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~求めるは愚者の契約~

 禁術によって、レオとレーメ先生を圧倒するラアン先生であったが、二人の秘策である【創造世界クリエーションワールド】によって、身体中に剣や槍が突き刺さり、膝をつき、沈黙する結果となる。

 一方、真の姿を解放したヴァンパイアはアルベネロにしか興味がないと言わんばかりに、クレアを含めた他四人には見向きもせず、〖アルベネロ〗対〖ヴァンパイア〗の戦いは徐々に激しさが増していくのであった。

 

 

 

「向こうは終わったみたいだな」

「よそ見なんてしてる余裕あるの〜〜?」

「ファイアーボルト‼︎」

「グラトニー‼︎」

 

 

 

 アルベネロは向かってくるヴァンパイアに対して、五つの火の矢を同時に放つが、ヴァンパイアも五つ(・・)の黒い球体で向かい打ち、火の矢を相殺し、そのまま、アルベネロへ黒い球体を放つ。

 

 

 

「ライジングサン‼︎」

「デススラッシュ‼︎」

「うぐっ‼︎」


 

 

 アルベネロは【天へ昇る太陽(ライジングサン)】によって、両手は白く輝き始め、【暴食者(グラトニー)】を相殺するが、相殺する隙を突くようにヴァンパイアは自身の長く鋭い爪に黒い魔力を纏わせて、アルベネロの腕を浅くだが切り裂く。

 



「毒か……」 

「早く傷を塞がないと血が出過ぎて、死んじゃうよ〜〜?」

「ヘルファイア‼︎」

「何度やっても、僕には届かないよ‼︎」

 

 

 

 アルベネロは腕に攻撃を受けては傷口部分を手で押さえ、牽制のため、黒炎をヴァンパイアへ放つも、黒い球体で相殺されてしまう。

 

 

 

「ヒーリング……」

「少し趣向を変えようか、なっ‼︎」


 

 

 

 アルベネロはヴァンパイアの動きを観察しながら、回復魔法【治癒(ヒーリング)】で腕の傷を癒やす。

 アルベネロが傷を治し始めたことをヴァンパイアは確認するとその場で立ち止まる。アルベネロに爪が届かないのは理解している様子で、鋭い爪をアルベネロが居る方向へ何度か振る。

 

 

 

 

「くっ‼︎ 風か‼︎」

「いつまで避けていられるかな〜〜」


 

 

 アルベネロは咄嗟(とっさ)に横へ飛べば、先程まで立っていた場所に深く切り裂かれた跡ができる。ヴァンパイアは避けたアルベネロに対して、何度も爪を振るい、風の(やいば)で攻め立てる。

 

 

 

「ロックウォール‼︎」

「グラトニー‼︎」

「ッツ‼︎ ヘビィアーマー‼︎」

 

 

 

 アルベネロは岩の壁を前に作り出し、吸血鬼からの風攻撃を防ぐも、瞬時に【暴食者(グラトニー)】によって、岩の壁には大穴が空いてしまう。

 大穴が空いたことで風の(やいば)|を防ぐ力が無くなり、咄嗟とっさにアルベネロは【重武装(ヘビィアーマー)】で風の刃を耐えるが、脇や腕の服が切り裂かれ、血が流れていく。

 

 

 

「確かに強力な魔法をたくさん使えるみたいだけど、その程度で僕に勝てると思うなんてね‼︎」


 

 

 優勢になった途端、ヴァンパイアはアルベネロを見下し始め、余裕そうに【暴食者(グラトニー)】の黒い球体をいくつも自分の周りに展開する。

 

 


「たしかに力は増してるが……低級には変わらないみたいだな」

「実力差がわかってないのかな? グラトニーをここまで同時に発動できる時点で僕と君には埋められない差があるんだよ‼︎」

 

 


 低級扱いをやめないアルベネロに対して、ヴァンパイアは嘲笑(ちょうしょう)すると、実力差を見せつけるために【暴食者(グラトニー)】をアルベネロへ放つ。


 

「今度は幾つまで避けれるかな?」

「……何度も同じ魔法が通用すると思わないことだな」

 

 

 アルベネロは迫ってくる黒い球体を気にせず、前へと一歩前に出ると、黒い球体が消え失せる。

 

 

「はっ?」

煉獄(れんごく)業火(ごうか)‼︎」

「ギャァァァ‼︎」

  

 

