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~クレアーゼ VS Fチーム(後編)~

 激闘の四回戦、〖アルベネロ〗対〖Gチーム〗はアルベネロの勝利で終わり、最終戦、〖クレアーゼ〗対〖Fチーム〗の模擬戦が開始される。観戦する生徒の大多数はクレアの勝利を疑っておらず、序盤からクレアがFチームを圧倒するという、予想通りの試合展開となっていく。

 しかし、味方が降参する寸前、ガレンが黒い指輪をはめたことで状況は一転し、まるで別人かのようにガレンは強力な魔法を使い始め、さらには結界まで発動し、実際とは異なる風景を観戦者に見せる。

 クレアは助けを求めることも、逃げることもできない状況の中で、ガレンとの戦いに挑むこととなってしまう。

 

 

 

「スリザリンファイア‼︎」

「ははっ、ウィンドドレス‼︎」



 

 クレアが発動した【這い寄る火蛇(スリザリンファイア)】によって、いくつもの火線がガレンの足元へ伸びていき、通過すれば、火柱が立ち上る。それに対して、ガレンは魔法【風の装束(ウィンドドレス)】によって、風を(まと)うと、火柱を霧散させ、地盤に伸びている火線も吹き飛ばしてしまう。

 ガレンの発動した魔法【風の装束(ウィングドレス)】は身体に風を(まと)うことで、弓矢や威力の弱い魔法攻撃を弾く効果がある。しかし、ガレンの【風の装束(ウィングドレス)】はクレアの強力な魔法を弾くほど、効果が強化されている。

 



「これでクレアさんの魔法は、僕には届かない」

「そんな燃費の悪い魔法を発動し続けるつもりかしら?」

「確かに、それはあまり頭のいいことじゃない。なので、補給をしましょう」

 

 

 

 身体強化の魔法と同様に【風の装束(ウィングドレス)】は発動し続ける限り、魔力が消費されるため、長時間の使用は行うことは出来ない。

 しかし、ガレンは余裕な表情を全く変えずに右手を真上に掲げる。

 

 

 パチン‼︎

 

 

「……何をしてるの?」

「ふふ、すぐにわかりますよ」

「す、吸わ、うぐぅ……」

 

 

 ガレンが指を鳴らした直後、その場から動けずに二人の戦いを見ていた後衛の一人が(うめ)き声と共に地面に倒れ伏す。倒れ伏した男子生徒の指にはいつの間にか黒い指輪がはめられており、鈍い光を放っている。

 

 

 

「さすが、魔力量だけは取り柄なだけありますね。これで魔力も心配する必要はありません」

「まさか……‼︎」

「そう。この黒い指輪は同じい黒い指輪をはめている相手から魔力をもらうことができるんですよ」

「無理やり奪ってるの間違いでしょ‼︎」

「そんな物騒なことはしませんよ。僕の駒として魔力を献上してくれているだけです」

 

 

 

 魔力は消費し続けることで枯渇(こかつ)し、それ以上、魔法が発動できなくなる。しかし、魔力を無理やり奪い取る場合、魔力が枯渇した後、生命力まで奪い取ってしまうため、命の危険がある。

 

 

 

『早く倒さないと……そのためには、まず、あの風を突破する必要があるわね』

 

 

 

 クレアは残存魔力を意識しながら、使用する魔法を選び始める。常に〖ウルスラグナ〗へ魔力を流し込み続けているため、何もしなくてもクレアは魔力が消費されてしまう。


 

『……さすがに穴が多い作戦ね。でも、やるしかないわ』

 

 

 時間も考慮した作戦をクレアは即座に考えるが、ガレンの動き次第ですぐに瓦解(がかい)してしまうことを理解しているが、クレアは覚悟を決めると、魔方陣(まほうじん)(えが)かれた三枚の紙を取り出す。

 

 

