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~二強の参戦~

 親善試合の詳細が発表され、気合十分の生徒たちが我先にと、行動を開始する。

 そんな中、クレアはアルベネロとティーリア先生の協力で魔力操作の練習を行うが、ティーリア先生が用意した特製ドリンクによって、魔力操作の技術は向上したものの、湯気が出てしまうのでは思えるほどの恥ずかしさに襲われる結果となるのであった。

 

 


「ふぅ……」

「落ち着いたか?」

「ええ。何とか……それで、私が飲んだドリンクには、どんな効果があったんですか?」


 

 クレアは何とか気持ちを落ち着かせるとソファーに顔を埋めている体勢から身体を起こし、特製ドリンクの中身をティーリア先生に確認する。

 

 

「アー君の魔力を抵抗なく身体に染み込ませる効果があるわ♪ 全部、飲んでくれたら効果は永続だったけど……二人とも、残りも飲んじゃう?」

「「結構です」」

 

 

 特製ドリンクの効果をティーリア先生は話しながら、テーブルに置かれた二つのコップを魔法で浮かせて、残りも飲むか確認すれば、アルベネロもクレアも、即、拒否する。

 


 

「あら、残念♪ 全部飲んでくれたら、すぐにクレアちゃんを強くできたのに」

「そ、そうなんですか?」

「ええ♪ かなりアー君に近づけると思うわ♪」

「……ちなみに、さっきみたいな効果はーーー」

「それは、もちろん♪」

 

 

 

 ティーリア先生からの甘い言葉。クレアの心は揺れ動くも、永久にあの状態が続くと考えれば、顔が熱くなるのを感じながら冷静になる。

 

 

 

「やっぱり、飲むのは遠慮(えんりょ)しておきます……」

「うふふ♪ いつでも作ってあげるから、覚悟が決まったら、遠慮なくね♪」

「は、はい……//」



 クレアの言葉に、ティーリア先生は満足げな表情で頷くと、宙に浮く二つのグラスを台所へ移動させて、テーブルの上を空ける。



「ちなみに、どうして、すぐに強くなれるんですか?」

「クレアちゃんの身体をアー君の魔力に順応させて、魔力の量と質を高めるからよ♪」

「……私の常識がどんどん壊れて行くのを感じます」



 通常、他人の魔力をそのまま身体に受け入れることはできず、何もしなくても自然に自身の身体に馴染(なじ)むように魔力は変化されてしまう。

 しかし、特製ドリンクを飲めば、体質が変化し、注がれる魔力に順応することが可能となり、今回の場合は、アルベネロの常識離れした魔力量と質にクレアが順応することで、アルベネロ程ではないが、魔力量と質が飛躍的的に向上すると説明され、今までの常識が通じない現状にクレアは頭を軽く押さえるのであった。



 

「それじゃ、今日の練習はここまでにして……二人は親善試合には参加する予定は?」

「俺は理由がなかったら、出場する気はないな」

「私はアルが出場するなら、参加するつもりです」


 

 ティーリア先生は二人へ親善試合への参加意思を確認すると、どちらも参加に積極的ではないことがわかる。

 

 

「アー君はともかく、クレアちゃんも乗り気じゃないのね?」

「親善試合に参加しても、アル程、強い人に会えると思えないですから」

「なるほどね……」

 

 

 強者を求めるクレアの言葉。アルベネロという強者と比べれば、ほとんどの生徒が弱く見えてしまうのは必然であった。

 

 

「でも、親善試合に出場して、結果を残せば、トリニティシュプリームに参加できる可能性は上がるわよ?」

「確かにそれは魅力的ですが……」

「……」


  

 

 トリニティシュプリームへの出場はクレアも目指す目標の一つであり、親善試合に出場することが近道になることは明白である。

 しかし、クレアは渋るような表情で参加しようとしない。その様子にティーリア先生は違和感を抱き、注意深く仕草を観察する。

 

 

 

「もしかして……親善試合に参加すると、アー君と離れちゃうのが、嫌だったり?」

「……そんなことないです」

「アー君ほどじゃないけど、私も嘘かどうかぐらいはわかるわよ?」

「えっ⁉︎」

 

 

 図星を突かれたようにクレアは動きを止め、追い討ちをかけられるように、ティーリア先生が嘘かどうかわかると言われて、驚いた顔を見せる。

 

 

「冗談よ♪ 魔法を使ったら、話は別だけど♪」

「うぅ〜〜……//」

「本当にアー君のこと、大好きね♪」

「それはもちろん……‼︎ その……大好き、です……//」

「ふふ♪ よかったわね♪ アー君♪」

「……//」

  