 アルベネロが一歩前に出ただけで、【暴食者(グラトニー)】が消え去ってしまった現実に、ヴァンパイアは呆然となり、思考が一瞬、停止する。アルベネロがその隙を見逃す訳もなく、禁術【煉獄(れんごく)業火(ごうか)】によって、ヴァンパイアの足元に魔方陣(まほうじん)が現れ、赤黒い炎がヴァンパイアを焼き尽くしていく。

  

 

「ぐ、グラトニー‼︎」

「無駄だ」

「な、なんで⁉︎ うぐぐぐく‼︎」

 

  

 ヴァンパイアは焼かれながらも【暴食者(グラトニー)】で炎を吸収させようとするが、黒い球体は一つも現れず、ヴァンパイアは焼かれる痛みに苦しみ、炎を手で払おうとするが、炎は手に燃え移り、さらに広がる。

  

 

「があぁぁぁぁ‼︎」



 ヴァンパイアは苦痛の叫びをあげながら、身体から体力の魔力を噴き出し、赤黒い炎を吹き飛ばす。ヴァンパイアの手と脚は(ひど)く焼け焦げており、高い再生能力が発揮されているのか煙が出始めるが全く治る気配はない。

 

 

 

(なん)で治らない⁉︎」

「ヴァンパイアなのに知らないのか? 煉獄(れんごく)業火(ごうか)で焼かれた場所が治ることはない」

「そんな、ぼ、僕の手がぁぁ⁉︎」


 

 

 ヴァンパイアは焼け焦げてしまった、自身の手を見つめると、信じたくないといった表情で身体を震わせる。

 

 

「これで終わりだ。コキュートス」

「ひいぃーーー」

  

 

 アルベネロはヴァンパイアとの戦闘を終わらせようと【零へと誘う息吹(コキュートス)】によって、ヴァンパイアを氷漬けにしてしまう。

 動揺していたヴァンパイアが魔法に気づいた時にはすでに遅く、白い息吹に呑み込まれるのであった。

 

 

 

『こんなでも流石はヴァンパイアか……』

 

 

 

 ヴァンパイアが【零へと誘う息吹(コキュートス)】によって、氷漬けになったことを確認する。この状態でも死ぬことはないが動くことも魔法を使うことも不可能だろうとアルベネロは判断する?

 

 

 

「くっ……流石に煉獄(れんごく)業火(ごうか)はキツイな……」

 

 

  

 アルベネロはその場で膝をつき、自分の手を見れば、そこにはヴァンパイアの手や足と同様に焼け焦げている。

 禁術【煉獄(れんごく)業火(ごうか)】は赤黒い炎によって、敵を燃やし尽くし、その炎によって、負った火傷はどのような治療でも治すことができず、高い治癒力を持つ敵に有効だが、発動者も両手が焼け焦げてしまうため、禁術に指定されている。

 

  

 

「あ、アルベネロ君‼︎」

「クレア……これで解決だな」

「そんなことよりその手‼︎ 早く保健室に行かないと‼︎」

 

 

 

 ヴァンパイアが氷漬けになったことで、全てが終わったとクレアは判断すれば、膝をつくアルベネロの元へ駆け寄る。

 そして、側まで駆け寄ると、焼け焦げているアルベネロの手に気付き、慌てて保健室に連れて行こうとする。

 

 

 

「この火傷は治せないんだ」

「そ、それじゃ、どうするのよ⁉︎」

「大丈夫だ。治せないなら、火傷する前に戻せばいい」

 

 

 

 アルベネロはクレアに治せないことを伝えれば、クレアはさらに慌ててしまうも、アルベネロはクレアを落ち着かせると、深呼吸をする。

 

 

「クロノブレイク」

 

 

 アルベネロは自身の手に【巻き戻る時間(クロノブレイク)】を掛ければ、手の焼け焦げた痕はすぐに消えて無くなり、切り裂かれた服は元に戻る。

 

 

「よし。これで大丈夫だな」

「もう‼︎ 心配させないでよね‼︎」

「あはは……それより、レイン達は大丈夫そうか?」

「それよりって……全くもう……」 

 

 

 アルベネロは両手を動かして問題ないことを確認すれば、側で心配していたクレアも、問題がないことにホッとしたのも束の間、すぐに抗議をされてしまう。

 アルベネロは苦笑いを浮かべながら、話を逸らすとクレアは不承不承(ふしょうぶしょう)ながらも、それ以上は抗議することはなかった。

 

