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~物騒な道のり~

 ガクッと揺れる馬車。その衝撃によって、中で眠っていた青年、アルベネロの身体は上下に揺らす。

 アルベネロは振動で目を覚ますと、ゆっくりと目を開け、馬車に乗っていることを思い出せば、馬車の振動が止まっているため、止まっていることを(さっ)する。

 そして、外の様子を確認するため、馬車に付いている窓を(のぞ)き、外を確認すると、木々(きぎ)()(しげ)っている光景が目に入り、まだ馬車は森の中であることを理解する。

 


「休憩ですか?」

 


 アルベネロは森の中で止まっていることを不審に思い疑問に思い、御者台(ぎょしゃだい)に繋がる小窓を開ける。そこには馬と繋がる手綱(たづな)をにぎる、恰幅(かっぷく)のいい紳士風の男性が座っているが、その表情から不安が見て取れる。

 


「どうかしましたか?」

「と、盗賊にどうやら囲まれてしまったようで……」

「盗賊?」

 



 御者(ぎょしゃ)手綱(たづな)を握った手を震わせながらも、今の状況をアルベネロへ伝える。

 状況を理解した、アルベネロは小窓を閉めると、外に続く扉を開け、外へ出る。

 そして、周りを見渡せば、ゾロゾロと嫌らしい笑みを浮かべた十数人の男達が、木々の間から順に姿を現し、馬車を囲む。

 


「運が悪かったな小僧(こぞう)。まあ、これも運命だ。来世で頑張って生きてくれ」



 親玉と思われる、手斧(ておの)を持ったガタイのいい男はアルベネロと御者(ぎょしゃ)を生きて返す気のない様子であり、隠す気のない殺意を二人へ向ける。

 

 

「先を急いでるんだ。初日に遅刻はしたくないから、遊んでる場合じゃないから、消えてくれないか?」

「あぁ? 何、言って……まさか⁉︎ おい‼ やっちまえ‼」


 

 アルベネロは面倒なことに遭遇(そうぐう)したとため息を吐けば、親玉(おやだま)らしき男へ視線を向けると居なくなるように伝える。

 全く恐怖していない、アルベネロに対して、親玉らしき男は不気味さを感じたのか少し戸惑っていたが、何かに気づいたようで、仲間へ攻撃の指示を出す。

 

 

「くたばれぇぇ‼︎」

「はぉ……」



 次々と、アルベネロへ襲いかかる、盗賊たち。様々な武器で攻撃を加えようとしており、その表情に躊躇(ためら)いは見当たらない。

 一方、今まさに武器を振り下ろされようとしている状況でありながら、アルベネロは慌てる様子もなく、何も持っていない手を前に向ければ、複雑怪奇(ふくざつかいき)魔方陣(まほうじん)が手の先に現れる。

 

 

魔導具(まどうぐ)どころか、魔方陣(まほうじん)の書いた道具も無しにこんな子どもが魔法を使える訳が⁉︎」

「見誤ったな」

「くそ‼︎ おい、散開しろ‼︎」


  

 親玉らしき男は目の前の光景が信じられず、襲いかかってきた盗賊たちは思わず、足を止めてしまう。

 また、後方で様子を(うかが)っていた盗賊たちも、今の状況に驚愕(きょうがく)しており、動揺(どうよう)していた。そんな中、いち早く、親玉らしき男が正気に戻り、撤退の指示を出すと、逃げ出すように盗賊たちは背中をアルベネロへ向ける。



「遅い。ユグドラシル」

「なにぃぃぃ⁉︎」

 

 

 魔方陣(まほうじん)が輝きを増した瞬間、盗賊たちの足元に突然、地割れが発生し、穴へ落ちていく。奈落とさえ思える深さの穴へ落ちた盗賊達の悲鳴が穴から反響しながら地上に響き渡り、落下する盗賊たちは必死に壁にしがみつこうともがく。

 


「……」

 

 

 助ける義理はないが、アルベネロは地割れを一瞥(いちべつ)すると、地中から根が伸びていき、落下する盗賊たちを(から)()る。


 

「死にたくなかったら、登るんだな」

「チクショォォ‼︎」

 


 最後に、アルベネロは盗賊たちが落下した穴へ近づき一声かけると、叫び声が聞こえるが、無視して、馬車へ戻る。

 そして、扉を閉めると、何事もなかったように御者台(ぎょしゃだい)へ繋がる窓を開ける。

 


「これで大丈夫ですか?」

「あはは……ええ。問題ないでしょう。少し小耳には挟んでいましたが、まさかここまでの魔法使いだったとは……」

「あまり口外はしないでくださいね」

「もちろんです。私も命が惜しい」



 御者(ぎょしゃ)手綱(たづな)を振るえば馬が走り出していく。アルベネロは少し疲れた様子で背もたれに体を預けて、外の景色を眺めていれば、()(しげ)木々(きぎ)が段々と減っていき、代わりに平原が広がり始める。

 


「前途多難だな……」

『____』

「今回のは俺が原因じゃないだろ? だから、面白がらないでよ、姉さん」

『____‼』

「この年でその呼び方、恥ずかしいんだけど……」

『____……』

「わかったわかった。姉ちゃん。これでいい?」

『____♪』

 


