74 優先調査目標 バセリア王国
「優先理由はなんだ」
プロメの提言に対し、ゼロスが内容を問う
「結論から告げると、王国は高い確率で
私達の時代の物である遺跡を保有していると見られるわ」
「その根拠は」
若干驚きを浮かべるヴァレラ、セルヴィに構わず
ゼロスが続ける
「貴族が【遺跡から発掘した】と言っていたあの兵器
旧北米連合ゼネラルクライスター製
M101四足歩行戦車に間違いなかったわ」
「そういえば、あの戦車はあんた達の時代の兵器なのよね?」
ヴァレラがプロメが先の戦闘で既に
その存在を認識していた点を振り返る
「ええ、それだけで既に目標としては十分なのだけど
更に気に成る点がいくつかあるのよ
まずあのM101は保存状態が良すぎる事
先程内部構造の素材を確認した限り
甘く見積もっても10万年も経過していない
私達の時代とは最低100万年以上のズレがある」
「しかし、余程良い環境で保管されていた結果、
年代測定に誤差が出た、
という可能性もあるのではないか?」
「確かにそれだけならね、でもそれだけじゃないの
まずアレは現存しているはずがないのよ、
ヴァレラちゃんにも言ったけど、M101四足歩行戦車は
アデスと人類の戦いが始まって初期に開発された物
その多くはアデスとの戦闘で消耗し、残ったモノも更に
度重なる改修・強化が施され投入されて行った
けれどあの貴族が持ち出したM101は、
その中でも、まだAI連動システムすら無い初期モデルのA-2
仮に博物館に収められていたとしても
あんなネオチタニウムの塊、大戦後期の人類には
遊ばせておく物資の余裕なんて無かったはずよ」
「ふむ...」
「存在しないはずの車輌、それも3台、
そして決め手は、M101のイオンバッテリーは
蓄電限界期間は約2~30年程度しかない、
つまり恐らくあの車輌を持ちだして来た遺跡は...
今尚稼働状態である可能性が非常に高い、という事」
「なるほど、今尚生きている状態の施設であれば
又は何かしらの記録情報が得られるかもしれないな
量子脳の修理パーツが有る可能性も高い、か」
「そういう事よ、反対する理由は無いと思うけど?」
「分かった
ヴァレラ、セルヴィ、君達は...」
プロメの提示する根拠に同意し、行動を決めたゼロスは
両名にはバルザックに戻り宿で待っている選択肢もあると
尋ねようと振り返った時
既に二人は怒ったようにゼロスに視線を向けていた
「帰らないわよ!」
「帰りません!」
「了解した...」
何故二人が怒ったように言うのかはわからなかったが
気圧されそのままプロメへと向き直り、軽く頷く
ゼロス達の話についていけず
横でなんの事かと頭に?マークを出している
アレス達へとプロメ顔を向ける
「あなた達はなんかバセリア王国の遺跡に関して
知っている事は無いかしら?
場所、規模、何でもいいのだけれど、」
アレスとフィアは一度顔を合わせると、
向き直りゆっくりと首を横に振る。
「王国であればここから真っ直ぐ東に4日程の距離
バルザックとここを結ぶと正三角形になる位置に有ります
ただ...王国には私達は行ったことが無いので
中の情勢や様子等は何も分かりません...」
アレスが申し訳なさそうに答える
元々王国貴族の主導で作られた特区にも関わらず
王国ではなくバルザックと交易していた事を鑑みれば
恐らく彼らは王国との関わりは、まだそれ程無かったのだろう。
だが残る一人は違った様だった
「バセリアの遺跡なら昔何回か遺跡で潜った事があるよ」
マグナだ
「あそこもテストラと同じ典型的な
遺跡都市から産まれた王国だよ
遺跡の上に都市を築いて、国に発展、今や王都さ
王都の遺跡と言ったら、まず王都地下の
バセリア大遺跡の事だね
僕が最後に行った2年前は最終到達階層は32階層
まだ続きがあるって話だったから
今はもう少し進んでるかもしれないね、」
「どうやったら入れるのかしら?」
「遺跡への立ち入り自体は
Dランク以上の冒険者や傭兵なら入れるよ
ただし、階層によってはランク制限や
正式な依頼や申請が無いと立ち入れない区域があるね」
「他に解る範囲で特徴、見たいな物はあるかしら?」
「うーん、特徴かぁ...あ、2つ程あるよ
他の遺跡と違って制限区域の中には
王国が主導で探索を行う為、ランクに関わらず
通常の冒険者では入れない区域があったり
後、遺跡だけじゃなくて王都全体で
世界でもとても珍しい現象なのだけど
通信に関する類の魔具、神機すらも全く使えない、
だからバセリア王都では他国との通信は
王都から少し離れた施設まで行かないと出来ないんだ」
「なるほど、ありがとう、とても参考に成ったわ」
「いえいえ、麗しい女性の力に成れて、僕はとても嬉しいよ」
「という訳で、次の目標はバセリア王国という事に成るけれど
ヴァレラちゃん、セルヴィちゃん、準備は大丈夫?
必要な物とか、もし疲れてる様なら
数日位なら留っても構わないのよ?」
華麗にAIにもスルーされる男、マグナ
「わ、私は座ってただけですし、全然大丈夫です!