 

 

「三人なら大丈夫よ。今、休んでるし、動くぐらいから出来ると思うわ」

「わかった。後は学院長が戻るまでガルフたちを助けにーーー」

「グォォォォォォ‼︎」



 ガラン‼︎ ガシャン‼︎

 

 

 黒幕のラアン先生とヴァンパイアを倒したことで、アルベネロはガルフ達の援護に向かうために立ち上がろうとすれば、獣のような叫び声と共に金属音が鳴り響く。

 

 


「三人とも、逃げろ‼︎」

「やっべぇ⁉︎」

「レオ君‼︎ レインさん‼︎」

「ひゃあ⁉︎」

 

 


 アルベネロの声にレーメ先生は反応すると、レオとレインを風魔法で飛ばし、自分も背中に風を当てて、その場から離れる。

 三人が休んでいたすぐ側には、身体中から血を流し、腕にはまだいくつか剣や槍が刺さっている。しかし、それをものともせずにラアン先生(・・・・・)が立っており、金属音は身体に刺さっていた剣や槍が地面に落ちた音であった。

 

 


「あの傷で動けるの⁉︎」

「契約したヴァンパイアの超回復だ。それでも、あの傷じゃ、まともに魔法すら使えないはず……」

「まだだ‼︎ こんな所で私が終わる訳がない‼︎」

 

 

 

 悪魔と契約した場合、契約者はその悪魔が持つ能力の一部を得ることが可能であり、ラアン先生はヴァンパイアが持つ超回復によって、急速に回復していた。しかし、それでもまともな状態まではこの短時間では回復できておらず、身体を動かすたびに血が噴き出る。

 

 

 

「諦めろ‼︎ もう終わりだ‼︎」

「終わりではない‼︎ 私は認めん‼︎ ふん‼︎」

 

 

 

 ラアン先生は身体にまだ刺さっている剣や槍を引き抜いては地面に投げ捨てる。当然のように引き抜けば血はさらに噴き出すが、ラアン先生はものともせずに血走った目でアルベネロを(にら)む。

 

 

 

「コキュートス‼︎」

「グラトニー‼︎」


 

 

 アルベネロは動きを止めるため、ラアン先生に向かって、【零へと誘う息吹(コキュートス)】を放つが、ラアン先生の【暴食者(グラトニー)】によって、黒い球体が出現しては白い息吹を消し去ってしまう。

 

 

 

「聞こえているだろう‼︎ 悪魔よ‼︎ 私にもっと力をよこせ‼︎」

「まさか‼︎」

「私の声に答えよ‼︎」

 

 

 

 ラアン先生は氷漬けにされている悪魔が居る方向に向かって、叫ぶように力を求める。

 そうするとラアン先生の手元に一枚の羊皮紙が現れ、一番下には魔方陣(まほうじん)(えが)かれている。

 

 


「それだけは手を出すな‼︎ 人に戻れなくなるのは知ってるだろ‼︎」

「あの女を絶望させられるなら、人など捨ててやろう‼︎ 契約成立だ‼︎」

 

 

 

 アルベネロは必死にラアン先生を止めるが、大量の血が流れ、まともな精神状態ではないラアン先生は静止の言葉を聞かず、羊皮紙に(えが)かれている魔方陣(まほうじん)へ魔力を流し込み、魔法契約を成立させる。

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴッ……

 

 

 

 魔法契約が成立した瞬間、教会内が震え出し、ラアン先生の身体を黒い魔力が包み込んでしまう。

 

 

 

「ラアン先生は何をしたの……?」

「……堕落だ」

「そ、それって……‼︎」


 

 クレアは異常な状態のラアン先生に少し恐怖感を覚えながら、アルベネロに聞くと、『堕落』の言葉に目を見開く。

 クレアは『堕落』が何かについて知っていたが、実際に目の前でその現象が起きている事実に恐怖心から自然とアルベネロの裾を掴む。

 

 

 パキッ‼︎ パキパキパキパキ‼︎

  

 

「グォォォォォォ‼︎」

「ちっ‼︎」

「なんて魔力なの⁉︎」

 

 

 黒い魔力にヒビが入った瞬間、獣のような叫び声と共にヒビから魔力が噴き出し、黒い魔力はバラバラに地面へ落ちると、全て霧散した。

 そして、ラアン先生が立っていた場所には、頭部が牛、身体は筋骨隆々の人身である、言わば、ミノタウロスが立っていた。

 

