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63 2643年 第46次ブレイン級掃討作戦

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高層ビルをも超える程の巨大な火柱が所々に登る燃え盛る都市を前に

巨大な双門の砲台の様な装備を展開したゼロスがただじっと

燃える都市を見つめながら、静かに武装を解除収納する


「どうしてだっ!!まだ感染してなかった人達も大勢居たんだぞ!」

「なんで都市をっ、ガーディアンズは俺達の守りに来たんじゃなかったのかっ!」

「あの中には俺の妻や子供達も居たんだぞっ!!...人殺しっ!!」


直後、背後のフェンス越しに避難民達が罵声が浴びせられる


「うるせぇなぁ...」


フェンスとゼロスとの間に立つ青いスーツの男が

加えていたタバコを吐き捨てると

右腕と一体化した武装を天に掲げ


ドゥッ!!!


空に向かって一筋の光を放つ

それを見た集まっていた群衆は

一斉に蜘蛛の子を散らす様に散りじりになる


ゼロスが振り返るとそこには

片目から頬に掛けて一筋の傷跡が走る

肩の装甲には01のマークが施され

眼帯を付けた中年のた男が

新たなタバコを懐から取り出し、再び火を灯した


「しかし隊長、避難民達が言う事も事実です

 まだ非感染者を救助する事だって出来たかもしれません

 特にオリジンのLG隊員が一緒の作戦ならもっと多くのっ」


横に居た19と書かれた、同じスーツを纏う

まだ10代後半と見える少年がチラリと此方を見て

そう言いかけたその時


バキッ!! ガシャァン!!


中年の男が思い切り少年を殴り飛ばし

少年は背後のフェンスへと叩きつけられた


「新米、てめぇ過去ブレイン級掃討作戦に参加した経験はあるか」


「い、いえっ、ありません!今回が初めてであります!

 ですがブレイン級に関する資料には

 全て目を通しておりますっ!」


少年はすぐに立ち上がり、気を付けの姿勢になる

遅れて鼻から一筋の血が垂れて来た


「ほぅ...全て、と言ったな?

 なら今作戦に於ける現時点での

 一般人の被害者人数はどれ位だ」


「はっ!...約70万人...であります」


少年が網膜に移されるデータを確認する


「では今作戦を除いた過去のブレイン級出現による

 被害人数を個体別ごとに最大と最小、平均人数を述べろ」


「は...はい」


ブレイン級アデス本体の特性、習性、構造

並びに対策・効果的な戦術は調べていたが

その戦術・対策を構築するに至る

過去の事例その物まで調べて居なかった少年は

勢いを失い、慌ててデータバンクを参照し、データを引き出す


「さ、最大が、2498年に発生した

 ブレイン級4号による被害8億7000万人

 最小が2622年に発生したブレイン級37号の250万人

 平均被害数は2300万人です...」


「ならばその被害が最も大きく成った時の要因を答えろ」


「はい...」


既にここまで来ると少年も自分の口にした事の愚かさを

概ね把握出来たのかみるみる消沈していく


「記録によると...4号で1固体辺り最大の被害を出してしまったのは

 まだブレイン級に対する情報が不足しており

 的確な対処戦術が確立出来て居なかった事に加え

 初動の対処に出動した部隊が...そのグラウンドゼロ(感染源)となった都市

 出身者で殆どを構成していた為

 家族、友人を過度に救出しようと独断専行する者が相次ぎ...

