~絶えない面倒事の種~
クレアの外伝物語が今までで最高の伸びを見せました!ありがとうございます!
実技訓練を終え、後半の授業も滞りなく終わり、夕方頃、1日の授業を全て終えたアルベネロは少し疲れた様子で体を伸ばしていた。
「はぁ……」
「流石に疲れたみたいだな‼︎」
「レオは元気だな……」
座学の授業はわかりやすいが速度はなかなかに速く、アルベネロは少しぐったりとしていた。逆に座学は苦手そうな印象だったレオに疲れた様子はなかった。
「流石に慣れたからな‼︎ 街にでも行って、気晴らしするか? 付き合うぜ?」
「街のことも見て回らないとだよな……」
「おう‼︎ なら、暗くなる前に早く行こうぜ‼︎」
レオの提案にアルベネロは頷くと席を立ち、不意にクレアの席を見るが、既に誰も居らず、二人は教室から廊下へ出ると、校門へ向かうため、二人が歩き始める。
「アルベネロ君。少しいいですか?」
「はい。どうかしましたか?」
「学院長がアルベネロ君を呼んでほしいということなので今から向かって欲しいのですが……」
「マー……学院長が?」
アルベネロとレオが歩き始めて、すぐに後ろから声をかけえられる。二人は振り向くと、そこにはレーメ先生が立っており、アルベネロへ学院長室へ向かうように伝える。アルベネロはレオを見ると、やれやれと言った様子でレオは顔を左右に振る。
「街に行くのは今度にしようぜ」
「悪いな」
「二人には悪いことをしましたね。ちょうど私も街に行くので、レオ君、一緒に行きますか?」
「荷物持ちでもなんでも任せてください‼︎」
「現金なやつだな……」
アルベネロは嬉しそうにレオがレーメ先生と二人で街へ向かうのを見送ると、学院長室へ向かう。
すぐに転移の扉を見つけ、室名札を確認すれば〖最上階〗と既に表示されていた。
『先客でもいるのか? いや、もう帰った可能性もあるか』
アルベネロはドアノブを回し、扉を開け、中へ進む。そして、目の前に現れた豪華な木の扉をノックしようと近づう。
「--納得--ませ--」
「じつ--問題--」
アルベネロが扉をノックしようとした瞬間、扉の向こう側から声が聞こえ、ノックをせず、聞こえてくる言葉を断片的に聞けば、話が終わるまで待とうかと扉から少し離れる。そうすると、すぐに扉が勢いよく開かれる。
「邪魔だ‼︎ 退きたまえ‼︎」
「……」
学院長室から出てきた金髪の男子生徒は怒りの表情を隠すことなく、学院長室を後にする。アルベネロは男子生徒が居なくなるのを確認してから学院長室を覗く。
「失礼していいか?」
「あぁ……アルか。問題ない。入ってくれ」
アルベネロは学院長室へ入り、扉を閉めると、書類を整えている疲れた様子のマナへ視線を向ける。
「……さっきのはなんだったんだ?」
「どうして自分が特科クラスじゃないんだと訴えてきた生徒だ。特科クラスを作ってから後を絶たないものさ」
「大変だな……」
「……好きな相手にハグの一つでもされたら元気も出るのだがな」
「……それで元気が出るんだな?」
マナは揶揄うようにアルベネロへ言うと長机を挟んだソファーへ向かうために両袖デスクから立ち上がり、移動する。マナの言葉にアルベネロは苦笑いを浮かべては、マナがソファーへ座る前に目の前まで歩み寄れば、正面からから抱きしめる。
「これで元気がでるか?」
「ふぇ……//」
マナは本当にアルベネロから抱きしめられるとは思っていなかったため、思わずおかしな言葉が口から溢れてしまう。そして、徐々に顔を赤くしていきながら表情が緩んでいくと、マナからもアルベネロの背中に手を回しては抱きしめる。
「全く……女誑しになりかねないな……//」
「……物凄く心外なことを言われたな」
アルベネロは苦笑いを浮かべながらも少しの間、マナを抱きしめ、互いの存在を感じ合う。
そして、自然と二人が離れると隣同士でソファーに座る。
「……コホン。ありがとう。これ以上ない程、元気が出た」
「なによりだ。それで、レーメ先生から、俺を呼んでるって聞いたんだが……」
マナは未だに顔を赤くしながらも満足そうな表情をしており、一度、咳き込んだ後にアルベネロへ礼を伝える。アルベネロもマナが元気になった様子に、嬉しく思いながら用件を確認する。
「うむ。レーメから聞いた話だが、特異魔法を使ったのだな?」
「あぁ……コキュートスを使った」
「使ったことに対して、とやかく言うつもりはないが……目立つのは避けられないぞ?」
「わかってる……もうクラスメイトから散々、質問責めにもあった」
マナの指摘にアルベネロは諦めた様子でため息を吐く。あまり目立ちたくなかったという思いはあったがクレアとの模擬戦で手加減を考える余裕はあまりなかったのも事実であった。
「本当は魔力をもう少し抑えるよう伝えるはずだったんだが……これでは抑えないほうが良さそうか」
