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~最初のふるい分け~

 お昼休みを迎え、アルベネロ、クレア、レイン、レオの四人は親善試合に応募するため、生徒会室へ向かった。四人は朝のやり取りで応募するためには何かしらの条件があると、予想し、誰が最初に挑戦するかを相談していれば、生徒会室前に到着する。

 生徒会室前には、参加希望者の名前とクラスを書くために用意された、一冊の本が浮いており、虹色の鉛筆らしきものが本についていた。



「先客はいないみたいだな」

「よし‼︎ 俺から行くぜ‼︎ これで書けってこと……だよな⁉︎」


 

 生徒会室の周りには誰もおらず、最初に書くことになっている、レオが本の前に立つと、鉛筆に指を差し、他の三人に意見を求める。

 

 

「そうだろうな」

「でも、これって……吸魔石(きゅうませき)じゃない?」

「確かにそうですね……ペン代わりとしてもインクはありませんし……」


 

 鉛筆らしきもの正体に気づいた、クレアとレインだが、書くためのインクも無いため、どう書けばいいのかと悩んでいる様子である。

 ちなみに、吸魔石(きゅうませき)とは、魔力を吸収することに特化した石であり、注がれる魔力の量と質で色は紫、藍、青、緑、黄緑、黄、橙、赤と順に変化する。なお、魔力の吸収が止まると、すぐに吸収された魔力は霧散(むさん)していく。

 

 

 

「とりあえず、魔力、流すか‼︎」

「そうですね。レオ君、頑張ってください」

「そうね。本についてるってことは、何か意味があるはずよ」

「……」

 

 

 本に鉛筆型の吸魔石(きゅうませき)がついている理由がわからず、レオは魔力を吸魔石(きゅうませき)へ注ごうと考え、クレアとレインも賛成する。

 そんな中、アルベネロだけが本と鉛筆を見つめており、何かを考えている。

 

 

『本と吸魔石(きゅうませき)の鉛筆……吸魔石(きゅうませき)に魔力を注いだとしても、文字は書けない。なら、考えられるのは……』

 

 

 アルベネロが心の中で本に名前を書く方法を推理していれば、レオが魔力を注ぎ始める。


 

「き、来たぜ‼︎ 遂に赤だ‼︎」

「おめでとうございます。ティーリア先生の特訓が効いたのかもしれませんね」

「あら、赤くできたのね。おめでとう」

「やっと、できた‼︎ ここまで長かった‼︎」



 

 レオは魔力を鉛筆型の吸魔石(きゅうませき)へ注ぎ込めば、色が赤まで変化し、その結果にレオは右手を上に(かか)げ、喜びを表現する。

 レオは学院襲撃事件まで、吸魔石(きゅうませき)を橙色にまでしか変化させることはできず、悔しい思いをしていた。しかし、今回、赤色まで変化させることに成功し、今までの努力が報われたと、かなりの喜びようであった。

 

 

 

「これでクレアさんにかなり追い付けたはずだ‼︎」

「それは置いておいて、その状態で名前が書けるのか試してくれるかしら?」

「おう‼︎ 試してみるぜ‼︎」

 

 

 赤色まで変化させることに成功し、意気揚々なレオ。一方、クレアは本に文字を書くことが可能なのか確認するためにレオを(うなが)す。

 レオは(うなが)されては、本を開き、空白の一ページへ、魔力を流し込み続けながら吸魔石(きゅうませき)の先端を押し付ける。

 

 

「ダメだ‼︎ 全く書けない‼︎」

「まあ、そうですよね。インクも何もないですから」

 


 レオが何度、鉛筆型の吸魔石(きゅうませき)を動かしても、字を書くことはできず、筆跡(ひっせき)すら残ることはなかった。その結果にレインは不思議に思うことなく、納得している様子で、頷いている。

 

 

