73 亜人達に伝わる守護神の伝承
一行は再び、式典前に案内された宿へと集まっていた
そこには他にアレスと頭に包帯を巻いたフィア
そしてマグナの姿があった
「んで、何なのよあれ、全くもって別人じゃないの」
戦闘中、まるで変身したかの如き変貌を遂げた件について
ヴァレラがマグナに問い詰める
「僕の中に眠るもう一人の僕さ、真の魅力に気付いてくれたんだね!」
「ぶっ殺すわよ」
「連れないなぁ、僕はこれ程までに君を想っていると言うのにっ」
何だかんだでこの二人の相性はいいのかもしれない、
と二人をなだめつつセルヴィは思う
でもそれを言ったら絶対にヴァレラに怒られるので
口にしないよう気を付けようとも思うのであった
「ところで、マグナさんはその、もしかして炎帝さん、なのですか?」
「うん、そう呼ばれているね」
「や、やっぱり!、それで亜人の人達が言ってたエンシン、
というのは何ですか?凄く近い響きに聞こえるのですが」
セルヴィはそのまま隣に座るアレスに聞いてみる
「炎神と言うのは、亜人達に伝わる伝承
おとぎ話の様な物に出て来る、亜人の守り神の様な存在です」
「それはどんな伝承なのですか?」
「あくまでお話ですよ?
遥か昔、私達亜人は人の神が
人を造る前に産み出した失敗作だと言われています...
そして失敗作である我々を見て怒った人の神は
私達の存在を許そうとはせず、消し去ろうとしました
そこで私達亜人の中で凄まじい力を持つ者
勇者が現れ、仲間達と共に神の軍勢と戦い
結果は痛み分けとなり
人の神は、我々亜人の存在を許容すると約束しました
しかし勇者とその仲間達は戦いの末、皆命を落としてしまいましたが
彼らは魂になってもなお、亜人達を見守る神となり
この世界に留まり、もし亜人達に災い降りかかれば、
守護する為に、炎・水・雷・風の神となりて、再び現世に現れる
という様な内容です」
「ははぁ...成る程です!そういうお話があるのなら
皆さんが思わずそう思うのも納得です!」
うんうん、と話を聞いてセルヴィが頷く
「んで、実際の所はどうなのよ?」
アレスの話を聞いたヴァレラがマグナに続けて問う
「うん、大体今の話の通りだよ」
「ふーん...って、はぁ?!」
余りにもあっさり肯定するマグナにヴァレラを始め
その席に居たゼロス、プロメ以外の者が皆驚きを顔に浮かべる
「で、ではあなたは本当に炎神様なのでいらっしゃいますか?」
アレスが思わず席を立ち問う
「僕はマグナだよ、君達が炎神って呼んでるのは
マグナシオスの事だよ」
「えっと、それは一体どういう事でしょうか...?」
再び浮いた腰を降ろしアレスが問う
「直接本人に聞いた方が早いと思うんだけど
おーい、マグナシオス、出てきておくれよ」
そう、自分の中にいると言うもう一人の男に問いかけると
一瞬マグナの瞳が青から金色に輝くが
再び元の青色へと戻ってしまった
(あれ...今の瞳の色、何処かで見た様な...)
セルヴィはふと、その瞳の変化に見覚えを感じるが
何処で見たのか思い出せない
すぐに気のせいかもしれない、と考えを振り払う
「うーん、マグナシオスは口数が少ないから、
今は話したくないみたいだね
僕が以前彼から聞いた話では、アレス君、だっけ?」
マグナがアレスに向き直る
「君が話してくれた伝承は概ねその通りで
勇者の共に神の軍勢と戦った
12人の戦士の内一人がマグナシオスだよ」
「な、なんと!
でも、一体なぜマグナさんの中に炎神様が...?」
「彼等は今は魂だけの存在だから
この世界で顕現するには依り代が必要なんだ
その依り代が僕って訳さ、
何やら運命や輪廻だとかの巡り合わせ?