 アルベネロと御者(ぎょしゃ)以外、馬車には誰もいない。しかし、アルベネロははっきりと聞こえる声と、苦笑いを浮かべながら会話をしていた。



「そろそろ、目的地が見えてきますよ」

「わかりました」

 


 御者(ぎょしゃ)の呼び掛けに、アルベネロは頷くと、窓から外の景色を見る。最初に見えてくるのは、大きく長い城壁であり、その城壁を囲むように大きな(ほり)がある。(ほり)には水が満たされており、石で出来た大きな城門の前には、(ほり)を越えるための橋が架かっている。



「あと少しで目的地です。降りる準備を……そう言えばあまり荷物がありませんでしたな」

「必要な物は用意してもらえると聞いているので、最低限にしてます」

「そうでしたか。私はてっきり、荷物を持たなくてもいい魔法を使えるのかと……」

「……そんな魔法が使えたら、長距離の荷物運びが楽ですね」

「全くですな」



 アルベネロは図星を突かれてしまい、一瞬、動揺してしまうが、御者(ぎょしゃ)に気づかれないよう、全く知らない風を(よそお)う。

 

 

「やはり、かなり混んでいますな……」

「どのぐらいで通れそうですか?」

 

 

 少しして、橋の近くに到着すると、すでに多くの馬車や旅人の姿があり、門番からの通行許可を待っているのだとわかる。


 

「普通なら、かなり時間がかかりますが、この書状を見せれば問題ないでしょう。少しお待ちください……」



 橋の中場(なかば)まで御者(ぎょしゃ)が馬車を進ませれば、通行許可待ちの最後尾に並ぶと、懐から一枚の封筒を取り出す。

 

 

「入国の目的はなんだ?」

「学院へ入学するためです。これを……」

「書状か……拝見させてもらう」

 

 

 門番が歩いてくると、御者(ぎょしゃ)は目的を伝え、書状を渡す。

 

 

「これは……‼︎ それにこの判子……」

「問題ないですか?」

「ああ。このまま私に付いてきてくれ」

 

 

 書状を確認した門番は驚いた様子で書状を返せば、慌てた様子でアルベネロの乗った馬車に通行許可を出すと、門まで誘導していく。



「流石は学院長の判子(はんこ)まで押された書状ですな。荷物検査無しに通して貰えるとは。それだけ、重要な人物ということですな」

「そんなことないですよ……単なる、転校生です」

「そういうことにしておきましょう。さあ、到着です。ここが、聖ソーサリ魔術学院。今ある魔術学院の中でも最高峰(さいこうほう)の魔法使い育成機関でございます」



 開いている城門を通りすぎ、中へと入れば、すぐに並び立つ家屋(かおく)や出店。

 そして、城門の正面からは、まだ距離があるため、小さく見えるが、それでも立派な純白の城が現れる。



「中に入るまで見えなかったのは、幻惑(げんわく)の魔法……いや、認識阻害か。城壁を起点に城への意識を逸らして、意識されないようにしてるのか」

一目(ひとめ)見ただけでそこまで……」

 


 御者(ぎょしゃ)は城へと馬車を進ませながら、アルベネロの推測に感心している様子である。

 城へ向かう道中に聞こえてくる、(にぎ)わいは街そのものであり、鍛冶屋や宿屋、雑貨店と、多種多様な店舗が並び、多くの老若男女(ろうにゃくなんにょ)が生活していた。



「ここで……これから過ごしていくのか……」

「大国の都市と比べても遜色(そんしょく)のない街ですから、きっと、お好きになっていただけるかと」

「お気遣い、ありがとうございます」

「いえいえ……さあ、到着です」



 街の様子を見つめて、今後のことを考える、アルベネロ。その様子に御者(ぎょしゃ)は声を掛けると、馬車を止め、御者台(ぎょしゃだい)から降り、馬車の扉を開ける。

 

 

「到着です。ここが、聖ソーサリ魔術学院です」

「ありがとうございます」

 

 

 アルべネロは馬車内に持ち込んでいたカバンを背負い、外に出れば、目の前に現れた校門を挟んでそびえる純白の城に思わず見惚(みほ)れてしまう。

 

 

「おはようございます。あなたが転校生のアルべネロ君ですね?」

 



 アルべネロは少しの時間、建物を眺めていれば、校門が勝手に開くと、黒いローブを身に(まと)った女性が現れる。

 首から大きな赤い宝石の埋め込まれたネックレスをつけ、純白の肌に腰付近まで長さのある金髪を揺らしており、少し垂れ気味の目と整った顔立ちが優しい印象を与える。

 そして、ゆったりとしたローブの上からでも体の凸凹(おうとつ)がはっきりとわかるほどで、誰が見ても美しいと思わせる容姿をしている。

 



「はい。今日からお世話になります。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。私の名前はレーメ・エクセティア。ここの教師をしています。学院長の元までお連れしますね。その時にまた、自己紹介をさせていただきます」

「わかりました」

 

 