「なるほどな」

「おっ⁉︎ 何かわかったか⁉︎」

「確証はないんだが……吸魔石(きゅうませき)に魔力を注がずに試してみたら、どうだ?」

「よし‼︎ わかった‼︎」

 

 

 何かに気づき、助言を送る、アルベネロ。レオは助言を受け、鉛筆型の吸魔石(きゅうませき)に魔力を注ぐことを()めれば、すぐに魔力が霧散していき、赤、橙と色が変化していく。

 

 

「おお‼︎ 書けてるぜ‼︎」

「アル、これって……」

「ああ。これで名前の書き方がわかったな」

「少し面倒ですが、これで参加は問題ないですね」

 

 

 先端を本に押し付けると、文字を書くことができたため、レオは驚きながらも名前とクラスを書いていく。

 クレア、レインは文字が書くことが可能になった理由に気付いた様子で、アルベネロも推理が正しかったと満足そうに頷く。

 

 

「よし‼︎ 書けたぜ‼︎」

「一回で書き切るには赤ぐらいまでは必要になりそうですね」

「注ぎ直せるだろうから、心配ないだろう。今度は誰が書く?」

「次は私が書きますね。アルベネロさんとクレアさんは心配ないでしょうし」


 

 レオは本に名前とクラスを書き終えると、満足そうに本の前から離れる。

 そして、今度はレインが名前を書くことになると、レオから鉛筆型の吸魔石(きゅうませき)を受け取り、魔力を注ぎ始める。

 

 

「あっ、私も橙色まで変わりましたね」

「あら、確か、前は黄色だったわよね?」

「はい。強くなれてるみたいでよかったです♪」

 

 

 レインも、吸魔石(きゅうませき)の色で自身が成長していることが目に見えて分かり、嬉しそうにする。

 

 

「書き間違えないようにするのよ?」

「わかってます♪」

 

 

 クレアに心配されながら、レインは魔力を注ぐのを()める。そして、本に名前とクラスを書き始めれば、途中で手を止め、吸魔石(きゅうませき)に魔力を注ぎ込んでいく。

 

 

「何で急に書けるようになったんだ?」

「少しは自分で考えるのも大事じゃないかしら?」

「ぐはっ……正論過ぎて反論できねぇ」

 

 

 レインが名前を書いている、一方で、レオは突然、文字が書けるようになった理由が分かっておらず、二人に聞いてみると、クレアから自分で考えるように(さと)され、落胆(らくたん)しながらも自分で考え始める。

 

 

「はい♪ 書けました♪」

「これでレインも参加できたわね。次は私が書いてもいいかしら?」

「ああ。俺は最後で大丈夫だ」

 

 

 無事に本へ名前とクラスを書き終えた、レイン。残るはアルベネロとクレアだけとなり、先にクレアが応募に挑戦することになる。参加方法が既に判明しているため、レインは心配する様子もない。

 

 

「クレアさん、どうぞ♪」

「ありがとう」

「クレアさんは当然、赤ですし、一回出かけるでしょうか?」

「どうかしら。挑戦してみるわ」

 

 

 本の前に立つと、レインから鉛筆型の吸魔石(きゅうませき)をクレアは受け取り、右手に持つ。

 そして、吸魔石(きゅうませき)へ魔力を注いでいけば、すぐに赤色へ変化していく。

 

 

「待った」

「ひゃっ⁉︎」

 

 

 クレアが魔力を吸魔石(きゅうませき)に注いでいると、突然、アルベネロが静止する。クレアは思わず、驚いてしまい、魔力を注ぐことを止めれば、すぐに無色へ戻っていく。

 

 

「ど、どうしたの?」

「クレア、試しにペン無しで試してみないか?」

 

 

 アルベネロへ体を向けて、何事かとクレアは確認すれば、鉛筆型の吸魔石(きゅうませき)無しで本へ名前とクラスを書くことを提案される。

 

 

