~天才と転校生の実力~
今回は少し長めです!具体的に言うと3000文字ぐらいです!
アルベネロとクレアの模擬戦がレーメ先生の合図と共に開始される。近くで立っているレオとレインだけではなく、少し離れた場所で訓練をしている生徒たちも気になるようで何組かは魔法を発動する手が止まっており、模擬戦を観戦している状況である。
そして、クレアは早速、魔方陣が描かれた紙を取り出すが、アルベネロは当然のように何も魔導具は取り出さない。
「スリザリン・ファイア‼︎」
「早速だな」
クレアが魔法を発動すれば、地面を這うように幾つもの火線がアルベネロに向かって迫っていく。アルベネロはサイドステップで火線を避ければ、次の瞬間には全ての火線から火柱が立ち、熱気が襲う。火柱は収まるものの火線は消えず、地面に残ったままである。
「あの魔法ずるいよな〜〜」
「水魔法など使えればなんとかなりますよ?」
観戦しているレオとレインの会話がアルベネロの耳に届く。
アルベネロはクレアが発動した、【這い寄る火蛇】によって、出来た火線を一瞥した後、クレアへ視線を戻す。
「かなりの魔法使いと思ってたが……ここまですごいとは思ってなかったな」
「ふふ、アルベネロ君は慧眼ね。見ただけでそこまで私の才能を……」
「いや、才能もすごいが、それ以上に、動きを制限するよう、狙った場所に魔法を発動する……何度も練習してるのがわかる」
「な、なに、急に褒めてるのよ⁉︎」
アルベネロの言葉にクレアは戸惑いと驚きを露わにする。魔法を一つ見せただけで、称賛してきたアルベネロに思わず動揺してしまっていた。
「だからこそ、俺も遠慮はしないからな」
「き、来なさい‼︎ 燃やし尽くしてあげるわ‼︎ ピラーズ・オブ・ファイア‼︎」
クレアは別の魔方陣が描かれた紙を取り出し、魔力を流せば紙に描かれている魔方陣と同じものが手の先に現れ、アルベネロに向かって、火柱が放たれる。地面に存在する火線上に入らず、避けることは不可能な程に大きい火柱に対して、アルベネロはクレアの魔方陣から火柱が放たれたとほぼ同時に右手を前へ向ける。
「ピラーズ・オブ・ファイア」
アルベネロは右手の先に魔方陣を作り出すと、クレアと同様に火柱が放たれる。【燃え上がる火柱】によって、発生した火柱同士がぶつかり合うと、周りに火の粉を撒き散らしながら、互いに消滅する。
「なにぃ⁉︎」
「すごいです……クレアさんの魔法を……」
「そこじゃないだろ⁉︎ いや、そこもだけど⁉︎ 道具なしで今、魔法使ったぜ⁉︎」
観戦していたレオは驚愕の表情で声をあげる。その声に他の生徒たちもざわつき始めてしまう。そして、目の前で魔法を相殺されたクレアの顔にも驚愕の表情が浮かんでいた。
「アルベネロ君……あなたは……」
「まあ、そういうことだ。ロックブラスト」
「ふぁ、ファイアボルト‼︎」
アルベネロは右手の先に先程とは異なる魔方陣を作り出すと、地面から石が集まっていき、人ほどの大きさはある岩に集まれば、クレアへ向かって飛んでいく。クレアも咄嗟に別の魔方陣が描かれた紙を取り出し、魔力を流し込むと、岩よりは小さい大きさの火球を放つ。火球は飛来する岩に命中し、岩を破壊するとそのまま霧散してしまう。
「フリーズウェーブ」
「ファイアーブレス‼︎」
アルベネロが魔法【凍てつく風】を放ち、白い風のように見える冷気がクレアへ迫っていく。対抗するようにクレアは魔法【燃え盛る炎の息吹】の魔方陣が書かれた紙を取り出し、炎を放てば、互いにぶつかり合い、相殺される。二つの魔法がぶつかり合った余波で地面に生えた草は一瞬で無くなり、茶色い土が露わになる。
「いい反応だな」
「ありがとう。それより、アルベネロ君の実力はこの程度なのかしら?」
「頷いても信じないだろ?」
「当然よ。ファイアーボルト‼︎」
クレアが連続で火球をアルベネロに向かって二発分、放つ。一発目をアルベネロは魔法を発動せずに左に避ける。避けることで【這い寄る火蛇】によって作られた火線にアルベネロが近づくと再度、燃え上がり、アルベネロの移動を妨げ、二発目の火球を避けづらくする。