 

「コレガ……スバラシイ。チカラガ、アフレル」

「少し変わってるけど、確かにラアン先生の声ね……」

「ミノタウロス……完全に堕ちたな」

「コノチカラ、デ、アノオンナ、ヲ、ナキモノ、ニ」

 

 

 

 ミノタウロスへ変貌したことでラアン先生の面影は少し変化した声と手の甲に埋まっていることが確認できる魔導具(まどうぐ)の宝石だけであった。そして、話すことも片言になっており、人を辞め、魔物になったことをアルベネロとクレアに感じさせる。

 

 

 

「スベテ、ヲ、ハカイセシ、テッツイ、ヨ」

「くっ、ヘルファイア‼︎」

「フン‼︎ コイ、ワガテニ」

 

 

 

 ラアン先生改め、ミノタウロスは何も無い空間に突然、右手を突き出す。その瞬間、空間が歪み、手は歪みの中へ消える。

 アルベネロはミノタウロスを止めようと黒炎を放つが、ミノタウロスは空いている左手で、黒炎を払い除け、歪んだ空間から、銀色のハルバートを引き抜く。

 

 

 

「ま、魔方陣(まほうじん)も使わずに⁉︎」

「あれが、異能だ。悪魔と契約した眷属だけが使える、魔法も道具も使わない。ただ、使える特別な力」

「本当もう……化け物(・・・)ね」

「……ああ」

 

 

 

 魔方陣(まほうじん)も使わずにハルバートを何もない空間から引き抜いた、ミノタウロスに警戒しながら、化け物じみた力だと呆れてしまう。

 クレアの言葉を聞いたアルベネロは同意するように頷くもその表情は微かに厳しいものとなる。

 

 

「キサマラ、デ、タメシギリ、ダ」

「クレア、絶対に当たるな‼︎ 異能で作り出された武器はまともじゃない‼︎」

「わ、わかったわ‼︎」

 

  

 ミノタウロスがハルバートを上に振り上げると、アルベネロはクレアへ警戒するように指示を出す。クレアはアルベネロの言葉から距離を離すように後ろへ下がり〖ウルスラグナ〗を構える。

  

 

「モードチェンジ。スタンダード。シュート‼︎」


 

 クレアはハルバートを振り下ろそうとするミノタウロスの顔に向かって、魔導銃を構えれば、引き金を連続で三回引き、三発の弾丸を放つ。

  

 

 ドォン‼︎ ドォン‼︎ ドォォォォォン‼︎

 

 

 ハルバートを振り下ろす体勢でミノタウロスは瞬時に二発の弾を弾き飛ばし、直撃を避けるが、最後の一発は顔に命中する。

  

 

「ガァァ⁉︎ コノガキガ‼︎」

「そんな⁉︎ 怯むだけなんて⁉︎」

「グタケチロォォォ‼︎」



 ミノタウロスは弾丸が顔に直撃したため、顔を押さえるが、すぐに何ともないようにクレアを標的に定め、絶叫共にハルバートを振り下ろす。


 

「ファイアーブレス‼︎」

「フン‼︎」



 クレアはハルバートが振り下ろされる前に後ろへ飛び、空中で【燃え盛る炎の息吹(ファイアーブレス)】を発動し、前方へ炎を出してはその推進力でさらに距離を空け、ギリギリでハルバートを避ければ、そのままハルバートが地面に突き刺さる。

 

 

「もう一発‼︎」

「ダメだ‼︎」

「ワレロ」

 

 

 メキメキメキメキ‼︎

  

 

 尻餅をつくようにクレアは地面へ着地をすれば、そのまま〖ウルスラグナ〗を構えて、引き金を引こうとするが、アルベネロの制止が聞こえたと同時に、ハルバートが突き刺さった地面が割れ、そのままクレアが着地した場所まで直線上に地面がどんどん割れていく。

 

 

 

「落ちーーー」

「オワリダ」

「クレア‼︎」

 

 

 クレアは尻餅をついた体勢であったのが(わざわ)いし、割れる地面から逃げるまで、数秒ほど遅れてしまう。

 その数秒が致命的(ちめいてき)となってしまい、クレアは割れる地面から逃げることが間に合わず、地割れに落ちてしまう。

 


『何て深さなの……』

 

 

