55 ツンデレ?
「そして目が覚めると今だった、と」
ベットの淵に足を組みながら
正面の椅子に掛けるセルヴィにヴァレラは語る
「はぅ...昔の世界は何処もとても大変なのです...」
「それでポッドから出たあたしは
正しく覚醒処置?って奴を受けれなかったせいか
朦朧とする意識の中何とか地上に出てはみたのだけど
全く見た事ない時代劇の様な街並みが広がってるわ
言葉も通じないわで、何が何なのか分からない内に
突然変な連中に拉致監禁されたって訳よ」
恐らく彼女は西地区に迷い込んでしまったのだろう
そして自分の様な目にあってしまったのだとセルヴィは理解する
「目が覚めていきなりそんな目に会えば
回りが信じられなくなっても無理はないと思います...
でも、どうか信じて下さい
私達はヴァレラさんに酷い事何てしません!」
セルヴィが目に力を込め、強く訴える
「それは何と無く分かったわよ
だからこうやってあたしの事も話したんでしょ」
「あっ、なるほど!よかったぁ、」
先程とは打って変り、セルヴィ安心した様に
嬉しそうな表情を浮かべる
「ほんとアンタと話してると疑うだけ馬鹿みたいだわ」
「えっと、それって褒められてる...のでしょうか?」
「半々」
「あぅ...」
本当に良く表情の変わる子だとヴァレラは思う
元の世界で軍人として戦争を続けて居れば
自分がこんな子と会う事も無かっただろう
ここはもう自分が居た世界ではないのだ
コン、コン
その時、部屋のドアがノックされた
セルヴィがヴァレラと目を合わせる
入室の可否の裁定権を委ねるという意味合いだろう
その事に彼女が、そしてドアの向こうに立っている者が
一人の人として尊重してくれている事を
ヴァレラは改めて実感する
「どうぞ」
ヴァレラがノックに答えると、ゆっくりドアが開く
ドアの向こうには同じく先の戦闘の際
少女を守る様に、彼女の前に立っていた女性と
先に刃を交えた男が立っていた
着ている強化服らしき服装は
戦闘前の古臭いデザインの鎧へと戻っている
恐らく何らかの技術で擬態しており
あの戦闘時の姿が本来の物のだろうと推測する
既にセルヴィからあちらの事情は概ね聞いていた為
彼らがゼロスとプロメである事はヴァレラも理解している
だがいざ顔を合わすと、主観の時間で言えば先程まで
殺す気で戦っていた相手というのもあり、どうも気まずかった
「体の方は問題なさそうね、
少しは落ち着いて話出来そうかしら?」
「ええ、お陰様で」
「なら良かったわ、それならば良ければ
ここでごったになって話すのもあれだし
下の食堂で話さない?」
「構わないわ」
そうして一行は食堂へ場所を移し
互いの情報を交換、認識のすり合わせを行う
一通り話を終えた後、ヴァレラが二人に持った印象は
”あべこべ”だった
ゼロスという男はまるで機械の様な最低限の反応しか返さず
プロメという女...AIらしいが、逆に彼女の方がより人間らしく振舞う
「しかし、人間より人間らしい装いをするAIに、衛星軌道上の宇宙戦艦
すぐに傷を治してしまうナノマシンだなんてまるでSFね
しかもそれが未来じゃなくて
ずっと過去の技術なんて皮肉よね」
「えすえふ?」
ヴァレラの漏らした言葉にセルヴィが尋ねる
翻訳は機能している様だが
この世界に無い概念の言葉は彼女には理解出来ない様だ
「サイエンスフィクションの略で、小説や
えいが...っていってもこの時代には無いんだっけ
お芝居の様なもんね、そのジャンルの一つよ
例えばアンタの時代の感覚で言うと、ずっと未来で
みんなが魔具で空を飛ぶことが
当たり前になった世界のお話って感じの事よ」
「なるほど!分り易いですっ
ゼロスさん達の技術はヴァレラさんから見ても
それ位凄い事なんですね、」
「あたしも技術者じゃないから、正確な所は解らないけど
AIやナノマシンの研究や部分的導入だとかは始まってた見たいよ
でも、多分あんたらの技術水準から比べれば玩具レベルでしょうね」
ヴァレラがゼロスとプロメに視線を移しながら言う
「でも少なくともヴァレラさんの時代の方が
今よりずっと技術は進んでたのに
ゼロスさん達の様な超古代の遺跡の
調査や研究はしなかったのでしょうか?」
「遺跡ねぇ、学者の連中がやってたんじゃないの?