「ウィンドストーム‼︎」
「きゃっ⁉︎」
アルベネロの発動した【薙ぎ倒す暴風】より発生した暴風が火線と共に炎を消し去る。クレアも暴風に耐えるようにスカートを押さえており、キッと鋭い視線をアルベネロに向けた。
「……わざとじゃない。いや、本当に」
「はぁ〜〜……サンドストーム‼︎ バーストファイア‼︎」
「なっ⁉︎」
風が収まり、クレアはスカートから手を離すと深呼吸をし、アルベネロとさらに距離を置くように離れれば、クレアが発動した魔法【襲いかかる砂嵐】によって、アルベネロを中心として、竜巻のような砂嵐が発生する。そして、そこに【火の矢】の魔法よりもさらに大きな火球が放たれ、砂に引火すると激しく炎上し、炎の竜巻となって、アルベネロを包み込む。
「流石にあれはやばくないか⁉︎」
「レーメ先生‼︎ 止めなくていいんですか⁉︎」
「あ、まだまだ問題ないみたいなので止めないですよ〜」
レオとレインは慌てた様子で審判をしているレーメ先生に声をかけるが、レーメ先生は慌てる様子もなく、審判を続けている。クレアの作り出した炎の竜巻にクラスメイトたち全員が模擬戦に注目していた。
「さすがに降参かしら?」
「ウォーターハザード‼︎」
「ッツ⁉︎ バーストファイア‼︎」
アルベネロは【災なる濁流】を発動し、アルベネロを中心として、全方位から大量の水が勢いよく放たれ、炎の竜巻を消し去り、その余波がクレアの元まで迫る。クレアは驚きながらも、咄嗟に【爆ぜる火球】を発動し、迫る大量の打ち水を消し去る。
「あれを避けずに耐えるなんて……」
「少し服は焦げたけどな……そろそろ、魔法もネタ切れか?」
「……アルベネロ君こそ、道具もなしに魔法を発動したのには驚いたわ。でも、道具もなしで魔法を何種類も使えないでしょ?」
「……ノーコメントで頼む」
アルベネロとクレアは互いに牽制しながら、魔法を発動する機会を窺っている。アルベネロはクレアの発動する動作に注意を払いながら放たれる魔法を、時には避け、時には魔法で相殺する。発動する魔法を全て捌かれている状況にクレアは焦りを感じ始める。
「はぁ……はぁ……」
「そろそろ降参するか?」
「するわけないでしょ。アルベネロ君……貴方に感謝するわ。ここまで私を本気にしてくれて」
「光栄だな」
「ふふ……燃え尽きなさい‼︎ ヘルファイア‼︎」
「なっ⁉︎ メイルストローム‼︎」
クレアが魔法【黄泉への炎】を発動し、現れた魔方陣から黒炎が放たれる。迫り来る黒炎にアルベネロの顔から余裕が消え、動揺しながらも魔方陣を作り出す。
アルベネロはクレアが放った黒炎に向けて、魔法【全てを呑み込む潮流】を放つ。【災なる濁流】で放った水量の倍以上はある水が発生すると、黒炎を囲み、覆い尽くすことで一瞬にして水は蒸発し、大量にあった水と共に黒炎は消える。
「お、おれと模擬戦してる時にあんな魔法、見たことないぜ⁉︎」
「たしか、上級魔法だったはずです」
「レインさん、正解です。先程、二人が使った魔法はどちらも上級魔法です」
汎用魔法の中には特異魔法に匹敵する魔法も存在しており、上級、中級、初級に分類され、【火の矢】、【岩礫】は初級。
【災なる濁流】、【爆ぜる火球】は中級。
【黄昏の炎】、【すべてを呑み込む潮流】は上級である。
「上級魔法まで使えるのか……」
「これも耐えるなんて……」
大技を放ったクレアは肩で息をし始めており、相当な疲労が蓄積していることがわかる。
一方、アルベネロは少し息が荒くなっている程度であり、すぐに呼吸も整っていく。アルベネロの様子にクレアは顔を顰め、悔しく感じてしまう。
『ヘルファイアまで相殺して、余裕があるなんて……これ以上の魔法は……もう、あれしか……』
「さすがに焦ったな……」
「はぁ……はぁ……あなたも上級魔法を使っているのに、どうしてそんなに余裕なのかしら?」
「結構、余裕はないからな? だから、そろそろ決着をつけることにした」