 お互いに簡単な自己紹介と挨拶を終えると、握手を交わす。



「それでは、私は失礼させていただこう」

「ありがとうございました」

「良い学院生活を送れることを祈っているよ」

 


 御者(ぎょしゃ)はアルベネロを労った後、二人へ頭を下げ、馬車に乗って、その場を後にする。去っていく。

 

 

「それでは行きましょうか」

「はい。お願いします」

 

 

 レーメ先生に連れられながら、アルべネロは聖ソーサリ魔術学院へと足を踏み入れる。城の中へと入っていけば、すぐに黒と紺を基調にした制服を着ている生徒と思しき若者たちとすれ違う。歩いている生徒の中には人間だけではなく、猫耳や犬耳を生やした獣人や耳の先が尖っているエルフが混じっている。



 

「学院長室までもう少し時間がかかりますので、この学院について少し説明しましょう」

「ありがとうございます」



 アルべネロとレーメ先生は話しながら、階段を上っていた。天井は遥か上に存在しており、最上階まで登るのにはどれほどの時間がかかるのかと思えてしまう。




「ここ、聖ソーサリ魔術学院は最高峰(さいこうほう)の魔法使い養成機関として、数多くの才能ある魔法使いを目指す人が通っています。ここで教鞭(きょうべん)(ふる)う教師も他国では名前の知れた方ばかりです。また、大国とも対等の立場であり、他種族の入学も許可されています」

「本当に一つの国ですね。大国も口を出せないほど、優秀な魔法使いを輩出する実績があるんですよね」

「その通りです。今では賢者や大魔導士と呼ばれる卒業生も居ます」



 レーメ先生が学院について、説明していれば、とある扉の前で足を止める。アルべネロは到着したのかと思い扉の上を見れば、室名札(しつめいふだ)に〖食堂〗と表示されていた。



「ここは?」

「転移用の扉です。行きたい場所を言うとそこに繋がります。空間魔法で移動するので少し魔力を使いますが、ここに通う魔法使いなら皆さん、使えます。なので、アルべネロ君も楽がしたくなったら、使ってください」



 レーメは微笑みながら、アルべネロに伝えると、扉のドアノブに手を添えれば、いつの間にか室名札(しつめいふだ)に〖最上階〗へ変わっていた。



「行きたい場所を言うと、そこに繋がる仕組みなんですよね?」

「その通りですよ。ただ、声に出さなくてもしっかり魔法を学べば可能ですよ」

「……無詠唱ですか」

「正解です。この扉も魔導具(まどうぐ)のような物ですから」



 当たり前に高難易度の魔法技術を使っているレーメ先生に、アルべネロは軽く口元を()()らせる。

 レーメ先生はドアノブを回し、扉を開ければ、どこかの廊下に出たようであり、目の前には豪華(ごうか)な木の扉がある。



「ここが学院長室です。早速、中に入りましょう」

「はい」



 コンコンッ


 

 アルベネロとレーメ先生は豪華(ごうか)な扉の前まで移動すれば、レーメ先生が数回、扉をノックする。二人とも、すぐに返事があると待っていると……

 


「アルが来たのか⁉︎」



 突然、扉が開かれ、女性が飛び出してくる。その女性は大きめの魔女帽子を被り、黒と紫が基調になったマント、太ももの大部分が見えるほどのミニスカート、そして、大きく胸元が開いた服装という、煽情的(せんじょうてき)な服装であり、女性らしさがかなり強調されている。



「……そちらに」

「アル~~」

「抱きしめようとするな。最低限、周りの目を気にしてくれ。マーリン学院長」


 

 マーリン学院長と呼ばれる女性は少しでも揺れれば、服から(こぼ)れるのではないかと思えるほど立派な双丘を持っており、それを揺らしながら、アルベネロへ抱き着こうとするため、アルベネロは視線を逸らしながら、サッと避ける。

 


「身のこなしがさらに良くなっているな。前は抱きしめることが出来たのに」

「さっさと落ち着いてくれないか?」


 

 肩より少し下まで長さのある、ウェーブのかかった銀髪をなびかせながら、アルべネロを抱きしめようと、何度も突撃してくる、マーリン学院長。眉目秀麗(びもくしゅうれい)な容姿とは裏腹な残念な行為を数回、試した後、諦めたように学院長室内へ戻っていく



「コホン。失礼した」

「アルべネロ君……どうぞ、中へ」

「……失礼します」



 アルべネロは(うるわ)しい女性二人に(うなが)されるように学院長室へと入っていけば、あとからレーメ先生が中へ入り、扉を閉める。

 

「色々と伝えたいことはあるが……それはまた後でとして……」



 マーリン学院長が両袖デスクにある椅子に座ると、その横にレーメ先生が(はべ)る。

 

「ようこそ、聖ソーサリ魔術学院へ」



 にやっとした表情でマーリン学院長から歓迎の言葉を贈られると、アルベネロは先ほどまでの残念な行動に(あき)れながらも、笑顔を浮かべるのであった。

ここまでお読みしていただき、誠にありがとうございます!!

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作者:@canadeyuuki0718

絵師様:@Eroinstein7027

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