77 パーティ結成
「うわぁ...凄い街ですね...
テストラも大きな都市でしたが、
遺跡の中に丸々都市を築いてしまう何て...」
周囲のそびえ立つ古代の外壁を見回しながらセルヴィが漏らす
「皆疲れてない?このまま行けるかしら?」
プロメがセルヴィとヴァレラに確認を取る
「はい、大丈夫です!」
「私も大丈夫、むしろ4日間
ずっと座ってるだけだったから
体がなまってる位よ」
「ではまずはこの都市の冒険者ギルドへ向かいましょう
別の国で活動するにはまず
その国のギルドで更新しなきゃいけないみたいだしね」
近場の衛兵に声をかけ、ギルドの場所を確認すると
そのまま馬車で行ける所に位置している様で
一行は大通りに沿って街の中を進む
歩行者用の通りと馬車用のレーンが別れており
途中歩行者横断用の地点には衛兵が配置されており
信号機の役割を果たしている
旧人類の歴史を紐解いてみても
自動車の発明以前にも、馬車や牛車による交通事故は非常に多かった
多くの人が行き交う都市故にそういった部分が発達している事が伺える
それに伴い高い教養水準を持つことが伺えた
だが、小奇麗な服装の民衆が行き交う中
首に鉄輪を嵌められ、大きな荷物を持ちどこかへ向かう者や
建築現場の作業員の中には、特徴的な外見を持つ者達
そう、亜人達の姿があった
そんな彼らを見てセルヴィはゼロスの言葉を思い出す
ー光があれば闇もある、表と裏があるのが人の社会なのだとー
何とも言えない難しい表情を浮かべるセルヴィ
「私達の時代もね、私達が産み出されるもっと前は
人が同じ人を奴隷として使役していた歴史が沢山あるの
思想が違う、産まれが違う、肌の色が違う
表向きの理由はおおむねそんな所ね、」
その表情からセルヴィの心情を察したのか
プロメが話し始める
「しかし最終的には【共通の敵】の出現によって
【生存】という共通の目的の下、一つになる事が出来たけど
その前からゆっくりではあるけれど変化の兆候は見られたわ
大きな社会問題や反発は何度もあったけどね」
「プロメさん達の世界にもそんな時代があったのですね...」
彼らの世界に対し、どこかまるで神話、偶像の様な
世界観を描いていたセルヴィは、改めて
彼らの世界に生きていた人達もまた
自分達と何も変わらぬ人なのだという事を理解する
「アデスの様な存在が現れ、共通の脅威に晒されれば
すぐにでも皆一つに手を取り合えるかもしれない
けれど、それは沢山の悲劇を伴う
私達の時代で人が一つになる前に、その脅威を目の当たりにして尚
人は一つになる為に莫大な犠牲を払ってしまった
急激な変化には相応の痛みは避けられないのよ
少なくとも亜人の問題については、今ゆっくりとではあるけれど
確実に前に進みだしているわ、あせってはダメよ」
「は、はい...」
「優しい子ね、」
しゅんとするセルヴィの頭をすっと撫でるプロメ
ヴァレラはというと、彼女なりにも何か思うことがあるのか
その話を黙って聞きながら、流れる町並みに目をやっていた
「亜人達はといえば、あの貴族、ちゃんとやってるかしら?
残った馬車と兵をかき集めてすぐに村から出て行ったから
多分もうここに戻ってきてるはずなんだけど...」
「さっき衛兵さんに聞いた話では
貴族や上流階級の人たちはここよりもう一段上の階層
王城の一つしたの階層に住んでいるそうですので
多分そこに居るのではないかと、」
そう言うと居るであろう上層を見上げる
その最上段にある王城が太陽を背に影になる
「まぁ帰りにでも寄ってみましょ
もしその場しのぎでまた変な事やってるようなら
きつくお灸を据えないとね」
「はい!」
そうして一行はバセリアギルドへと到着する
外の作りは町並みに合わせきれいな赤レンガ造りとなっており
外観からしてバルザックギルドと比べるのがかわいそうな程である
施設横に設けられている繋ぎ場に馬車を停め、入り口を潜ると
以外にもギルド内の配置、環境はバルザックと差ほど違いは無かった
ただし、その行き届いた清掃状況、張り出された依頼書の並び
受付に座る職員達の愛想を見れば、やはりあちらとは雲泥の差である
扉を潜った途端、にらみを利かせてくる様な者も見受けられなかった
ゼロスを先頭に一行は並ぶ受付の一つに歩みを進めると
「ようこそバセリアギルドへ!本日はいかがされましたか?」
事務的なギルドの制服を着た女性が元気良く丁寧に話かけてきた
「俺達はこの都市に初めてきたんだが...」
「なるほど、冒険者証の更新手続きですね!
到着されたのは今日ですか?」
「つい先ほどだ、関所からそのまま真っ直ぐここに来た」
「ありがとう御座います!助かります!
何日か経ってから来ちゃう冒険者の方々も居るので
そうすると確認が大変なのですよぉ」
愛想も良くしっかりしているが
決してマニュアルを読み上げるだけの対応でも無い様だ
「では皆さんの冒険者証をご提示下さい
...はい、確かにお預かりします!