 より感染をエリアを急速に拡大させる事に成った...と」


「ならば最も被害が小さかった時の要因は何だ」


「37号発生に際し...即座に戦略核融合兵器を投入し

 過半数以上の非感染者を含む都市を完全消滅させた為...です」


「そしてあいつは1号から今回の46号までの

 ブレイン級掃討作戦の約半数に参加している

 少しでも多くの人を救おうとした

 その結果がこの最高記録なんだ」


「はい...」


「俺達は神様じゃねぇ、全てを救う事なんて出来ねぇんだ

 俺達には俺達に出来る範囲で精一杯やるしかねぇ

 神様みたいな事をやろうとした奴等は皆...もう神様になっちまったよ

 そして神様は俺達を救う事なんてしねぇんだ」


「...」


少年にはもう返す言葉が無かった

俯いて自分の愚かさを噛み締める


「さぁてお優しい隊長の新兵座学はこの辺にして

 この作戦はもう終わったんだ、とっとと戻って全装備のメンテだ

 もう次の補給が有る保証なんかねぇんだぞ

 次はお前がこの記録を抜いて見せろ、分かったか!!」


「は、はい!!」


少年は慌てて隊長に敬礼すると

そのまま左向け左をし

こちらへ向きを変えると


「ど、どうか先程の浅短な発言をお許しください!

 申し訳ありませんでした!!」


そう言うと此方に敬礼をしたままの姿勢で固まる


「構わない」


そう言うとゼロスも軽く敬礼を返し、すぐに降ろす

すると少年も手を降ろすと、すぐに駆けて行く


軍隊に於いて階級・身分が下の者は上官が

敬礼を返す、所謂【答礼】をするまで

下げてはいけないという規則がある

もっともそれは平時の安全圏での話であり

前線等の実戦場では専ら割愛される

それを態々この場で行うという事は少年なりの誠意であった


そして残った隊長と呼ばれる男を見ると

その顔の面影には見覚えがあった



「お前は...SG09か?」


「おうよ、また会えたな、戦友。

 何度か同じ作戦には参加してたんだが中々会えなかったな

 しかし、まるで昔の自分を見てる様で

 見るに堪えねぇぜ、部下の若いのがわりぃな」


「いや、構わない、それより01(隊長)に成ったのか、おめでとう」


「よせよ、お前に言われると何かむずかゆいぜ」


「前にお前とエレメント(二人一組)を組んでたSG11は

 この作戦には参加してないのか?」


「ああ、あいつと俺とで、ストームガーディアンズの中では

 最古参メンバーに成っちまったんで

 俺が隊長であいつが02、副隊長になってたんだが

 運悪く3度前の出撃、旧欧州跡での作戦で逝っちまった」


立ち込めた暗雲に炎が照らし

まるで夕暮れに成ったかの様な空を見上げ

男が大きく吸い込んだタバコの煙を吹く


「すまない、悪い事を聞いた」


「いや、いいって事よ、そんなの珍しい話じゃないだろ?」


「そうか、しかしお前...」


改めて顔を見つめながらゼロスが途中で言葉を止める


「ん?老けたってか、はっはっはっ!

 風格があって隊長っぽいだろ?

 お前さんと違って俺ら廉価版にゃ

 永久機関《Dリアクター》何て便利な物は積んでねぇからな

 もう生体組織の補充パーツも満足に回って来ねぇのさ

 だからどんどん出撃の度、老化が酷くてなぁ

 顔の傷も右腕もこうなってるって訳さ

 それに比べてお前はあの時のまんまだな!」


「そうか...末端の補給状況は酷いと聞くが

 他のガーディアンズまでとは...」


「なぁに、最強のガーディアンズの

 お前さんがこうやって健在なんだ

 まだまだ人類は戦えるさ

 しっかしお前にゃ相変わらず

 皮肉の一つも通じねぇな」


男が真っ直ぐゼロスを見つめながら

煙草をくわえた口元をニカッっとさせる


「すまん」


「あの時お前が言ったじゃねぇか

 まだ俺達が、仲間が居るって

 そうだ、俺達にもお前が居るんだ

 何も恐れる事はねぇ」


「そう言って貰えると嬉しく思う」


ふぅー


男が嬉しそうにタバコを吹かしながら


「なぁ、一つ真面目な話をしても良いか?」


「なんだ?」


「多分、俺はお前より先に逝っちまうだろう

 もしそうなった時、戦場であいつ等、若いの見かけたら

 勿論出来れば良い、少しだけ気に掛けてやってくれないか?」


「...わかった」


「それと、お前は何でも一人ですぐ

 背負い込んじまう所がある

 俺が居なくなっても、きっとお前を仲間だと言う奴は

 必ず隣にいる筈だ、辛い時は...偶には仲間を頼れよな?」


「肝に銘じて置こう...