「無しでって……可能なの?」

「ああ。この本に文字を書く原理はわかってるだろ?」

「ええ。でも、どうしたら……」

「そうだな……」

 

 

 

 道具無しで書く方法をクレアは考え始めると、アルベネロは答えを伝えるかヒントを伝えるか悩み始める。

 

 

「クレア……魔方陣(まほうじん)を書くのは慣れてきたか?」

「ええ。まだまだ時間が掛か……なるほど。そう言うことね」

 

 

 アルベネロの言葉に何かを(さっ)し、クレアはペンを本に引っ掛けると集中するように空白の一ページを見つめる。

 

 

「……」

「アルベネロさん。クレアさんは何をしてるんですか?」


 

 レインはクレアが空白のページを見つめ始めたため、隣にいる、アルベネロにどういう状況なのかを質問する。

 

 

「直接、本に名前とクラスを書こうとしてるんだ」

「……なるほど。でも、かなり魔力が必要になりそうですね」

「後は魔力を均等に注ぎ込み続けないと文字の太さに差が出たり、(かす)れたりするだろうな」



 アルベネロの説明を聞き、レインはクレアが何をしようとしているのかをすぐに理解すると、アルベネロと一緒に見守る。

 

 

「あっ、文字が……」

「問題なさそうだな」

「……」

 

 

 本に文字が書かれ始めたため、後ろからアルベネロとレインが本を覗いているが、クレアは集中しているようで、気づいていない様子である。

 

 

「本当に書けるんですね」

「原理はレインもわかってるんだろ?」

「はい。でも、私はクレアさんみたいには出来ないです」

 

 

 レインは書かれていく文字を眺めながら、今の自分には出来ない高度な技能だと理解する。

 

 

「はぁ〜〜……書き終わったわ」

「やり切ったな」

「さすが、クレアさん」

 

 

 大きく息を吐き、本の前から離れる、クレア。開いていたページには名前とクラスがしっかりと書かれており、(かす)れている様子もない。

 


「ダメだ‼︎ 何で書けるんだ⁉︎」

「レオ君、まだ、考えていたんですか?」

「おう‼︎」

「それで、まだ、わからない、と?」

「お、おう……」

 

 

 クレアがやり切った様子であるが、その一方、レオは本に文字が書けるようになった理由が未だに分かはなかったようで悔しそうにしており、正反対の状況であった。

 

 

 

「答えを教えてあげてもいいですよ?」

「悔しいが頼むぜ……」

「わかりました」

  

 

 答えがわかっていない、レオへ、レインは答えを教えて欲しいか、確認すれば、悔しそうな表情ながらも頷く。

 

 

 

「まず、この本は魔力を吸収する素材……魔法契約するときの紙です。この紙は魔力がないと何も書けないことで知られています」

「マジか⁉︎ でも、なんで、あの鉛筆で書けたんだ?」

吸魔石(きゅうませき)に注がれた魔力が先端から出ていくようになっていたからです」

「そうか。だから、魔力が先から出てる間だけ、文字が書けたんだな‼︎」

「その通りです」

 

 

 

 レインから答えを教えてもらい、レオは納得したように頷く。


 

「ちなみにクレアさんは道具無しで同じことをしてました」

「マジか⁉︎ 嘘だろ⁉︎」


 

 道具無しでクレアは本へ名前とクラスを書いた事実に、レオは信じられないと言わんばかりに動揺する。

 

 

「きゅ、急に寒気が……」

「何が、嘘、なのかしら?」

「ひぃ⁉︎」

 

 

 レオは動揺していると、突然、寒気を感じた、直後、怒りのこもった声が聞こえ、声の方向へ視線を向ける。

 そこには、笑顔で立っている、クレアの姿があった。しかし、誰の目から見ても、機嫌が良さそうには見えず、恐怖を感じるほどに凄まじい威圧感を放っており、レオは悲鳴のような声が出てしまう。 

 