とか言ってたかな」
「近しいお名前をお持ちなのも
同じ赤い衣装なのも、炎神様を宿されるからなのですか?」
「ううん、名前が似てるのも偶然だし
赤いのが好きなのは僕が好きだからだよ
それが巡り合わせって事なのかな
僕と彼が結びついたのは
性格は全然似てないけどね、はっはっはっ!」
「あの、因みにマグナさん以外の四帝の人達も
そのように内に亜人の神様を宿す方々なのでしょうか?」
セルヴィが問う
「どうだろう?
他の四帝のうち、氷帝と雷帝には会った事はあるけど
二人とも僕と同じ様に、体の内に彼の仲間を宿していたね
ただプロメさんみたいに異質な力のせいで
勝手にそう呼ばれてるケースもあると思うから
みんなが同じって訳じゃないかもしれないね」
「なるほど...ありがとうございます!」
「てか、あんた、そういう風に普通に話せるなら
普通に話しなさいよ...」
ヴァレラが、先程から流暢に話すマグナにツッコミをかける
「何を言っているんだい、僕だって空気は読むさ!
それに君達を素敵なレディと思ってる気持ちは演技などではっ」
「はいはい、じゃあ空気を読んで続けて頂戴」
「ははは...つれないねぇ...」
ここで即座に銃を抜かない辺り
ヴァレラとマグナの間に僅かながら
信頼関係が構築出来はじめたという事だろう
「と、言う訳で、元々マグナシオスが
同胞を探していると言うのと
亜人達を守りたいって言う気持ちが強くてね
雷帝が現れたって噂を聞いてギルドで待ってたら
丁度亜人達の話が耳に入ったと思えば
なんと君達の中にその噂の雷帝が居るって話じゃないか
それで同行できるように取り計らってもらったんだ
黙っていて悪かったね」
「他にその彼が言う神々の軍勢と
戦った時代に関する情報は無いかしら?」
ゼロスと共に黙って話を聞いていたプロメが尋ねる
今の時代に至るまで、何があったのか、
という解明は二人の行動目的でもあり
少なくとも彼女達の時代には亜人という存在は無かったと聞く
そしてヴァレラの時代には既に存在していた
とすると亜人誕生の話はそれよりも前という事になる
長い時間を経る中で神と言う抽象的な表現に変化したが
何か明確な起点があったはずだと考えての事だろう
その様な考え方はセルヴィについても同様であり共感出来た
「申し訳ないけど、僕が知っているのも先程、彼アレスが話した
亜人達の伝承と同じ程度のくらいかな
さっきも言った様に、あまり彼は
おしゃべりしてくれるタイプではなくてね」
「マグナさんとマグナシオスさんの魂?でいいのですかね、
それは何時から一緒にいらっしゃるんですか?」
セルヴィが質問を続ける
「彼が言うには僕が産まれた時から共に居たらしいよ
けれど僕が彼がを認識出来たのは
冒険者になって間もない頃だね
旅先で奴隷狩りに襲われていた亜人達を見つけ
助けに入ったはいいものの、当時の僕はまだ未熟で
複数の賊相手に追い込まれてしまってね
もうダメだって時、彼が顕現して
僕の内から凄まじい炎の力が溢れ出した
その時初めて、彼という存在を認識出来たんだ」
「ふむふむ、なるほど!」
「そしてその後も彼は僕に力を貸してくれるようになり
僕も、彼の望む亜人達の保護を積極的に請け負う様になった
元々、僕自身も亜人達の今の処遇に思う所はあるからね」
「ありがとうございます...」
隣のアレスとフィアが深く頭を下げると
マグナがお礼なんて要らない、と手で頭を上げるよう示す
「そうしたらいつの間にかSランク冒険者
そして炎帝なんて呼ばれる様になってた訳さ」
「いつの間にかって、あんたがあの時
魔術を発動する時に展開した、あの三次元魔道術式...じゃなくて
球体の魔法陣はいったい何なのよ?」
ヴァレラはこの世界で認識される言い方に言い直す
「さぁ?」
「さぁ?じゃないわよ!あんたがやったんでしょ!」
「だって出るものは出るんだもの
それに憑依顕現している間は
体はマグナシオスが動かしてるから
僕は中から見てるだけみたいな物だしね」
「肝心な所使えない奴ね!」
「あの時彼が使った魔法陣...?
