるのではなく、別々にやるのか。持ってない属性があるけど、付与する属性は決まっているのか?
「分かりました。属性はなんですか?」
「……なんでもいいです。最初は最も得意な属性で矢を作ってください。」
ふむ、なんでもいいのか。とりあえず雷属性でやっていこうかな。始めて修行したのも雷属性だし、種族的にも雷属性が得意だからな。……【サンターアロー】を基にしてみるか。最終的には矢に付与することが目的だからその事も考えて魔法陣を構築していかないとな。
俺は魔法陣の構成を変えて、安定性を高めた雷の矢を作り出した。威力は少なく、安定性が高いためいつもよりも放電が弱かった。
「雷属性ですか。そういえば、あなたの種族の得意な属性が雷属性でしたね。矢への付与をする時にも火属性と比べれば比較的に簡単な属性なので練習としてはいいと思います」
まさか褒めてもらえるとは……。単純に関わることが多い属性だから、という理由で選んだのに褒められるとちょっと恥ずかしいな。
これを励みに頑張っていくか。成功させれば新たな遠距離攻撃方法を獲得できるし頑張っていかないとな。……本当はコピーしたかったけどな。
俺は雷の矢をゾンビへと撃った。それを何度も繰り返していき、構築速度を速め矢としての性能も上げていった。
次第に貫通力と魔法自体の副次効果も高くなり、属性を変えても差がないほどになった。
「それでは実際の矢に付与していきましょう。まずは矢を構えてください、重ねて魔法の矢を発動すれば付与できます」
俺はケイローンに言われた通りに矢に重ねて魔法の矢を発動させた。しかし、発動と同時に魔法が乱れてしまった。
……難しいな。矢を破壊しないように威力を下げたけど、そちら側に意識が向きすぎて制御が甘かったかな?……今度は並列演算も使ってみるか。
俺は並列演算を発動させて本気で魔法を制御した。無事に矢に付与することができ、付与した矢を撃つことにも成功した。
「……それでは力を込めすぎです。もっと力を抜き、先程の修行をそのまま繰り返すだけです。」
……確かに1回撃つのにこんなに集中していたら神経がすり減るな。反復練習をしてもっと簡単にできるようにしていくか。
その後は何度も矢への付与を繰り返した。時々ケイローンからアドバイスを貰い、修正していき並列演算を使用せずに制御できるようになっていった。
1度魔力を回復させるために休憩を挟んだ。その間にも魔法陣の構成を見直していき、魔法の矢の精度を高めることを考えていた。
休憩を終了させた後は修行を再開させ、ひたすら矢に魔法を付与していた。
結果、弓を自然な動作で構え矢に魔法を付与することができるようになった。威力も上げ、ゾンビに直撃させずに近くを射抜くだけでその付近のゾンビが消し飛ぶ程には上げることに成功した。
1度自分の【魔法反射】と【物理反射】に撃ってみたが、反射されることなく貫けた。最初は反射されて痛かったが、そのお陰で超速再生のスキルも上がった。
「……もう教えることはありません。これからはあなた自身で技を磨き、成長していってください。それを続けていけばいずれ私よりも強くなるでしょう」
もう終わりなのか。確かに量は少なかったかど、3人の中で1番難しかったな。この修行を経て新しい魔法のアイデアも浮かんだので質も良かった。
それに自分の手の内を会って少しの俺に教えてくれただけでも充分だろう。欲を言えばもっと技術を教えて欲しいのだが、それは強欲だろう。
「……分かりました。それでは弓の修行をしてくださり、ありがとうございます」
「はい……。それであなたには渡すべきものがあるのです」
ケイローンはそう言って神聖な魔力のこもった木製の弓を取り出した。
「……これから矢を放つ時にはこの弓を使ってください。そのガーンデーヴァは威力が異常な程に高いです。本来この弓はある人間の弓なのですが、あなたに預けます。この弓はフェイルノートと言い、必中の能力があります。あなたの能力ならば並大抵の鎧は貫けるでしょうし、今後威力が足りない時以外にはガーンデーヴァを使わずにこのフェイルノートを使ってください」
「分かりました。有難く受け取らせてもらいます」
……この弓そんなにやばいのかよ。確かに鑑定結果では全てを破壊するとか出てたし、創造するのに大量の魔力を消費したけど、弦を発生させるのにそこまで魔力が必要ないし心配しすぎじゃないか?
まぁ、でも使ってから威力に気づいて後悔するよりはちゃんと忠告を受け入れて素直にフェイルノートを使うか……。
俺はケイローンからフェイルノートを受け取り、ガーンデーヴァは魔力に戻した。フェイルノートは物質創造で作っていないので、弦の間に体を通し背中に固定した。
その後はケイローンに軽く今後の行動を話してから改めてお礼を言って別れた。ケイローンは一旦下層に用事があるのと、この階層にいてもその神聖な気配にアンデットが群がるのを嫌い下層に降りていった。
俺はヴェノムを影からだし、抱えて死霊魔法を練習するために念話でフェンリルと話していた。
「なぁ、死霊魔法を練習したいんだけどどうすればいいかな?」
『……主殿の修行前に言った通り死霊魔法には死体などの触媒が必要となる。触媒がない時には最終手段としてゴーストなどの霊体にする方法があるが我はあまり勧めない』
う〜ん、やっぱり死体が必要だよなぁ。それもあまり魂に影響を受けさせたくないから状態が良くて新鮮なやつが良いな。
でもそんなゾンビはいないし、人型の魔物なんて今まで見たことないから必然的に冒険者になってくるんだよなぁ。でもケイローンとの修行期間の間に、それらしい姿も気配もなかったから待つなんて論外だろ。……どうしようかな。
俺がフェンリルが言っていた事について考えていると勝手に思考加速のスキルが最大に発動されて周りの動きが止まったかと錯覚する程遅くなった。
『やぁ、ニールちゃん久しぶり。クラスメイトのために人を殺すことまで考えているなんて優しいじゃないか。そんな君に僕からとっても役に立つアドバイスをしてあげるよ』
いつも通りに世界神が遠慮の欠片もなく話しかけてきた。




