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81 その改心は嘘か誠か

それはまるで古代文字の文献に残っていた言葉

「DOGEZA」

を彷彿とさせる、両手両足を折り曲げ蛙の様に這いつくばり

顔を床に擦り付けたポーズのまま

狼狽した声で貴族の男が言葉を続けた


「ほ、本当ならわたくしめが、すぐにでも

 お出迎えさせて頂く所ではありますがっ!

 その様な事をすればしゅ、周囲から怪しまれてしまいます故!

 ど、どうかお許しくださいっ!!

 決して皆様に掛けて頂いた情けを蔑ろにした訳では断じてっ...!!」


「大丈夫ですよ、ヴァンデルス卿、顔を上げて下さい

 そんな大声を上げられたら外の者に聞かれてしまいますよ?

 折角のご配慮が無駄になってしまいますわ」


延々と謝罪の言葉を叫び続けそうになる男に

プロメが優しく語りかける


「あなたの立場は理解しております

 その立場を維持して頂くのもこちらの望む所ですので

 謝罪の必要はありませんよ、」


「ははぁ!寛大なお言葉、感謝致します!!」


男は救われたと思ったか、はっと顔を上げ、プロメの顔を見つめると

深々と顔を下げた。彼はその場で立ち上がり

一行に着席を促し、そして自分も元の席に腰掛けた

男も元居た席に最後に腰を掛ける


「し、して、皆様、本日は一体

 どの様なご用向きで、しょうかっ

 や、やはりわたくしを監視に...」


「いいえ、そういう訳ではありません

 因みに監視、という事であれば

 あの風景を記録する神機同様

 私にはどれ程離れていても、遠くを見る事が出来る

 そうですね、千里眼、とも呼べる神機も持っておりますので

 態々この様に出向かなくても...」


プロメが右腕を差し出すと、亜人達の村でやって見せたように

空中に半透明の映像が映し出される

そこに映って居たのは

先程通された屋敷の荘厳な玄関広間であった


そこには、この部屋まで一行を案内した執事が

集まったメイド達に何か指示を飛ばしている


ー『…という事で本日お越し頂いた方々は

 主様のとても大切な御客人方です

 決して粗相の無い様、細心の注意を払ってっください』ー


映像と共にその場の音声も、何処からともなく発せられる


その話の内容から、この映像が現在リアルタイムの物である事は

貴族の男やセルヴィにも理解する事が出来た


「と、この様にいつでも見る事が出来ますのでご心配無く

 ヴァンデルス卿が帰国されてからすぐに、

 亜人達に助けられた、という噂を精力的に流布し

 民衆の意識改善に取り組むと共に

 それに対する感謝という名目の元、大々的な支援を行う等

 頑張って居られるのは存じておりますよ?」


ニコリと爽やかな笑みを男に向けるプロメ


当然この話はただのハッタリである、映像は

先程通り際に、プロメの本体であるドローン体から射出した

不可視化したカメラユニットを1つ仕掛けて来たに過ぎず

後半の情報もギルドに立ち寄った際、入手した物だが


ここに立ち寄った目的からすれば、副次的に過ぎないが

この男の動向調査、並びに再度念押しし、

釘を打つ為にでもある為

既にそれを見越してプロメが手を打っていたのだ


「は、はいっ!勿論です!

 粉骨砕身、この身、人と亜人の関係改善

 亜人達の助けに成る様取り組んで参る所存でございます!!

 では...その...本日は如何されましたでしょうか...?」


「本日ここに寄らせて頂いたのは

 ヴェンデルス卿に一つお願いしたい事が御座いまして、」


「はいっ!わたくしに出来ます事でしたら何なりと!!」


「恐らくあなた様程の大貴族でしたら、

 そう難しい事ではないと思いますわ

 この地下にある遺跡、その中で国が管理している

 部外者立ち入り禁止エリア

 そこを通りたいのですが、お力添え頂けません?」


「は、はぁ、制限区域への立ち入り、で御座いますね

 それでしたら難しい事では有りません、すぐに手配させましょう!

