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狼王

 俺は繋がり越しに送られてくる魔力を辿り、ヴェノムの元へと向かっていた。辿って行くうちに下の階層まで魔力は続いていた。


 あいつ、なんで降りてるんだよ。後で聞いておかないとな。これでくだらない理由だったらどうしようかな?

 というかこの階層、雰囲気が良くないな。なんと言うかこう、他人の家の中に入ってる感じ?それともあまりいい感情を持っていない上司と一緒の空間にいる感じかな?……嫌な予感がするし、常に警戒して探していくか。


 俺は気配感知と魔力感知を最大にしながら魔力を辿っていった。直ぐにヴェノムの気配が引っかかったが、そのすぐ傍に大きな気配と魔力も感知した。


 なんだこの魔力?今まで会った魔物の中で一番大きいし禍々しいな。こんなのの傍にいたら危ないだろ。なんでヴェノムはこんなのの傍にいるんだよ。

 ……急ぐか。異常なほどヴェノムの気配が小さいし、何かあったのかもしれない。


 俺は身体強化魔法を発動させ、なるべく速く近づいた。そこにはかなり小さくなりボロボロのヴェノムと、全長3メートルくらいある銀色の狼がいた。


 ……何だこいつ。遠くからは大きいぐらいにしか感じなかったが、近づいたらよく分かるな。今の俺では勝てないと本能が警鐘を鳴らしまくってるな。

 とりあえずヴェノムの安全を確認しておくか。繋がりがあるので生きてることは確実だが、確認しておかないと不安だ。


「おい、ヴェノム大丈夫か?」


 俺は狼型の魔物に注意しながらヴェノムへと近づいた。


『む?スライムの次はドラゴンか。しかも、人化の術を使っているではないか。生まれたてか?』


 念話も使えるのかよ。流暢に話しているし、相当な知力があるな。かなりの上位種か年齢だと思う。

 だが、知力があるということは話し合いができるということだ。俺らが敵ではないことを伝えて速やかにここから離脱しないとな。


『そいつは敵じゃない。むしろ、俺のことを助けてくれたんだ。かなり気配は禍々しいが、性格は良い奴だ。』


『そ、そうか。とりあえず無事で何よりだ。それで一旦何があったんだ?』


『そ、そうだよ。お前が修行している時に、助けてっていう思念が聞こえたんだ。それで助けようと下の階層に行ったら魔物が居たんだ。助けようと近づくと急に動き出して襲ってきたんだよ。それで不意を付かれてそのまま戦闘になり、苦戦していたらそこの狼が助けてくれてな。さっき聞いたんだけれど俺は魔物に騙されたんだって。』


『そうか。それでその魔物は?』


 周囲には俺とヴェノムと狼型の魔物しかいない。気配感知にも俺らしかなく、ヴェノムを襲ったという魔物はいない。


『食った。』


「へ?」


『だから、食った。そこの狼……フェンリルが一撃で殺したから、新しいスキルの効果を確かめたくて食った。』


『そ、そうか。分かった。その事については後で話そう。』


 思わず普通に声に出してしまったな。聞かれないために念話で受け答えしていたのに、これでは話していることがモロバレだ。

 というか、新しいスキルとか言ってたな。コピーできそうだし、後で鑑定しておくか。


『……うむ。話は終わったようだな。それではこちらの話だ。貴様らは何者だ?何故スライムとドラゴンが一緒にいるのだ?』


 あれ、意外と理性的?見た目と気配でもっと凶暴なのかと思ってたけれど、質問の内容も普通だな。

 ヴェノムがさらっとフェンリルとか言ってたし、こちらも質問したいことがある。会話を続けていくか。


「俺らは主従の関係だ。それで、お前はなんなんだ?ヴェ……スライムを助けてくれたことには感謝しているがまだ信用はしていないからな。」


『む?そこのスライムから聞いていないのか。我はフェンリルだ、名前はない。』


 くそ、聞き間違いではなかったか。フェンリルと言えばオーディンを食い、ラグナロク戦争では暴れ回った怪物だ。そんなのに勝てるわけがない。


「そ、そうか。それではフェンリル。俺たちはこれでここを離れる。こいつを助けてくれたことには感謝しているが、こちらも用があるので失礼する。」


『まぁ、待て。もう少しここにいろ。久方ぶりの話し相手が出来たのだ。そんな簡単に手放すわけがなかろう?』


 ちくせぅ。早く離れたかったが、うまくいかなかったか。こうなったら何がなんでも気分を損なわないようにしておかないとな。

 とりあえずステータスを確認しておくか。こんなに強い気配ならば持ってないスキルもあるだろ。


 __________________


 種族:フェンリル


 年齢:327


 レベル:68


 HP:5800/5800

 MP:5600/5600

 SP:6100/6100


 スキル:『気配感知LvMAX』『スタミナ回復速度LvMAX』『魔力回復速度LvMAX』『念話LvMAX』『魔力感知LvMAX』『魔力操作LvMAX』『身体強化魔法LvMAX』『火魔法LvMAX』『闇魔法LvMAX』『劫火の息吹Lv8』『熱耐性LvMAX』『超速再生Lv7』『未来予測LvMAX』『並列演算Lv9』


