58 鉱山村 忍び寄る悪夢
「わぁ!谷沿いに村が見えてきました!」
馬車から身を乗り出したセルヴィが
片手で帽子を押さえながら前方を見て叫ぶ
「あれが鉱山村のゼぺス村ですじゃ
いやぁしかし凄い馬車ですなぁ、
お昼前にはついてしもうた」
「ほほほ、特別製ですので
動力魔具と足回りを色々弄ってますの」
荷台で先を除いた宿の亭主が関心する中
プロメが適当にそれらしい事を言って合わせる
厳密に言えばウソは付いていない
「しかし、良かったのか」
いつも通り、御者を演じながら
馬車の前に座るゼロスが
荷台最後尾に縁に肘を置き
頬杖をつきながら座る赤毛の少女に声をかける
「何がよ」
「君はもう自由にして良いんだ
この件に関わる必要も無い
対価も払えない案件だ、」
そこにはヴァレラの姿があった
セルヴィと街で買い出しに行った際買いそろえたのか
革製の腿中程まであるハイブーツに半ズボン
上には布製の無地の外套と
金属の防御板を一部付けた革製のジャケットを纏っている
上下ともに非常に動きやすさを重視した構成になっており
彼女の戦闘スタイルに良くあっていると言える
また目元には先日の戦闘時装着したバイザーを付けており
髪も相変わらずシンプルに後ろで細長く纏められ
腰には巨大な長方形状の重火器を携行している
昨日聞いた話によると彼女の装備は魔導空間という
別の空間に繋がっているらしく
そこから魔力を媒介に自由に出し入れできるそうだ
恐らく次元収納と同様の技術と思われる
魔導空間には彼女の所属部隊の数百名分の全装備と格納されており
当面は装備運用の物資・弾薬の枯渇の心配は無い様だ
ただし兵器の召喚には、その質量に比例し
大型の物になればなる程、より大きく魔力を消耗する為
その為腰の銃器は常時展開した状態で携行しているらしい
だがあれ程の質量を常時腰に装着していては
それこそ彼女の戦闘方法からすると弊害になりそうな物だが
彼女は素人ではない、何か考えに基いた判断だろう
「う、うるさいわねっ!
なら私が何をしようと自由でしょ!
借りを作ったまんま何て気に入らないのよっ」
「そうか」
「そ、そうよ、ふんっ!」
再び馬車後方へと首を向けるヴァレラ
「俺は何か彼女の気に障る事を言ったのだろうか?」
手前に居たプロメに問う
「ふふ、自分で考えなさい
これから沢山の人と関わっていくでしょう
これは貴方自身が勉強しなければいけない事よ」
「そうか...」
「大丈夫よ彼女は怒ってないわ
セルヴィちゃん同様、とても良い子なのね
ほんの少し不器用みたいだけど、ふふ、」
何とも言えぬ無表情のまま再び前に向き直るゼロス
そうこうする内に早くも村の入り口に差し掛かる
「ん...なんだぁ?見慣れない馬車だなぁ...」
村の入り口にほど近い土地を肥し農作業していた
麦わら帽子の小太りの男がなまり混じりの言葉で呟く
「おぉ、ドカじゃないか元気にそうじゃのぅ」
「おー!バルザックに行った隣のじいさんじゃねぇか!
元気にしとったかね!」
見える距離まで来たところ、荷台から宿の亭主が声をかける
お互いを知る中の様である
「うむ、お前さんも無事で何よりじゃ
今日はものすんごい冒険者の方々をお連れしたんじゃ!」
「そんりゃすげぇ!すぐに村長さ報告してくるべさ!」
そういうと男は村の奥へと駆けて行く
そのまま村に入り、村の繋ぎ場へと馬車を駐車し
宿の老亭主の案内により村の中で一番大きな屋敷へと案内される
すると二人の幼い子供たちが駆け寄って来る
「おじいちゃんおかえりなさい!」
「このひとたちだれー?」
「これこれお前達!今外に出てはいけないと言われてるじゃろ
後でおじいちゃんも家に行くから、早く帰りなさい」
「ちぇー、わかったよ、さいきん
ずっといえのなかばかりでつまんない」
「ぜったいだよー?まってるからねー」
二人の子供達は手を振りながらかけて行く
「あの子達は?」
セルヴィが老亭主に問う
「あれは甥の息子達です
双子の兄弟で儂の実の孫の様な物で
小さな村ゆえ、皆が家族同然なのですじゃ」
「あ、そういうの凄く良く分かります
私の村も同じように小さな村だったので
良く見るとなんだかアール村を思い出します!」
セルヴィが辺りを見回しながら呟く
確かに周囲の建築物や都市とは異なる小さな村独特の
閑散とした雰囲気は似ている物があるかもしれない
「よぅこそおいで下さいました!