「抑えたら手抜きに思われそうだしな」
マナはやれやれと言った表情であり、アルベネロも同様にやれやれと言った様子で頷く。そして、アルベネロはふと、先ほどの男子生徒のことを思い出す。
「マナ、特科クラスに入りたい生徒が多いなら……転校生で、初めから特科クラスに入った俺に不満とか言ってきてないのか?」
「今のところはない。ただ、直接、アルに決闘でも申し込む生徒が現れないとは言えない。この学院には貴族に関わらず、プライドの高い生徒も多い」
「決闘を申し込まれたら、受けないほうがいいか?」
「いや、一向に受けて構わない。ボコボコにしてくれ」
アルベネロが危惧したことをマナに聞けば、案の定、可能性があることがわかる。
決闘は互いの了承の元、行われる試合であり、模擬戦の様に審判も必要となるため、あまり行われることはない。ただ、優劣を周りにも示すことができるため、時折、行われることがある。なお、生徒同士の決闘に賭け事は厳禁である。
「ボコボコって……問題にならないか?」
「決闘中なら問題ない。身の程知らずにしっかりと力量を見極めれるようになってもらうためにも、遠慮なく頼む」
アルベネロの懸念をマナは微笑を浮かべて、問題なしと頷く。マナの言葉に呆れながらもアルベネロは了承すると、頷く。
『決闘なんて、起きないほうがいいんだけどな……』
アルベネロはソファーに少し深めに埋もれながら、今後の懸念事項にため息を漏らす。その様子にマナは苦笑すると優しくアルベネロの頭を撫で始めた。
「ふふ、こうやって撫でるのは久しぶりだ」
「……一緒に生活しなくなってそれなりに時間は経ってるか」
「学院の設立でアルから離れ、頭を撫でれなくなってからは毎日、枕を濡らしたものだ」
「はぁ……撫でて、何が楽しいんだ?」
「ふふ、アルも好きな相手に触れる喜びを知れば理解できると思うぞ」
マナは意味深そうにアルベネロへ言う。撫でられることに対して、アルベネロは嫌がるそぶりはなく、マナも優しい手付きでしばらく撫でると満足したのか、ゆっくり手を離した。
「話は以上だが……」
「どうかしたか?」
「登校初日の感想はあるか?」
「そうだな……中々、楽しかった」
「ははっ、それなら御の字だ」
アルベネロの感想を聞き、マナは満足げに頷く。アルベネロは少し笑みを溢した後、マナに別れを告げて、学院長室を後にし、転移の扉で寮の近くまで移動する。
「寮の中まで移動出来たら楽なんだがな」
「あ、あの‼︎」
「んん?」
アルベネロは寮へ向かうために大きな魔方陣の書かれた壁に向かおうと思えば、女性の声が聞こえ、足を止める。声の方向に視線を向ければ女子生徒がアルベネロを見つめており、よく見ると、クラスメイトのエルフであるとアルベネロは気付いた。
「何か用か?」
「今日の模擬戦見て、感動しました‼︎ 道具もなしに、それもあんなに高等な魔法まで使えるんですね‼︎」
「あ、あぁ……ありがとう?」
「いつから道具もなしに魔法が使えるようになったんですか⁉︎ どんな練習をしたんですか⁉︎ それから――‼」
「……あぁ、うん。少し落ち着け?」
エルフの女子生徒から矢継ぎ早に質問を投げかけられ、アルベネロは戸惑いを隠せず、困惑してしまう。アルベネロがどうするべきか考えていると、後ろからまたほかの女子生徒が近づいてくる。
「アルベネロさん、どうしたんですか?」
「レ、レイン……ちょっとクラスメイトから質問責めされててな」
「あぁ……アリサさんは夢中になると暴走してしまって……」
アリサと呼ばれたエルフの女子生徒はいつのまにか取り出した手帳とペンを携えて、アルベネロに迫ってくる。体つきはスレンダーだが、当然のように可憐な容姿をしており、アルベネロも対応に苦慮していた。
そんな様子を見たレインはアリサの隣に移動し、頬に右手を添えると、左手に魔方陣が描かれた紙を持つ。
「コールドブレス」
「ひゃぁぁあ⁉︎」
威力はかなり抑えられてはいるが極寒の冷気が、頬に当てられ、アリサは悲鳴をあげる。そして、次の瞬間にはハッとしたようにアルベネロから少し身を引いた。
「ご、ごめんなさい‼︎ アルベネロ君の凄さに感動したら、思わず……」
「あぁ……そうか」
「ところでお二人は寮に行きますか? 私は寮へそろそろ移動しますよ?」
「私はまだ戻らないです‼︎ それじゃあ‼︎」
アリサは脱兎の如く、その場を後にしていた。アルベネロは呆気に取られながらも、すでに転移の魔方陣へ手を向けていたレインと同じように手を向けると魔力を流し込み、寮の出入り口へ移動した。
「助かった。あのまま誰も来なかったら、逃げるはめになってた」
「アリサさんの気持ちもわかります。私も色々、聞きたいことがあります」
「さっきのお礼だ。答えれそうなのなら答えるからな?」
「それはラッキーです。それなら、後でアルベネロさんのお部屋へ……」