 

 顔を赤くしながらも好きであることは即答する、絶世の美少女、クレア。そんな美少女からの好意に恋人である、アルベネロも顔が赤くなってしまう。


 

「二人のラブラブ具合がわかったところで、アー君に耳寄りな情報があるわ♪」

「耳寄り情報?」

「何でも、マリギア魔術学院の教師陣の中に居るみたいよ。七星の使い手が……」

「なっ⁉︎」


 

 ティーリア先生の耳寄り情報に、アルベネロは思わず、ソファーから立ち上がってしまう。それ程までに驚いた様子であり、クレアは突然、アルベネロが立ち上がったことに対して、驚いていた。

 

 

「驚かせた。すまない」

「大丈夫よ。それにしても、そんなに驚くことなの?」

「まあ、な。帝国にはまだ居ないと思ってたから……」

 

 

 アルベネロはクレアを驚かせたことに気づき、謝ると、ソファーへ座り直す。一方、クレアはそこまで取り乱す理由が不明であるため、疑問符を浮かべながら、アルベネロを見る。

 


 

「うーん……クレアちゃんは七星皆照流しちせいかいみつりゅうのことは知ってる?」

「は、はい。救世主の話は有名ですから」

「内乱ばかりで滅びる運命しかなった国を七星皆照流しちせいかいみつりゅうの剣聖が一人で救い、平定した。有名な話ね。それじゃ、もし、七星皆照流しちせいかいみつりゅうの使い手が現れたら、国はどう思う?」

「……ずっと居て欲しいと思いますね」

「その通り。国からの干渉を避けるために大半の使い手は素性を隠してるから、マリギア魔術学院に使い手がいる情報にアー君は驚いたのよ」

「なるほど。そういうことだったんですね」

 

 

 

 世界的にも有名な流派、七星皆照流しちせいかいみつりゅう。その使い手について、クレアはティーリア先生から説明を受けると、アルベネロが驚いた理由に納得する。

 

 

 

「姉ちゃんは……俺を親善試合に出したいんだな?」

「意外?」

「いつもは俺の自由にさせてくれるからな」

「アー君にはここだけじゃなくて、いろんな世界を知って欲しいのよ♪ それに、たくさん交流することは大切よ♪」

 

 

 

 親善試合へ出場する必要が出てきたため、アルベネロはソファーへ深く座り込む。一方、ティーリア先生はアルベネロは出場する気になったことを喜ぶ。

 

 

「俺の平穏な生活は……」

「あら、平穏じゃないかもしれないけど、今はとっても幸せでしょ? こんなに可愛い恋人と過ごせてるんだから♪」

「そうだな……幸せだ」

 

  


 平穏な生活を望む、アルベネロ。しかし、現実は様々な出来事が重なり、平穏な時間は少ないが、その中でも幸せな時間を過ごせていることは確かであり、隣に座る恋人へ手を伸ばすと、優しく頭を撫でる。

 

 

「んぅ……//」

「ふふ♪ お邪魔な私は退散するわ。二人とも、しっかり渡した紙は読むようにね♪」

「は、はい。指導、ありがとうございました」

「ふふ♪ 良いのよ♪ それじゃ、アー君もクレアちゃんも、またね♪」



 ティーリア先生は空気を読むと、二人に手を振り、転移魔法で部屋を後にする。

 必然、部屋には二人っきり。何も起こらない訳もなく、アルベネロはクレアを引き寄せ、密着する。

 

 

「アルも親善試合、出ることにしたのよね?」

「ああ。姉ちゃんから居場所を教えられたしな」

「教えられると何かあるのかしら?」

「ああ……師匠が他の使い手を見つけたら、必ず剣を交えるようにって、言われてるんだ。弟子として、守らないとダメだろ?」

「な、中々、好戦的ね」

「俺もそう思う」

 

 

 師からの言いつけ。弟子である、アルベネロにとっては、なるべく守るべきことであり、親善試合に参加することでマリギア魔術学院に居るという同流(どうりゅう)に出会うことが本当の目的である。

 

 

「なら、私も参加するわ。アルだけマリギア魔術学院に行って、離れ離れになるのは嫌よ」

「はは……俺もクレアと離れ離れは嫌だから、お互い負けないようにしないとな」

「ええ。誰にも負けないでね、アル♪」

「もちろんだ。クレアも負けるなよ?」

「もちろん♪」

 

 

 互いに勝利を約束し合えば、自然と二人の距離は縮まっていく。誰かが邪魔に入るといったこともなく、唇を重ね合う。

 そして、時間を忘れて、二人だけの時間を噛み締めていき、そのまま、夜が更けていくのであった。

 

