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72 因果応報

「むっ、下がっておれ!!」


先程の魔法は連続して撃つ事が出来ないのか

真紅の男が脇の剣に手をかけながら

後ろのヴァレラに喚起する


「ふん、見た感じ、さっきの大技、しばらく使えないんでしょ?

 あたしは借りを作るのが好きじゃないのよ」


そう言うとライフルを肩に担ぎ、男の横に並ぶヴァレラ


「すまぬ、助力感謝する...」


二人が決死の覚悟で敵に向かおうとした時だった


「ヴァレラさん!後部左足の付け根の間接

 その上50㎝程のへこんだ部分を狙って下さい!!」


セルヴィが叫ぶ


「っ!?、オーケー分かったわ!!

 あんた!少しの間でいい、

 敵の気を逸らしてちょうだい!」


「承った!!」


何を根拠にセルヴィがそんな事を言ったのかは

ヴァレラには分からなかったが

不思議と考える前に体が動いた


真紅の男が剣を振り上げ二台目の戦車目掛け突進する

剣先から炎の斬撃が生まれ、たたきつけられる

金属製の装甲にはダメージは見て取れなかったが

目まぐるしい炎が敵を翻弄する


男の影に成る様にヴァレラも続き突進し

そして戦車の砲塔が男に向いた瞬間

一気にブーストを吹かせ、勢いを保ったまま

戦車の四脚の下をスライディングで滑り込み

背後に回り込みそのままの姿勢でライフルの照準を合わせる


「貰ったっ!!」


そしてセルヴィの指示した位置に正確に照準を合わせ


ズダァアン!!!


放たれた弾丸は装甲を抉りながら内部へと突き刺さり、やがて


ギュゥウウウン...!! ズシン!!


徐々に弱まる駆動音と共に4つの足は力を失い、

地面にその胴体が叩きつけられ、完全に動きを止める


「凄いわね、どうしてわかったの?」


プロメがセルヴィに問う


「あの戦車の動きを観察していたら

 足の駆動系の軸、動力伝達系、重心の移動を見ると

 あの部位にだけどうしても内部部品が集中して

 装甲に回せる面積が少なくなってるのが分かったので、」


「あら...そんな脆弱性があったなんて資料にも乗ってないわ」


「多分あれがアデスと戦う為に作られた物なら

 魔物と同じように、動物的に行動するアデスは

 そういう細かい所を狙ってくる様な攻撃は

 してこなかったからかもしれませんね...」


「なるほどね...人間同士で戦う頃に使っていた兵器が

 アデスには有効ではなかった物が多かった様に

 アデスと戦う為の兵器もまた

 時として人間には有効でないという事ね

 それにしても見ただけでそれを見抜いてしまうなんて

 本当に大したものよ、素晴らしい才能だわ!」


「いや、そんな、ありがとうございますっ!」


既にセルヴィたちが決着ムードに入っている中

まだ、貴族は懲りてはいなかった


「おのれぇえええっ!三台めをだっ…」




そう言いかけた時だった




ィィィイイイイイイ゛イ゛イ゛ン!!!




甲高い高周波音と共に、一瞬、ほんの一瞬

街の端から端まで一線の、緑の閃光が駆け抜けた


次の瞬間...


バガァン!!ズゥウウン!!!

バカンバカン!!


3台目の戦車は立ち上がる事無く、その被せていた布と共に

真っ二つに裂け、その断面を晒し、搭乗員が隙間から顔を出す

それと同時に戦車を積んでいた馬車を含めた

貴族の車列の馬車ことごとく、荷台ごと

一斉に縦から見事なまでの一文字に両断され、左右に転がり

地面には延々と続く斬痕が刻まれていた



チャキン!