アルベネロの言葉にクレアは身構える。上級魔法を放たれた時点で魔法を相殺できたとしても、その後、何度も上級魔法を放たれれば、先に魔力が底をつくと理解する。そのため、意を決したクレアはレーメ先生に視線を移動させる。
「レーメ先生‼︎」
「なんでしょうか?」
「特異魔法を使わせてください‼︎」
「それは……」
クレアの言葉にアルベネロは目を見開く。特異魔法は通常、一人で発動する魔法ではなく、複数人が魔力を流し込むことで発動することができる。それほど、大量の魔力が必要になる。そのため、クレアの言葉にレーメ先生は困った様子でクレアに視線を向ける。
「クレアさん。使用を許可したとしても、あなたの残り魔力では……」
「お願いします‼︎」
レーメ先生は許可を出すことに躊躇している。通常の魔法とは異なり、特異魔法は範囲も威力も汎用魔法と比べ、次元が異なるため、訓練施設内でも重傷にはなってしまう可能性があった。また、魔力の消費量も桁違いであるため、クレアにもかなりの危険がある。
クレアの懇願する様子に驚愕していたアルベネロは苦笑いを浮かべ、クレアに視線を向ける。
「クレア、今の状態で発動できるのか?」
「当然よ。私を誰だと思ってるのかしら?」
「ははっ、それもそうだな。なら、撃って来い」
「良いのですか? クレアさんが発動した特異魔法が直撃すれば、死にはしないですが重傷を負う可能性は十分にありますよ?」
アルベネロはクレアの返答に思わず、笑ってしまう。そして、笑みを浮かべた状態で受け止めることを決意すれば、自信満々な表情をクレアへ向ける。レーメ先生はアルベネロの発言に警告するもアルベネロは臆した様子もない。
「ここまでクレアが本気なんです。なら、全力を見ないともったないじゃないですか」
「……分かりました。クレアさん。特異魔法の発動を許可します。レオ君、レインさん。私の後ろに来てください。他の皆さんも、大怪我をしたくなかったら必死に防御してください」
「「「はっ、はい‼︎」」」
レーメ先生はクレアに許可を出すと、近くで観戦しているレオとレイン、遠くで観戦していた生徒たちにも声をかける。レオとレインは二人共、慌ててレーメ先生の後ろに移動する。
「感謝するわ。だから、アルベネロ君、あなたを全力で倒すわ‼︎」
「発動が出来ないなんてオチはやめてくれよ?」
「当然よ‼︎」
アルベネロとクレアは互いに笑みを浮かべている。そして、クレアは指輪を制服から取り出し、右手の人差し指に嵌める。一方、アルベネロは右手を前に突き出す。
「行くわよ。アルベネロ君‼︎」
「来い‼︎」
「全てを灰塵に、インフェルノ‼︎」
クレアの前に魔方陣が浮かび上がる。今まで現れていた物とは異なり、赤と白のオーラが現れ、魔方陣は小刻みに震え、明滅する。
そして、震えが止まった瞬間、【氷炎地獄】が発動される。全てを凍らせる白き息吹と全てを燃やし尽くす赤き息吹という、相反するもの同士が魔方陣から放たれ、アルベネロに迫っていく。
「はぁ……はぁ……受け止めれる……ものなら……受け止めて……みなさい‼︎」
「ああ、全力で受け止める」
特異魔法を放ったクレアは魔力が枯渇したため、その場で座り込み、息を必死にしながらもアルベネロに向かって、自信満々な表情で言葉を発する。アルベネロは白と赤の息吹が迫ってくるのを見つめている。
『まさかインフェルノを使えるなんてな……さすがに驚いた』
『……?』
アルベネロはクレアの発動した【氷炎地獄】を心の中で称賛しながら、自身が発動する魔法を決めようとしていると頭の中に声が響く。
「さすがに男の意地があるよ。姉ちゃん」
頭に響く声に対して、アルベネロは苦笑いを浮かべながら答えると、前に突き出していた右手に二つの魔方陣が現れ、重なっていく。
「全てよ止まれ、コキュートス‼︎」
アルベネロが作り出した二つの魔方陣が重なると、白く輝く。そして、次の瞬間、魔方陣から光り輝く白い息吹が放たれ、白と赤の息吹とぶつかり合い、周りに散っていく。特異魔法が衝突している余波で辺りは凍り付き、溶け、また凍りつくを繰り返す。
