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虫地獄

 俺はヴェノムを抱えながら魔物を探していた。ヴェノムを眷属化させてからかなり周りを探しているが、気配感知と魔力感知を最大にしても魔物が見つからない。


『なぁ、ヴェノム。お前この辺に魔物がいないんだけど、何か知らない?』


『ん?魔物なら俺が殺しまくったぞ。それがどうしたんだ?』


 こいつも随分慣れたよな。最初の方はどもっていたが今では普通に喋ることができるようになったな。

 というか、こいつが原因なのか。この範囲で1匹も感知されないとか、どんだけ殺したんだよ。


『……そうか。それで、魔物を殺さないと修行することが出来ないんだけど、どこら辺に魔物がいるか分かるか?』


『あぁ、魔物を探していたのか。さっきから何してるか意味が分からなかったけどそういう事だったのか。』


 こいつ……。誰のせいでこんなことになっているのか分かってないのかよ。

 ……まぁいい。とにかく早く魔物のいる場所を聞いて殺して、修行を始めたいな。


『それで、どこにいるか分かるのかよ。』


『この先をまっすぐ進んだら凄く深い窪みがある。そこには高レベルの魔物がゴキブリのようにいるぞ。』


 1匹いたら沢山いるゴキブリを例えるとか極端だなぁ。そんな数いたらどうやって気づかれないように殺せばいいんだよ。

 ……一旦そこに行ってから気づかれないように殺すか考えるか。


 俺はヴェノムに言われた岩場に向かった。そこにはヴェノムの言う通りに魔物が一面黒く染まるくらいの数いた。

 しかも、魔物の形状がムカデやヤスデのような感じでカサカサ聞こえて背筋がゾワゾワする。


『お、おい。お前が言ってた奴ってあれか?』


『そうだぞ。俺がこの階層で唯一殺すことの出来なかったやつだ。……攻撃手段の少なさでな。』


 確かに遠隔攻撃にしろ、そのスライムの体にしろ攻撃手段が少なくなるのは当たり前だよな。俺みたいに新しい魔物に会えば、無条件でスキルが手に入る訳でもないし。

 ……実際には無条件という訳ではないけどな。


『攻撃手段の他にも理由があってな。……ちょっとこいつらのことを観察してみてくれ。』


 何で観察するんだ?普通に鑑定すればいいだろ。それとも、見なきゃ分からないことでもあるのかな?


『あぁ、別に鑑定してもいいが俺が見せたいのはステータスでは分からないぞ。でも、こいつらの生態は分かるかもな。』


 そうか。鑑定してから観察し始めても別に大した差は無いだろ。ステータスを見てどうやって殺すかも考えたいしな。今の俺には火尖槍があるしこの階層ならば、基本大丈夫だろ。


 __________________


 種族:レッドセンチピード


 レベル:21


 HP:890/890

 MP:620/620

 SP:1300/1300


 スキル:『気配感知Lv6』『スタミナ回復速度LvMAX』『魔力回復速度Lv4』『魔力感知Lv7』『魔力操作Lv6』『身体強化魔法Lv5』『麻痺毒LvMAX』


 称号:『同族殺し』


 __________________


 センチピード……centipedeか。やっぱりムカデなのかよ。というかステータス高いな。この階層でこのレベルの魔物が大量発生するとか何事だよ。

 だけど、普通のステータスでスキルも称号にもおかしな所はないと思うが。

 とりあえず、持ってないスキルは鑑定してコピーするか。


『麻痺毒』

 体内で麻痺毒を生成することができる。レベルによって効果が異なる。


《スキル『複製(コピー)』の能力によってスキルも『麻痺毒』を獲得しました。》


 あれ、終わりか。普通に猛毒生成に統合されちゃうかと思ってたけど、同じ毒でもスキルとしては違うんだな。

 使う前に持ってるスキルの能力が新しく分かって良かったな。


『鑑定してみたけど、特に異常なところはなかったぞ。強いて言うなら、ステータスが高かったぐらいだな。』


『まだ待ってて。多分もう少しで見れると思うから。……ほらあそこら辺、ちょっと注意して見てみてよ。』


 なんだ?一箇所だけ魔物が固まってるな。というか、集まってきてるな。一体あそこに何があるんだよ。


 魔物が集中している所を観察していると、バリバリと何か固いものを咀嚼しているような音が聞こえ始めた。


 なんだこの音。何か食ってるのか?ここからじゃ魔物が邪魔で何をしているのか分からないな。新しく作った闇魔法で近づいてみるか。


 俺は闇魔法を発動させ、ムカデ達から見つからないように何をしているのか分かる位置まで移動し始めた。


『お、おい。何してるんだよ。こんなとこ歩いたら見つかるだろ。何をしているのかは教えてやるから今すぐ戻ってくれよぅ。』


 口調が戻ってるな。そんなに怖いのかよ。別に魔法の効果で音さえ立てなければバレないようになってるんだから大丈夫なのにな。


『魔法の効果で見つからないようになっている。音を立てたら見つかるから静かにしてろよ。』


『……本当に大丈夫なんだな?信じてもいいんだな?』


 疑い深いなぁ。実際見つかっていないんだしそんなにビビらなくてもいいだろ。ビビって震えるのは可愛いが、念話のせいで鬱陶しい。


『はぁ。絶対に大丈夫だ。』


『そ、そうか。それで、どんな魔法を使ったんだ?』


 やっぱり聞かれるよな。ん〜、詳しくは話さなくてもいいか。効果だけ話して魔法陣の構成は黙っとこ。


『日本風に言うと認識阻害の魔法だ。詳しく言うと違うんだが、魔法を発動している間は俺たちの気配を感知したり、視認しても正しく把握することができない。見えていても認識出来なければ意味ないからな。』


