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54 赤毛の少女の世界が終末を迎えた日

物心ついた時、あたしは国の施設に居た

戦争が無かった時代には、純粋に身寄りの無い子供達を救う為の

そんな施設があったらしいが、信じられない


私が産まれた時から世界は、2つの超大国に分かれ、ずっと戦争を続けている

戦争が無かった頃の時代をあたしは知らないし

戦争が無くなった未来の世界も想像なんて出来ない


施設の子供たちは最低限の教育と生活が与えられ

皆15に成ると戦地へと送られた

体の良い兵士育成施設の様な物だった


あたしは幸いな事に、入隊時の検査で魔導適性が高い事が分かった結果

アカデミーへと送られ更に3年、魔導下士官としての専門教育を受ける事となった


何が幸いかって?

もしそうでなければ僅か数か月の基礎訓練を受けただけの

一般人に毛が生えた程度の状態で、僅かな弾薬と銃を渡され

最前線に送り込まれ、状況を理解する間もなく

使い捨ての消耗品として弾丸や砲弾の雨で息絶えて居ただろうからさ


楽に死ねたらまだ運がいい方だろう

帝国の捕虜になった者は戦時条約等、とうに実効性を失っており

死ぬより酷い慰み者にされると言う


魔導下士官であっても最終的に行きつく運命は

同じ地獄に変わりはないかも知れないが

少なくとも3年は生存が保障され

戦う為の装備と技術を与えて貰える分だけ儲け物だ


昔は戦いは男の役目だ等という価値観が存在してらしいけど

そんな物は余裕がある奴等の戯言よ

シャルチェ共和国にはとっくにそんな余裕は無かった

もう数十年戦い続けて未だに決着がつかないという事は

バルド帝国も同じ様な物なのでしょうね


そうして無事アカデミーに入校出来たあたしは

3年の候補生生活を終え、いよいよ部隊配備となった

あたしが配属される事に成ったのは


司令部直轄技術研究部隊

ヴァルキリー中隊

魔導強化外骨格 ヴァルキュリアスを始めとする

共和国で開発された最新の魔導兵器が配備され

その運用、性能を試験、実証する為の実働実験部隊だった


ウィィイン ガシャンガシャン

ウィィイン ガシャンガシャ

ウィイ ガシャ!ズシン!!


複数のヴァキュリアスが一斉に不整地を翔ける中

一機が段差に足を取られ、そのままバランスを崩し転倒した


「ヴァレラス!!貴様何やってる!!

 その様でアカデミー実技主席だと?

 笑わせるなっ!!さっさと立て!!」


教官が大声で怒号を飛ばす


「温室育ちのお嬢様には厳しいんじゃねぇか?」


「怪我しない内にとっとと降りた方がいいんじゃないか

 乗るより乗られる方が似合ってるぜ」


「へへっ、違いねぇ」


「おや?女が乗られる方って誰が決めたんだい

 何なら今夜私がお前等に乗ってやろうかぁ?」


「うへぇ、お前みたいなゴリラ女は勘弁だぜ!」


既に先を行く隊員達が好き勝手な事を言う

彼等は元々前線帰りの所謂ベテラン

ヴァルキリー隊は実戦経験豊富な熟練兵と

あたしの様な教育部隊を出たばかりの補充兵で構成されていた


前線帰りの連中は余程新入り(あたしたち)が気に入らないのか

前線から遥か後方に送られ、玩具の実験ばかりさせられて

燻っている事に対する八つ当たりか、又はその両方か

もっぱらあたし等”新参”への風当たりは強かった


隊長も結局はあいつらの味方なんでしょう

これだけ大きな声で話してる奴等に注意も碌にしやしない


そんな事はおかしい?理不尽?

そんなのは産まれた時から全部そうよ

こんな世界はおかしい、産まれた時から皆不平等で理不尽よ

そんなの当り前じゃない


あたしはそこで、そんな当たり前の事を

ただ叫んで泣いて何もしない負け犬じゃない

利用できる物は何でも利用してやる

吸収出来る物は全て糧にしてやる


何時かあいつらが野垂れ死んでも

あたしは生き延びてやるわ!

そしてこんな下らない戦争は私が終わらせる!


けれど、その日はあっさりやって来た


「よし貴様ら!今日の運用試験はここまでだっ!

 各自、機体、及び全兵装の整備に...」



ウゥゥゥゥウウウウウウ!!



突如、実験駐屯地に緊急警報が流れる


「な、なんだっ!敵襲か?!」


「こんな後方に敵襲だとっ!?」


「馬鹿者っ!!貴様らは新兵かっ!!

 即刻緊急手順αに従って退避!