「俺の部屋に来るのか⁉︎」
「ダメですか? 散らかってるぐらいなら気にしないですよ?」
「いや、そういう事じゃなくてな……」
アルベネロの部屋へ行くことに躊躇う様子のないレインに、アルベネロはアリサの時と同様に困惑してしまう。
『男の部屋へ気軽に来るものじゃないだろ……』
アルベネロは自身の考えが間違っていないはず、と思いながら、信頼されているということなのかと苦悩する。アルベネロが困惑している様子に、レインは不思議そうな表情をしていたが、ハッとした表情で何かに気づく。
「アルベネロさんは私の部屋に行きたいということですね?」
「どうしてそうなった⁉︎」
レインが本気で言っているのか、アルベネロは判断できず、女子の部屋に男子が行くのはもっと駄目だと判断すれば、観念するようにため息を吐く。
「わかった……荷物置いたら、俺の部屋に……って、部屋がどこかわからないか?」
「あ、千里眼で覗いてたので分かりますよ」
「レイン。素直なのは良いんだが、相手を選ばないと大変なことになるからな?」
アルベネロとレインはまず、荷物を置くために一旦、別れると、お互いに自分の部屋へ移動する。アルベネロは部屋へ入り、荷物をベットの側に置いておき、寝室の扉を閉めておく。少しするとドアがノックされ、アルベネロは玄関へ向かい、扉を開ける。そこには当然のようにレイン、そして、何故かクレアが居た。
「……なんで増えてるんだ?」
「アルベネロさんの部屋へ向かうとお伝えしたら、こうなりました」
「女の子一人で男子の部屋に行くのは危険と思ったのよ」
「正論なんだが……それなら俺の部屋に行かせないって選択肢はなかったか?」
「そこは……アルベネロ君なら問題なんて起こさないって思ってるわ」
「信用されて嬉しい限りだ……それで、クレアも来るのか?」
「もちろんよ。入っていいかしら?」
「立ち話もなんだからな」
諦めた様子でクレアとレインを部屋の中へ招く。二人にはリビングにあるL字ソファーに座っていてもらい、ティーセットと三人分のティーカップを用意し、リビングへ持っていく。
「あんまり味に期待はしないでくれよ?」
「慣れた手つきね……」
「まあ、たまに使うからな」
「昨日、来たばかりと聞いてますが、荷解き早いですね」
「まあ、そこまで荷物が多く持って来なかったからすぐに終わったんだ」
クレアとレインの質問に返答しながらアルベネロは紅茶を三人分、用意してはソファーの前にあるローテーブルに置く。そして、アルベネロもL字ソファーへ移動する。クレアとレインは隣同士、アルベネロは一人が座れるコーナースペースに座った。クレアとレインは紅茶を持つと飲んでいた。
「あら、美味しいわね」
「はい。すごく美味しいです」
「それならよかった。それでレイン、答えれそうなことなら答えるが、何が聞きたいんだ?」
アルベネロは本題と言わんばかりに話を促す。レインは紅茶をローテーブルに置くと姿勢を正す。
「はい。まずは、いつから魔法を使えるようになったんですか?」
「いつからか……簡単な魔法なら小さいときから使えてたな」
「なるほど。ちなみにクレアさんはいつからですか?」
「あら、私? そうね……私も小さい頃から使えたかしら」
「さすがですね。私は魔法が使えるようになったのは数年ほど前からです」
レインからの質問を纏めれば、魔法についてではあったが、転校前の学院のことも質問され、アルベネロは時折、はぐらかしながらも答えていた。
「好きな女性のタイプは?」
「答えないからな」
「冗談です」
答える必要がないレインからの質問に対して、アルべネロは黙秘する。好きな女性のタイプを知らなかったクレアは少し残念そうな表情となる。
『普通、言わないわよね……』
クレアは紅茶を飲みながらレインの質問に耳を傾けており、時折、レインから質問を受けるとアルべネロと同様に答えていた。
「やっぱり、魔法のことはそこまで教えてくれないですね」
「答えにくいこともあるんだ」
「最後に……学院長と恋人同士という噂を聞いたのですが、本当なんですか?」
「「⁉︎」」
ケホッ ケホッ
レインの質問にアルベネロは固まってしまい、紅茶を飲んでいたクレアはむせてしまう。
レインは冗談ではなく本気で質問してきており、アルベネロはどう答えるべきかと悩んでいた。
『はぐらかしたらまた変な噂が流れるよな……』
全く予想していなかった質問に対して、アルベネロはどう返答するべきか頭を悩ませる。
クレアも冷静を装いながらも、気が気でない心情でアルベネロを見つめるのであった。
ここまでお読みしていただき、誠にありがとうございます。
次の予告として、また、戦闘を書いていこうと思います。
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