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65 商団護衛依頼

朝早くから宿に遣いを寄越したギルドの要件は

なんとゼロス達への出頭要請だった


先日のギルドを通さずに、宿主人の依頼を請けたことに対する

何かしらのお咎めかとも思ったが

遣いの女性職員の様子からすると、そういう類いでもないらしい...


一向は朝食を終え、身支度を整えるとギルドへと向かい

ギルドのスイングドアをくぐると


「おうお前ら!よくきてくれたな!こっちに来てくれっ」


奥のバーカウンター前から大声でお呼びがかかる

ギルドマスターのガルムだ

その表情や声色からするに、やはり悪い事ではない様だ


まだ朝9時頃だと言うのにギルドには数多くの冒険者が集まっており

皆掲示板前に注意深く依頼書に目を通している

恐らく朝に依頼の更新が行われるのだろう


「まるで君の瞳は海の様に澄んで美しい!

 君と僕は出会う運命だったんだ!」


その中で一際目を引く鮮やかな程真っ赤なトレンチコートに

同じく真っ赤なレンジャーハットを被った

全身赤づくめの金髪の男が受付にて

先程宿に訪ねて来た女性職員を口説いていた

女性職員はと言うと、笑顔に汗を浮かべ困った顔をしている


見るからに軽薄チャラそうな男だ

と内心セルヴィとヴァレラが顔に生理的に無理、と書きながら

横眼に見送りカウンター前の丸テーブルに全員掛けると、ガルムが切り出した


「呼びつけてわりぃな、実は折り入って頼みたい事があってだな...」


「何故俺達に言うんだ?」


「まぁまずは話だけでも聞いてくれよ

 お前達にもメリットある話だ」


「ふむ...」


「頼みってのはある商団をここから北西に3日程の

 彼らの集落まで護衛を頼みたいんだ」


彼等、とガルムが言うと、脇に居たフードを目深に被った

男女と見られる二人が歩み寄って来た

そして二人は他の者達に見えぬ様

両手でそっとフードの端を摘まみ、顔を皆に見せる


「...!亜人の方、ですか」


セルヴィが小さく声を上げると、彼らは僅かに頷き肯定すると

再びフードを深く被りなおす

その両者とも、頭の上には猫とも犬とも取れる

獣の耳が生えていたのだ


「ふーん、やっぱりこの時代にも人外は居るのね」


ヴァレラも声を抑えて呟く


「ヴァレラさんも、亜人をご存じなのですか」


「ええ、私達の時代にも居たもの

 ただ彼らの事は私等の頃は人外、獣人と呼んでたけどね

 人とは違う存在として基本的には迫害されてたみたい

 今のあんたらの反応やり取りを見ると

 その辺は同じ様な扱いなんじゃない?」


「はい...概ねその通りです...」


セルヴィが気まずそうに答える


「戦争が始まって間も無い頃は、帝国も共和国も

 従軍すれば市民権を与えるという謳い文句の元

 兵士として徴発、実際は使い捨ての消耗品として

 最も過酷な前線に送られ、満足な弾薬も与えられず

 その殆どは帰って来なかった、酷い話よね

 次第に全く同胞達が帰って来ない事に気付いた人外達は

 人間との接触を断ち、荒れた土地に散り散りに暮すようになった

 そうすると無理やり捕まえに行くコストの方が高くついて

 メリットも無いから徐々に人々から忘れ去られて行ったのよ

 私も話ではそう聞いてただけだから、直接見るのは初めてね」


腕を組み淡々とヴァレラが語る

その表情からは読み取れないが、その言葉からするに

ヴァレラは亜人に対しては同情的感情を抱いている様だった


「んん、いいか?」


一つ咳払いをして話の継続をガルムが促す


「あ、ごめんなさいっ!どうぞ続けて下さい」


セルヴィが授業中、先生に注意された生徒の様に

慌てて正面に向き直る


「亜人と言うのは基本的に奴隷等

 人間と同等とはみなされない者達と聞くが

 そんな者たちとの間で交易等成り立つのか?」


ゼロスが率直に疑問を投げかける


「その通りだ、しかし彼らはその中でも特例

 北のバセリア王国の許可の元築かれた

 亜人特区の正式な許可を与えらえた商人達で

 この街に交易に来た帰りって訳だ」


「ふむ、それで俺達に提示出来るメリットは何だ

 冒険者とは慈善事業では無いのだろう」


「勿論だ、まず依頼報酬として金貨20枚」


一瞬近くの席に座る冒険者達が【金貨20枚】という言葉を聞き

驚いた様に顔をこちらに向ける

ガルムが一瞬睨みを利かすと、すぐに彼らは目を背け、素知らぬ顔をする

