~見知らぬ悪意と役得~
大変長らくお待たせしました!私情が落ち着いたため、投稿を再開していきます!
最後の質問として学院長と恋人同士なのか、とレインから質問され、アルベネロは返答に詰まりながらも、大きくため息を吐く。
「……学院長とはそんな関係じゃない」
「本当ですか?」
「本当だ……どこでそんな噂、聞いたんだ?」
「それは秘密です」
「……」
アルベネロは返答した後、噂の出どころをレインへ質問するが教えてはもらえず、黙秘されてしまう。
追及しても無駄だろうとアルベネロは判断すると、諦めるようにソファーへ深く座り込む。
「質問はもう終わりでいいか?」
「はい。それにそろそろ、いい時間ですし」
「あら? もうこんな時間なのね」
「……あっという間だったな」
クレアは懐中時計を取り出すと、時間を確認する。すでに質問が始まってから一時間以上、経過しており、アルベネロは疲労の表情を見せながら、残った紅茶を飲み干す。
「ありがとうございました。今度は私の部屋に招待しますね」
「ははっ……楽しみにしてるよ」
レインはソファーから立ち上がるとアルベネロも礼を言う。そして、クレアもソファーから立ち上がる。
「私からもお礼を言うわ。色々、アルベネロ君のことを知れたわ」
「それはありがたい限りだ。色々、言ったんだ。これからもクラスメイトとして、よろしく頼むな?」
「もちろんです」
「えぇ……そうね」
アルベネロの言葉に対して、レインは笑顔で応え、クレアは少し複雑な表情で応える。
そして、クレアとレインさんが部屋を後にするのをアルベネロは見送れば、ローテーブルに置いてあるティーセットを片付け、ソファーに座る。
「固有魔法と眼の事をクレアに知られたこと、マナに言うの忘れたな……」
『……?』
「クレアなら、約束を守ってくれるだろ」
『……』
「ははっ、やきもち?」
『……‼︎』
「認めるんだな」
周りから見たら独り言のように見えるが、アルベネロは頭に響いてくる声と会話している。
そして、少し時間が経過し、御飯時となれば、食堂へ向かおうと部屋を後にし、廊下まで移動しては転移の扉へ向かう。
「今日、何食べるの?」
「やっぱ、肉だろ」
「いつも肉ばっかりだろ、お前」
アルベネロは廊下を進んでいれば、視線の先に何人かの生徒たちが談笑しながら歩いている姿が目に映る。
男子生徒二人と女子生徒一人がアルベネロの少し前を歩いており、アルベネロと同様、食堂へ向かっていた。
『明日は街に行かないとな……』
特に前方の三人について、アルベネロは気にすることなく、明日の予定を考えながら転移の扉へ向かっていく。当然、先に歩いている三人の生徒が先に着くため、転移用の扉に既に前を歩いていた生徒が既にドアノブを握って、扉を開けようとしている。
順番を待つようにアルベネロは立ち止まった瞬間、後方から突如、突風が吹き荒れ、背中を押される。
「なんだ⁉︎ 流れ弾か⁉︎」
「は、はやく、中に入ろ‼︎」
「おい‼︎ お前も怪我しないうちに中、入れ‼︎」
先に扉を開けていた生徒達にも風が届いたため、二人は慌てて扉の中へ入っていき、残り一人の男子生徒はアルベネロに声を掛けてからすぐに中へ入っていく。三人が無事に扉へ入れたことをアルベネロは確認すると、扉に入らず、その場で佇む。
「ワールウィンド」
アルベネロの前に魔方陣が現れると、天井へぶつかるように上昇する風が発生し、向かってきた風に対する壁となって、アルベネロを守る。
その後、アルベネロは魔法が発動されたと思しき場所へ向かうために転移の扉とは反対の方向へ歩いていき、二階へと続く長い階段の前で止まれば、辺りを見渡す。
しかし、既に誰も居らず、ここで魔法が発動した痕跡となる、魔力の残滓だけが残っていた。
「……逃げたか?」
魔力の残滓は数分も経たずに消え失せるため、犯人の追跡は難しい。そのため、アルベネロは辺りを見渡した後、踵を返す。
そして、今度は問題なく転移の扉まで移動すれば、食堂へ移動した。
『気にしてもしかたないが……』
アルベネロは食堂へ入ると、昨日と同じように皿へ食べ物を乗せ、近くの席へ座れば、食事を取り始める。
「……」
無言で食べ進めながらアルベネロは先程、廊下で遭遇した風魔法について、自然と考え始めた。
『さすがに偶然じゃないよな……』
偶然、魔法がアルベネロの場所まで飛んできたのなら、直線状に魔法を発動した生徒の姿を見かけるはずだが、見当たらなかった。また、階段の辺りで魔法が発動された痕跡をアルベネロは確認しているため、意図的に狙われた可能性が高いと考えられる。
「……理由が思いつかない」
狙われる原因について、アルベネロは思い当たらず、誰に狙われたがわからないでいた。アルベネロ自身、まだ転校してきて、数日しか経過していないため、魔法で狙われるようなことはしていないと思っている。