「作戦は決まりましたか? 僕はいつでも構いませんよ?」

「その余裕……本当に小物ね」

「僕が小物ですって?」

「指輪の力をまるで自分の力みたいに思って、その余裕……油断かしら? 小物以外に何かあるかしら?」

「ちっ、いい気になーーー」

「ヘルファイア‼︎」

「さすがにそれは当たれませんね。さっきの言葉は、僕を動揺させる作戦ですか?」

「本心に決まってるでしょ。あなたが勝手に動揺しただけよ」

 

 

 

 クレアの言葉に対して、ガレンは激怒した瞬間、クレアは黒炎をガレンへ放つ。【這い寄る火蛇(スリザリンファイアー)】の時とは違い、【黄昏の炎(ヘルファイア)】をガレンは避けると、冷静を装うが、その眼には明らかな怒りの感情が(こも)っている。

 

 

 

「そうですか。これは念入りにお返しが必要なようですね……」

「サンドストーム‼︎」

「その程度で僕のウィングドレスが破れるとでも?」

 

 

 

 クレアは【襲いかかる砂嵐(サンドストーム)】によって、ガレンを中心に砂嵐を発生させる。砂嵐の中では大量の砂が四方八方から、ガレンへ襲いかかる。しかし、全て【風の装束(ウィングドレス)】によって、弾かれてしまい、ガレンは砂嵐の中を悠然と歩いて抜け出そうとする。

 

 


「動揺させて、魔法で攻撃……シンプルな作戦ですね。はっはっはっ」

「ふふ……」

「んん?」

「本当……あなたが、レオ以上のバカで助かったわ」

「何をふざけたことを……」

「今にわかるわ。ファイアーボルト」

 

 

 

 ガレンは砂嵐の中でも平然としながら、笑っており、これでもかと余裕を見せる。その様子にクレアは安心したように表情を緩ませては、火球を砂嵐へ放つ。そうすれば、砂に火が引火することで、瞬く間に炎の竜巻へ変貌し、ガレンの周囲を火の海にしてしまう。

 

 

 

「くっ、こんな炎‼︎ エアブラスト‼︎」

「どれだけ強い魔法を使えても、使い手次第ってことがよくわかったわ。アルベネロ君なら、もっと上手く対処するでしょうね」

「うるさい‼︎ この指輪があれば、僕はあんな男より優秀になれるんだ‼︎ あんな男よりも君に相応しくなれる‼︎」

「完全に化けの皮が剥がれたわね。それに、あなたみたいな(くず)が、私に相応しくなれる時なんて、一生来ないわ」

「言わせておけばあぁぁ‼︎」

 

 

 

 クレアの言葉にガレンは激昂すると【風の衝撃波(エアブラスト)】をクレアが立っていた方向へ乱射する。しかし、【風の衝撃波(エアブラスト)】によって、炎が途切れ、確認できる向こう側の景色にはクレアの姿は見えないが、頭に血が上っているガレンは少しの間、気づかない。

 

 

「どこにいる⁉︎」

「モードチェンジ。スナイプ」

 

  

 ようやくガレンがクレアの居場所を探し始めた頃には、クレアはガレンの後ろに回り込んでいた。クレアは〖ウルスラグナ〗の銃身に彫られている魔方陣(まほうじん)へ魔力を流し込み、モード選択の言葉により、〖ウルスラグナ〗の強化魔法が起動し、クレアの眼には炎を通り越して、ガレンの姿がはっきり確認可能となる。

 そして、クレアは両手で魔導銃を構え、最大火力まで魔力を弾丸に込めれば、一切の躊躇(ちゅうちょ)なく、引き金を引く。

 

 

 

 ドゴオォォォォン‼︎

 

 

 

「があぁぁぁ‼︎」

「破れた‼︎」

「う、ウィンドドレーーー」

「させない‼︎」

 

 

 ドゴオォォォォン‼︎ ドゴオォォォォン‼︎

 

 

 ガレンに命中すれば、(まと)っていた風は一撃で吹き飛び、余波がガレンに激痛をもたらす。クレアは、ガレンが【風の装束(ウィングドレス)】を再度、発動しようとしているのに気づくと、二発、三発と立て続けに引き金を引けば、全てガレンへ命中し、ガレンは炎の竜巻から吹き飛ばされる。

