~理不尽な結末と邪な影~
大変長らくお待たせしました!
アルベネロはギリアンに指定された扉のドアを開け、中へ入る。ロッカーやベンチが置いてあり、入ってきた扉とは反対側に別の扉が設置され、アルベネロはとりあえずベンチへ座ると、部屋の中を見渡し、一息つく。
「ここが待機室で……あの扉から、また移動か?」
「正解です」
「うぉ⁉︎」
アルベネロは部屋の中を見回しながら、一言、呟くと、入ってきた扉の方向から返答が来る。アルベネロは返答があるとは思っていなかったため、驚きながらも声の聞こえた方向へ顔を向けへば、そこにはレーメ先生が立っていた。
「あと少しで、そこの扉が決闘を行う会場に繋がります。そのため、それまでに魔導具の準備や確認を生徒たちは行うのですが……」
「必要ないです」
「そうですよね……決闘の流れは問題ないですか?」
「一応……審判はレーメ先生が?」
「いえ、決闘を行う生徒の担任は審判を行わない規則なので、他の先生が行うことになってます」
レーメ先生が決闘の規則について簡単に説明を行っていると、扉全体に魔方陣が浮かび上がり、決闘の時間であることを告げる。
「頑張ってください。アルベネロ君を見送ってから、観客席で応援してますね」
「ありがとうございます。ただ、レーメ先生が観客席に着く頃には終わってるかも……」
「ふふ、アルベネロ君なら本当にできてしまいそうですね」
「まあ、やりすぎないようにします。それじゃ、行ってきます」
「はい♪ いってらっしゃい〜〜」
レーメ先生に手を振られながら、アルベネロは魔方陣が浮かんでいるドアを開ける。
そして、そのまま扉を通ると、辺り一面が闇に包まれ、ドアを閉めれば、少し先に出口と思しき光の門と、歓声が聞こえてくる。
『本当にギャラリーが多そうだな……』
『……?』
「あんまり目立ちたくはない。けど、もう、ここまで来たらあんまり意味ないと思ってる」
『……♪』
「嬉しそうに言わないでくれ……平穏な生活は程遠そうだな」
アルベネロは頭の中に響く声と話した後、覚悟を決めて、前へ進む。光の門と距離が縮まるほど、歓声は大きくなっていき、門をくぐり抜けると、アルベネロは石床が敷き詰められたステージに立っており、観客席から大歓声が響き渡る。
「ふっ、最後まで怖じ気ずに来たのは褒めてあげよう‼︎ まあ、すぐに逃げるべきだったと思うことになるだろうけどね‼︎」
「……」
「緊張で声も出ないようだね。まあ、君のような小物には確かに、勿体ないほどの舞台ではあるからね」
アルベネロは軽くため息を吐き、ギリアンの言動にまた軽く頭を痛める。ここまで自信過剰な相手を瞬殺していいものかと悩んでいたが、アルベネロとギリアン以外に、眉間に皺を寄せている壮年の男が光と共に現れる。赤黒いローブを纏っており、指には宝石がついた指輪を四個、嵌めている。どの指輪も違う色の宝石が付いており、それぞれが魔法を使うための魔導具であることがわかる。
「本日の審判を行う、ラアン・モールフだ。両者、正々堂々、この学院の恥にならない決闘を行うよう」
「もちろん。僕はそのつもりです。ただ、僕の対戦相手にそんな余裕があるかは、甚だ疑問ですが……」
「さっさと始めましょう。観客の人にも悪いでしょう」
「わかった。だが、君は魔導具らしき物を何も持っていないようだが?」
「無くて大丈夫です」
「ほぉ、あの噂は本当のようだな……期待しているよ」
「魔導具なしで僕と戦おうなんて、どれだけ無謀か教えてあげよう‼︎」
ギリアンは両手に二つずつ、計四つの指輪を嵌めており、何も魔導具を持たないアルベネロに対して、余裕の態度を見せる。
「両者、位置につけ」
「「はい」」
審判の指示にアルベネロとギリアンは大きく距離を離す。
二人を直線で結んだ中間地点より、少し離れた位置に審判役であるラアン先生が立ち、両者を確認する。
「これより、アルベネロ対ギリアン・スカーレットの決闘を行う。ルールは、どちらが負けを認めるか、戦闘続行が不可能と私が判断するかのどちらかで勝敗を決める。何か質問はあるか?」
「大丈夫です」
「僕も問題ない」
アルベネロとギリアンの声に、会場の歓声が決闘場内に響き渡る。どんどん盛り上がる観客を一瞥したラアン先生は、右腕を真上まで持ち上げる。
「それでは、決闘、開始‼︎」
「ファイアーボール‼︎」
ラアン先生が右腕を勢いよく、振り下ろし、試合開始を告げる。
ギリアンは試合開始と共に、手を前に出せば、自身の顔ほどの大きさはある、火球を放つ。狙いは正確であり、アルベネロの顔に向かって、火球は飛んでいき、その様子に観客はさらに盛り上がる。
「ふんっ」
アルベネロは迫りくる火球を見つめると、魔力を左手に集めていき、まるではたき落とすように火球へ向かって、左手を振り抜けば、魔力を纏った左手によって、火球は真横へ弾き飛ばされ、ステージの壁にぶつかり、四散する。