でもヴァレラさんは今回色々と
大変だったんじゃないかなと...」
「あたしは大丈夫よ
今回使った魔力は全然大した量じゃないし
負傷もしてないしね、軽く運動しただけよ」
セルヴィ、ヴァレラ共に問題は無い様だ
「二人とも大丈夫そうね、
じゃあこの後はすぐに出立しましょうか」
「はい、わかりました!」
「オッケー、因みに...まさかあんたは...」
まだついてくるつもりなのではないかと
ヴァレラがジト目で視線をマグナに送ると
帰ってきた返事は意外にもNOだった
「悪いね、僕はここに残るよ
まだあの貴族を信用する事が出来ない
反省したフリをして、まだ近くに
別の伏兵を潜ませているかもしれない
考え過ぎだったとしても、亜人達は皆不安なはずだ
僕が、いやマグナシオスが傍に居る事で
きっとそれは励みになると思うんだ
だからごめん、僕は一緒には行けないよ」
「べ、別に来て欲しい何て言ってないでしょ!
寧ろあんたみたいな変態が来ないと分かって安心よ!」
「あはは...最後まで君はつれないなぁ、
まぁそこが君の魅力なんだけどね」
「ふん...一応礼は言っとくわ、あの時
砲撃から庇ってくれて...ありがと...」
透かさずマグナが口にしようとするが
腰の銃に手を掛け牽制し、マグナは降参のポーズを取る
口を開かなければ普通にかっこいいのに、と横で思うセルヴィ
「貴族も先に戻ってるはずだから、王国に行ったら
念の為不審な様子が無いか見てみるわ
もし、まだつまらない謀り事を企ててる様なら
もう一度徹底的に締め上げて二度と
そんな気を起こせないようにしておくから、安心して」
プロメがニコリと微笑む
それに対して若干周囲が若干笑みに汗を浮かべる
そんな中アレスが話を切り出した
「あの、もし良ければ皆さん
式典で振舞うはずだった料理がまだ沢山残って居ますので
持って行ってくれませんか?
道中召し上がっていただければと
こんな事じゃお礼にも全くならないんですけど...」
「良いの!?欲しい欲しい!」
ヴァレラが目を輝かせて食いつく
「勿論ですとも!まだまだ出していない料理や
保存が効く物も沢山ありますので
後ほど炊事場にご案内しましょう、
それと、もし、もしよければ一つお願いが有るのですが!!」
ゼロスの方を真っ直ぐ見据えてアレスが言う
「...?俺に、か?」
「はい!も、もし良ければ村を救って頂いた方々を代表して
あなた様のお名前の一部を
この村の名に頂けないでしょうか!」
「俺は構わないが...良いのか
名前とは大切な物では無いのか?」
「だからこそです!
ゼロス様のお名前の一部から
この村の名を”ゼロ”と名付けさせて頂けないでしょうか!
この先私達亜人は、人の世界にもっと出て行く事でしょう
きっとここ以外にも沢山の亜人の集落が築かれるはずです
そんな時、ここから、ゼロから全てが始まった、
と言う意味も込めて、ゼロ村とっ」
「構わない、好きにすると良い」
「ありがとうございます!!」
「すまないが、俺からも
頼みたい事があるのだが
いいだろうか?」
ゼロスからこの様な事を言い出すのは非常に珍しく
興味ぶかそうにセルヴィ達はゼロスを見る
「は、はいっ、私共に出来る事であれば何なりと!」
アレスも一体どの様な内容か、見当が付かず
思わず身構える
「俺達はこのままバセリア王国に向かう
そこでバルザックのギルドに
ここでの事の経緯の報告を頼みたい」
「は、はい!それ位の事でしたら幾らでも!
ですが、まだこの村には伝達魔具による
通信手段が確立されておりません
ですのでこの後、夕刻頃、
バルザックに出立する予定の伝令に伝えさせる
という形になりますが宜しいでしょうか?」
「構わない、それともう一つ、」
そう言うとゼロスは小袋から金貨を2枚取り出し
アレスへと差し出す
「これを俺達の宿泊していた宿の亭主に渡してほしい
合わせて、【もう戻らないかもしれない為
部屋は引き払って貰って構わない】と
伝えて貰えると助かる
場所はギルドの者が知っているはずだ」
「はいっ!分かりました
必ずやお伝え致します
こちらは責任をもって預からさせて頂きます!」
そう言うとアレスは両手で丁寧にゼロスから金貨を受け取る
「ふーん、あんたって結構意外とマメなのね」
一体何を頼むのかと思えば
普通の事だったのでがっかりした様子のヴァレラが言う
「やっぱりゼロスさんは優しい人ですね!」
セルヴィはそれをとても好意的に受け取った様である
「さて、じゃあ皆、出発の準備に取り掛かりましょうか」
プロメが席を立ち促す
「はい!いざバセリア王国へ、ですね!」
「待って!その前に料理の積み込みが先よ!」
ゼロス以外の者の笑いが辺りを包む
共に笑うアレスとフィアを見て
きっと彼等、亜人は大丈夫だろうと思う一行であった