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~個性的なクラスメイト~

 マナに送り出されるように、アルベネロは学院長室を後にすると、レーメ先生に引率されながら廊下を歩いていた。

 まだ制服を受け取っていないため、私服姿のアルベネロは通り掛かる生徒たちから興味の目を向けられていた。

 



「制服や教材は既に寮に運び込まれています。明日からは制服を着て、登校することになるので、こんな風に見られたりはなくなると思いますよ」

「それなら、制服姿で挨拶した方がいいと思うんですが?」

「普通はそうですね。ただ、学院長が推薦(すいせん)した魔法使いが転校してくる、という噂がいつの間にか……」

「……大体、わかりました」

「ありがとうございます……」 

 



 アルベネロは諦めた様子であり、レーメ先生も少し申し訳なさそうな表情になりながら、お礼を言う。

 そして、レーメ先生がとある教室の前で止まる。扉の上にある室名札には〖特科〗と表示されている。



「生徒たちには転校生を連れてくることは伝えています。私が入った後に続いて、中に入ってください」

「わかりました」

 



 レーメ先生からの指示にアルベネロは頷くと、レーメ先生はドアノブに手をかけ、扉を開けると、教室の中へ入っていく。

 後を追うようにアルベネロも中へ入っていくと、そこは講義室になっており、机と椅子がいくつも並んでいた。全ての席が埋まっている訳ではないが、男女合わせて、二十人程が席に座っている。

 

 


「事前にお伝えましたが、改めて、ここのクラスに入る、新しいクラスメイトを紹介します。アルベネロ君、挨拶をお願いします」

「初めまして。アルベネロです。名前を全部言うのは長いと思うので気軽にアルでもネロでも好きな風に呼んでください」

 



 アルベネロは軽く会釈してから顔をあげると座っている生徒たちからの視線が刺さる。

 生徒たちを見ると、多くは人間だが、何人かは獣人やエルフも居り、例外なく、全員が美形であった。魔法の才能が見た目に反映されるわけではないが、関係が無いとは思えないほどの美形クラスである。

 



「ありがとうございます。私も親しみを込めて、アル君と呼びましょうか?」

「えーと……自由に呼んでください」

「「「ふふっ……」」」 



 アルベネロとレーメ先生のやり取りに思わず、笑いをこぼす数人の生徒たち。その様子に、緊張していたアルベネロはホッとするように表情が緩む。




「皆さん、仲良くしてあげてくださいね。アルベネロ君が授業に参加するのは明日からですが、次の授業まで時間があるので交流時間としましょうか」

「交流……また、緊張しそうだな」

「丁度いいので座席も決めてしまいましょう。どこがいいすか?」

「レーメ先生、私の隣が空いてます」

 



 懐中時計(かいちゅうどけい)をどこからか取り出し、時間を確認した後、レーメ先生はアルベネロが座る席を探し始めれば、一人の生徒が挙手(きょしゅ)する。

 挙手(きょしゅ)した生徒は女性であり、腰まで伸びるふわりとウェーブのかかった紅色の髪。翡翠(ひすい)の瞳。スラリとした身体だが、制服の上からでもはっきりと膨らみがわかる。マーリンにも劣らない眉目秀麗(びもくしゅうれい)な容姿であった。

 その美貌(びぼう)に思わず、アルベネロは見惚れてしまい、呆然としてしまう。

 



「ありがとうございます。アルベネロ君、そちらの席に座ってください」

「……」

「アルベネロ君? アルベネロく〜ん?」

「……あ⁉︎ え、っと……明日からもそこの席に座れば?」

「そのつもりです」

「わかりました」

 

 


 アルベネロはレーメ先生の言葉に従って、挙手(きょしゅ)した女子生徒が座っている席の隣に向かえば、椅子に座る。女子生徒は値踏(ねぶ)みするようにアルベネロを見ており、アルベネロは少し緊張してしまう。

