~外伝 クレアーゼの始まり~ ※挿絵あり
この話はクレアーゼ・レッドローズの物語です。一番下にクレアのイラストを載せました!
作者:@canadeyuuki0718
絵師様:@Eroinstein7027
『この話はクレアーゼ・レッドローズの物語である』
時間は昼を少し過ぎた頃、大きな屋敷内の一室。部屋の中には紅色の髪、翡翠の眼をした少女が椅子に座って、本を読んでいた。
「これが魔法……」
少女は好奇心で魔導書を読んでいた。幼い少女には読み取れない部分も多いが魔法、それも火系の魔法に興味を惹かれていた。
コンコンッ
「お嬢様、失礼します。お時間でございます」
「わかったわ」
メイドの言葉を聞き、幼い少女、クレアーゼ・レッドローズは魔導書を閉じ、椅子から降りる。クレアの服装は豪華絢爛なドレス姿であり、眉目秀麗な容姿と相まって、より映えて見える
「お父様とお母様は?」
「ご主人様も奥様も、お仕事を終えた後、急いで向かうと伺っております」
「そうですか……」
少女に落胆する様子はない。両親が大貴族として忙しいのは理解しており、物心ついた頃から不在の時は多かったためである。
「お嬢様。こちらへ……」
「はい」
クレアはメイドに誘導され、玄関前に停まっている馬車に乗る。馬車の質は最高級であり、馬車内の椅子も高級品であった。そして、御者が馬車を走らせ始めれば、クレアが乗る馬車を挟むように複数の馬車と馬に乗った護衛も走り始める。
「本日は裁定の日でございます。お嬢様であれば、問題ないでしょう」
「……当然です」
メイドとの会話もあまりない状態で、クレアの乗った馬車は大きな教会に到着する。クレアは馬車から降りると教会内へ入っていく。
教会の中には既にクレアと同じ年代と思しき少年、少女たちが居る。クレアと同じように豪華絢爛なドレスを着ているものもいるが最も映えているのはクレアであった。
「レッドローズ家のご息女様だ」
「あいさつした方がいいのではないか?」
クレアの耳に届く、貴族たちの声にクレアはため息を吐きながら、そのまま用意されているソファーへ移動する。
『はぁ……面倒……』
貴族の大人たちが見てきているのを感じ、うんざりした気持ちになるも、表情が面に出さないように躾けられているため、クレアの表情に変化はない。
少しの時間が過ぎた後、教会に設置されている鐘が鳴り響くと共に、神父と思しき妙齢の男性が祭壇に立つ。
「時間になりました。これより八歳になりました子ども達へ選定の儀を行いたいと思います。名前を呼ばれたものから、この水晶に手を触れてください。才ある者が触れれば、この水晶は光り輝きます。最初は……」
神父は順に名前を呼んでいく。水晶に触れては一喜一憂する姿が映るがクレアはあまり興味はなさそうに自分の順番が来るのを待っていた。
そうして過ごしていると、クレアの席に近づく二つの人影が現れる。
「どうやら間に合ったようだな」
「ええ。あなた」
「お父様‼ お母様‼」
クレアの両親が現れるとクレアは席から立ち上がり、両親の元へ走っていく。
「クレアーゼ。ドレス姿で走るものではありません」
「いいじゃないか。親としてはうれしい限りだ」
クレアは嬉しそうな表情をしており、両親と一緒にソファーへ座る。その様子は年相応の少女、そのものであった。
「クレアーゼの才能はどのぐらいか。楽しみだ」
「あなた。そんなことを言ってはクレアーゼが緊張してしまうわ」
両親の期待にクレアは緊張よりも、自分のことを話していることを嬉しく思っている。
そして、ついにクレアの名前が呼ばれたため、ソファーからクレアは降りると両親を見る。
「行ってきます♪」
クレアは祭壇の前へと移動する。そして、深呼吸をした後、水晶玉に手を置いた瞬間、水晶玉は今まで手を置いてきた子どもたちの中で一際、強く輝き始める。
その様子に、クレアの両親は喜び、他の者たちは神父も含めて驚愕し、冷静ではなくなるのであった。
そして、裁定の儀を終えたクレアは両親と共に馬車で屋敷へと戻る道中……
「長く続くレッドローズ家の歴史でも、この年であれほど輝かせる者はいない。まさに天才だ」
「えぇ、これからの教育方針は魔法を中心としましょう」
「これは当主としても、一人の親としても誇らしいことだ」
「クレアーゼ。貴女は本当に自慢の娘です」
両親の喜ぶ姿にクレアは嬉しく思う。
クレアの才能が発覚した日の翌日から、魔法に関する教育係が就くことになった。まず初めに魔導書を読むための授業が行われたが、クレアはすぐに魔導書を読むことが出来る様になり、教育係を驚かせる。
『いつも見てたからこのぐらい……』
クレアは教育係の驚く姿に疑問を覚えながらも魔法について学んでいく。そして、魔導書に記載されている初級魔法を驚くべき速度で会得していた。
「素晴らしい才能です」