 しかし申し訳ないですが時は既に夕刻となりますので

 どれ程急がせても許可状の発行は明日の朝となります...」


「構いません、助かりますわ

 それでは私達は何処か適当に宿でも取ります故

 また明日の朝あらためて...」


貴族の男が慌てたように腰を上げ、プロメの言葉を遮る


「い、いえっ!その様なお手間は取らせません!

 出来る限りの御もてなしをさせて頂きます故

 もし良ければ今日は当屋敷にお泊り下さい!」


「あら、それは大変助かる申し出ですが、

 卿としても正直な所、私達が同じ屋敷にいるのは

 落ち着かないのではなくて?」


「そんな事は御座いません!

 元は亜人の方々にあなた様が提案して下さったから

 今わたくしは再びこの屋敷に戻って来れたのです

 言わば恩人!是非その恩に報いる機会をお与えください!」


「そこまで仰って頂けるのでしたら

 お言葉に甘えさせて頂こうかしら?」


プロメが一行に視線を向け、目で確認を取るも

特に反対を示す者は見当たらなかった


「是非ともそうされてください!

 すぐに食事の用意もさせましょう!」


そう言うとすぐ脇に置かれた純銀製のハンドベルを手に取ると


チリリィイン!!


甲高く子気味良い音を部屋に響き渡る

すると間髪入れず入口の戸がゆっくりと開き

その先に2名のメイドが頭を下げた状態で控えていた


「客人方を最も良いゲストルームにご案内しなさい

 それとすぐに夕食の用意にかかってくれ

 既に聞いているとは思うが

 彼らは我のとても大事な御客陣だ

 出来る限りシェフには腕を振るう様に伝えてくれ」


貴族の男が元の屋敷の主たる風格を取り戻し

威厳足る口調でメイド達に指示する


「畏まりました、では皆様、

 お部屋までご案内させて頂きます

 わたくし共にお続き下さい」


そうして案内され一行はそれぞれ客間へと通される

部屋は二つに分かれそれぞれゼロスとプロメ

セルヴィとヴァレラに分かれる事となった


————


それから数時間程経った頃

再びメイド達が彼等の部屋のドアを叩き

食事の用意が出来た事を告げられ

一行は大きなダイニングルームへと通される


僅か4人では勿体ない程のサイズのテーブルには

この時代に来てからは見た事も無いの

様々な料理が所狭しと並べられていた


「うっはぁ!!すっごぉい!!」


その様子にヴァレラが目を輝かせながら

飛びつくように席に着くと早速食事に取り掛かる


「ヴァ、ヴァレラさん!こういう所では

 多分その、マナーとか...」


セルヴィがその様子に、慌てる様に注意を促す


「何言ってんのよ!ここには私達しか居ないんだから

 マナーも減ったくれも無いじゃない、

 折角の料理なんだから楽しまなきゃ損よ!」


ヴァレラが言うように

この広いダイニングルームには

自分達4人以外は誰も居なかった


貴族の男は自分が居たら食事も楽しめないだろう、と

気を回したのか、それとも、そういう建前による物か

同席はしなかった


案内してくれたメイド達もまた、

食事の邪魔になるまい、と部屋の外で待機している

用があれば呼ぶようにと言い残し

先の応接室にて貴族の男が呼ぶときに使った物に似た

ハンドベルが一つテーブルの隅に置かれている


ヴァレラに続き皆席に付き、

ゼロス、セルヴィも共に食事を頂く事にする


「しかし、あの貴族の人、凄い変わり様ですね...」


「あそこまで露骨だと返って怪しいわよねぇ」


セルヴィ、ヴァレラ共に貴族の男の変わり身には

何かしらの疑念を抱いていた


「でも、意外と改心したのかも知れないわね」


そう言うとプロメが再び掌から映像を表示させる

映像は男と面会した応接室の

天井隅の全体が見渡せる角度から撮影された物であった


席に座った男が1枚の用紙を取り出すと、

そこに何かを書き込み始め、

記入を終えるとすぐに封筒に入れ

紋章の入った封蝋(ふうろう)印を施す


そして再びあのハンドベルを鳴らすと

すかさず執事が入室して来た、そして


ー『大至急、王国遺跡管理局に使いの者を出せ

  明日の朝一番で発行を優先させるよう伝えてくれ

  何なら私の名前を出して構わん、頼むぞ』