なお、【火球】は【火の矢】よりも、速度は遅いが火球の威力は高い魔法である。
「……はぁ?」
「……天と地の差だな。火傷ぐらいはするかと思ってたんだがな」
「い、いったい何をした⁉︎」
「見た通りだ。ただ、はたき落とした」
アルベネロの言葉に、先ほどまで盛り上がっていた観客達も静まり返る。あまりの光景にどう、反応すればいいのかわからない様子であった。
「降参するか? これ以上、恥を晒さなくて済むぞ?」
「いい気に乗るな‼︎ あ、あれは、僕が少し手心を加えて、威力を抑えたんだ‼︎ 僕は優しいからね‼︎ でも、次はそうはいかない‼︎」
「なら、さっさと使ってこい」
「こ、のぉぉぉ‼︎」
アルベネロの余裕な態度に、ギリアンは激昂すると、ポケットから別の指輪を一つ、取り出し、既に付けている指輪の一つと交換する。
「後悔しても、もう遅いからな‼︎ フロストエッジ‼︎」
ギリアンの手から魔方陣が浮かび上がると、【氷の槍】が発動される。ギリアンの足元からアルベネロが立っている足元までの地面が一瞬で冷気に包まれ、そして、ギリアンの足元からアルベネロの足元へ向かって、凍り付いていけば、凍った地面から次々と氷柱が突き出し、アルベネロへ襲い掛かっていく。
「ふっ、どうだい、この魔法の美しさ‼︎ 早く逃げないと大怪我することになる‼︎」
「さっきよりはまだ、マシだな。それでもまあ……結果は変わらないが」
アルベネロは迫り来る氷柱を見ても、慌てることなく、突き出てきた氷柱を、今度は魔力を纏った右手で殴る。ペキっという、音と共に氷柱はへし折れ、他の氷柱を砕きながらギリアンへ向かって、吹き飛んでいく。
「なぁ⁉︎」
「はぁぁ……ファイアーボルト」
ギリアンにとっては予想だにしない反撃に動揺してしまい、飛んでくる氷柱を迎撃することも、避けることも、できないでいる。
そのため、アルベネロはギリアンを助けるために右手を前に突き出すと、右手の前に魔方陣が浮かび上がり、火球が放たれる。放たれた火球はギリアンに向かっている氷柱へ追いつき、氷柱に衝突しては、火球と氷柱は互いに四散する。
「ど、どこに魔導具を隠し持っていた⁉︎」
「どこにも?」
「う、嘘をつくな‼︎」
「まあ、信じるかは任せる。それで、さすがに降参するか? 実力差は歴然だろ?」
「ぐぬぬぅぅ」
ギリアンは歯軋りをし、怒りの表情を隠そうともせず、アルベネロを睨む。
そして、ギリアンは指輪を一つ残し、他の指輪を外すと、外した三つの指輪と先に外していた指輪を手に握り込み、アルベネロへ向ける。
「まさか君に奥の手を使うことになるとは思ってなかったよ。降参するなら、今のうちだ。君への敬意として、もし、この決闘で君が特科クラスから落ちるようなことがあっても、残すことができないか、学院長へ相談してあげよう」
「少しは評価してもらえたみたいだな。でも、降参するつもりはない。残念な結果になりたいなら、撃ってこい」
「いいだろう……‼︎」
ギリアンは集中するように指輪を握り込む手に力を入れ、魔力を流し込めば、魔方陣が一つ現れる。
そして、その四方に小さな魔方陣がさらに現れ、合計五つの魔方陣が一つの魔方陣として構成される。
その様子を見た観客は、静まりかえっていた先程とは大きく違い、会場内に声が響き渡る程の盛り上がっていく。
「贅沢な使い方だな……」
「これで、終わりだ‼︎ エレメンタルカノン‼︎」
ギリアンの叫びと共にアルベネロを超える大きさをした、虹色の光線が魔方陣より放たれる。地面を抉りながら、アルベネロに向かって、突き進んでいく虹色の光線を見たラアン先生も驚愕の表情を浮かべ、試合を止めようと動くも判断が遅く、間に合わない。
「すまないな。これが……理不尽だ」
アルベネロは右手を前に向ければ、ギリアンと同じ魔方陣が浮かび上がる。
「エレメンタルカノン」
その一言ともに、アルベネロが作り出した魔方陣から虹色の光線が放たれる。
アルベネロの【四大元素の砲撃】はギリアンの光線よりも巨大であり、アルベネロが放った光線は迫ってくる光線をそのまま呑み込む。
そして、虹色の光線はギリアンも呑み込もうと迫るが、直撃する寸前、光線は消え去る。
「これで、満足したか?」
「そ、んな……僕が……奥の手まで使って……」
膝を突き、四つん這いになるギリアンの手から握りしめていた指輪が落ちる。指輪についた宝石はそれぞれ砕け散っており、再使用不可なのが誰の目から見ても明らかであった。
「決闘終了‼︎ ギリアン・スカーレットを戦意喪失とし、負けとする。よって、勝者、アルベネロ‼︎」
「「「うおぉぉぉぉ‼︎」」」
審判である、ラアン先生が決闘終了の宣言を行うと、観客から絶え間ない拍手と賛辞が送られる。
「二人とも、いい決闘だった」