 称号:『狼王』『神喰い』『虐殺者』『神に災いをもたらす者』


 体質:神殺し

 ___________________


 ええぇぇ……。何このステータス。今の俺のステータスの3倍くらいあるな。称号にもちょっと信じたくないようなものがあるし、絶対に敵対してはいけないだろ。

 ……鑑定するか。もしかしたら内容は名前と違って穏やかかもしれない可能性にかけて見てみるかぁ。


『劫火の息吹』

 口や目などの体の一部から劫火を召喚することができる。レベルによって威力が異なる。


『並列演算』

 複数の事柄を演算することが可能になる。レベルによって数が異なる。


『狼王』

 狼の王。同種族、下位種族への絶対命令権を持つ。


『神喰い』

 神を喰らった者。神霊や神獣にならずに神を殺すことが可能となる。


『神に災いをもたらす者』

 神に災いをもたらす者。神への攻撃の威力が増し、神へと不幸を撒き散らせる。


 まじで徹底して神殺しだな。5つのうち2つも神関係とかどんだけ神が嫌いなんだよ。神側からしてもまさに天敵と呼べる存在だろ。

 体質まで神を殺すことを訴えているような感じだな。神話については詳しく知らないがフェンリルを騙してグレイプニルに絡めたのがそんなにカンに触ったのか?

 ……話し相手が欲しいだけのようだし、ここは話を合わせておくか。スキルと体質のコピーは忘れずにな。


《スキル『複製(コピー)』の能力により、スキル『並列演算』、体質『神殺し』を獲得しました。『劫火の息吹』の獲得には失敗しました。……下位互換であるスキル『灼熱の息吹』の獲得に成功しました。》


 《条件を満たしました。称号『神を殺す者』を獲得しました。》


 あれ、失敗?そんなの初めてだな。そんなにフェンリルの持っているスキルの質はいいのか。それとも何か別の理由が?

 まぁ、いいか。レベルを上げれば獲得できるようだし、それまでの辛抱だ。やりたいこともやれたしフェンリルとの話を続けるか。


「それで、話ってなんだ?」


『む、そうであったな。それで話というのはな、我をココから連れ出してくれないか?』


「は?」


 連れ出す?なんで?自分で出ればいいじゃないか。何故そんなことを俺に頼むんだ?


『いや、正確には我を眷属にしてくれればいい。貴様闇魔法を持っているだろう?そのスライムとも繋がりがあるしな。』


 眷属にしていいのか?いや、まぁそういうことならば俺にとっては良いことしかないので大歓迎なのだが、フェンリルになんのメリットがあるのか分からない。


「そんなの自分で出ればいいんじゃないのか?何故そうしない?」


『我は見ての通り体が大きい、人化の術も使えないので階層ごとの通路を通ることが出来ないのだ。しかし、眷属となれば貴様の影に潜り込み、貴様が外に出れば我も外に出れるのだ。』