そう言うと貴族の男は執事に封筒を手渡した

それを受け取った執事は深く一礼し、部屋から退室する


「これって...」


「そう、私達が出た後すぐの映像よ、っと

 あらあら、これはいよいよ...本当にそうかもしれないわね」


セルヴィの問いにプロメが答えると

途中で何かに気が付いたような反応を示し

手元に映し出された映像が切り替わる


今度は屋敷の何処かの廊下の様だ

そこには3人のメイドの姿が見られる


—『教えたよね、ここの拭き掃除をする時は

  水を使っちゃダメだって』


 『やっぱり物覚えが悪いんじゃない?

  人と違って、』


 『す、すみませんっ!』—


どうやら新人の失敗を先輩格の二人が叱責している様だが

その言葉にはそれ以上の含みがあった

メイド3人の中の1人、叱責されている者は

その頭、カチューシャの隙間から特徴的な猫耳が生えている

亜人だ


そんな時、通路の角から貴族の男が姿を現した


ー『貴様ら!何をやっておるか!』


 『だ、旦那様!も、もうし訳御座いません!

  新人の指導をっ』


 『それだけでは無かろう、声は聞こえておった

  よいか、指導は勿論構わん、

  だが、亜人だからと差別するでない

  彼女達も私達と同じ心を持つ者なのだ、

  この子はお前達と共にこの屋敷で働く仲間なのだ

  お前達も初めてこの屋敷で働き始めた時

  失敗が無かった訳では無かろう

  どうか仲間として暖かく接してやってはくれぬか

  君も、何か困った事があれば遠慮なく我に言うがよいぞ』


  『『は、はいっ!すみませんでしたっ!』』


 『ありがとうございます!旦那様!』ー


メイド達は皆頭を下げその場から小走りで去っていった


「うぅうぇえ...何あれ...あんたがそれ言うの...」


映像を見ていたヴァレラが

何とも言えぬ複雑な表情を浮かべながら零す


「今のって...」


「そう、ついさっき起きた事、ほぼリアルタイムの映像よ」


プロメがセルヴィに説明する

この屋敷に来てから屋敷中を監視していたという事だろう

物腰の柔らかさとは裏腹にやる事は一切の隙も無いプロメである


「正直、私も信じられません...

 あんなに人って変わる物なのでしょうか...?」


「少なくとも今分かった範囲の情報を見る限りでは

 そう見てもいいんじゃないかしら?

 恐らく今まで先の様なストレスを

 受けた事が無い様な人間だったのでしょうね

 故に、それ程までにあの男には効いたって所かしら」


「もはやあれは改心や人が変わるってレベルじゃないわよ

 壊れたって言ってもいいんじゃない?」


ヴァレラがデザートのカップケーキを口に放り込みながら言う


「まぁ、言い方はどうとでも言えると思うけど

 それであの男以外、誰も不幸にならないのだから

 何か問題ある?」


「そうね、それに関しては同意見よ

 あの男に同情の余地何て無いしね」


「あぅ...私は何だか少し気の毒な気がしてきました...」


セルヴィが少し申し訳なさそうに言う


「はぁ...?あんたってほんとお人よしよね、

 村での事見て来て、まだそんな事言えるなんて、」


「も、勿論それは許せませんけど!でも...すみません...」


「別に否定してる訳じゃないわよ

 それでいて尚、相手を可哀そう

 何て思えるのは素直に凄い事よ」


「それって褒められてるのでしょうか?」


「そうよ?偶にそう言う所が羨ましくなるわ

 逆にイラっとする時もあるけど、」


「うぅ、やっぱり褒められてない気がしますっ!」


「いいじゃないの今回は褒めてるって言ってるんだから

 そんな事よりこのケーキ、めっちゃ美味しいわよ!

 こんな上等な物、また暫く食べれなくなるんだから

 アンタも今の内にしっかり食べておきなさい!」


「そ、そう言いながら全部持ってかないでくださいよ!」


そんな二人の光景を見つめながら

亜人達の未来も大丈夫そうである事が分かり

一人そっと、ほんの僅かに

パンを頬張る口元が緩むゼロスであった

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