その金額はそれ程までに冒険者への報酬としては高額なのだろう


「それと」


ガルムが視線をゼロス達に戻し続ける


「そこのお嬢ちゃんの冒険者証の発行、でどうだい

 新しいお仲間なんだろう?」


ヴァレラに視線を送りながら、ニヤリとして見せるガルム

何故彼が彼女の事を知っているのか、疑問が浮かぶが

それは彼がこの街の冒険者の長

言ってしまえばこの街の情報網の中心である事を鑑みれば

不思議ではないのだろう、と判断する


「何故それを条件にするんだ?」


「宿の爺さんから聞いたぜ

 ゼペス村では随分大変だったみたいだな?

 放って置いたらこの街にも被害が及んでいたかもしれねぇ

 俺からも礼を言う」


宿に戻ってから、その日一日老亭主を見なかったのは

ギルドに報告に来ていたからだったのだろう

ガルムの反応から察するに

その出来事に対し好意的に捉えている様に見える

恐らく亭主はゼロス達に利する意味合いで報告に来たと思われた


「だが、お前さんが言った通りギルドも慈善組織じゃない、

 ギルドを通した依頼ではなかった以上

 ギルドとしてもそこに報酬を出す訳には行かない

 だが俺としては何とかお前等を労ってやりてぇ

 そこで破格の条件で”依頼を受ける”形を取りたいって話だ」


「ふむ...」


ゼロスがヴァレラの方へと視線を送る


「な、なによっ...べ、別にそんな事頼んだ覚えはないわよ!」


「だがこれから行動を共にするのであれば

 この時代の証明証はあって困る物ではないだろう」


「だ、誰があんたとこれからも一緒に行くって言ったのよ!

 村に行ったのは貸しを返す為でっ...」


「来ないのか?」


「うっ...し、知らないわよ!」


ぷいっと横に顔を背けるヴァレラ

どうやら彼女はゼロスに対しては素直になり辛い様であると

セルヴィが困った笑みを浮かべながら横で思うのであった


「んで、良く分からんが、どうする、受けてくれるか?」


「分かった、受けよう」


ガルムの再確認にゼロスが即答する

その返事を受け、隣に立っていた亜人の二人が嬉しそうに

互いに目を合わせながら口元を緩める


「では、私共は早速、商団に戻り出発の準備に向かいます

 お昼の後2時に北門をから出立したいと思いますが

 宜しいでしょうか?」


「了解した。時間前には合流しよう」


返事を聞くと二人は小さくゼロス達に礼をし

その場を後にする

二人がギルドから出るのを確認すると


「で、本当の所を聞きたいのだけど」


先程のやり取りをただ黙って聞いて居たプロメが

ここに来て口を開く


「本当にただの善意からの依頼なのであれば

 態々私達が断り辛いであろう

 【ヴァレラちゃんの冒険者証の発行】

 なんて事をちらつかせる様な絡め手は使う必要無いわよね?」


情報から彼女との関わり、関係性をある程度把握したガルムは

恐らく此方が乗っかるであろう決め手として

それを盛り込んで来たのだろうと、推測を口にするプロメ


「へっ、食えねぇ雷帝さんだぜ」


無い髪をかくように頭に手を当てるガルム


「こんな光と闇を抱えた街で

 そんなただの馬鹿正直な者に

 ギルドマスターなんて務まるものですか」


「ここからが話の本題何だが

 知っての通り亜人は基本的に人とは見ない連中が殆どだ

 奴等が正式な許可があるって言ったって

 それを良しとしねぇ連中も多い

 この街に居る間なら俺の力である程度は抑止出来るんだが...」


「その割には随分質の悪い連中が勝手やってるみたいだけどねー」


ヴァレラがテーブルに肘を尽き頬杖を付き

よそを向きながらトゲを持たせて言う

セルヴィ同様、いやそれ以上にこの街の洗礼を受けた

彼女であればそう反応するのも無理はない、とセルヴィは思う


「ん?嬢ちゃんにも何か迷惑かけちまったか

 すまねぇな...色々やってはいるんだが、どうにも...」


その経緯についてまではガルムも把握していない様であった


「ふん、ごめんで済めば治安組織は要らないのよ

 と言いたい所だけど、あたしもガキじゃない

 人間、表があれば裏が有るのも当然、理解してるわ

 その中で少しでも良くしようとしてるんなら

 アンタを責める気は無いわ、ボケっとしてた私も悪いしね

 ただ愚痴の一つも言わせてほしかっただけよ

 話の腰を居って悪かったわね、続けて」


「すまねぇな、で、肝心なのはこの都市から出た後

 正確には亜人特区に着いてからの方でな...