 

 

「ひぃ……‼︎ ひぃ……‼︎」

「まだ意識が残ってるみたいね」

「も、もう、やめっ‼︎」

 

 

 ドゴオォォォォン‼︎

 

 

「ぎゃぁぁぁあ‼︎」

「やっと、倒れたわね……」

 

 

 ガレンは四発の弾丸を身体に受けると、絶叫と共に地面に倒れ伏し、反応しなくなる。

 クレアは炎の竜巻を消すと、魔導銃を構えたまま倒れているガレンへ近づいていく。

  

  

「指輪を外せば、結界も無くなるはず……」

「う、ぅぅ……」

「拘束系の魔法も用意しておくべきだったわね……」

 


 時折、唸り声をあげるガレンに対して、クレアは〖ウルスラグナ〗を右手で構えながら、黒い指輪を左手で摘まみ、外そうとすれば……


 

「が、あぁぁぁぁ‼︎」

「な、何⁉︎」

「エ、ア、ブラスト‼︎」

「うぐぅ‼︎ かはっ‼︎」

 

 

 

 突然、黒い指輪が紅く光るとガレンが苦しみ始め、クレアは思わず、手を止めてしまう。 ガレンは苦しみながら【風の衝撃波(エアブラスト)】を発動し、クレアを吹き飛ばそうとする。超近距離のため、クレアは魔法が間に合わないと判断すれば、〖ウルスラグナ〗を横向きで胸の前に構え、【風の衝撃波(エアブラスト)】を受け止める。しかし、衝撃で後方へ吹き飛ばされてしまい、結界の壁と思われる部分に背中を強く打ち付ける。

 

 

 

「けほっ、けほっ。はぁ……はぁ……」

「認めない認めない認めない認めない認めない認めない」

「くっ……」

「君は僕だけの女神だ‼︎ 僕だけのものにならないとダメだ‼︎」


 

 

 ガレンは呪詛のように言葉を呟きながら、クレアにフラフラとした足取りで近づいていく。

 クレアは結界の壁に背中を預けた状態のまま動けず、迫ってくるガレンへ〖ウルスラグナ〗を構えようと思うが、吹き飛ばされた拍子に少し離れた場所へ落としてしまっていた。

 

 

 

「本当、好き勝手、言ってるわね……」

「あの男より、僕のほうが優れている‼︎ あんなやつより‼︎」

「笑わせるわ。他人を駒としか扱わない、魔法も道具頼りなあなたの何が優れてるって言うの? 頭が優れてる? 顔が優れてる? 魔法が優れてる? あなたはそれ以前に、人として既に最底辺よ。その時点でアルベネロ君より優れてる部分なんて、どこにもないわ。それに、アルベネロ君の方が頭も顔も魔法も優れてるわ‼︎」

「きさまぁぁぁ‼︎」

 

 

 

 ガレンはフラフラとした足取りだが、クレアの目前まで移動すると、醜悪(しゅうあく)な自尊心の塊のような言葉を発しながら、クレアへ手を伸ばす。狂気に呑み込まれているような言葉にも、クレアは毅然(きぜん)とした態度でガレンを否定すれば、激昂したガレンがクレアの首を掴み、ギチギチと締め上げる。

  

 

「う、ぐぅ……」

「僕のものになれよ‼︎」

「だ、れ、が……」

魔導具(まどうぐ)も取り出せない状況で、どうして諦めない⁉︎」

「うぅ……」

 

 

 首を絞める力はどんどん強くなり、クレアはなんとか右手を挙げて、ガレンの腕を掴むが抵抗出来るほどの力が入らない。

 

 

『だめ……紙を取り出せない……』

 

 

 クレアは魔方陣(まほうじん)(えが)かれた紙を取り出そうと思うが、地面に座った状態ではガレンに気付かれずに取り出すことが出来ない状況であり、息が止まって、だんだんと意識が混濁していく。

 

 

『こんな、ところで……負けるなんて‼︎』

 

 

 

 クレアは諦めたくない一心で意識を保ちながら、必死に頭の中で作戦を考える。

 