 

 

[日付は変わり、親善試合が開催されることが発表された日の翌日。朝の教室内……]

 

 

「お二人も親善試合に参加することにしたんですね」

「これで参加できる奴の二人分が減っちまったか……」

 

 

 朝礼が始まる前の教室内。レオはアルベネロとクレアが親善試合に参加することを知り、二人が選ばれると確信する。



「まだ始まってないから、そうなるとは限らないだろ?」

「でも、勝つ気しかないだろ⁉︎」

「もちろんだ」

「アルに勝てる気が全くしないぜ……」

 

 

 クレアとの約束を守るため、やる気十分なアルベネロの様子に、対戦したくないと、レオは(せつ)に願うのであった。

 

 

「私もアルベネロさんと当たりたくはないですが……クレアさんとも当たりたくないですね。相性が悪いので」

「ふふっ。確かに私の方が有利ね。まあ、誰にも負けるつもりはないけど」

 

 

 氷の魔法を得意とする、レイン。それに対して、火の魔法を得意とする、クレア。互いに得意分野を知っているからこそ、相性の良し悪しがそのまま勝負の結果に直結する。

 

 

「そう言えば、レインは昨日、応募はしなかったのかしら?」

「はい。貰った紙をしっかり読んでからにしようと思ったので」

「俺もまだ応募してないぜ‼︎」

「あら、少しは考えて行動できるようになったのかしら?」

 

 

 レインはともかく、レオがまだ応募していないことに対して、クレアは予想と違っており、驚いてしまう。

 

 

「レオ君が応募していないのは、レーメ先生に止められたからです」

「やっぱり、バカなままみたいね」

「レオらしいな」

「何も反論出来ねぇ‼︎」

 

 

 配られた紙をしっかり読まずに参加しようとしたことはレオ自身、反省していた。そのため、アルベネロとクレアから呆れられてしまうも、ぐうの音も出なかった。

 

 

「放課後にでも、全員で生徒会室に向かうか」

「そうね。そこまで待てば、空いてるでしょう」

「賛成です」

「ついでに、誰が応募してるのか、見てみようぜ‼︎」


 

 放課後に応募する予定の四人を他所(よそ)に、だんだんと教室には他の生徒たちが入ってき始める。

 

 

「……何人か表情が暗くないか?」

「言われてみれば……」

「そんなに暗い顔してどうしたんだよ‼︎」

「流石、レオ君。様子を(うかが)うつもりもないですね」



 

 違和感に気づいたのはアルベネロが最初であった。教室内に入ってくる生徒の中に暗い表情をしている者がおり、声を掛けるべきか、アルベネロ、クレア、レインが考える中、レオが一切の躊躇(ためら)いなく声をかける。

 

 

 

「ああ……応募の最低条件を突破できなくてな」

「そんなの紙に書いてたか?」

「行ったら、わかるよ。俺以外にも無理だったやつは何人も居るくらいだ」

「おお……まあ、気にし過ぎんなよ‼︎」

「はは……簡単に言うな」 

 

 

 あまりにも堂々とレオが話すため、暗い表情をしていた男子生徒が少し笑みを浮かべると、自分の席へ歩いて行く。

 

 

「ああ……昼休みに見に行ってみるか?」

「そうね。何かあるみたいだし」

「何か検査でもされるのでしょうか?」

「そんな風には見えなかっけどな‼︎ まあ、昼までのお楽しみってやつだ‼︎」


 

 ただ名前を書くだけではないと(さっ)し、アルベネロは放課後の予定をお昼休みへ早めることを提案すれば、他の三人も頷いて、同意する。

 

 

「四人とも、おはよう」

「あら、サキじゃない。ごきげんよう」

「おはよう」

「おはようございます」

「おはよう‼︎」



 四人に声をかけてきた女子生徒。名前はサキ、猫獣人であり、襲撃事件の際には、アルベネロ達と行動を共にし、結界の破壊など事件の解決に貢献した生徒の一人である。


 

「質問。四人も参加するの?」

「ああ。そのつもりだ」

「楽しみ。負けない」

「サキはもう応募したのかしら?」

「当然。四人なら問題なく参加できる」

「やっぱり何かあるみたいね……」

「正解。何があるかはお楽しみ」



 

 アルベネロ達も親善試合に参加することを知り、サキは嬉しそうにすると、応募するときに何かが用意されていることをそれとなく話す。クレアはサキの言葉に何か試練が待ち受けていることを(さっ)すると、それ以降、サキは何が待ち受けているのかを話すことはなく、秘密にするのであった。

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