では更新手続きに少しだけお時間を頂きます
よければ皆さん、あちらのお席でお待ち下さい」
受付嬢がテーブル席が並ぶ一角を指し示した。
そこには既に沢山の冒険者がいた。
地図を広げて数人で打ち合わせをしたり
独りで軽食を取ったり
あるいは、既に一仕事終えてきたのか、
昼から酒を煽るグループが居たり、と様々だ
ゼロス達が適当な席に腰を下ろすと
すぐに奥のカウンターから、
ふくよかな中年女性がメニューを持ってきた
エプロンを巻き、上は普通の肌着な所を見ると、ギルド職員とは違う様だ
バルザックではガルム、ギルドマスターがカウンターに入っていたが
この女性はそういう訳ではなさそうだ、飲食の外部委託の類だろうと
ゼロスは観察する
「私はこのジュースを下さい!」
「肉よ!肉料理はある?......じゃあそれでっ!」
「私は適当に保存の利くもの...そうねこれを貰おうかしら」
セルヴィとヴァレラ、がすぐさまそれぞれ注文し
プロメがメニューを見ながら、後にセルヴィ達に渡すつもりなのだろう
持ち帰れそうな物を選ぶ
選択を終えた皆がゼロスに視線を向ける
「俺は...水を貰おう」
何とか無難な回答をしようとしてみたが
プロメを見ると、辛うじて及第点、という所だろうか
注文を終えた後、程なくそれぞれの注文がテーブルに届く
セルヴィ、ヴァレラ達が食事をする間
ゼロスは周囲の冒険者達の会話に耳を澄ます
――――――
「おい、聞いたか?昨日大貴族のヴァンデルスの一団が
数台の馬車にすし詰めになって帰って来たって話、」
「ああ、何でも亜人特区の視察に行ってたって話だよな
亜人達に襲われたって所だろ?」
「いや、それがどうやら違うらしいぜ
突然魔物の大群に襲われたところを
寧ろ亜人達に助けられたって話だ」
「最近テストラで何かあってから、魔物の動きが活発とは聞いてたが
亜人が人を魔物から守る...?
あいつらってどちらかといえば魔物よりだと思ってたんだが...」
「だが事実みたいだ、ヴァンデルス自ら亜人達に助けて貰ったと
正式に証言したって今朝の手書新聞に載ってたぜ
それで今度、亜人特区に記念像と謝礼を贈呈するとか
確かそれがらみの護衛の依頼書も出てたはずだぜ」
「あの貴族ってもともと亜人奴隷絡みで栄えた一族って話だろ、
特区を作るって言い出してから、一体どういう風の吹き回しだ?」
「さぁ?貴族なんて元から気まぐれな連中だろ
亜人だろうが何だろうが俺達の仕事が増えるんなら何でもいいさ」
「違いねぇ、はっはっはっ!」
――――――――
「ふぅん、あの貴族、とりあえずはちゃんと役割を果たしてるみたいね」
ゼロスと同じく隣で周囲の声を収集していたプロメが呟く
「ああ、表だけでないといいがな」
「そうね、その辺も一応、直接確認したほうが良いかも知れないわね」
他の二人に目をやると
既にセルヴィは注文の飲み物をほぼ飲み終え
ヴァレラも同じくナイフとフォークを置き、口元を手ぬぐいで拭いている
「ゼロス様ご一行様ー!」
丁度良く、職員から呼び出しがかかった
一行が受付前に戻ると
カウンターの上には4枚の冒険者証が綺麗に並べられていた
ゼロスがそれらを手に取り、中のページを開くと
一部、何かの記載が増えていた。
文章と言うよりは文字と数字の羅列であり、確認記述の類と見える。
他のメンバーに冒険者証を手渡し、立ち去ろうとした時だった
「あの、差し出がましいようですが、
皆様はパーティ登録をされないのでしょうか?」
受付嬢が呼び止めた
「パーティとは何だ?」
「やっぱり説明を受けられてないのですね...
もうバルザックの職員さんはいい加減なんですからっ」
「ああ、すまないが教えてもらえるだろうか?」
「あ、すみません、勿論ですとも!
パーティというのは、依頼時だけ集まる様な仮のメンバーではなく
固定されたメンバーでギルド登録されているグループを指します」
「パーティ登録をする事のメリットデメリットは何だ」
「はい、デメリットは特にありません
強いて言えば今この場の登録で数分頂く、程度でしょうか」
「なるほど、メリットは」
「遺跡などへの立ち入り申請をする際に
個人ではなくパーティとして一括処理されるので楽です!
またパーティで依頼を請け負う際は
仮パーティの場合、メンバー全員の合計した等級の平均から
一つランクを下げた物が、パーティランクと見なされます
やっぱり、今日会ったばかりの顔も能力も知らない方と
連携しろといわれても難しいですからね
固定パーティであれば、平均値がそのままパーティランクとなります!
どうでしょう!」
「それはすぐに出来るのか?」
「はい!先ほど皆様の冒険者証を
確認させて頂いたばかりですので
後はパーティ名を決めて頂ければすぐにでも!」
「パーティ名、か...」
ゼロスは後ろのメンバーに振り返る
「ゼロスさんが決めて下さい!」
「あんたがリーダーだしね」
「という事よ」
三者共に自分が決めろという事だった
「ふむ...ではパーティ名は」
――ガーディアンズだ。