 クレアは背中から落下し始めれば、身体を(ひね)り、顔を下へ向ける。割れた地面の先は何もなく、底がないのではないかとさえ思える。

  


『私が今持ってる魔法じゃ、上には戻れない……』

    

  

 クレアは学院での戦闘を考慮(こうりょ)し、攻撃系の魔法を多く用意したが、それが逆に(あだ)となってしまい、今の状況を打開できる魔法が手元にはなかった。

 

 

「それなら……ファイアーブレス‼︎」

 

 

 クレアは諦めることなく【燃え盛る炎の息吹(ファイアーブレス)】によって、炎を壁に向かって放つ。

 

 

 ゴォォォ‼︎ ガンッ‼︎

  

 

「うぐぅ‼︎」

  


 クレアの計画通りに炎の勢いによって、反対側の壁に勢いよく身体が衝突するも、痛みに耐えながら、壁の突起部分を掴み、落下を止める。

 

 

「すぐ助ける‼︎」

「サバキノ、テッツイ‼︎」

「くっ‼︎」



 アルベネロはクレアを救出しようとするが、ミノタウロスの攻撃が救出を許さない。

 そして、ミノタウロスがハルバートを地面に打ち付けるたびに地面が割れる。



「『破壊』の概念か」 

「スベテ、ヲ、コワス。ソレ、ガ、コノチカラ」



 ハルバートが地面を打ち付けるだけで地面が割れていくため、ミノタウロスが取り出したハルバートの能力が『攻撃した対象の破壊』であると気づく。

 ミノタウロスも隠す気はなく、誇示するかのようにハルバートで何度も地面に打ち付け、地面を割ることでアルベネロの逃げ場を無くしていく。

 


「きゃっ‼︎」

「ハヤク、タスケテ、ヤラナイ、ト、オチル、ゾ?」

「助けるところを狙う気満々だろ……」

 

 

 壁に掴まるクレアにはハルバートが地面に打ち付けられる衝撃もかなり辛く、突起部分を掴む手が震えてしまう。

 

 

『相手を怯ませようにも、特異魔法を使うとクレアが……』

 

 

 上級魔法である【黄昏の炎(ヘルファイア)】ではミノタウロスを怯ませることはできず、魔導銃〖ウルスラグナ〗ほどの威力であれば、怯ませることは可能だが、衝撃でクレアが落ちてしまう可能性があり、アルベネロは攻撃することが出来ずにいた。

 

 

「モクテキノ、タメ、キリステルコト、ガ、デキナイ、ナンジャク、モノ」

「……‼︎」

「キエロ‼︎ グラトニー‼︎」



 ミノタウロスはアルベネロが攻撃を躊躇(ちゅうちょ)する様子に、嘲笑(あざわら)うように言い放つ。

 アルベネロは無言だから、目を見開くと、ミノタウロスは宝石が埋まっている手の甲を向けると埋もれている宝石が光り、五個の黒い球体が現れ、アルベネロへ向かっていく。

 

 

「シャイニングカノン‼︎」

「タスケル、コト、ヲ、アキラメタ、カ」



 アルベネロは特異魔法【閃光の砲撃(シャイニングカノン)】によって、黒い球体を一瞬で消し去り、そのままミノタウロスを攻撃するがハルバートで防がれてしまう。

 ミノタウロスはアルベネロが特異魔法を使った事で、クレアを見捨てたと判断し、口の端を上げる。

 

 

 

「そんなわけ無いだろ」

「ナニ?」

「シュート‼︎」

「ガァァァァ⁉︎」

 

 

 

 

 アルベネロは少しだけ笑みを浮かべた瞬間、〖ウルスラグナ〗の一撃が全く警戒していなかった背中に命中し、ミノタウロスは悲痛な叫びをあげると後ろを振り向く。

 そこには当然のようにクレアが〖ウルスラグナ〗を構えて、立っていた。

 

 

 

 

「イツノマ、ニ⁉︎」

「俺のことを忘れてんじゃねぇ‼︎」

「私も手伝いましたよ」

「ソウゾウ、マホウ、カ。イマイマ、シイ」

 


 

 

 クレアはレオの【創作(クリエイト)】によって、作られた足場を利用して、地割れから脱出していた。

 もちろん、クレアが落ちた地割れから、レオは離れた場所にいるため一人では足場を作ることはできない。しかし、レインの【千里眼(クレヤボヤンス)】と【共感(エンパシー)】によって、レオの視覚を確保することで可能となった。