 どうもきな臭ぇんだよ」


「何がだ」


「その亜人特区を作ったのが王国の三大貴族の一人なんだが

 そいつは数年前まで随分と裏で

 亜人関係の奴隷事業で莫大な利益を上げていた事が分かってな

 そんな奴が亜人の為の特区なんて事やるか?」


「何かしらの利益が見込まれると踏んだからでは無いのか?」


「確かに建前としては亜人達の特産品

 織物やその独特の染色技術、酒類なんかの品質も高く

 市場にはそこそこ需要はある

 だがそれにしても亜人はやはり世界中で扱いづらい存在だ

 そんな物を態々、その正反対の事をしていた奴がやるってのが

 どうも気に入らねぇ、そして3日後

 その貴族様ご本人が特区に視察に来るらしいんだ」


「なるほど、その結果何等かの策謀があった場合

 可能であれば対処、彼らを守って欲しいという事か」


「そう言う事だ、その場合はただの夜盗や山賊の類ではなく

 背景に何らかの組織に属する相手の襲撃も考えられる

 そうなった場合は腕が経つ奴じゃないと対処できねぇ」


「だから俺達に頼みたいという訳か」


「そうだ、勿論俺の考え過ぎ、壮大な勘違いかもしれねぇ

 その時は本当にただの俺からの気持ちだと思ってくれ

 実際そう思ってるのも半分は本当なんだぜ?」


「でも半分なんですね...」


複雑な笑みを浮かべるセルヴィ


「そりゃ、俺も綺麗じゃない大人だからな

 すまねぇなお嬢ちゃん」


「むむむ...」


「大方もう半分の打算は、今後新たな産業となり得る

 亜人との交易を先駆けて、あわよくばこの都市で独占したい、って所でしょ」


横で聞いていたプロメがさらっと教えてくれる


「はっはっはっ、あんたにゃかなわねぇな、

 その通りだ、ただ奴隷として利用する、獣として排除するより

 新たな産業分野のひとつとして共に加えた方が利益がある

 ここは適度に汚れた街だ、だからこそその先駆けになり得るのさ

 そして荒んだ奴等の心の根底にあるのは貧しさだ

 まずは少しでもこの街を豊かにする事が一番の改善だ

 それに、亜人達の今の扱いを快く思ってねぇのも本当だぜ?」


プロメ達とのガルムのやり取りの中

僅かに思考していたゼロスが

程なく、意を決した様に


「分かった、その依頼、受けよう」


承諾を申し出た


「そうか!助かるぜ、

 もっとも仮に最悪のケースの場合でも

 四帝クラスでも無きゃ、いや、雷帝のお嬢さんすらも従える

 漆黒の剣士のお前さんなら四帝ですら敵じゃ無さそうだがな」


「何だそれは」


「知らんのか、少なくともこの街じゃ知らん冒険者は居ないぜ?

 冒険者登録して初日に飛び級した超大型新人

 雷帝の美女と可憐な少女を従えた漆黒の剣士ってな!

 あの傭兵三人組がお前等の武勇伝を散々広めていたからな」


「か、可憐だなんて...」


思わずその場でセルヴィが両手を顔に当て頬を絡める

満更でもなさそうである


「まぁ少なくともあの騒動は街に居る

 誰もが知ってる事だ、Aランクパーティを壊滅させ

 Bランク傭兵が命からがら逃げ延びた魔物の大群を

 殆ど一人で蹴散らしちまったんだからな

 少なくともそれを認識した上で

 手を出そうなんて考える馬鹿は居ねぇよ」


「自分自身の戦闘と何かの対象を

 護衛しながら守り切る事とは異なる

 絶対では無いが、最善を尽くそう」


「それだけの力があって奢りも油断も無いと来れば

 こりゃもう鬼に金棒だな、はっはっはっ!」


ガルムの豪快な笑い声がギルドに響く


そんな中一人、受付嬢を口説いていた全身赤い男が

レンジャーハットの隙間から鋭い視線を

一行に向けていた事に気付いた者は居なかった


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