~豪華過ぎる魔術学院~
教室を後にした、アルベネロはレーメ先生と共に学院内にある寮へ向かっていた。城と思えるほど敷地も建物も大きいため、学院内には学生寮が用意されており、大半の生徒が寮生活をしている。
「どうですか、特科クラスは?」
「話しやすい人が多かったです。勝手な想像ですが才能を自慢してくる人が居るだろうと思ってました」
「そうですね。きっと、他のクラスだと居るでしょう。ただ、特科クラスでは一番才能のある生徒が自慢しない子ですから」
レーメ先生の質問に答えながら歩いて行き、何階か移動すると、廊下の先に大きな魔方陣が描かれた壁が現れる。アルベネロは行き止まりとは思えないため、レーメ先生の後を追うように壁の前へ移動する。
「ここが寮に移動するための魔方陣です。魔力を流し込むと中に入れる仕組みなのですが、学院と魔法契約を行った人しか入れない仕組みになってます」
「寮に行ける魔方陣はここだけですか?」
「はい。ここだけです。さっそく、魔力を流してください。中に入ったら私が移動するまで待っていてくださいね」
「わかりました」
アルべネロは頷くと、壁に魔方陣に指を向けては魔力を流し込んでいく。だんだんと魔方陣の一部が輝いていき、魔方陣全体が輝くとアルベネロはその場から消える。それを確認したレーメ先生が続くように魔力を流し込んでは同じようにその場から消えた。
「転移するなら教えて欲しかったです」
「驚いてくださいましたか?」
「突然、目の前の景色が変わったら驚きますよ」
「ふふ、それは言わなかった甲斐があります。それと、魔力を流していれば複数人で同時に移動できますよ」
「わかりました」
アルベネロは突然の転移に驚いてしまえば、その様子にレーメ先生は楽しそうに微笑んでいた。移動した先はエントランスになっており、絨毯が敷かれ、天井にはいくつものシャンデリア、棚には高級感溢れる調度品が置いてある。
「すごい……としか言葉が出ないですね」
「学院長の意向です。大切な生徒さん達に可能な限り、過ごしやすい環境を提供したいと……」
「頑張り過ぎだろ……」
アルベネロは想像以上の豪華さに思わず敬語を忘れてしまいながら、エントランスを進んでいくと、広間に到着する。いくつものソファー、テーブルがあり、壁際の棚には本が置かれている。
「ここが談話室です。いつでも使って問題ないですが、ここで寝ちゃうのはダメですよ?」
「過ごしやすそうなので寝てる生徒も居そうですね」
「寒い日に暖炉を焚いている時は寝ちゃう生徒が多かったですね」
「やっぱり」
「ふふ……そろそろ、アルベネロ君の部屋です。部屋の場所を忘れないようにしてくださいね」
アルベネロとレーメ先生は談話室の奥に二つある扉の内、片方を開ける。扉を開けた先には長い廊下、いくつかの階段、そして、たくさんのドアが一定間隔に存在していた。
「まあ、全校生徒のほとんどが住んでるなら、これだけ部屋がありますよね」
「全て部屋が埋まっているわけではないですよ。あ、セキュリティーは安心してください。ちゃんと魔法で防犯対策もしてますし、防音対策もされてます」
レーメ先生の説明を聞きながら、アルベネロはドアの一つを見る。そこにはドアノブと鍵穴のある木製のドアであるが魔法で強化されていると言われれば、耐久も鋼鉄並みになっているのだろうと想像できた。
「先に部屋の鍵を渡しておきます。無くすと用意に手間と時間がかかるので無くさないようにしてください。ただ、無くしたらすぐに言ってくださいね」
「わかりました。気をつけます」
「お願いします。あ、ここがアルベネロ君のお部屋です」
レーメ先生が扉を過ぎてすぐ立ち止まったため、丁度、アルベネロが扉の前に立ち止まる状況になる。そして、アルベネロはドアの鍵穴へ受け取った鍵を挿して、回す。
カチン ガチャ
「どうぞ。中を見てください」
「その前に……広くないですか? 異様に?」
「あ、ドアを起点に空間魔法が発動してるので、二倍程、広くなっています」
「……魔術学院が全部こんななのか……それとも、マーリンがすごいのか……」
アルベネロは高等魔法が寮の部屋に使われている事実に驚きながら中に入る。自炊するためかキッチンがあり、お風呂も完備されていた。また、リビングと寝室も分けられており、想像以上の豪華な設備に思わず、唖然としてしまう。
「制服はクローゼットに五着ほど入ってます。教材はそこのテーブルに置かれている物です」
「結構、ありますね」
「魔法以外にも、一般常識などの教材も置いてあります。授業のスケジュール表も置いてるので、確認してくださいね」
レーメ先生は部屋の説明を終えると、アルベネロへ一礼してから部屋を出る。アルベネロは部屋を見回した後、寝室に置かれてあるベットに鞄を置き、そのままベットに座る。ベットも高級であることがわかる柔らかさであった。