 

 

 

「アルベネロとクレアさんなら、すぐに(さっ)してくれると思いました」

「ああ、二人ともありがとう。助かった」

「ええ。これで足手まといにならなくて済むわ」

「ズニ、ノル、ナ‼︎」

 

 

 

 レインとレオによって、クレアが救出されたことで、ミノタウロスの有利は無くなる。

 アルベネロとクレアはミノタウロスを挟むように立っており、激昂(げきこう)しながらアルベネロに向かって、ミノタウロスは横凪(よこなぎ)にハルバートを振る。

 

 

 

「クロノアクセル」


 

 

 アルベネロは迫ってくるミノタウロスに【加速する時間(クロノアクセル)】によって、自身の時間だけを加速させ、ミノタウロスの目前へ移動する。そして、無防備なミノタウロスの腹部へ手を向ければ、魔方陣(まほうじん)が現れる。

 

 


「ナニ⁉︎」

「エレメンタルカノン‼︎」

「ガアァァァァ⁉︎」

 

 

 

 アルベネロは至近距離で【四大元素の砲撃(エレメンタルカノン)】を放てば、ミノタウロスの腹部を貫通するように虹色の光線が放たれる。

 

 

 

「ガハッ‼︎ イ、イマノ、ハ、マサカ⁉︎」

「流石に頑丈だな」

「ハァ、ハァ、キサマモ、コユウマホウ、ヲ、ソレモ、キンジュツ、ダト」


 

 

 至近距離で腹部に重い一撃を受け、ミノタウロスは膝を突きながら、貫かれた箇所を手で隠す。貫かれた箇所はすぐに塞がっていくが、ミノタウロスは息を荒くしながら目を見開いて、戦慄(せんりつ)する。




「まさか、今のは時間魔法……‼︎」

「時間魔法って、俺たちと同じ固有魔法なのか?」

「その通りです。固有魔法の中でも使い手がほとんど居らず、強すぎる力から、固有魔法の中で、唯一、禁術に指定されています」

「それを、アルベネロさんが……」

 

 

 

 離れた場所で観戦していたレーメ先生もまた、アルベネロが使った魔法に気づき、驚いた表情となっている。

 レーメ先生が固有魔法である、時間魔法について説明をすれば、レインとレオもアルベネロを見つめる。

 

 

 

 

「そんなすごい魔法だったのね」

「隠しててすまないな」

「良いわよ。逆にそんな魔法が使えるなんて、普通は言えないわ」

「禁術になるほどの魔法を使えるのに、クレアは怖くないのか?」

「知らない相手なら怖いわね。でも、他でも無い、アルベネロ君なら、信じられるし、逆に心強いわ」

 

 

 

 

 クレアは感心するようにアルベネロを見ており、禁術指定されるほどの力を持つ時間魔法を使えることを知っても全く動じず、信じると断言してくれたクレアに、アルベネロは驚きながらも嬉しく感じる。

 

 

 

「そんな魔法使えるなんて、すげぇぜ‼︎」

「ふふ、同じ固有魔法使いとして、いろんな話ができそうですね♪」

「アルベネロ君、時間魔法の消費魔力は桁違いです‼︎ 気をつけてください‼︎」

 

 

 

 レイン、レオ、レーメ先生もアルベネロが時間魔法を使えることを知り、それぞれ、別々の反応を見せるが、誰も怖がってはいない。

 

 

 

「よかったわね。みんな信じてくれてるわ。もちろん、この中で一番、信じてるの私だけど」

「はは……そうだな。クレア、このまま、倒そう‼︎」

「ええ‼︎」

「ソンナ、ユウジョウ、ゴッコ、ニ、ワタシ、ガ、マケル、ハズガ、ナイ‼︎」

 

 

 

 アルベネロは膝をついているミノタウロスから離れては、クレアの隣へ移動する。

 立ち上がろうとするミノタウロスに対して、アルベネロも手元に魔方陣(まほうじん)を作り出し、クレアは〖ウルスラグナ〗を構え、戦闘態勢を整える。

 そして、ミノタウロスはアルベネロ達のやり取りを見て、友情ごっこと切り捨てれば、立ち上がり、ハルバートに魔力を纏わせ、攻撃範囲を強化すると、自身の野望を達成するため、目の前に居る、アルベネロとクレアを排除するため、迫っていくのであった。

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