「なんて才能だ。まさしく神童……」
「クレアーゼ様以上の才能を持つ人は居ないです」
類い稀なる才能を持つクレアを称賛しない者は居なかった。
[そして、月日は流れ、十歳を迎えた、クレア……]
大貴族の令嬢として、社交界へクレアが出席した際には声を掛けない貴族は居ないほどである。
「はぁ……」
「クレアーゼ。これも貴族としての務めだ」
「ごめんなさい。お父様」
息子や娘を紹介する貴族も多く、中にはお見合い話をしてくる者もいた。同伴するクレアの父親、レッドローズ家の現当主であるランドレーが中心で話をしてはいるが、クレアも疲れている様子であった。
「これで大半の貴族は挨拶を終えたはずだ」
「やっとですね……」
「ランドレー公。お初にお目にかかります」
貴族からの挨拶が落ち着き、ランドレー公とクレアが一息ついていれば、一人の女性が近づいてくる。女性はかなり深くスリットが入り、胸元の大部分が露わになったドレスを着ており、誰が見ても眉目秀麗な容姿をしている。また、ドレスに負けない美しさが下品な姿ではなく、妖艶な姿と、周りに感じさせる。
「ふむ、たしかに初めて見る顔だが……」
「つい先日、マーリンの名を襲名した者でございます」
「ほぉ……それでは君があの、殲滅の魔法使いということか?」
「左様でございます。この度ランドレー公と……神童と謳われるご息女に挨拶も兼ねて、お声をかけさせていただきました」
マーリンの言葉にランドレー公は頷き、クレアも興味深そうにマーリンの顔を見つめていた。クレアからの視線に気づいたマーリンは微笑を浮かべ、クレアを見つめる。
「なるほど。これは確かに素晴らしい才能……」
「見ただけでわかるとは、さすがはマーリンの名を襲名するだけはある」
「ありがとうございます。宜しければ私が設立した学院へ入学はどうでしょう? 学校から卒業認定があり、才能ある魔法使いであれば、何歳からでも入学は可能です」
「ふむ、考えてみよう」
「ありがとうございます」
基礎知識を習得するための施設が学校であり、そこからさらに専門的な分野や、より高度な知識を得ることができる施設が学院である。学校の卒業認定は成績次第ではあるが最短は五年で授与される。
マーリンはランドレー公とクレアに頭を下げてはその場を後にするのであった。
「マーリンが設立した学院……」
「お父様……マーリンとは何ですか?」
「あぁ……教えられていなかったか。マーリンは偉大な魔法使いの名前だ。その偉大さは他に類を見ないほどと言われている。敬意の意味もあって、その時代の最も功績を残した魔法使いが襲名することになっている」
「つまり、あの方が最も優秀な魔法使いということですか?」
「うむ。まあ、入学についてはまた今度、考えることにしよう」
ランドレー公はマーリンからの提案を検討しながらも社交界をこなしていき、クレアもまた、令嬢としての役目をこなしていった。
そして、社交界でマーリンと出会った一年後、貴族学校へ入学したクレアは魔法だけではなく、文武においても、優秀な成績を残していた。
「さすがクレアーゼ様。尊敬します」
「ええ、ありがとう」
「「きゃーー」」
貴族学校に居る生徒達は基本的に貴族出身であるため、大貴族であるクレアの周りには入学直後から他の生徒達が集まり、学校内で知らない者はいないほどである。
「魔法だけでなく、文武に置いてもクレアーゼ様を超えるものは居ません。さすがの才能です‼︎」
クレアは毎日、尊敬、称賛の言葉を伝えられており、微笑を浮かべて、礼を伝えることが慣れてしまうほどであった。しかし、才能ばかり褒める生徒や、クレアの美しさを褒めるものが大半である。そのため、親友と言えるほどの友人が出来ることはなかった。
『才能……才能……』
クレアは称賛する生徒達に微笑を浮かべながらも心の中では、才能しか称賛しない言葉に倦怠すら感じていた。
「私は才能だけじゃないわよ……」
貴族学校を卒業するまでの間、努力を称賛する声が現れることはなかった。
そして、貴族学校を卒業後、十七歳になったクレアは両親の薦めもあり、聖ソーサリ魔術学院へ入学することになる。
『ここなら……はぁ、期待するものじゃないわね……』
クレアは学院に入学後も貴族学校在校時の様に他の生徒と比べ、頭ひとつ分、成績が突出していた。しかし、貴族学校の時の様な、常に取り巻きが居る様なことはなかった。
そして、一年が経過する頃、学院長である、マーリンから呼び出しがあった。
「失礼します」
「よく来てくれた」
「学院長、何かご用ですか?」
「もちろんだ。今、突出した才能があるものを集めた特科クラスの用意をしている。そこに在籍しないか?」
「才能ある……それは成績が良いということですか?」
「それだけではない……とだけ言っておこう」
「……わかりました。興味もあるので参加させていただきます」