『そ、そうか。効果的に闇魔法だけど、そんな魔法あったか?お前よりも闇魔法のレベルは高い筈だけど。』


 なんで聞いてくるかなぁ。あえて、属性には触れなかったのに聞いてくるなよ。答える義務はないし、スルーでいいか。


『そんなことよりも、あれ。何してるんだ?俺にはムカデがムカデを食ってるようにしか見えないけど。』


 さっきからバリバリ聞こえる音はムカデがムカデの硬い外殻を砕いてる音だったのかよ。しかも、それに群がるムカデにも攻撃が当たってて連鎖のようにムカデが死んでいく。

 ものすごくキモイ。精神生命体の称号を獲得してから食欲はなく何も食べていないはずなのに、吐き気がする。


『見えてる通りだよ。こいつら、腹が減ったらなんの躊躇いもなく仲間を食うんだ。

 仲間を食い殺して経験値を獲得してるんだ。それで、どんどんレベルが上がっていき、ちょっとずつ平均レベルが上がってるんだよぉ。』


 弱音を吐いてしまう気持ちはものすごく分かるぞヴェノム。こんなのを見ていたら、無条件でマイナスな気持ちになる。

 ……どうしよう。ヴェノムのせいで魔物がこいつらしかいないけど、こいつら死体を作ったら群がってきて一体殺すとかじゃ無くなりそうだなぁ。でももうこの階層に魔物はいないし……。



 よし、決めた。結局見つかってしまうんだし、魔法の実験も兼ねて最初は殺しまくろう。1匹だけでも生きていればスカアハからの課題も達成できるしそうしよう。


『ちょっとヴェノム離れていてくれ。今から大規模な魔法を使ってこいつらを殺す。お前のことを庇ってられないし、身の安全は保証できないから離れたところにいてくれ。』


『そ、そうか。それじゃあ俺は離れたところで見てるよ。その……気をつけてな。』


 ヴェノムはそれだけ言うとその体からは想像も出来ないような速さで離れていった。


 なんだあいつ……?そんなに魔法にビビらなくてもいいだろ。まぁいいか。さっさと殲滅してスカアハの修行を始めよう。

 使う魔法はこれでいいな。見つかってないから時間もあるし別にいいだろ。殲滅用で作ったし、性能を確かめたいしな。


 俺は新しく作った火と雷属性の複合魔法を発動させるために魔法陣を作り始めた。すると、全てムカデ達が一瞬で俺の方を向き突進してきた。


 な、なんでだよ。いままで死体に夢中だったじゃん。なのになんで魔法陣を作り始めたらこっち側にくるんだよぉ。


『ちょ、助けてヴェノム。キモイ、こいつら超キモイ。触りたくない、近づきたくない、見たくもない。何とかしてくれヴェノムぅ。』


『うわ、こっちに来るな。別にお前のステータスなら負けないんだし大丈夫だろ!俺はこいつらに対する攻撃手段が近接しかないんだよ。だからこっちに来るな!』


 ヴェノムが何か言ってるが関係ない。別に倒してほしいわけでもないし、ヴェノムでもできることだから大丈夫だろ。

 そんなことよりも、後ろでムカデ達が顎をギチギチと鳴らして気持ち悪い。こんなところからは早く解放されたい。


『別に殺す必要はない。こいつらを俺から話してくれるだけでいい。その間に俺が魔法で殺すから足止め頼む。』


『……分かったよ!やればいいんだろ!?その間に絶対こいつらを殺してくれよ。絶対だからなっ!』


 良かった。何故かムカデを見ているだけで集中出来なかったし、ヴェノムが足止めしてくれるのならば魔法陣も早く作れる。

 ヴェノムに感謝して1秒でも早くムカデ達を殺さないとな。


 俺は先程中断させた魔法をもう一度作り始めた。何体かこちら側に来たが、ヴェノムが闇魔法で牽制してくれたお陰でこちらに来ることはなかった。


 発動する魔法はクリムゾンサンダー。火力だけを求めた火魔法と、速さだけを最大にした雷魔法を合わせた複合魔法だ。

 まだ魔法に関しては未熟なところが多く、発動までに動きを止め、集中しないと魔法陣を構築することが出来ないため使いどころが限られてしまうのが難点だ。


『お、おいなんだよその魔法。本当に俺には当たらないんだよな?』


『大丈夫だ。合図をしたら俺のところまで下がってこい。それまではそのムカデ達をこちら側に来させるな。』


 あと少しだ。あと少しで魔法が構築できる。それまでは絶対にムカデ達を来させないように頼むぞヴェノム……。


『おい、まだかよぉ。そろそろ魔力が切れるぞ。』


『……よし、もう大丈夫だ。こっちにこい。こっちに来る時にはムカデ共に魔法を放って動きを止めてから来いよ。』


 ヴェノムは俺の指示通りに離れる時にムカデへと動きを止めるだけの魔法を放って俺の方へと来た。


 よし、離れたな。念の為ヴェノムが俺の後ろに来るまで待ってから放つか。……後ろに来たよな?