「くっ……次は、こうはいかないからな……」
「次も結果は変わらないけどな」
「ふん‼︎」
ギリアンはアルベネロへ背を向けると、既に、ギリアンの背後に現れていた、光の門へ入っていく。アルベネロも同様に振り向き、光の門へ入る。
『まさか、魔導具を四つ使い捨てて、無理矢理、発動するなんてな……』
そんなことを思いながら光の門を通ると、控え室に戻っており、近くの椅子に座る。
「……」
『……?』
「このまま出たら、囲まれないか?」
『……?』
「それだと、クレアたちと合流するのが……訓練棟で待ってるだろう? 流石に落ち着くのを待ってから……」
『……‼︎』
「わ、わかってるから姉ちゃん。女の子を無駄に待たせる気はないから」
「……♪」
「はぁ……なるようになれ」
アルベネロは諦めたように、訓練棟へ通じる扉を開ける。扉を開けた先には予想通り、廊下を埋め尽くすほどの人達で溢れていた。
そして、アルベネロの登場に拍手喝采が起きる。
「これは……予想外なんだが……」
「試合、お疲れさまね」
「お疲れさまです。すごい試合でした。アルベネロさん」
「あぁ……ありがとう。いや、そうじゃなくて、これはどういう状況なんだ?」
アルベネロは軽く顔を引き攣らせながら、扉のすぐそばにいた、クレアとレインに説明を求める。
二人は何食わぬ顔でアルベネロを労うが、アルベネロの出てきた扉を囲うように火線が引かれており、それ以上、他の人たちがアルベネロへ近づけないようになっていた。
「アルベネロ君に会いたくて、控え室に行こうとする人たちがね……後は、察しがつくかしら?」
「そこで焦げてるレオを見たら、よくわかるな」
「最初に突撃しようとした、バカだったわ」
「すげぇ、熱かったぜ……」
「自業自得ですよ、レオ君。ちゃんとアルベネロさんが出てくるのを待たないと」
火線の内側で座り込んでいるレオは、頭から煙が出ており、おそらくレインが作ったのであろう氷を頭に当てて、冷やしていた。防火対策された制服は焦げてはいないようだが、髪から煙が上がる程度にはかなり燃え上がったようである。
「それじゃ、アルベネロ君、すぐに移動しましょ? 流石に私も、このバカ以外を燃やしたくはないし」
「それに、早く行かないと暗くなるかもしれないです」
「話は聞いてるぜ‼︎ 買い物行くんだろ? 俺も付き合うぜ‼︎」
「レオは元気だな……」
レオが立ち上がり、街の探索に同行する気満々なのを見て、アルベネロは苦笑いをする。
「色々、用事があるんだ。道を空けてくれるか?」
「「「は、はい‼︎」」」
近くにいた人達が道を空け、訓練棟の出口へ繋がる。四人は軽く駆け足で訓練棟を後にすれば、火線も消える。
「憧れる……」
「かっこいい……」
「いいもん見れたな……」
「年下は好きかしら……」
四人が去った後、観客たちはそれぞれの感想を言い合いながら、続々と訓練棟を後にしていった。
[場面は変わり、決闘を終え、誰も居なくなった決闘場……]
「まさか、ここまでとは……あれが推薦しただけはある……ふふ、上手くいけば、すぐにでも、あの女を引きずり落とすことも……そして、私が……」
ローブを見に纏い、フードまで被った男の声が観客も誰もいない決闘場に響き渡る。
「あんまりそんなことをこんな所で言わないほうがいいんじゃない?」
「ふっ、聞いている者がいるなら、すぐに気づいているだろう? 私のためじゃなく、自分のためにね」
「まあ、ね」
ローブを纏った男以外には誰もいないはずの決闘場に、男とは全く声色が異なる、少年の様な声が響いている。
「それにしても驚いたよ。最初、会ったときは運がないって逃げようと思ったのに、まさか、僕と契約するなんてね」
「私にとっては、かなり都合がよかったがな。あの女を蹂躙するためにはどうしても力が必要だ」
「たしかに……あの殲滅の魔女を倒すなら、生半可な力じゃ足りないね」
男はフードで隠しきれていない口元を大きく歪めながら、少年の声と会話する。
「期待してるよ。君がここの学園を支配してくれたら……僕が魔王になることができるからね」
「互いの利害は一致している。この後もよろしく頼むよ。悪魔」
「精々、僕のために頑張ってね。愚かな人間君」
男と少年の笑い声が決闘場に響く。学園の裏側で暗躍する存在にまだ、アルベネロもマナも気づいてはいないのであった。
ここまでお読みしていただき、誠にありがとうございます。
長く時間が空きました。新しい仕事をしながらとなりますが、今後も頑張ります!
次の予告としては、街探検について、書いていこうと思います。
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作者:@canadeyuuki0718
絵師様:@Eroinstein7027