その斬痕の遥か先に、闇を塗り固めたような人影がひとつ。

目を凝らせば、体中を蒼い光が、水の如く閃となり流れる

その人物は、左手に構えた鞘に剣を収め、背に担ぐ。


――ゼロスだ。


皆の視線を一身に受けながら

ゆっくりと、中央広場に向け歩みを進める。


近付くにつれ、彼の漆黒の鎧は

僅かに赤みがかっている事が見て取れた


それは血であった


当然それは本人の物ではない

誰の返り血であるのか

その場に居合わせた者は皆理解していた

当然この男も、


「ひぃい!い、一体お前たちは何なのだっ!?!?」


その言葉に答える者は誰も居らず

ゼロスの歩みは、貴族を真っ直ぐ目指して続く

途中、ヴァレラが、プロメが、セルヴィが、

合流し、ゼロスの後に続き

貴族の前に立ちはだかった時

彼らの背後には更に亜人達の群衆が取り囲んだ


貴族を守る筈だった兵士達の姿はもうない

残された兵士は気を失い倒れた者だけだった


「ゆ、許してくれ、頼む、お願いだ!!

 金なら幾らでも払う、だからどうか命だけはっ!!!

 殺さないでくださいっ!!」


そう言いながら地面に顔を擦り付ける貴族を

見つめる全ての瞳が、心底下らない物を見る様に光を失っている


「ゼロスさん...どうしますか?」


セルヴィがゼロスに声をかける


「状況は通信で概ね理解している

 これ以上俺に出来る事はない

 この後の事はプロメに任せる」


「了解よ、さてヴェンデルスさん...でしたっけ?」


プロメが一歩前に出る


「は、はいぃっ!!」


「端的に言います、殺しはしません

 代わりにあなたが持つ全てを頂きます」


「へっ?!」


「あなたの持つ資産、権力、そして残りの人生の全てです」


「あ、あの、それは一体...」


「文字通りですよ、あなたはこれからの余生

 その全てを彼ら、亜人達に捧げて貰います」


「な、何故そのような事をっ...ひっ!!」


貴族が言いかけた時、その背後の怒りと悲しみに打ち震える

無数の瞳を前にそれ以上言葉を発する事は叶わなかった


「あら?あなたが言ったのではありませんか?

 命だけは助けて欲しいと、命は助かるのです

 良いじゃありませんこと?」


プロメの口調は一見、物腰は柔らかではあるが

そこには一切の情けも容赦も含まれてはいなかった


「は、はい...」


「当然、あなたのような人間が

 この様な口約束を守るとも思っておりません

 ですのでこれを付けさせて頂きます」




プロメは手元から光を発すると金属製の腕輪が2つ、現れる


その演出に背後の群衆から僅かに驚きの声が上がる


「ヴァレラちゃん、あそこの木の枝に

 引っ掛けて来てくれるかしら?」


「オッケー♪」


その内一つをヴァレラに手渡すと

皆から30m程離れた場所にある、1本の木の枝に腕輪を引っ掛けると

小走りで再び戻ってきた


「さて、見てもらうのが一番早いので実践させて頂きますわ」


パチン!


プロメが指を鳴らしたその時


ドガァアアン!!!


木の上半分が完全に吹き飛ばす程大爆発を起こし

それを見た群衆も軽い悲鳴を上げる

貴族はと言うと目を丸くしてがたがたと顎を震わせていた


ヴァレラとセルヴィはといえば

既にこの結果に想像が及んでいたのか

当然の様に振舞う


「さて、これをどなたか彼に付けて頂けるかしら?

 わたくしでは非力なもので...」


「俺がやろう...」


背後の群衆から一人の男が名乗りを上げた、アレスだった


「ではお願いしますわ」


手錠の様に開いた腕輪を受け取ると、腕輪を握りしめ

アレスは貴族へと足を進める


「や、やめてくれっ!頼む!そんな物付けないでくれっ!!」


「黙れっ!!貴様が俺達にしたことを忘れたとは言わせないぞ!!」


「ひぃっ!!」


アレスが一喝すると、大人しくなる貴族

乱暴に腕を掴み上げ、その腕に腕輪をはめ込む

決して腕から外れない様、装着されると腕輪は手首をきつく締めあげる


「ひぇぁ!いやだぁ!外してくれ!」


その感触に再び男がパニックを起こし腕輪に手を伸ばそうとした時


「おっと、触らない方が良いですよ?