「ねぇ、教えてくれない? 何が、嘘、なのかしら?」

「そ、それは……」

「本当に燃やすわよ?」

「本当にすいませんでした‼︎ 調子乗りました‼︎」

 

 

 

 レオは冷や汗を流しながら、何とか言い訳を考えるが、クレアは発言を待つことなく、威圧する。次の瞬間には、レオが頭を勢いよく下げ、クレアへ謝罪するのであった。

 

 

「分かればいいのよ」

「はい……」

「さっ、次はアルの番ね♪」


 

 レオからの謝罪に、クレアは許してあげれば、先ほどまでの威圧感が嘘のように消え、アルベネロへ満面の笑みを向ける。

 

 

「ふぅ〜〜……腰、抜けるかと思ったぜ……」

「アルベネロさんと付き合いだしてから、加減がなくなってる気がしますね……」


 

 クレアの意識がアルベネロに向いたため、安堵するように大きく息を吐く、レオ。また、レインも、クレアが放っていた威圧感が無くなり、安心した様子である。

 そして、今から名前を書くであろう、アルベネロへ視線を向ければ……

 

 

「こんにちは。騒がしいと思ったら、クレア、あなたでしたか」

「あら、エリィ。中に居たのね」

「生徒会長ですから」

 

 

 突然、生徒会室の扉が開けば、エンリエット会長が出てきては、挨拶をする。

 クレアは生徒会室からエンリエット会長が出てきたことに少し驚いている様子で挨拶を返す。

 

 

「騒いで、申し訳ありません」

「本当、すみません‼︎ それと、こんにちは‼︎」

「すみませんでした」

「いえいえ。昨日の夕方から、騒がしいですから、大丈夫ですよ」



 アルベネロ、レイン、レオは騒いでしまったことを謝罪すると、エンリエット会長は笑顔で許すと、アルベネロへ顔を向ける。

 

 

「あなたが噂の転校生さんですね?」

「ああ……はい。初めまして。アルベネロです。ちなみにどんな噂を聞いたんですか?」

「そうですね……学院長の恋人とか」

「……レイン?」

「私じゃないです‼︎」 

 

 

 エンリエット会長へ自己紹介をした、アルベネロ。どんな噂が流れているのか質問すると、以前にレインから質問されたことだったため、視線を向ける。レインはすぐに(さっ)すると、慌てて自分ではないと弁明する。

 

 

「本当?」

「本当です‼︎ だから、魔方陣(まほうじん)を向けないでください⁉︎」

「ふふ、この様子だと、噂は嘘みたいですね」

「当たり前でしょ‼︎ アルの恋人は私よ‼︎」

「……えっ?」

 

 

 レインはクレアが魔方陣(まほうじん)を向けていることに気づき、必死に弁明しており、その様子にエンリエット会長は噂は嘘であると思っていれば、突然の新情報に唖然(あぜん)とする。

 

 

「あっ……」

「……まさか、あなたに先を越されてしまうとは、思わなかったです」

「わ、私も思ってなかったわ」

「何はともあれ、おめでとうございます。親友として、応援してます」

「あ、ありがとう……//」

 

 

 クレアが失敗したと思った時にはすでに手遅れであったが、エンリエット会長は祝福してくれれば、照れた様子で顔を赤くする。

 

 


「いえいえ。それでは、今から馴れ初め話を聞かせてください」

「えっ?」

「アルベネロさんも一緒に。中で話しましょう」

「はっ?」

「あ、お二人も参加しますか?」

「「教室に戻ります」」

「わかりました。さっ、行きましょう」

「ちょ、ちょっと、待っーーー」

「きゅ、急すぎ、エリーーー」

 

 

 

 アルベネロとクレアの腕を掴んでは、生徒会室内へ連れ込もうとする、エンリエット会長。レインとレオは逃げるようにその場から離れていき、中へ連れ込まれていく二人を少し離れた場所から見送るのであった。

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