 

 

「僕のものにならないなら……このまま‼︎」

「んん‼︎ あなた、なんか、に‼︎」

 

 

 

 クレアはアルベネロとの特訓を思い出せば、ガレンの腕を掴んでいた右手を離せば、ガレンの顔へ手を向ける。

 

 

『思い出すのよ。特訓を……』

 

 

 

 クレアは気力を振り絞るようにアルベネロとの特訓を思い出す。特訓のようにゆっくり魔力を描いていれば、ガレンに気付かれてしまう。アルベネロのように一瞬で(えが)きあげることが必要になるが、魔方陣(まほうじん)に少しでも間違いがあれば、何が起きるかわからない。

 

 

 

「はぁ、はぁ、デスーーー」

「ん゛ん゛ぅぅ⁉︎」

 

 

 

 業を煮やしたガレンが【滅びの風(デスウィンド)】をクレアへ放とうとすれば、黒い風がガレンの隣に現れる。お互い超近距離の状況で放てば、自身も巻き込まれるが既にそんなことを考慮する正気もガレンには残っていない精神状態である。

 目の前に現れる黒い風にクレアは目を見開いた後、冷静になるために目を(つぶ)れば、魔方陣(まほうじん)(えが)くことに集中する。

 

 

 

『思い出すのよ、アルベネロ君が見せてくれた、魔方陣(まほうじん)を……』

 

 

 必死に魔方陣(まほうじん)を思い出そうとするが、切迫した状況の中では、魔方陣(まほうじん)を思い浮かべても正しい魔方陣(まほうじん)という確信が持てずにいる。

 

 

『アルベネロ君が最後に手を握って、手伝ってくれて……』

 

 

 アルベネロとの訓練を思い出す中でアルベネロに握られた手の感触を思い出すと、切迫した状況の中でも、自然と笑みが溢れてしまう。

 

 

「ふふ……」

「こ、この状況でどうして笑ってられる⁉︎」

 

 

 

 こんな状況なのに、アルベネロに手を握られた感触をハッキリと思い出せている自分にクレアは苦笑してしまいながら、不思議と不安感が消える。

 首を絞められている状況下で笑みを浮かべるクレアにガレンは戸惑い、少しだけ首を絞める力が緩まってしまうとクレアはほんの少し呼吸が可能になる。

 

 

 

「かはっ‼︎ ファイアーボルト‼︎」

「ぎゃぁぁああ⁉︎ 顔がぁ‼︎ 僕の顔が燃えるぅぅ‼︎」

「はぁ‼︎ はぁ‼︎」




 首を絞める力が緩むと、クレアは思いっきり息を吸い込んだ瞬間、【火の矢(ファイアーボルト)】の魔方陣(まほうじん)を魔力で右手の先に(えが)けば、火球がガレンの顔面にぶつかり、燃え上がる。

 顔が燃えたことでガレンはクレアを離すとその場で転がり、火を消そうとする。

 


 

「ウルスラグナを……」

「はぁ‼︎ はぁ‼︎ 許さない‼︎ 許さない‼︎ 許さない‼︎ 許さない‼︎」



 クレアは石床に転がっている〖ウルスラグナ〗へ駆け寄り、拾う。そして、両手で構えるとガレンを撃とうとするが既にガレンは顔を押さえながら、新たに魔方陣(まほうじん)(えが)かれた紙を取り出していた。


 

 

「本当はこんな魔法に頼るつもりはなかったんですが、もういいです‼︎ この魔法でクレアさんを僕だけのものにする‼︎」 

「諦めなさい‼︎」

「僕に従え‼︎ テラー‼︎」

「な、なに⁉︎ きゃぁぁぁぁ⁉︎」

 

 

 

 ガレンは手に持った紙に魔力を流し込むと、髑髏(どくろ)のような顔が現れる。聞いたことのない魔法と、髑髏(どくろ)が迫ってくる状況にクレアは悲鳴をあげると、髑髏(どくろ)の口が大きく開けて、クレアを呑み込んでしまう。