 全兵装は魔導収納に格納した後、地下シェルターへ退避せよ!

 帝国てきに新兵器の情報を渡す事だけは絶対に阻止しなければならん!」


「「「はっ!!!」」」


「おい新入り共!ついてこい!」


一人のベテラン兵の指示に従い

あたしら実験部隊の隊員と装備が優先的に

地下シェルターへと避難させられる事となった


本当にその警報は帝国の奇襲による物だったのか

いったい何が起こったのか

避難させられた当人等は状況を把握出来て居なかったけれど

命令に説明は無いと言うのは軍の末端の基本

熟練兵が率先してその様な事態に際し

優先順位を決め当初の取り決め通りスムーズに対応した


隊員達の避難が終了すると

徐々に研究員や一般職員の連中も退避してきた

だがその時、まだ退避が完了していないにも関わらず

シェルターの閉鎖が始められ


まだシェルター内の人員を見る限り

施設の一般職員等の2割も退去出来ていない様子だったけれど

入口付近の職員が右往左往する中

戦車砲でもびくともしないメインゲートは

無情にも完全に閉鎖されてしまった


それから1分もしない内の事だった


ゴゴゴゴゴゴゴォォォオオ!!!


突然凄まじい揺れが施設全体を襲い

天井からは一部の照明やパネルが落下し

辺りは悲鳴に包まれた

大規模な広範囲攻撃か、戦略兵器でも投入されたのか

その衝撃が何だったのか、外で何が起きているのか

地下司令部に配備された者位しか知る由は無かった


程なくすると揺れは収まり、辺りも冷静さを取り戻した

そこからは粛々と皆閉鎖手順に従い

シェルターでの共同生活が始まった


あたし達ヴァルキリー隊はそのままシェルター内の

治安部隊としての役割が与えられた

けれど皆元々軍人、又は軍関係者というのもあってか

早々治安部隊が武力を行使する場面等無く

将校クラブでの高官の酒の席での揉め事の仲裁が関の山だった

酒まで与えられて揉め事まで起こすのだから随分と贅沢な奴等よね


本来のシェルターの収容可能な人数を大幅に下回っていた事もあり

物資や食料のは現在の人数を支えるには十分な量の備蓄が備わっていた事も

精神的余裕となり治安の安定に繋がっていたのかもしれない


しかしそれが数週間、そして数か月経過した頃

徐々に皆の間に不安が広まり始めた

様々な噂がシェルター内で流布した


既に地上施設は完全に帝国に制圧され

兵糧攻めに合い、出てくるのを待ち伏せされているだとか

強迫観念の不安から生まれた比較的論理的な説や


東の果てに暮していた蛮族が神秘の力を持って

超大国2国に対し宣戦布告、奇襲を仕掛けて来ただとか

非現実的なオカルト染みた説から


ー帝国が開発していた新型の大量破壊兵器に寄り地上は既に滅び去っているー


だとかだ

しかし上層部からの発表は何もされないまま

半年が経った頃、ついに動きがあった


潤沢にあった食糧を始めとする各種物資に陰りが出始め

すぐにどうこうという事は無いけれど

長期活動に備え、少しでも物資の消耗を抑える為に

最下層の研究棟でほぼ実用段階に至っていた

冷凍睡眠ポッドに可能な限り人員を

収容するという命令が上層部より出された


その時点でシェルター内の殆どの者は

もう地上に戻る事は出来ないのかも知れない

少なくとも上層部にそのつもりがない事を理解した


しかしそれを嘆いた所で何が解決する訳でもない

皆1日でも長く生き延びる為に淡々と命令を実行し

そして、あたしも冷凍ポッドに入る組となった


いよいよ、冷凍睡眠処置命令が実行される当日を迎える


何百と並ぶ冷凍睡眠ポッド周辺を

何十人と言う技術者が世話しなく動き回り

床には冷たい空気が溜まり、白く靄が掛かかる


指示された番号のポッドの前に行くと

既に待ち構えていた医官が、流れる様に腕を出すよう促し

アルコール消毒すると、準備していた何らかの

薬液が入った注射器を手に取り、注射し

業務的に2,3言葉をかける


「ゆっくりと、リラックスして...

 よし、じゃあポッドへ入りなさい」


ポットに入ると背中にひんやりとした感触が伝わる

そしてポッドのハッチが閉鎖されると

周囲は完全に光が遮断され

全身をひんやりとした空気が包み始める


恐怖や不安が無かったかと言えば嘘になる

だが本当なら高鳴る筈の心臓の鼓動は逆にゆっくりになり

急激な眠気が襲い始めた


薄らいでいく意識の中で、あたしは心に強く願う


絶対に私は生き延びてやるわ...

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