『何かしたとしても、普通、魔法で狙われることなんてないよな……』
アルベネロはこれ以上、考えることはやめようと皿に盛った食事を食べ終え、返却口へ皿を返しては食堂を後にする。すぐには寮へ戻らずにアルベネロは廊下を歩き始め、そのまま訓練棟へ向かう。
『ここでまた魔法を使ってくれたら、助かるんだけどな……』
今、アルベネロの周りには生徒たちの姿は見えず、アルベネロを狙うには都合のいいタイミングである。
しかし、アルベネロが訓練棟へ、辿り着くまで魔法が発動されることはなく、開放されたままであった、訓練棟の中へ入る。授業で使用した教室の近くまで移動すると台帳が宙に浮いているのを見つける。
『これで管理してるのか……』
アルベネロは台帳を手に取り、中身を確認すると利用中である生徒の名前が記されている。すべての教室に一人から三人ほど利用中である生徒の名前が記載されていた。
「人がいない教室は……無さそうか」
なるべく生徒が居ない教室をアルベネロは探すためにページを黙々と捲り、台帳の中身を確認していた。
『この名前……』
とある教室を一人で利用している生徒の名前を見つけたアルベネロは台帳についている羽ペンでその教室欄に名前を記入する。
そして、その教室の前まで移動し、中へ入ろうと扉を開けた瞬間、熱波が襲ってきたため、すぐに教室の中へと入れば、扉を閉める。
「あっつ……」
「ファイアボール‼︎」
標的と思しき的に火球を放つクレア。おそらく火系魔法ばかり発動していたのか、教室の中は天井に夜空が映っているのに対して、地面の至るところが燃え、明るく照らしていた。
魔法を発動していたクレアは流れた汗を手で拭うとアルベネロの存在に気づき、魔法の発動を止める。
「あら? アルベネロ君じゃない。あなたも練習かしら? それとも、私に会いにきてくれたのかしら?」
「誰か知らないが狙われてるかもしれないから逃げてきた」
「……」
身体をアルベネロの方へ向けたクレアは冗談めかして、アルベネロに訓練場へ訪れた理由を聞くが、全く予想していなかった理由にクレアは表情が固まってしまい、ただ、無言でアルベネロを見つめてしまう。
「……ごめんなさい、アルベネロ君。もう一度、ここに来た理由を教えてほしいわ」
「あぁ……さっき、後ろから魔法で攻撃されて、偶然じゃない気がしたから、ここに来た。この教室を選んだのは、クレアならもし巻き込まれてもまあ、大丈夫だろうと思ったからだ」
「もう、何を言えばいいのかわからないわ」
クレアは最初、心配する表情でアルベネロを見つめていたが、すぐに呆れた表情に変わると、ため息を吐く。
「アルベネロ君を狙うなんて、身の程知らずね」
「思い違いならいいんだけどな……」
「手掛かりは何かあるのかしら?」
「あぁ……特にはないな。風魔法のウィンドカッターが飛んできたぐらいだな」
「……よく怪我しなかったわね」
クレアは呆れながらも嫌がることはなく、アルベネロを狙っている相手の愚かさに呆れながら教室の端へ移動する。アルベネロもクレアの後を追えば、二人は教室の壁を背にして、その場に座り込む。
「アルベネロ君なら、誰に狙われても問題ない気がするわ」
「俺が良くても、居合わせた周りの人に被害が出るのが……」
「そこを気にしてるのに、私は巻き込むのかしら?」
「……」
「アルベネロ君の私に対する扱いには、色々と言いたいことがあるわ……」
クレアは冗談ではあるが少し悲しそうな表情をして、アルベネロを見る。アルベネロもクレアの表情を見ては申し訳なさそうな表情をして、顔を逸らした。
「あぁ……ちゃんとクレアのことも守るから」
「本当かしら?」
「約束する。責任もって、クレアは俺が守る」
「……ありがとう」
アルベネロはクレアから顔を逸らしていたが、しっかりとクレアを見つめては、守ると約束する。
冗談で悲しそうな表情をしていたクレアはアルベネロの言葉を聞いては、少しだけ申し訳なく思いながらも、顔を赤くしながら俯いてしまい、アルベネロは不思議に思いながらクレアから顔を逸らす。
『守るとは言ったけど、そんな状況にならないのが一番だよな……』
『だ、だめ……自分でもわかるぐらい、顔が緩んじゃってるわ……』
アルベネロとクレアは少しの間、無言の時間が経過する。クレアの火魔法によって、燃えている火が消えると、映し出されている夜空がよく見える。
「クレアは放課後、いつも練習してるのか?」
「え、えぇ、そうね。ほぼ毎日、ここにきて、練習してるわ」
「すごいな……」
「魔法は知識だけじゃ使えこなせないのだから、当然と思ってるわ」
クレアの言葉にアルベネロは称賛するように拍手するため、クレアは照れた様子である。
「そこまで練習してるなら、魔導具が無くても発動、出来るんじゃないか?」