 

 

 

『な、に、これ……どんどん……寒くなっていく……』

 

 

 髑髏(どくろ)に呑み込まれると、クレアは辺り一面が暗闇の世界に居た。クレアは本能的に寒さを感じ、身体が徐々に冷たくなっていく感覚に襲われ、思わず屈んでは腕を(さす)る。

 

 

 

『さむ、い……こわ、い……こわい……怖い、怖い‼︎ 怖い‼︎ 怖い‼︎ 助け、て、誰か……‼︎』

 

 

 寒いと感じた感覚は段々と恐怖心へと変わっていき、遂には涙を流しながら、心を埋め尽くす恐怖心に対して、クレアは助けを求める。

 

 

『さあ、僕の手を取るんだ。僕の言う事を聞けば、その恐怖から助かる……』

『助か、る?』

 

 

 突然、頭の中に響いてくる声と、突然、差し込んできた光、クレアは身体を震わせながら、立ち上がれば、覚束(おぼつか)ない足取りで本能的に光へ近づいていく。

 

 

『さあ、手を伸ばすんだ。それで、助かる』

『助かる……』

 

 

 クレアは震えながらも右手を伸ばそうとすれば、左手に微かな重さを感じ、視線を向ける。そこには純白の魔導銃〖ウルスラグナ〗があり、手に伝わる感触と、呼び起こされる記憶によって、恐怖感で埋め尽くされた心の中に、ほんの少しの安心感が生まれる。

 

 

 

『どうした? 早く、僕の手を取るんだ』

『……この手は取れないわ』

『ど、どうしてだ⁉︎』



 

 目の前に差し込んでいる光にクレアは背を向けると、隠しきれない驚きと怒りを含んだ声が光から響いていく。

 光から背を向けた先には無限に暗闇が広がり、幾ら進もうとも暗闇からは抜け出せないと感じさせる。しかし、クレアは涙を流しながらも笑みを浮かべれば……



『アルベネロ君……』

 

 

 まだ一ヶ月もないほどの付き合いであるはずなのに、クレアは自然とアルベネロの顔が頭に浮かべる。

 そして、暗闇の中、声が出ているかすらわからない状況の中でも、届くと信じて、クレアは名前を呼ぶ。その瞬間、暗闇にヒビが入っていき、隙間から光が差し込んでくる。次々と暗闇は崩れていくと、不意に右手を誰かに握られ、思わず手が強張るが、握ってくる手の感触ははっきりと覚えのあるものであった。

 

 

 

「……遅くなった」

「本当に遅いわ……でも、来てくれたから、許してあげる」

「あとは俺に任せて、休んでくれ」

「……お願いするわ」

 

 

 

 クレアは気付くと、いつの間にか暗闇から抜け出し、アルベネロに前から抱きしめられている体勢であった。アルベネロの言葉にクレアは安心すると、笑みを浮かべて、ゆっくりと目を閉じては意識を手放し、アルベネロへ身体を預ける。

 

 

 

「ど、どうして気づいた⁉︎」

「お前が禁術を使ったからだ。それがなかったら、最後まで俺も気づけなかっただろうな」

「ガレン君‼︎ これはどういうことですか⁉︎」

「チッ、レーメ先生まで……結界も壊されたのか……」

「諦めろ。多勢に無勢だ」




 アルベネロと同様に、異常事態である事に気付いたレーメ先生が後衛の二人は駆け寄り、容態を確認する。後衛の一人に手を置けば、何かをし始めながら、ガレンに状況説明を求める。この状況から完全に幻の効果も無くなり、万に一つも勝機がないことは誰でもわかるだろう。

 

 

 

「はっ、貴様とレーメ先生を倒せば、あとは有象無象だ。僕の敵じゃない‼︎」

「無理だ。お前は俺には勝てない」

「なんだと……‼︎」

「このまま捕らえる。黒い指輪と禁術の魔方陣(まほうじん)を誰に貰ったか、話してもらうからな」

「くっ、図に乗るな‼︎」

 

 

 