 アルベネロの容姿は、綺麗な顔立ちをしているが大人しい雰囲気を(かも)し出している。髪型は肩より少し上程度の長さの黒髪で、瞳も黒である。また、細身中背の体型であり、他と比べて突出した美形ではない。

 


 

「初めまして。私は、クレアーゼ・レッドローズ。あなたが、学院長が推薦した、噂の転校生かしら?」

「噂になってるのは知らなかったがな……それにしても、レッドローズって大貴族のか?」

 


 家名に色が入っている場合、ほとんどが貴族であり、貴族の中でもレッドローズ家は大貴族の中の大貴族である。その証拠に、大国の国王ですら、レッドローズ家の発言を無視することができないほどである。

 



「同じ家名の家が複数あるわけないでしょ? 私の隣に座れることを光栄に思って、いいわよ?」

「……わかった」

「ふふっ、頷く人はあなたが初めてだわ。普通、苦笑いとかするわよ」

「そうなのか? まあ、よろしく頼む。クレアーゼさん」

「……クレアで構わないわ。みんなには、そう呼ばせてるから。まあ、何人かはそう呼んでくれなかったりしてるのだけど」

 


 少し上から目線な話し方だが、気遣いが見て取れるクレアに対して、アルベネロは好感を覚え、自然と緊張が緩む。



「わかった。クレア、改めて、よろしく頼む」

「ええ、よろしくお願いするわ。アルベネロ君」

 


 アルベネロとクレアが互いに挨拶を終えると、他の生徒たちも席から立ち上がり、アルベネロへ挨拶をしてくる。

 そして、ほぼ全員が自己紹介を終え、自分たちの席に戻る頃には、自己紹介が出来ていないのは、男子生徒と女子生徒のそれぞれ一人ずつであった。

 



「すごい人気だな‼ おれはレオルゲイツ・クエリオン。レオって呼んでくれ‼」

「わかった。レオ、これからよろしく頼む」

「よろしく頼むぜ、アル‼ わからないことがあったら頼ってくれていいぜ‼」

「あなたに頼れるところ? そんなところ何かあったかしら?」

「クレアさん⁉︎ 確かに勉強はちょっと周りより苦手だけど、魔法に関しては他の追随を許さないレベルだろ⁉︎」

 



 先に、焦げ茶色の髪を短く揃えた、中肉中背で、元気一杯と言わんばかりに明るそうな男子生徒がアルベネロの前に歩いてくると、自己紹介をする。

 レオと呼んでくれと名乗った男子生徒は、自信満々に頼ってくれと言うが、レオに対して、クレアは揶揄(からか)うように指摘する。

 クレアの言葉にレオは慌てながら否定しており、周りにいた数人の生徒が笑いを(こら)えている様子であった。




「それは汎用魔法(はんようまほう)も、固有魔法と同じぐらいスムーズに使えてから言ってほしいわね」

「ちょっと待った。クレア、今、しれっと言ったが……レオは固有魔法が使えるのか?」

「おう‼ 創造魔法だ。今は作れる大きさとか数に限界はあるが、いつかは聖剣だって、大量に作ってやるぜ‼」

「大量の聖剣とかこわいな」

「アルベネロ君、このバカは本気で聖剣を作ろうとして、レーメ先生に怒られてる程度には可哀想(かわいそう)な頭をしてるわよ」

「バカは流石(さすが)にひどくないか⁉︎」




 アルベネロはクレアとレオのやり取りに思わず笑いを(こぼ)してしまう。日常的に行われているのだろうと感じる、二人のやり取りに、周りの生徒たちも我慢できずに、笑っている。

 そして、クレアとレオのやり取りを他所(よそ)に、女子生徒が一人、アルベネロ、クレア、レオの三人に近づいてくる。そう、レオと一緒に残っていた女子生徒である。

 

 