少しの間、息吹同士が鬩ぎ合うも【零へと誘う息吹】がだんだんと【 氷炎地獄】を押し返していく。
そして、一気に【 氷炎地獄】を【零へと誘う息吹】が呑み込めばそのまま座り込んでいるクレアに迫っていく。
「私の負けね……」
クレアは迫り来る白い息吹に諦めると目を閉じる。次の瞬間、光り輝く白い息吹がクレアを呑み込み、光が収まると、そこには仰向けで倒れるクレアの姿と凍りつく地面が現れる。
「|そこまで‼︎ 勝者、アルベネロ君‼︎」
「流石に、二重は疲れるな……」
アルベネロは模擬戦開始時の余裕はなくなっており、その場に立ったまま荒くなった息を整えようとしており、疲労の色を露わにしており、クレアについては完全に意識を失っており、制服の大部分が凍り付いてしまっている。二人の様子を見ていたレーメ先生はクレアの元へ駆け寄り、容態を確認すると、今度はアルベネロの元へ駆け寄る。
「アルベネロ君は少し休憩していてください。クレアさんの意識が戻ったら、クレアさんにも休憩するように伝えておいてもらえますか?」
「わかりました……保健室に連れて行かなくていいんですか?」
「えぇ、アルベネロ君のおかげで、重傷ではなさそうなので」
「わかりました。クレアが辛そうなら、連れて行きますね」
「その時はお願いします」
レーメ先生はアルベネロへ休憩とクレアへの伝言をお願いし、レインとレオの元へ戻る。
「レオ君とレインさんは、ついて来てください」
「「わかりました」」
「観戦ばかりで全く練習していなかった、お二人には特別メニューです♪」
「「わ、わかりました……」」
レーメ先生はレオとレインを連れて、他の生徒たちが居る場所まで連れて行く。そして、レーメ先生の言葉を聞いて、二人の表情が絶望したのは言うまでもない。
「あ、もちろん、模擬戦を途中から観戦していたあなたたちも特別メニューですよ♪」
「「「……はい」」」
訂正しよう、他の生徒達も絶望することになった。レーメ先生達が離れて行くのを尻目にアルベネロは気を失っているクレアの様子を見ていた。
『さすがにコキュートスはやりすぎたか?』
アルベネロは一向に目を覚まさない、クレアのことを少し心配していると、クレアが少し顔を顰めた後、ゆっくりと目を開ける。その様子に気づいたアルベネロはクレアの元へ駆け寄る。
「大丈夫か?」
「……体中が痛くて動けないことを除けば、大丈夫かしらね」
「あはは……手を貸そうか?」
アルベネロはクレアに左手を差し出すも、クレアはアルベネロを見つめた後に息を吐く。
「……私、負けたのね」
「まあな」
「久しぶり……ここの学園に入ってからは初めてね……」
「悔しいか?」
「少しは悔しいかしら。でも、それ以上にここまで強い好敵手が現れてくれたのを嬉しく思っているわ」
クレアは満足げな表情で笑みを浮かべていた。その様子にアルベネロは思わず、見惚れてしまう。それほどまでに綺麗で明るい表情であった。
「ねぇ、アルベネロ君。模擬戦中にあなたは何度も魔法を練習してるって言ったわね。どうしてそんなことがわかるの?」
「……簡単だ。努力なしで、あんなにスムーズに魔力を流し込んで、意図した場所に魔法を発動できないからな。何度も練習したんだろ?」
「えぇ……そうよ」
クレアはアルベネロの評価を噛み締めるように何度も頭の中で反芻する。
「ふふ、あなたが初めてよ……才能じゃなくて、努力を評価してくれたのわ」
「まあ、色んな魔法が使える姿を見られたら、才能をまず評価されるだろうからな」
「そうよ。本当に……いくら努力しても全く評価なんてされないわ……」
「……初めて評価された気分はどうだ?」
「嬉しいに決まってるわ……」
クレアのは感極まって、涙を少し浮かべながらも必死に顔を背けて、アルベネロに見せないようにしていた。アルベネロも察した様子で少し視線を逸らす。
「……そろそろ動けそうか?」