考古学だの歴史だのは正直私は良く分かんないわ
宇宙開発なんかも、空想のお話ではあったけど
皆戦争で必死だったから、そんな”無駄”な事に
力入れてる余裕何て無かったんじゃないかしら」
聞いていたプロメが気に成る様に口を開く
「無駄、ねぇ...
私達の時代の宇宙開発の基礎となった
ロケット技術は戦争の兵器から産まれたわ
そして民衆向けのプロバカンダに夢や冒険の大義を謳い
長距離弾道兵器の開発により宇宙技術は急速に発展していったの
既に概念を持ちながら実行に試行しなかったって言うのは
どうも引っかかる話ね」
「そんな事私に言われても困るわよ
さっきも言ったけど、私は研究者でも学者でもない
ただ一介の一下士官よ、何で開発しなかったか何て知らない
そういえば...いや関係ないか、何でもないわ」
「何か思い当たる事でもあるのですか?」
未知の世界や技術の話に興味津々に目を輝かせて
二人の話を聞いていたセルヴィが問う
「んん、思い当たるって訳じゃないの
子供の頃育てられた施設に居た頃
同じ施設にまだ戦争が始まる前の時代に
研究者をしてたって自称するボケた爺さんが居て
その事で良く変な事言ってたなぁって」
「変な事?」
プロメも質問に続く
「いや、ほんとボケた爺さんの戯言で
研究者って話も本当かどうかも怪しいわよ?
何でも宇宙や遺跡は神の領域とか言う理由で
絶対に踏み込んでは成らないと、その分野の事業には
教会が圧力がかけられ、国ぐるみで陰謀が行わてるー、
とか良く喚いてたわ」
「昔も教会ってあったのですねぇ」
セルヴィが自分の時代と共通する概念に関心する
「あたしは神様とか信じて無いから良く分かんないけど
結構大きい宗教があったのよ、
軍人の中にも良くその宗教のペンダント付けてる人が居たわね
とまぁ、私に解る事はもうこれで殆どよ」
「大変参考に成った、感謝する」
対面に座り、黙って話を聞いていたゼロスが
徐に小さな布袋を差し出す様にテーブルに置く
「何よこれ?」
「当面の活動資金だ、一月程度なら困らないだろう
先程の部屋も1週間分程先に宿泊料は支払っている
出て行っても構わない、好きに使ってくれ」
「はぁ?!」
「すまない、君の境遇には同情するが
我々もそれ以上の支援は...
「ち、違うわよっ!寧ろ何でそこまでしてくれるのかって驚いたのよ」
「そうか、なら気にする必要は無い
情報提供に対する対価と思ってくれ」
「あんた、一見ロボット見たいな癖して
中々非論理的な奴なのね...
私はあんたらに銃を向けたのよ?」
「問題ない、実際危害は出て居ない」
自分程度の相手であれば脅威では無かった
という意味にも取れるが
恐らく嫌味で言ってる訳でないであろう事は
先程の会話にて少し理解する事が出来ていた
「ゼロスさんはちょっと変わった正確ではありますけど
本当はすっごく優しい人なのですよ」
セルヴィがフォローを入れる
彼女のが全幅の信頼を寄せている事が良く分かる
「古代人ってのは皆こんな根暗な奴ばかりなのかしらね」
「いや、似た様な事を他の奴等から良く言われた」
「あらそう、でもまぁ悪い奴じゃないのは確か見たいね
遠慮しないわよ?後からやっぱり...何て言うのは無しだからね!」
「ああ、それ位の事しかしてやれなくてすまない」
「なっ、何でアンタが謝るのよ!
本当はぁたしがお礼をいわないと...ゴニョゴニョ」
「何だ?」
「な、何でもないわよっ!
おじいさん!昨日の残りってまだあるーっ?」
顔を赤らめ、慌てて立ち上がり
通りかかり厨房に入っていた宿の亭主に
続き声をかける
「余り起きてすぐに食べ過ぎると胃よくないですよっ」
「大丈夫大丈夫!鍛えてるからねっ
それに1000年も眠ってたのよ?沢山食べなきゃ!」
心配したセルヴィが彼女を追い厨房に続く
「あら、彼女はツンデレって奴なのかしらね」
「ツン、デレとは何だ?」
「ふふ、私は辞書じゃないのよ?
偶には自分で考えなさい」
「そうか」
残された二人が静かに話す