「そう、なのかしら? 試したことなかったわ……」
「なら、試してみたらどうだ?」
「良いけど……どう発動すればいいのかしら?」
「魔力の線で魔方陣を描く感じだ。こんな風にな」
アルベネロが右手をクレアに見せると、【火種】の魔方陣が現れる。クレアはアルベネロの右手を見つめた後、左手の掌に魔方陣をゆっくりとだが浮かび上がらせていく。
「ん、んふぅ……」
「魔方陣が作れたら、均一になるように魔力量を調整だ」
「こ、こうかしら?」
クレアは掌に魔方陣を浮かび上がらせていく。浮かび上がる魔方陣は揺れており、魔力が安定していない状態が続いているが、ゆっくりと揺らぎはなくなる。
「そうだ。あとは魔法を唱えれば、発動するんだがーーー」
「ファイア‼︎」
アルベネロが話している途中でクレアは魔法を発動させる。そうすると魔方陣から火が現れると同時に酷い倦怠感がクレアを襲い、アルベネロの方へ身体が倒れてしまう。
アルベネロは分かっていたように倒れてくるクレアを受け止めては寄り掛からせると、丁度、クレアの頭部がアルべネロの肩に添えられる状態になっていた。
「大丈夫か?」
「な、に、これ……魔力……ほとんど持ってかれたわ……」
「原因は魔方陣が未完成だからだ」
「先に言って欲しかったわ……」
「言う前にクレアが魔法を使ったんだけどな」
「ぐぬぅ……」
まさにぐうの音も出ない様子のクレアは身体に力が入らず、身体を起こすこともできないでいる。
「その……重くないかしら?」
「軽いぐらいだな」
「地面に寝かせて構わないわよ?」
「男としてそれはな……クレアが地面に寝たいならそうするけど」
「い、いやじゃないなら……このままがいいわ……//」
アルベネロの言葉を聞いて、クレアは恥ずかしそうに小声になりながらもアルベネロに伝える。アルベネロは嫌な顔をせずにクレアをもたれさせている。
『うぅ……恥ずかしい……気を許し過ぎてるわ……』
クレアは顔を赤くして俯いており、紅の髪に隠れた耳もほんのりと赤くなっているほどである。
「今回は失敗しても、今度は成功させるわ」
「提案したのは俺だからな。挑戦するときはまた手伝うよ」
「ふふ、ありがとう」
「どういたしまして」
クレアは魔導具を使わずに魔法を発動させると意欲を見せ、クレアの様子にアルベネロも協力することを約束する。
「……」
「……」
約束が交わされた後、アルベネロとクレアは何も話さず、無言の時間が続いてしまう。
「あぁ……」
「ど、どうしたのかしら?」
「いや、その……正直に言うと、何か話したほうがいいかなって思ったんだけどな……何も思いつかなくて……」
「……ふふっ」
無言ではダメだとアルベネロは判断し、声を出せば、クレアは身体を少し震わせるが、話すことが思いつかないと正直にアルベネロが答えるため、クレアは思わず笑ってしまう。
「笑うなよ……」
「ふふ、ごめんなさい。でも、アルベネロ君も同じことを考えていたと思うとね」
「クレアもなのか?」
「意外かしら?」
「あ、ぁー……」
クレアに笑われてしまえば、アルベネロは自分の後ろ髪を片手で掻きながら顔を逸らし、少し恥ずかしそうにする。しかし、クレアも同じく話すことがわからないでいたと正直に話せば、アルベネロは意外そうな表情に変わる。
「正直ね。まあ、いつもは何か話すことなんて簡単よ。でも、今日は緊張してるみたい」
「緊張?」
「どうしてかしらね?」
クレアは楽しそうに笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと身体を起こして、頭を離すと、その場で伸びをして、立ち上がった。
「もう動けるか?」
「えぇ、少し体が重いけど、大丈夫よ。まあ、練習は切り上げるけど」
「わかった……俺も寮に戻ろうかな」
「なら、寮まで私をエスコートしてくれるかしら? まだ、体が重いし」
「あはは……そんなことでよかったら喜んで」
クレアに寮までのエスコートをお願いされ、アルベネロは苦笑しながらもクレアと一緒に寮へと戻る。
二人が寮へと戻る道すがらで誰かに襲われることはなかったが……
「流石に視線が痛いな……」
「私は気にならないわよ?」
クラスメイトには遭遇しなかったが、クレアは学院内で有名であるため、他の生徒たちに注目される。
必然、すぐ隣で一緒に歩くアルベネロにも視線が集中するため、寮へ移動するまで、好奇の眼差しに晒されるのであった。
ここまでお読みしていただき、誠にありがとうございます。
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次の予告としては、日常の中にある不穏なことについて書いていこうと思います。
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