 ムカデ達は槍で殺す用に数匹残しておかないとな。じゃないと、スカアハの課題がクリア出来ないからな。


 俺はムカデ達へとクリムゾンサンダーを放った。無事にムカデ達へと直撃し大量の煙が発生した。

 煙が晴れ、ムカデ達の姿が見え始めた。そこには数匹のムカデだけがおり、クリムゾンサンダーが直撃したムカデ達は欠片ひとつ残さずに消し飛んでいた。


《経験値が一定に達しました。レベルが11上がります。》


《熟練度が一定に達しました。スキル『複製(コピー)』『危険察知』『魔力回復速度』『身体強化魔法』『火魔法』(ry》


《条件を満たしました。称号『殺戮者』が称号『虐殺者』へと変化しました。》


 うわー。なんか嫌な称号を獲得しちゃったなぁ。そりゃあ、こんなに殺せばそうなるかもしれないけどこれは正当防衛だろ。

 というか、クリムゾンサンダーやばいな。詳しく測っていないが、万全の状態の3割くらいの魔力でこの威力は凄いと思う。


 ……とりあえず『虐殺者』の能力を確認しておくか。似たような感じだろうけど、しっかりと把握しておかないと不安だがらな。


『虐殺者』

 戦闘時にステータスが一時的に上昇し、攻撃時に死属性が付与される。生物を殺した時に気分が上がり一時的にステータスが上がる。


 ふむ、殺戮者の称号から変化したから似たような能力だと思っていたけれど、これはとても実用的だな。

 攻撃時に死属性が付与されるというのは詳しくは分からないが、恐らく殺傷力が高くなるのではないだろうか?それは攻撃の上昇と変わらないと思う。確かめてみないことには分からないが……。


『お、おい数匹残ってるぞ。早く殺さないとやばくないか?』


 ヴェノムは何をそんなに慌てているんだ?今は俺の魔法に驚いているのか分からないが動かないし、ステータス的にも負けるような相手ではないだろ。

 攻撃手段がなく勝てないが、別に勝てないからといって負けるわけではない。しかもヴェノムはさっきこれの何倍ものムカデの足止めをしていたことを忘れてないか?


『何をそんなに慌ててるんだよ?お前はあいつらに負けないんだし大丈夫だろ。』


 まぁ、早めに殺しておくに越したことはないか。硬直が解けて、抵抗されても面倒くさいし火尖槍の刃と火の両方の威力を確かめておくか。


 俺は近くにいたムカデへと火尖槍を振った。多少手に重みがあったが、なんの問題もなく斬ることができた。断面は本当に槍で斬ったのか疑うほど滑らかだった。

 続いて火尖槍に魔力を込め、先端から火を出した。ファイアーアローなどの初級魔法程度の魔力しか込めなかったが、周りにいた数匹のムカデを巻き込むほどの火が出た。


『火!?やめろ、俺の近くで火を使うな!死にはしないが、本能的にダメなんだよ。普通に火力も強いし怖いんだよぉ。』


 いつもオドオドしているが今回は本当に怖がってるな。確かに火が弱点ではない俺でも本能が、これは危険と言ってるな。

 火が弱点で気の弱いこいつは確かに怖いんだろうな。


『分かった。それなら離れろよ。ムカデを全て倒したら伝えるからそれまでは離れていてくれ。』


 俺は火尖槍でムカデ達を粉々に切り刻み原型が想像出来ないようにしたり、火尖槍の火で炙りムカデどもに苦痛を与えながら殺したりし、殲滅した。


『おい、もう火は使わないぞ。それよりも見てくれよこれ、凄い火力だな。外殻だけでなく、骨までドロドロの液体だぞ。しかも、時間が経っているのに未だに固まらない。』


『そ、そうだな。いや本当にお前に逆らわずに味方についておいて良かったよ。こんな死に方は嫌だからな。』


 お前の場合は溶けるんじゃなくて、単純に燃えるだけだと思うぞ。そもそも、物理攻撃の効かないお前を殺すためにはこれぐらいの方法しか殺せないと思うけど。


『今恐ろしいことを考えなかったか?』


『いや全然。それよりも槍で魔物を殺したし、先生のところへ行こうぜ。早く修行したい。』


『そ、そうか。それじゃあかかえてくれ。』


 ……仕方ないか。こいつの移動速度に合わせてたら、遅れるからな。さて、スカアハのところに戻って本格的に槍の技術を教えてもらうか。

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