 ガレンはアルベネロに対して、激昂しながらも、置かれている状況を理解する程度の理性は残っているようであり、魔法で攻撃することはなかった。

 

 

「アルベネロ君はそのままクレアさんを保健室へ連れて行ってあげてください。倒れている二人は応急処置をしてから、私が運んでおきます」

「わかりました。ガレンはどうするんですか?」 

 

 

 アルベネロはレーメ先生の指示がなくとも、クレアを運ぶつもりであったため、保健室へ運ぶようにレーメ先生から指示を受ければ、すぐに頷くと、ガレンの今後について、レーメ先生へ確認する。

 

 

 

「ガレン君はこの部屋から出れないようにしておきます。私が戻るまで待っていてください」

「わかりました……」

「訓練はここまでとします。他の皆さんは各自、解散とします」

「「「はい」」」

 

 

 レーメ先生の言葉にガレンは反抗することなく、頷けば、近くの柱に背中を預けて、座り込む。他の生徒たちはガレンの様子を遠巻きで見ながらも教室を後にしていく。

 そして、アルベネロはクレアをお姫様抱っこで抱え直すと、教室の扉へ向かって、足早に歩き始める。

 

 

 

「ん、んぅ……」

「気が付いたか?」

「アル、ベネロ、くん?」

「あぁ、すぐ保健室に運ぶからな」

「う、ん……ありが、とう……」




 アルベネロが教室を出て、訓練棟を後にした頃にクレアは目を覚ます。しかし、言葉は途切れ途切れであり、少し虚ろな表情で段々と息を荒くしていく。

 

 

「大丈夫か?」 

「はぁ……はぁ……」

「クレア?」

「はぁ‼︎ はぁ‼︎ こわ、い‼︎ こわ、い‼︎ たす、けて‼︎」

「大丈夫だ。クレアは俺が守る」

 

 

 

 クレアの様子にアルベネロは声を掛けるが、クレアの息はどんどん荒くなっていき、アルベネロにお姫様抱っこをされた状態で突然、自身の頭を押さえれば、身体を震わせながら助けを求めるようにアルベネロの服を掴む。

 

 

 

『テラーを受けて、この程度(・・・・)で済んでるのはまだ救いだな……』

 

 

 

 アルベネロは立ち止まると、クレアが落ち着くまで、何度も大丈夫と声を掛け続ける。

 禁術『恐怖(テラー)』は相手の精神を恐怖感で満たし、洗脳する魔法である。この魔法の最も恐ろしいところは洗脳が成功しなかった場合も、受けた相手の精神を破壊し、廃人化させることで無力化できることにある。

 

 

 

「ア、ル……くん」

「……大丈夫だ」

「うん……」

 

 

 

 クレアは涙を流しながらもアルベネロの言葉に少しずつ落ち着いついていけば、手の力が抜け、そのまま気を失う。

 アルベネロは再び、気を失ったクレアを保健室へと運んでいき、保険医の指示でベットに寝かせる。

 

 


『マナに今回のことを報告する前にまずは、クレアの治療だな……』

 

 

 

 アルベネロは周囲がカーテンに遮られて、誰も見ていないことを確認すると、ベットの上で眠っているクレアの額に手を添え、目を(つぶ)る。

 

 

 

「ッツ‼︎ はぁ‼︎ はぁ‼︎ さすがに禁術になると、かなりキツイな」


 

 

 アルベネロは一瞬の間に、大粒の汗をかくほど体力を消耗する。ゆっくりと目を開けば、眼の瞳孔周りに虹色の波が現れており、その虹は時間と共に色が変化している。アルベネロは肩で呼吸をしながら、クレアの額から手を離すと、近くの椅子に座り込む。

 

 

 

『テラーを受けたこと自体をなかったことにするつもりだったが……禁術ともなると、無理か……』

 

 

 

 アルベネロは時間遡行により、クレアが【恐怖(テラー)】を受けたこと自体を無かったことにしようとしたが、禁術ほどの強力な魔法では今の状態で無かった事にすることは不可能であった。そのため、逆に【恐怖(テラー)】のみ、時間を加速させ、効果が弱まるようにする。