 影に潜り込む?眷属になったらそんなことができるのか。ヴェノムに聞いてみよ。


「なぁ、お前も影に潜り込めたりするの?」


『ん〜、やればできそうだな。今目の前でやってみるか?』


「……そうだな、やってみせてくれ」


 どんな風になるんだ……?あ、スカアハのスキルの『操影』を使って驚かせてみよ。実際に影に入ってるのかの実験にもなるしな。


『分かった。それじゃあ影に入るから動かないでくれ』


 ヴェノムはそう言うとポヨンと跳ねて俺の影の上に跳んだ。地面に着いても着地せず、そのまま水に入るように影へと入っていった。


「おぉ、凄いな。というか、そんなことができるならば俺の修行中も影に入っててくれればよかったのに」


『いや、今回言われるまで分からなかったんだよ。言われたら確かに出来そうな感じがし始めたけど……』


 俺がヴェノムに悪態をつくとヴェノムは影から出てきて反抗した。実際俺にもそういう体験があるので否定することができなかった。


「……そうか。なぁ、もう1回入ってくれないか?」


『……なんでだよ。今見たじゃないか』


 くそ。目がないはずなのに疑いの目で見られている気がする。

 いや、そんなはずがない。俺がやってみたいことはスキルの実験であって、面白半分ではない。なので後ろめたいことは何も無いから大丈夫だ。


「なぁ、頼むよ」


『……分かった。ただしこれで最後だからな』


 ヴェノムは先程のように跳ねて俺の影に入ろうとした。着地する直前でヴェノムの所から影を移動させ、ヴェノムの下に影がないようにした。

 すると、ペタンと普通に地面に着地しただ跳ねただけになってしまった。その姿には哀愁を感じ、何も知らぜずに実験したことに罪悪感を覚えた。


「へぇ、本当に影に入ってるのか。緊急時とかにはこのスキルを使えば早く影に潜れるな」


『やっぱりかよ。頼んでくるお前の顔が明らかに悪いことを考えているから嫌だったんだよ。くそぉ、超恥ずかしい』


「いや、すまん。ちゃんと知らせておけば良かったな。後で体の大きさを元に戻すようにするから許してくれ」


『……分かった。魔力をくれれば戻るから沢山くれ』


 便利だな、その体。超速再生のスキルがあるせいかもしれないけど魔力があるだけで質量が増えるのかよ。


「魔力だな?後でたんまりとやるよ」


『……おい。我のことを忘れていないか?』


 あ、やべ。まだフェンリルと話している途中だったな。ちょっと実験に夢中だったな。反省しないといつかやらかしそうだ。


「すまん。それで眷属にすればいいんだな?今すぐにできるがどうする?」


『うむ、それでは今すぐに頼む。』


 軽いなぁ。そんなのでいいのかよ。まぁ、いいか。こちらには良いことしかないし、別に関係ないだろ。


「あ、その前に俺はまだ少しこのダンジョンで修行していく。それでもいいのか?ちなみに、修行してくれるのは神族だ」


『むぅ、神族か。別に我は外に出るのが遅れるのも、神側と会うのもいいのだがあちら側はそうでは無いのだ。逆に我を眷属にしてしまうと貴様が修行出来なくなってしまうかもしれぬな』


 それは困るな……。でも、ケイローンは優しそうだし、説得すれば納得してくれるだろう。失敗してしまえばそれまでだが、ちゃんと事情を説明し、フェンリルについても危険ではないと説明すれば認めてくれるだろう。


「……恐らく大丈夫だ。俺が師事する者はとても聡明だと言う。きっと説明すれば納得してくれるだろう」


『そうか。それではこれからよろしくな主殿』


「うん、こちらもよろしく」


 互いに挨拶し合い終わると俺はフェンリルへと眷属にするための闇魔法を発動させた。ヴェノムの時のように抵抗されることも無く直ぐに眷属になった。


『これで正式に主従の関係になったな。我は主殿の影に入るのだが、その前に名前を聞いてもよろしいか?』


 ……名前か。今まであなたやお前、貴様などを普通に呼ばれてたから気にしていなかったが、どうしようかな。せっかくだし、縁のある名前をつけるか。




 う〜ん……そうだな。前世にも龍の感じがあるし、今世はドラゴンなので神話のドラゴンの名前から取らせてもらおう。

 え〜と、ドラゴンと言えばケツァルコアトル、ウロボロス、八岐大蛇、アナンタ、アジ・ダハーカ、ファフニールなど沢山あるな。

 ただ、ここから名前を取るとなると男のような名前や変な名前になりそうだ。そのまま付けるとしても、この世界では普通に種族としてありそうだなぁ。もしくは本人がいると思う。

 ウロボロス、八岐大蛇、アジ・ダハーカからはちょっと考えられないわ。他の名前から取るとなるとケチャルコアトルからはコア、アナンタからはアナ、ファフニールからはニールかな。


 …………決めた。ニールにしよう。一番女の名前っぽいし、無難だ。


《名前を獲得しました。成田龍輝はニールへと改名し、世界神の眷属として格を上げました》


「は?」


 おっと声が漏れてしまったな。いや、そんなことよりも今のはなんだよ。世界神の眷属として格を上げた?俺は世界神の眷属になった覚えはないぞ。


 俺が考察をしていると周囲の動きがピタリと止まった。正確にはごく僅かに動いているが止まっているのと等しいほど動きが遅くなった。


『いや〜、説明するのを忘れてたよ。とりあえず新しい名前を手に入れたことにおめでとう、と言っておくよ』


 ……世界神か。こいつ本当に自分勝手だな。


『そんなに怒らないでよ。それで僕の眷属になってしまったことなんだけどね、人族は眷属に絶対にならないから転生という手段を取れたんだけど、君だけがモンスターに転生してしまって眷属化してしまったんだ。

 で、名前を獲得して魂の格も上がったから僕の眷属としての格も上がったんだよ』


 そうなのか。まぁ、俺だけが眷属になってるのなら別に良いかな。あの2人も眷属になってるかもと思ったから焦っただけだしな。


『ふぅ〜ん、優しいんだね』


『心を読むなと言っている。それでお前の眷属になったらどんなことが起こるんだ?』


『うん、その事については話していくんだけど、僕の眷属になって格を上げていくといつか僕と同じ神格を獲得している本当の神になってしまうんだよ』


 世界神はいつもと同じ声音で爆弾を落とした。

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