「豪華過ぎだろ……」
部屋を見回り、呆れながらアルベネロは感想を呟くと、ベットから降りる。そして、アルベネロが右手を前に出すと、手の先に魔方陣が現れる。
「さっさと荷解きするか」
アルベネロはさも当然のように魔方陣から荷物を出して、備え付けの家具に収納していくのであった。
そして、日が沈み始めた頃、荷解きを終えたアルベネロは空腹を感じ、寮部屋から出るとに鍵を掛ける。
「あら、隣の部屋だったのね」
「クレア……光栄に思っておこうか?」
「殊勝な心掛けね。褒めてあげるわ」
アルベネロが部屋を出ると丁度、制服姿のクレアが扉にある鍵穴へ、鍵を挿し込もうとしていた。
クレアはアルベネロが隣の部屋から出てきたことで鍵穴に鍵を挿したまま手が止まる。
「はは……制服姿なんだな。今、授業帰りか?」
「そんなところよ」
クレアは授業帰りと答えるも少し誤魔化していると感じるもアルベネロは特に追及することはなかった。
「……そうか。ゆっくり休んでくれ」
「言われまでもないわ。ところで、アルベネロ君は今から出かけるのかしら?」
「ああ、食堂にな」
「なら、案内してあげるわよ? 私も行くから」
「それはかなり助かるな。学院のどこに何があるか、今日、まだ見終わってないんだ」
クレアの提案にアルベネロは渡りに船と、すぐに了承する。クレアは鍵穴に挿しいた鍵を回すと、扉を開けて中に入っていくと、数分後には制服姿のまま、部屋から出てくる。
「着替えなくていいのか?」
「あら、お気遣いありがとう。アルベネロ君にいい事を教えてあげるわ。寮以外だと、たまに流れ魔法が飛んできて、服が汚れたりするから制服のままがいいのよ」
「そ、そうなんだな。おれも制服に着替えるべきだったか……」
「今日は流れ魔法が飛んでこないこと祈ってることね」
アルベネロはクレアの言葉に軽く口元を引き攣らせながら、魔術学院なのだから魔法が飛んでくることはあると納得しようとする。しかし、日常茶飯事にどこからか、魔法が飛んでくることに恐怖を少し覚えた。
「早く向かうわよ。遅くなると視線が痛いから」
「視線?」
「すぐにわかるわよ」
「そうなのか……?」
アルベネロは歩き始めたクレアの隣に並んで進んでいく。すれ違う別クラスの生徒に軽く会釈しながら歩いていると、クレアが扉の前で立ち止まる。その扉は学院長室に移動するために開けた扉と酷似しており、〖室名札〗には〖食堂〗の文字が表示されている。
「この扉の使い方は知ってるのかしら?」
「レーメ先生から教えてもらってる」
「なら、問題ないわね。さっさと、行くわよ」
クレアはアルベネロに確認した後、扉を開けて中は入っていく。
『面倒見がいいな……』
アルベネロは扉の中へ進んでいくクレアの後ろ姿を眺めるながら、心の中で、クレアは面倒見のいい性格なのだと思う。
そして、扉を通り抜けた先にはたくさんの丸テーブルが置かれており、少し遠くにはビュッフェ形式で料理が並べられている。
「かなり……罪悪感があるな」
「……?」
アルベネロが思わず呟いた言葉に、クレアは不思議そうな表情をする。
アルベネロが罪悪感を抱く理由は最高峰の魔術学院に入学した方法がマナの推薦であり、入学費用などは高額だが、全て、マナが出してくれることになっている。
つまり、簡単に言えば、無料で豪華な部屋を使え、料理を味わえることを気にしていた。
「いや、なんでもない。さっさと取りに行かないか?」
「あぁ……アルベネロ君、先に行っていいわ。私は勝手に用意する……はぁ、用意してくれる人達がいるから」
「メイドか何かか?」
「魔術学院にまで連れて来ないわよ」
クレアが諦めた表情をしていると、丸テーブルに座っていた女子生徒数人がアルベネロとクレアの方向を見る。クレアを見た女子生徒は慌てて立ち上がると何人かは料理の方へ走っていき、三人がクレアとアルベネロの元へ走ってきた。
「「「お姉様‼ お席はこちらです‼」」」
「とりあえず……妹って訳じゃないよな?」
「話すと長くもないけど、聞きたいかしら?」
「……遠慮しとく」
「「「お姉様? この男とはどんな関係なのですか?」」」
「クラスメイトよ。今日、転校してきたばかりのね」
「「「そうでしたか‼」」」
「その……案内ありがとうな」
「いいわよ、このぐらい。私はこの子達とご飯を食べるわ」
「ああ。わかった。またな」
クレアは女子生徒たちに連れて行かれており、クレアも慣れているのか、ため息を吐きながらも抵抗はしていなかった。アルべネロはクレアにお礼を言うと料理を数種類、お皿に盛り、空いている丸テーブルに座った。
「クレアも大変そうだな」
