魔神艦隊発進!
『ミキサードラゴン、次元コンクリート弾、発射!』
キャプテン・センジンを名乗る男の指示で、ミキサー車みたいな戦艦からビームが放たれる。ビームは影虫たちがあふれ出る空間の亀裂を、接着剤のようにどんどん塞いでいく。
「空間の亀裂が……ふさがっていく」
「これ……どうしたらいいの?」
救世の巫女が命を懸けて滅ぼすべき相手、邪神が出現する前に空間の亀裂が閉じてしまった。影虫は出現しているが、儀式は続行していいのか? その場にいる誰も判断できない。
「アヤカちゃん!」
「エミちゃん!? どうしてここに? 配置は?」
「もう配置どころじゃないよ!」
アヤカのもとにエミが駆け寄ってきた。
確かにエミちゃんの言う通りだ。謎の魔神艦隊なる戦艦が現れ、邪神が出て来るはずの空間の亀裂を閉じてしまった。
「何なのあれ? 亀裂閉じちゃったよ? 魔神艦隊ってなに? センジンなんとかって何?」
「多分……味方だと思う」
あふれだすエミの疑問に、アヤカは空を見上げる。
『全艦、零式ビーム弾発射!』
キャプテン・センジン率いる魔神艦隊センジンフリートは、中央の大きな戦艦を中心に、影虫に対してビーム攻撃を浴びせる。ビームを浴びた現れた無数の影虫たちは、その高熱で蒸発していく。戦艦の攻撃によって、影虫はどんどんその数を減らしていく。
「すごい……影虫が、消えていく……!」
「いいぞ! やっちゃえ!」
「みんな、落ち着いて! 配置に戻って儀式を続けて!」
救世の巫女たちの間から歓声が上がる。落ち着かせようとするイオナの声も届かない。
――これ、もしかして勝っちゃうんじゃないの……?
アヤカの頭をそんな考えが横切る。
空間の亀裂からあふれ出して急速に世界中に広がり、邪神が滅ぼされるまでの間、人や建物を食らいつくすはずだった影虫は、祭壇の上空に足止めされ、消滅していく。
空間の亀裂も塞がれて、邪神が出て来ることはない。
こので影虫が全滅すれば、世界は救われる。
救世の巫女200人を犠牲にすることなく……
エミちゃんを天国に送ることなく……
――もし生き残れたら、何をしよう?
エミちゃんと遊ぶ? 家族に会いに行く? 普通の学校に通う?
アヤカはそんなことを考え始める。
『よし、超重力チャージ弾、スタンバイ!』
数を減らされ、退路を失った影虫たちは、一ヶ所に集まりだす。キャプテン・センジンはとどめを刺さんとばかりに指示を出す。
誰もが勝ったと思った、その時だった。
『なにっ!?』
最初は、影虫たちが共食い始めたように見えた。しかし実際には、影虫たちが集まって合体していた。数を減らされた影虫たちは合体してさらに巨大な姿になろうとしていた。
『かまうか! 超重力チャージ弾、発射!』
戦艦からより太いビームが放たれ、巨大化しようとする影虫に命中、大爆発を起こす。
だが、影虫は消滅していなかった。
「い、いやああああああ!」
救世の巫女たちの歓声が、悲鳴に変わる。
影虫たちは合体して、より巨大な、二足歩行する恐竜か怪獣のような姿になっていた。
『く、くそっ!』
魔神艦隊センジンフリートは攻撃を続けるが、巨大影虫にはびくともしない。
巨大影虫の『口』のような部分が開く。まるで怪獣のように。
「ま、まさか……!」
「よけて!」
巨大影主の口から、激しい炎が吐き出された。炎は空に浮かぶ戦艦に命中。戦艦は炎を上げながら、次々と祭壇の周囲の森に墜落していく。
『う、うわあああああ!』
最後にキャプテン・センジンが乗っていると思われる大きな戦艦が墜落し、魔神艦隊は沈黙した。
――ああ、ダメだったか……
アヤカは落胆した。
『これから』の想像が一瞬で消し飛んだ。
どこかでちょっと期待していたのかもしれない。
『救世の巫女』じゃない普通の人生を……
『……救世の巫女の皆様、元の配置にお戻りください。あの巨大な影虫に儀式を行います』
指導班のテレパシーを介して、先生たちの指示が入る。
救世の巫女たちはしばらく茫然としていたが、一人、また一人と自分の配置に戻っていく。
「エミちゃん……」
「アヤカちゃん、これで本当に最後だね……」
「うん……天国で、また会おう……」
アヤカとエミも元の配置に戻ろうとする。
巨大影虫は、ゆっくりと祭壇に近づいてくる。
このままアヤカたちが放置すれば、世界は滅亡の危機にさらされる。
「オリコさん、さあ、配置に戻って」