 だが願わくばお前にも共に最後まで戦える事を願う」


「おうよ、しみったれた事言っちまったが

 当然おれだって死に急ぐつもりはねぇよ

 また次の戦場で会おうぜ、戦友!」


男が手をかざすと、今度は迷う事は無い

ゼロスも1歩踏み出し自分から

男の手に自分の手を叩きつける


ガキィン!


分厚い装甲と装甲がぶつかり、あの日と同じ子気味よい音を立てる




——

————

——————

————————



(っ...!!)


意識が覚醒する

覚醒...?夢を...見ていたのか...俺が?


夢を見た・過去の記憶に浸っていた・無意識の状態


その状態を説明するのであればその様な言葉のどれかなのだろう

すぐに時間を計測すると最後に自意識を認識出来た時間から

約50秒程経過していた


それ程までに気を抜いていた、いや

その様な状態になる事が出来た事に

自分でも驚き、一つ深い溜息を漏らす


「ひゃぅ!」


頭の上から少女の小さな悲鳴が聞こえる


「あ、あの、苦しかったですか?」


そうだ、ここは少女の胸の中だったのだ

溜息がくすぐったかったらしい

最強のガーディアンズが一人の少女の胸の中で

僅かとは言え呆けてしまう等、何とも情けない話である

だが


—俺が居なくなっても、きっとお前を仲間だと言う奴は

 必ず隣にいる筈だ、辛い時は...偶には仲間を頼れよな?—


そうだな、お前が言った通りだ


そっとセルヴィの両肩に手を当て

1歩下がらせ、胸元から顔を外す


「えと、あの、もういいですか?」


「ありがとう、

 君が仲間と呼んでくれるなら

 俺にはまだ共に戦う仲間がこの世界にも居る

 その事はとても心強く思う

 頼りにさせて貰う、よろしく頼む」


ほんの少しだけ、ゼロスがほほ笑んだ様に見えた

本当に僅かではあった、それは間違いなく

セルヴィが初めて見る彼の表情だった


その一瞬の表情は、きっと今の言葉は

自分の為の世辞ではない事なのだろう


「は、はいっ!こちらこそよろしくお願いします!」


セルヴィは満面の笑みを浮かべ答える

そしてセルヴィが離れ部屋を後にする前に


「大したことは出来ませんけど、

 またぎゅっとしてほしくなったら言ってくださいね!」


「わかった」


返事を聞くと満足そうにもう一度笑みを浮かべ

部屋を後にする

廊下に出てドアを開けた瞬間、自分がした事

言い残した事の大胆さに気付き

顔を真っ赤にして一人悶絶していると

食堂で食べ終えたのかヴァレラが果物をいくつか抱えながら

階段を上がってきていた所に鉢合わせする


「あんた...どしたの?」


「ひゃぅ?!ななな、なんでもないですよっ!」


「あーっ!もしかしてあいつに変な事された?!

 まさかあいつロリコンだったのか...」


「へ、へへへんな事なんて、何もありませんよっ!」


「まぁそりゃそっか、全裸になっても真顔で「服を着ろ」

 とか言いそうなあいつがそんな事する訳も無いわよねー…

 って事は...あら、あんたそう言うのに疎い様に見えて

 意外とおませさんで積極的なのね」


ヴァレラの目と口元が明らかな含みを持たせて

猫の様に(ↀᴥↀ)なニヤケ顔になる


「ち、ちがいますってばぁ!!」


少女の悲鳴にも似た叫びが宿屋に響き渡った

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