 無理に外そうとすればその瞬間に爆発しますので」


「ひっ!!」


慌てて腕輪に触れかけた手を離す


「その腕輪は何時でも、どれ程離れていても爆発させる事が出来ます

 私が死んでも爆発しますので変な気は起こさないでくださいね?

 それとあなたが死んだ後、王国に先程の映像を全国民に流します

 あなたの家族、一族はあなたが無き後も糾弾され続け

 あなたの名前は永劫、王国の汚点として残る事でしょう」


「そ、そんな...それはあまりにもひど...」


「あなたが自分で蒔いた種ですよ?」


「は、はひ...」


「今後あなたが亜人達に対し

 敵対的行動や不利益になる行動を取った時は

 即座にそれを実行します」


「ぐ、具体的には一体どの様な...」


「彼らがそう感じた時ですよ?」


「そ、そんな曖昧なっ!!」


「なら、彼らに誤解を与えぬよう

 彼らに誠意が伝わるよう

 死に物狂いで彼らの為に頑張ってくださいね」


ニコリと微笑むプロメ

まるで慈悲深い女神の様なその笑顔は

貴族にはさぞ恐ろしく映っている事だろう


「と、言ってもなんの希望も無く自暴自棄になって

 死んで楽になろう等と思われても困ります、

 今ある地位を不自然に失われてもあなたの利用価値が無くなります

 ですので、亜人達の為になる行動を取り続ける限り

 彼らに益をもたらす限り、再び陥れよう等としない限りは

 その他の行動については制限は致しません

 その中であれば十分、裕福な暮らしも出来るでしょうし

 約束を果たして頂けるのであれば、あなたが天寿を全うした後

 この映像と音声はあなたの墓に共に埋めてあげましょう」


「は、はいぃ!!誓って今後は皆様の為に

 全力を尽くす事をお約束致します!」


地獄の底に叩き落とされた中、示される一筋の光

男の顔に僅かに光が差す

正に飴と鞭である、


「と、わたくしの方で勝手に話を進めてしまい申し訳ありません

 皆様、如何でしょうか?

 ここでこの者を殺してしまうのは簡単です

 しかしよく考えて下さい、

 この者を今この場で殺せば、王国と亜人との関係は

 まず壊滅的になるでしょう

 全面的な討伐運動が動き出すやもしれません

 殺すよりも亜人の未来の為に

 この男を活かしてはどうでしょうか?」


プロメが振り返り亜人達へと問いかける

一瞬光が差した貴族の顔は再び怯え一色となった

彼らの返答次第では、次の瞬間自分は肉片に変えられてしまうからだ


亜人達は突然、選択を振られ皆互いに顔を向け合いざわめく


「俺は...この人に賛成だ...!」


最初に声を上げたのはアレスだった

騒がしくなりかけた群集が再びその声に静まり返る

アレスは言葉を続ける


「確かにコイツは殺したいほど憎い!!

 俺達の希望を弄び、裏切り、踏みにじった!!

 殺しても殺したりない程だ!!

 でも、これは俺達亜人にとって

 かつてない程大きなチャンスじゃないだろうか?

 元々コイツと進めてた口車に乗せられていた通りの事より

 何十倍も大きな可能性だ!

 それが今、手が届く所まで来ている亜人の未来を

 俺は自分の憎しみという感情だけで潰す事は出来ないっ!!」


騒ぎかけた群衆が再び静まり返る


「私も、兄に同意します!!」


次に声を上げたのはフィアだった

その痛々しい頭の傷を抱えながら、訴える


「ここでこの人を殺して、そしてまた人間と憎み合って

 争って、また保留地に引きこもるんですか!?