「……」
イオナが暗示にかかっているオリコに話しかける。
だが、オリコは動かない。
「…………るな…………れ……」
「オリコさん?」
「……負け……るな……がん……ばれ……」
「オリコさん、あなた暗示が……!」
オリコの暗示は、解けかけていた。
オリコは懸命に自分にかかった暗示を解こうとしていた。
そして、ついにその暗示が完全に解ける。
「負けるな! センジンフリート! 頑張れ!」
――無駄なことを……
アヤカは完全に諦めていた。
哀れな目で、必死に叫ぶオリコを見る。
だが、そんなアヤカの思いとは逆に、応援の声はどんどん大きくなっていく。
オリコに続いて、一人、また一人とセンジンフリートに向かって励ますように叫ぶ。
――みんな、どうしてこんな無駄なことを……
アヤカには理解できない。
「キャプテン・センジン! この声が聞こえているのなら、立ち上がってくれ! 私たちの命は、どこの誰だかわからないあんたたちにかかっているんだ! 自分勝手なのはわかっている! でも……頼む……」
目に涙を浮かべ、地上に横たわるセンジンフリートに向けて、オリコは叫ぶ。
「私たちを、助けてくれ!」
『……こちらキャプテン・センジン。救世の巫女からの救援要請、確かに受け取った』
指導班のテレパシーに、キャプテン・センジンの声が入った。
「キャプテン・センジン……無事だったのか!」
『すまない、消火作業に手間取った。これよりダイセンジンフォーメーションに移行する……センジンドラゴン、浮上!』
センジンフリートの中で一番大きな戦艦――センジンドラゴンが再起動し、再び空に浮かび上がる。
『センジンバード、発艦!』
センジンドラゴンの中央部分から、羽のついた小型の戦艦――センジンバードが分離する。
『バードバルカン!』
センジンバードは巨大影虫の周囲を旋回し、素早い機動で攻撃を仕掛ける。巨大影虫の火炎放射を避けながら、巨大影虫を祭壇から遠ざける。
十分な距離をとったことを確認して、キャプテン・センジンが叫ぶ。
『今だ! ダイセンジンフォーメーション!』
センジンバードがなんと変形を始めた。
前部が二つに分かれ、船体から大きな手足が出て来る。
最後に顔が現れ、額が割れるようにV字の二本角が展開する。
それはまるで、アニメの世界から出てきた巨大ロボットだった。
『完成、ダイセンジン!』
――邪神12柱から、世界を滅亡の危機から救うため、10年の時を経て完成した、最終防衛作戦メインシステム。キャプテン・センジンが操るその名は、魔神戦艦ダイセンジン!
「ダイ……センジン……?」
アヤカは目の前で起きた出来事についていけず、茫然としている。
空飛ぶ戦艦が、ロボットに変形した……?
ありえない。まるで男の子向けのロボットアニメじゃないか。
『行くぞ!』
ダイセンジンは巨大影虫に向かって走り出す。
巨大影虫の火炎放射を全身で受け止めつつ、肉薄。その鋼鉄の腕で巨大影虫を殴り飛ばす。
『来るか!』
巨大影虫も負けじとダイセンジンに向かって突っ込んでくる。
しかしダイセンジンは見かけによらぬ軽やかな動きで突撃を回避。
『うおおおおおおお!』
そして巨大影虫を両手でつかむと、思い切り投げ飛ばした。
森の木々をなぎ倒して、巨大影虫は地面に倒れる。
「今だ! ダイセンジン!」
『マジンブレード!』
オリコの声に応えるように、ダイセンジンが背中から二本の剣を抜く。
二本の剣に、エネルギーが充填され、青く輝く。
『ジェットジャンプ!』
ダイセンジンは脚部からジェットを噴射し、空高く飛び上がる。
『ダイセンジン・ブレードフィニッシュ!』
再び立ち上がった巨大影虫に、二本の剣を振り下ろす。
巨大影虫はその巨体を切り裂かれ、大爆発。ダイセンジンをも巻き込む巨大な爆炎の中に消えた。
「ダイセンジン……ダイセンジンは?」
オリコが心配する中、爆炎が晴れる。
そこには、世界を滅亡の危機から守った巨大ロボ・ダイセンジンが悠然と立っていた。
センジンバード発艦!
センジンバード、ダイセンジンに変形せよ!
グランドバトラーと合体だ! グランドダイセンジン!
そして、マックスバトラーと最終合体! マックスダイセンジン!
決めろ! マックスブレードフィニッシュ!
邪神から世界を守れ!
DX魔神合体マックスダイセンジン!
……嘘CMです。すみません。