 

 

「今日は流石に離れない方がいいな……」

「んっ……すー、すー……」




 先ほどよりも幾らかクレアの表情は穏やかになると寝息をたて始める。その様子にアルベネロは安心すると、瞳孔周りの色が元に戻る。数分後、アリサとリンカがサキのお見舞いで保健室に入ってくる。


 

 

『サキさんも目が覚めたみたいだな』

 

 

 サキ、アリス、リンカの声が聞こえてきたため、アルベネロはなるべく聞かないように気をつける。

 そして……

 

 

「んぅ……ここは……?」

「おはよう。クレア」

「アルベネロ君……? あぁ……そうだったわ……」




 目を覚ましたクレアはアルベネロが目の前に居ることに対して、不思議そうにするが、だんだんとFチームとの模擬戦について、思い出し、身体を起こす。

 

 

「大丈夫か?」

「大丈夫……じゃないみたいね」

 

 

 クレアは苦笑いを浮かべて、アルベネロに、震えている自分の右手を見せる。

 

 

 

「手の震えが止まらないわ……」

「……テラーを受けた後遺症だな」

「どうしたら、(おさま)るの……?」

「クレアの場合、恐怖心が残ってるのが原因だ。だから、心が落ち着くようなことをすれば、(おさま)るはずだ」

「落ち着くようなこと……」

 

 

 

 アルベネロの言葉に、クレアは少し考えた後、震えている右手をゆっくりと動かし、アルベネロの左手を握る。そうすると、段々、手の震えは(おさま)っていき、しっかりと手を握ることが可能になる。

 

 

 

「これで、落ち着くのか?」

「えぇ……わがままを言うなら、アルベネロ君からも……握り返してくれたら、もっと落ち着けると思うわ……//」

「……ふふっ」

「うぅ……わ、笑ったわね……//」

「いや、可愛いわがままだと思ったんだ。クレアがそれで落ち着くなら、喜んで……」

「あっ……//」

 

 

 

 クレアは恥ずかしそうにしながらも、アルベネロへ希望を伝えてみる。クレアからの可愛らしいわがままに、思わずアルベネロは笑いを溢してしまえば、クレアは羞恥心(しゅうちしん)で顔を赤くしながら、小さく(うな)る。

 アルベネロは弁明した後、手を握り返せば、クレアは嬉しそうに表情を崩して、繋いでいる手を眺める。

 

 

 

「ふふ、アルベネロ君の手は大きくて、しっかりしてるわね」

「まあ、俺も男だからな。クレアに比べたら大きいだろう。逆にクレアの手は小さくて綺麗だな」

「そうかしら? こんな風に同年代の男の子と手を繋ぐことなんて無かったから、そう言われるのは新鮮ね」



  

 アルベネロとクレアは互いに手の感触について、感想を相手に伝えると、その後は静かに見つめ合う。先ほどまで、恐怖感で手を震わせていたと分からないほど、クレアは安心した表情で見つめておカーテンで仕切られているだけだが、二人きりと感じられる空間である。

 

 

 

「アルベネロ君。本当にありがとう。私を助けてくれて」

「守るって約束しただろ? 本当はもっと早く助けられたらよかったんだが……」

「助けに来てくれただけで十分過ぎるわ。ありがとうの言葉じゃ足りないぐらい感謝してるわ」

「クレア……」

「アルベネロ君……」

 

 

 

 まるでキスでもせんばかりの雰囲気が漂いながらも、互いに顔を近づけるようなことはなく、見つめ合っていれば、どちらと言わずに顔を逸らしてしまう。



「ふふっ……」

「ははっ……」

 

 

 お互いに顔を逸らしたのに気づけば、アルベネロもクレアも笑ってしまいながら、二人は保健室で一時(いっとき)の穏やかな時間を過ごすのであった、今の状況を見られていることに気づくこともなく。

ここまでお読みしていただき、誠にありがとうございます。

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作者:@canadeyuuki0718

絵師様:@Eroinstein7027

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