わたくしはこの村の村長に御座います
ささっ!皆さまどうぞおかけ下さい」
屋敷のドアを潜ると、中から杖を突いた村長を名乗る
高齢の男性が出迎えた
元々村の寄り合い所として使われる事も有るのか
十名以上が掛けれる長テーブルと椅子が並べられている
一行が腰を落ち着けたところで
村長の簡単な謝意、口上の後、ゼロスが口を開いた
「では、詳しく聞かせて貰おう」
村長はうなづくと、ふた呼吸ほど間を置いて話し始めた。
「あれは一週間程前のこと、
鉱山に採掘に潜った鉱夫の一人が戻らなくなりました。
翌日、同僚の捜索に向かった3人の鉱夫達も……誰一人戻りませんでした」
ゼロスとプロメを除いた全員が、村長の言葉に息をのんだ。
「そして、再び捜索隊を出すべきか皆で話し合っていると、
その夜、4名の村人が姿を消しました。
はじめは都市に買い付けにでも行ったのかと思っていましたが、
その次の夜も、3名の村人が消えたのです」
プロメが、
「夜に消えた、というのが不審よね
買い物に出かけるにしたって
誰も知らないなんて異常だわ」
と疑問を呈すると、
「おっしゃる通りでございます。
その頃の我々には、あまりにも危機感がなさ過ぎたのです……」
村長は、深いため息をついた。
さすがに何かがおかしいと気づいた村人が
都に救助を求めたのだが、
遺体が出ている訳でも無く、
失踪事件から数日しか経っていないから、と
まともに取り合ってもらえなかった。
「そうこうしている内に、失踪する村人が増え……」
村長の声が震える。
最初は夜だけだったのが、ついに日中まで人が消えるようになり、
今日に至る迄に、なんと23名もの村人が姿を消し、
現在村はパニック寸前となっていた。
宿屋の主人が、村長に続いて窮状を訴えはじめた。
「そして、とうとう一昨日の夜
儂の甥まで消えてしまったのですじゃ...
甥はあの子達を残したまま突然
居なくなったりする様な男ではありませぬ!
どうか、どうか甥を、村をお救い下さいっ」
宿屋の主人と村長がともに縋るような目でゼロスを見ると、
「出来る事はやろう」
ゼロスが淡々と答える
「おぉ、なんと頼もしいそれでは」
村長が言いかけた時だった
バタン!!
「た、大変だっ!!」
突如激しくドアを開き、慌てたように一人の男が駆け込んで来た
「なんじゃ!?」
「ド、ドカが居なくなった!!」
「そんなバカな!
ドカならさっきお客人の来訪を告げにここにきたばかりじゃぞ
何かの間違いでは無いのか?」
「そ、それが、心ここに非ずという足取りで
鉱山に入ってった所を見たって者が居るんですわ!」
ガタッ
すかさずその場で席をたったのはゼロスだった
「あ、あの...?」
村長が声をかける
「鉱山へ案内してくれ」
「え、あ、はいっ、私がすぐにご案内致します!」
宿の老亭主に案内され、村の奥、小高い丘を登った先
谷の麓へとやってくると
ぽっかりと入口が口を開けていた
奥は深く、どれ程続いているのか
入口からではその全容は目視出来ない
一行が鉱山に足を踏み入れようとしたその時だった
う゛...あ゛...あぁ゛...
その奥から人の物らしき呻き声が響く