「……まだ痛いけどいけそうよ。手を貸してもらえるかしら?」
「ほらっ」
「あら、ありがとう。アルベネロ君」
アルベネロとクレアの手が握り合い、アルベネロがクレアを起こそうと手を引き、当然のようにクレアも身体を起こそうと動く。そう、制服は凍りついたままの状態で……
パキッ パキッ
「「⁉︎」」
パキッパキパキパキパキキッ
制服に着いた氷にヒビが入る音が響くと、そのまま制服全体の氷にもヒビが広がっていく。通常の汎用魔法程度で凍りついた程度であれば、ローブ代わりの制服は壊れはしないが、特異魔法とあっては話が別であった。
パリィイン‼︎
ヒビが制服のほぼ全てに広がり、そして、重力に耐えられなくなったように割れると、クレアの着ていた制服の大部分が砕け散り、制服に隠された美貌が露わになる。
「「……」」
露わになったクレアの肢体。黒の下着に包まれている胸部がまず視線を誘導してくる。
下着に支えられた胸は制服越しで見える膨らみよりも大きく見える。そして、自然と視線が下に移動すればスラリと括れた腰、さらに下には黒いショーツに包まれた局部が見える。
アルベネロは思わず、顔を背けるも見えてしまった芸術品のような肢体がはっきりと目に焼きついてしまう。クレアに至っては、呆然としてしまった後、小刻みに唇を震わせる。
「き、きゃ……」
「お、落ち着けクレア⁉︎」
「お、落ち、着けるわ、わけ、み、見ない、やっ⁉︎」
「こ、ここで声を上げたらレーメ先生たちが来るかもしれないからな?」
「そ、そうね。それはもっとダメね。ええ、そうね。うん。うん……」
顔を真っ赤にして、完全に混乱していたクレアはアルベネロの言葉になんとか落ち着こうとしており、握り合っていた手を離しては恥ずかしそうにしながら、なんとか身体を隠そうと身を縮ませて、腕で身体を隠す。しかし、その行動が余計にクレアを煽情的な状態にしてしまい、アルベネロは顔を逸らすしかなかった。
「み、見ないでほしいわ……」
「あ、ぁぁ……あまりに綺麗で思わず……って何言ってるんだおれは。とりあえず、これでも羽織ってろ」
「……ありがとう」
「とりあえず、制服どうにかしないとだよな。替えとか……あったとしても寮だよな?」
「え、ええ……今はないわ」
アルベネロは動揺からか、早口で話しながら上着をクレアに渡す。身長差で上半身と局部までは隠すことができたが根本的な解決にはなっていない。
『レーメ先生を呼べばなんとかしてもらえるだろうけど……呼んだ時点でクレアの今の姿が見られるよな……』
『____』
「いや、さすがに……」
「……どうかしたのかしら?」
『____』
「まあ、そうなんだけど……」
「独り言を言ってないで、早くどうにかしてほしいわ……」
アルベネロは頭の中に響いてくる声と話しているが、クレアには、アルベネロが独り言を呟いている風にしか見えないため、ジーッとアルベネロに視線を送っていた。クレアからの視線にアルベネロは意を決したようにクレアへ視線を戻す。
「解決策は思いついた……んだが、今から起こることを誰にも言わないでほしい。頼む」
「よ、よくわからないけど、今の状況をどうにかできるならいいわよ」
「よし、なら、まずはその……俺の制服を羽織ってると、うまくいかないから……」
「それって……//」
とても申し訳なさそうにしながらアルベネロはクレアから視線を逸らしながら羽織っている制服を脱ぐようにお願いする。クレアは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯くも、少し顔を上げて、アルベネロを見つめる。
「本当に必要なことなのかしら?」
「も、もちろん……」
「はぁ……わかったわ」
クレアはため息を吐くと羽織っていたアルベネロの制服を脱ぎ、アルベネロへ返す。アルベネロは顔を逸らしてはいるが視線の端に映るクレアの肢体が見えてしまい、より、顔を逸らす。
「よし、なら、目を閉じていてくれるか? 開けてても問題ないんだが、一応な」