「いつも思いますが……お二人は仲良しですね」

「レイン、寝言は寝ないと言っちゃダメなのよ。それより、あなたも挨拶したら?」




 クレアに促されるように女子生徒が前に出る。その女子生徒も例に漏れず、かなりの美形であり、髪は露草(つゆくさ)色で左右にお団子を作っており、肩までの長さがある。

 また、(ひとみ)群青(ぐんじょう)色であり、身長は他と比べると少し低めである。

 他の生徒に比べると幼い雰囲気を感じさせるが、クレアよりもはっきりとわかるほど膨らんだ胸元が、自然とアルベネロの視線を誘導してくる。そのため、アルベネロはなるべく見ないように女子生徒の頭辺りに視線を移動させておく。

 

 

 

「初めまして。レインです。よろしくお願いします」

「あ、あぁ……よろしく。その……かなり若く見えるけど」

「幼いでいいですよ。私は十五歳ですから」

「そうなのか……」




 アルベネロはレインと名乗った女子生徒に何がとは言わないが、悟られないよう、あまり考えないことにする。

 そして、レインの年齢を聞き、アルベネロは特段、優秀なのか、特別な力があるのかと考えながらも詮索(せんさく)はしない。

 なぜかレインが左手にずっと持っている、片手で持てるほどの水晶玉についても、意味があるのか不明だったが、アルベネロは詮索(せんさく)はしなかった。

 



「アルベネロさんは紳士ですね。大抵、初対面の男子は私の胸をジッと見てきます」

「返答に困るな」

「つまり、アルベネロさんは、女の人に興味が……」

「や、やめろ⁉︎ 変な噂が立つだろ⁉︎!」



 レインは左手に持っていた水晶玉を自身の顔に持ってきては、水晶玉越しにアルベネロを覗きながら、とんでもない言葉を口にする。

 レインが口にした言葉に、アルベネロは思わず声を張り上げてしまい、周りの生徒からの視線が刺さるも、すぐに外れ、安心する。

 しかし、一部の生徒たちは少し頬を赤くしていたことには気づかなかった。

 

 


「ちなみに、この水晶玉は特別なものです。覗けば未来が見えます」

「いや、見えた事ないよな?」

「……未来は常に変わるという事です」



 自信満々に水晶玉を掲げながら言う、レインの言葉を、レオは否定する。レインは目を軽く逸らしながら、それっぽい事を言うと水晶玉を下ろす。

 

 


「不幸になる未来でも見えたら教えてくれ」

「はい。その時は安くしておきますね」

「金、掛かるのか……」



 苦笑いを浮かべながらアルべネロはクラスの雰囲気に緊張は無くなっていた。

 


「はい。皆さん、挨拶はできましたか?」

「「「はい」」」

「そろそろ次の授業です。アルべネロ君。これから寮に案内しますね」

   

   

 クラスメイトへの挨拶と互いの自己紹介を終えた、アルべネロはレーメ先生と一緒に教室から出て行く。アルべネロが去ったあと、レインとレオは自身の席に戻らず、まだ、アルべネロが座っていた席の側で(たたず)んでいた。




「どう思う?」

「レオ君と違って、紳士でした」

「そこ掘り返すか⁉︎ あれは、男の(さが)なんだよ〜〜‼︎」

「まだ、見ただけです。お人好(ひとよ)しそうな人と思いましたが、それ以外に感じることはないです」

「相変わらず、さっぱりしてるな。クレアさんはどう思う?」

「平凡な男子、としか感じないわね。でも、学院長が推薦したんだから、平凡とは考えにくいわよね」

「クレアさんの才能を超えていたりしてな」




 三人は転校生であるアルべネロを見た感想を話し合った後、レインとレオは自身の席へと戻っていった。



「あなたは……」



 アルべネロが座っていた席をクレアは見つめながら、悲しげな表情で呟くと、すぐにため息を吐く。

 


「はぁ……何を期待しているのかしら……」



 才能に恵まれすぎた少女は、自身の苦悩に気づいてくれる人が現れると信じ、学院生活を送るのであった。


ここまでお読みしていただき、誠にありがとうございます。

まずはヒロイン二人の登場です。イラストについてはまた完成次第となるのでいつになるかはわかりませんが、完成したら投稿させていただきます!

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