料理を食べながら、チラリとクレアが連れていかれた方向を見ると、さらに取り巻く女子生徒たちが増えており、野次馬まで何人か居るほどになっていた。
「視線が痛いってこういうことか……」
「同席、良いですか?」
「んん? ああ、レインか。別に許可なんて求めなくてもいいからな?」
「ありがとうございます」
レインがアルべネロの隣に座る。アルべネロが座る丸テーブルには二人以外は座っていない。ちなみにレインのお皿には溢れんばかりにケーキやフルーツなど甘味が乗っていた。
「すごい量だな……」
「糖分、大事です」
目をキラキラとさせながらレインはケーキを食べていく。アルべネロは少し苦笑いをしながらも食べていけば少しして、互いの皿から食べ物は無くなっていた。
「それで、何か話でもあったか?」
「はい。アルべネロさんは学院長に推薦されたと言うことで、何か特別な力があるのか気になりました」
「あぁ……」
レインの質問にアルべネロはどう答えるか悩んでしまう。固有魔法や眼については話すことができないため、どの部分を説明すればいいかと思案していた。
「そうですね……アルべネロさんの能力について聞いて、私が何も教えないのは不公平と思います。なので、私の能力について先に教えますね」
「え、あぁ……わかった」
『逃げれなくなった……』
アルべネロは能力について話すつもりはなかったがレインに先手を打たれてしまう。話さないこと自体は可能だが、クラスメイトになる相手と無駄な壁を作りたくはなかった。
「私の能力は知覚魔法です。今はまだ、全世界を見ることはできないですが、この学院内であればどこでも見ることができます」
「それって……固有魔法だよな?」
「その通りです。似た効果は汎用魔法にもありますが、私の知覚魔法、その中の千里眼はよほど高等な阻害を行わないと防ぐことはできません」
「すごい力だな……」
「はい。なので、今、クレアさんが穿いている下着の種類、色も見えます」
「何見てるんだよ⁉︎」
「ちなみに今日はレースのピンクです。可愛いですね」
「いや、教えなくていいから‼︎」
「おかしいですね。この情報で大抵の男子は喜ぶのですが……やはり、女性に興味が……」
レインの発言にアルべネロは慌てて、近くに聞いている生徒がいないか確認する。運よく、近くに生徒は居なかったため、アルべネロはホッとする。
「レイン。勝手にそんなことを言ったらだめだろ? いや、言うな」
「そうなのですか。では、お詫びにクレアさんには、私は白と言っておきます」
「……クレアも大変だな」
「私の能力について教えました。アルべネロさんの能力を教えてください」
レインはジッとアルべネロを見つめる。身長差があるため少し上目遣いで見つめる形になっており、前屈みにもなっているため、ハッキリとした膨らみが強調されている。
「わかった。ただ、ちゃんと見てろ?」
「何を――――」
レインは何を見ればいいのかと確認しようとするが、アルべネロが魔導具無しで、小さいながらも魔方陣を手に作り出す。
レインは驚いた表情で出かけていた言葉を止めると、他の生徒に見られる前に魔方陣をアルべネロは消す。
「これで納得してくれたか?」
「はい……」
「それならよかった。俺はそろそろ寮に戻るけど、もう食べないなら、皿を片づけとくからな?」
「ありがとうございます……」
アルべネロは二枚の皿を重ねると席を立ち、皿を返却口に置き、食堂を後にする。レインはまだ席に座ったまま、何か考えている様子であった。
「……今、思ったが男女の寮、場所を分けてないのか」
アルべネロは男女の寮が同じ場所であることに疑問を感じるが、マナの意向だろうと納得して、軽くため息を吐きながら寮へと戻るのであった。
そして、席に座ったままのレインもようやく、食堂から出てはアルべネロよりは遅れて寮の自室へ戻るために廊下を歩く
「うぅ……見えなくなりました。アルべネロさん……やっぱり、さっきのだけがすべてじゃないんですね」
レインは【千里眼】によって、アルべネロの後を追い、部屋の中を覗こうとしたが数秒後、魔法が弾かれ、見れなくなってしまう。
まだまだ成長途中とはいえ、固有魔法を弾くほど強力な魔法をアルベネロが部屋に発動したことをレインは理解する。
「より興味が湧きました。明日から楽しみです♪」
レインはアルべネロの底知れぬ能力に、何かを期待しながら、楽しそうに食堂を後にして、廊下を歩くのであった。
ここまでお読みしていただき、誠にありがとうございます。
次回から学院生活が開始する予定です。戦闘とかも頑張って書いていこうと思います!
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