「ええ、わかったわ」
クレアが目を閉じたのをアルベネロは確認すると、可能な限りクレアの美貌を直視しないようにしながら右手を向ける。そして、息を吐き、目を閉じ、再び目を開けると、眼の瞳孔周りに虹色の波が現れており、時間と共に色は変化していく。
「クロノブレイク」
漆黒の魔方陣がアルベネロの右手の前に現れ、【巻き戻る時間】が発動される。
そして、次の瞬間には砕け散った制服の欠片がどこからともなく現れ、クレアの身体に集まっていき、制服の形に戻っていく。氷も同様に集まるがすぐに消え去り、制服は元通りになる。
「ふぅ……もう目を開けても……って、目を開けてたのか」
「アルベネロ君……その目……それにその魔法……」
「はぁ……」
アルベネロは魔法を発動し終えたので、クレアに声をかけるが既にクレアは目を開けており、驚愕の表情でアルベネロを見つめていた。アルベネロは諦めた様子で目を閉じ、再度、目を開ければ、瞳の色は元に戻る
「クレア。秘密だからな?」
「わかってるわ……好敵手なんて言ったけど、あなたと私じゃ、天と地の差がありそうね……どうしたら、そんなに強くなれるのかしら?」
「……言えるのは、俺はまともな方法で強くなっていない。そんな強さをクレアは求めるな」
「……」
クレアからの質問にアルベネロは少し悲しげな表情で答える。その様子にクレアは追及はせず、アルベネロは気を取り直したようにクレアに手を差し出す。差し出された手をクレアは掴めば、今度こそ、立ち上がったところで、レーメ先生が歩いて来る。
「アルベネロ君、クレアさん。もう、動けそうですか?」
「「はい」」
「ふふ、それならよかったです。ちょうど他の生徒さんたちが全員、倒れちゃったところだったので……」
何事もないようにレーメ先生は笑顔で言う。アルベネロとクレアはレーメ先生の後ろを確認すると、レオとレインも含めて、生徒全員が疲れ切った表情で地面に倒れ伏していた。一体、どんなことをされたのかを確認する気力はアルベネロにも、無論、クレアにもなかった。
「お二人とも、素晴らしい模擬戦でした。これからは二人で訓練して行く方が成長に繋がりそうですね。あ、ただ、特異魔法は基本、許可は出さないので、そのつもりでお願いしますね」
「「わかりました」」
「それでは、授業もちょうど終わりです。みなさん、教室に戻ってくださいね。遅刻はダメですよ?」
レーメ先生は笑顔で言う。倒れ伏した生徒たちはフラフラな状態ながらも立ち上がり、訓練棟から教室へ戻るのであった。アルベネロも教室へ戻ろうと思えば、裾をクレアが握ってくる。
「さっきのことは秘密にするわ……だから、その、私のあんな姿を見たことは……忘れなさいとは言わないけど、周りに言わないでよ?」
「言わないから安心しろ。それに言ったら、後ろから刺されそうな気もするしな。だから、クレアも誰にもさっきのことは言わないでくれよ?」
誰かとは言わないが後ろから刺されそうと思いながら、クレアに口止めする。クレアは頷くとレオとレインがフラフラになりながらも二人の元へやってくる。
「おい、アル‼︎ 色々、聞きたいことだらけだぜ⁉︎」
「アルベネロさん、クレアさん、お疲れ様でした」
「……教室に戻るか」
「ふふ……そうね」
「無視はひどくないか⁉︎」
「わかったわかった。ちゃんと後で答えるから、な?」
アルベネロはレオの質問に答えていきながら、四人で訓練棟を後にする。
そんな中、まだ、地面に倒れ伏していた男子生徒の一人がアルベネロの背中を睨んでいた。
「アルベネロ……僕の女神に……」
四人はそんな視線に誰も気づくことはなく、クレアとの模擬戦を終えたアルベネロは慌ただしい学院生活を過ごしていくのであった。
ここまでお読みしていただき、誠にありがとうございます。
次は絵師様がクレアのイラストを描いてくださいましたので、外伝な感じのを書こうと思います!
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