あれはそれ程までに凄い事なの?」
プロメが未知の技術に関して尋ねる
「凄い何て物じゃないわよ、私達の時代でも
多くの魔導研究者が、それこそ国を上げて全力で開発していたわ
より強力な、新たな魔導術式の発明はそのまま、戦争の勝利に近付くからね
それでも魔導術式は平面に展開、構築する物であって
三次元、立体の術式なんて、理論上の話で
余りにも飛躍した理論だったのよ」
「その理論上では、仮に三次元で展開出来た場合は
二次元の術式とどう根本的に違うと考えられていたのかしら?」
「まず威力、二次元魔術式は平面に描かれた術式
どの様に式を組み立ててもその魔力量自体は足し算されて行くだけ
けれど、もしそこに三次元で術式を組み込めるなら
それは最早乗倍形式で跳ね上がる、即ち文字通り威力の桁が変わるのよ」
「なるほど、魔術と言うのはまるで
組み上げられた数式・方程式がそのまま力となる様な物なのね」
「魔術の概念が無いあんたらに説明するのは難しいんだけど
概ね間違ってない、そしてその威力以外にもう一つ
構築出来る術式の複雑さが飛躍的に増えるという事
二次式で出来る事は例えば私が使ってる範囲だと
炎や爆発に変換して力を行使する、空間を開く等の単純な物
けれどもし三次式であれば...私も上手く言えないんだけど
ボタンを押してライトが付くだけの機械と
ボタンを押したらあんたみたいなAIが出て来る機械、くらい
とんでもない魔法が組めるって事なのよ!」
「魔法なのに更に魔法の様な魔法...不思議な話ね」
その魔法の様な魔法より、魔法の様な技術の塊の
プロメがそれを言うと最早嫌味である
「そうよ、理論上の事なんだから、
例えばもし瞬間移動できる機械があったらって
現実には無くても想像する事は出来るでしょ
それ位のレベルって...もしかしてあったの?」
話している途中で気付いた様にプロメに問うと
「安心して、空間転移の技術はまだ実験段階で
実用には至ってなかったわ」
平然と答える
「あったんかい...やっぱりデタラメな奴等ね...」
「わ、私から見ればヴァレラさんも十分...
あんな大きい魔法陣展開する人は見た事ないです!
私達の時代では魔法を使う時は
皆手の平サイズの小さな物ですし
まぁ私はそれすらも使えないのですが...」
ヴァレラをフォローするつもりなのか
それともただ素直に感想を口にしたのか
セルヴィが話す
「うーん、それは純粋に魔力量が少ないからであって
魔術式...魔法陣自体は私達の頃と同種の技術・概念よ
まっ、こいつらの前では目くそ鼻くそよ!」
先程から行われている会話についてこれない
アレス、フィア、マグナ3名が完全に背景となりかけるが
「大変参考に成った、情報感謝する」
ここに来てこの席で初めてゼロスが口を開く
概ね話の終わりが見えたのだろう
そして一行が解散を切り出そうとした時
「以後の行動について提案があるわ」
この様なタイミングで語るのは意外にも
プロメが続けて切り出した
「どうした、」
「主行動目標に於いて優先対象を確認
提言:貴族が属するバセリア王国が管理すると思われる遺跡の調査」
普段とは異なる業務的な口調でプロメがゼロスに告げる