「そうか。両親に相談しなくていいのか?」
「はい。お父様とお母様には後で伝えておきます」
「わかった。話は以上だ」
クレアはクラスの移動について、了承する。
マーリンは満足そうに頷くと手元にあった書類に視線を落とす。クレアは学院長室を後にしようと思い、扉を開けるためにドアノブへ手を伸ばしたところで立ち止まり、振り返る。クレアの行動にマーリンは落ちていた視線が上がる。
「どうかしたか?」
「どうして、特科クラスを作るのですか?」
「ふむ……細かい理由は言えないが秀才、天才を集める必要があるのさ」
「……わかりました。失礼しました」
クレアは少し納得していない様子だが、教室を後にする。数日後には、学院内で大々的に特科クラスの設立と在籍する生徒が発表された。
もちろん、在籍する生徒の中にはクレアの名前があり、事前に知らされていた新教室へ入れば既に何人かの生徒が席に座っており、クレアも目についた席に座れば、既に席へ座っていた男子生徒が立ち上がるとクレアに近づいてくる。
「……何かようかしら?」
「あぁ……俺はレオルゲイツ・クエリオン。クレアーゼさんでいいか?」
「えぇ、そうよ」
「噂は聞いてるぜ。かなり優秀なんだってな。まあ、俺がいるこのクラスでクラストップを取れるなんて思わないほうがいいぜ‼︎」
「……そ、そう」
クレアは初対面であるレオに圧倒されてしまっており、どう反応すればいいのか困惑していた。
「レオ君。クレアーゼさんが驚いてますよ?」
「おお、確かに驚いてるな。何でだ?」
「レオ君がすみません。私はレインです。一応、前のクラスでもレオ君とは同じで……」
「く、苦労してそうね……私はクレアーゼ・レッドローズ。よろしくね」
クレアは苦笑いを溢しながらも対等に話しかけてくるレオとレインに挨拶をする。その後、少しして、レーメ先生が入ってくれば、全員が席へ着席する。
「皆さん、初め……皆さんの授業は担当したことがありますね。この特科クラスの担任になりました、レーメ・エクセティアです。これからよろしくお願いします」
担当教諭となったレーメ先生が挨拶を行えば、自己紹介を行う様に指示すると、他の生徒たちが順に席から立ちあがり、教壇前へ移動する。クレアの順番が来ると、クレアは教壇前へ移動する。
「初めまして。私はクレアーゼ・レッドローズ。クラスメイトになるから、気兼ねなく、クレアって呼んで構わないわ」
「はい♪ クレアさん。ありがとうございます」
クレアは自己紹介を終えると自分の席へ戻る。全員の自己紹介が終わり、新しい学院生活が始まった。
そして、数ヶ月後、転校生としてアルベネロが転校してくる。クレアにとって、アルベネロの印象は悪いものではなかったが、興味を惹かれるほどではなかった。
しかし、訓練棟で模擬戦を行い、クレアはアルベネロに対する印象は大きく変わっていた。
クレアは模擬戦があった日の授業を全て終えると、毎日の自主練習を行わずに寮の部屋へ戻る。
「……ふふっ」
クレアは思わずと言った様子で笑みを溢してしまう。アルベネロとの模擬戦を思い出し、自分より強い相手に初めて出会ったことを喜んでいた。ただ、試合後に、アルベネロに下着姿を見られてしまったことも思い出すと羞恥で顔を赤くする。
『あ、あれは事故……そう、事故なのよ……仕方ないのよ……』
頭の中で自分に言い聞かせるが恥ずかしさは消えず、制服の上着をぬけばベットに倒れ込み、枕に顔を埋める。
『下着姿を見られて恥ずかしいはずなのに……見られたのがアルベネロ君で良かったなんて思ってる私が居るわ……』
クレアはバタバタと足を交互にベットへと打ち付けていき、その度にベットは軽く揺れる。アルベネロの能力、そして、才能だけではなく、努力している部分まで評価してくれたことにアルベネロに対して、とても好感度が上がっていた。
「もう……私ってこんな単純な女だったのね……//」
クレアは自分の顔が熱くなってるのを感じるが、それ以上に口元が緩んでしまっているのを自覚してしまう。
「アルベネロ君……ふにゃ……//」
クレアはアルの名前を無意識に呼んでしまう。その事にすぐ気づけば、枕に顔を深く押しつけて羞恥に悶える。
「明日、アルベネロ君に会っても、大丈夫よね……」
クレアは軽く溜め息を吐きながらも、アルベネロの事を考えては口元が緩んでしまい、再度、羞恥に悶えるを繰り返してしまうのであった。
ここまでお読みしていただき、誠にありがとうございます。
クレアのイラスト、どうしたでしょうか?私的にはとても素敵なイラストを描いていただけたと思います。次はまた通常の物語に戻る予定です。
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作者:@canadeyuuki0718
絵師様:@Eroinstein7027