 その保留地だって今度は無くなってしまうかもしれません!

 何の為に私達はここまで出て来たんですか?!

 確かに私達はこの人に裏切られました、

 でも人間全てと憎み合いたい訳では無いです

 命を掛けて助けてくれたこの人たちも人間ですっ!!」


(((!!)))


「俺も...同意する!!」

「私もっ!」

「儂もじゃ!」

「ここまで来たんだ!」


彼女の最後の言葉が決め手に成ったように

次々に賛同の声を上げ、皆その瞳に光を取り戻して言った


「では皆さん、それで宜しいですね?

 それでもまだ許せない方は、出来るだけ表から見える部分

 顔や腕輪に衝撃を与えない程度であれば、お好き構いませんよ?」


群衆の雰囲気に再び安堵しかけていた貴族の男は

許しを請う様な瞳で必死に亜人達を見詰める


「そんな奴...殴る価値もありませんよ...」


先頭に立ったアレスが答える


「良かったですね?亜人の方々は心が広い方ばかりで

 くれぐれも二度と彼らを失望させない様頑張ってくださいね?」


プロメが覗き込む様に貴族の男に語り、微笑む


「は、はいぃ!!

 ありがとうございます!!

 ありがとうございます!!」


貴族の男は何度も頭を地面にこすりつけ

謝罪から感謝の言葉に転ずる


群衆は静かに散り散りになり始め

ゼロス達また、その場から離れる


「お前にしては随分曖昧な条件を提示するのだな?」


ゼロスがプロメに問う


「そうね、出来るなら徹底してやりたい所だけど

 厳しいわね、それにあの腕輪も偽物だしね

 1個目はこの前ヴァレラちゃんから貰った

 爆薬を仕込んだデモンストレーション用」


「偽物なんですかっ!?」


横で聞いていたセルヴィが驚きの声を上げる


「しっ、声が大きいわ、あの男に聞こえたら台無しよ?」


「あぅ、ごめんなさいっ」


男の方を振り返ると、誰も居なくなったにもかかわらず

未だに何度も頭を下げ、感謝の言葉を声の限り叫んでいる

幸い聞こえてはいない様だ


「だが良いのか?あの男が気付く可能性もあるが」


「可能性は0ではないけれど

 通信網がとっくに無くなっているこの世界で

 地球の裏側まで信号を送る事なんて出来ないし

 あの男の行動を24時間監視する術も無い

 それに私達が亜人達とその件で常に動き続ける訳にも行かないでしょ?」


「確かにその通りだ」


「そういう中で現実的に取り得る手として

 人間の精神的強迫による束縛が

 今打てる手の中では最も効果的と判断した結果よ

 それに不明確・曖昧な方が時として人は

 自分自身でより強迫観念を強くするのよ

 明確な安全・安息など有りはしないからこそ

 あの貴族には死ぬまで、有りもしない恐怖に怯えて貰いましょう

 仮にあの男が重圧に耐えかねて自ら死を選んだとしても

 あの映像があればその関係者や次にその地位を継ぐ者には

 十分強迫材料、交渉材料にもなるでしょう」


「なるほどな、了解した」


「うへー...あたしでもそこまでえげつなく無いよ...

 やっぱりあんたはA.Iなんだね...」


ヴァレラが横でやや引き気味に言う


「お褒めに預かり光栄よ

 サポートAIが人間と同じ様な発想しか出来なければ

 AIの存在意義がないもの」


「それって嫌味?」


「いいえ」


「あ、そう」


こういう時思った事をズバっと言えるヴァレラを

少し羨ましくセルヴィは思う


「さて、色々聞きたい事、皆あると思うんだけど

 やっぱりまずはあんたよねぇ?」


そう言うヴァレラの視線の先には、元の姿のマグナがあった


「やっと君から話を振ってくれたね、僕は嬉しいよ!」


「やっぱり辞めといた方が良い気がするわ...」


頭を抱えるヴァレラであった



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