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53 ヴァレラス・リーンスト曹長

「ん...」


ベットに横たわる赤毛の少女の眉と口元が僅かに動く


「んぅ...?...はっ!!」


目が覚めると同時に飛び起きると

そこは小さな木造作りの部屋で

自分は白いシーツのベットの上だった


すぐ様周囲を確認する、入口と思しき木製のドアが一枚

両開きに開閉可能なガラスがはめ込まれた木枠の窓

そしてすぐ隣には先程まで戦っていたはずの

男の仲間と見られる、長い青い髪の少女が

ベットのすぐ横の椅子に座り、寝息を立てている


「...ッ!!」


慌てて武器を取り出し少女に構えようとするも

途中でその動作を止める


(少なくとも自分に危害を加えるつもりなら

 幾らでもチャンスはあったはずだ

 それどころか無防備に隣で寝息を立てている...だと...?)


必死に今の状況を分析する、すると


「んん...あっ、目が覚めたのですねっ

 おはようございます!」

 

少女が目を覚ますなり口を開いて何を言うかと思えば

余りに拍子抜けする言葉に、中途半端に構えた手を

降ろすに降ろせず不自然な形のまま固まる


「えと...それがあなたの時代の挨拶...なのですかね?」


少女は自分と同じ様な姿勢を真似て見せる


「い、いや...そういう訳じゃ...」


「あ、お腹空いてませんか?

 目が覚めたらきっとお腹が空いてるだろうと思って

 昨日のお夕食の残りを取り置いて貰っているのです

 ちょっと取ってくるので待っててくださいね!」


「えっ、いや...」


「まだあんまり動いちゃだめですよー」


そう言い残すと少女は部屋を後にする


「ったく、もう一体何のよ!?調子狂うわねっ!」


余りに彼女の無垢な反応に思わず毒気を抜かれてしまう

見た所、体に拘束物の類は取り付けられていない

魔導コアのタリスマン(武装)も取り外そうとした形跡は無い

窓やドアにも施錠されている様にも見えない


加えていつの間にか上下無地の清潔な肌着に

着替えさせられて居る事から

本当に敵意や害を加える気は無い様に思える


(彼女たちは一体何者?

 何故あたしに危害を加えてる様子がない

 本当に帝国とは無関係...?

 いやしかしまだ油断は出来ない)


そうこうして周囲の様子や思考を張り巡らせていると

程なくして少女が、ご丁寧にノックまでして部屋に戻ってくる

両手には盆を持った状態で器用な物だと思う


「よいしょっと、お口に合うかどうかは分かりませんが

 良ければ召し上がって下さい

 ここの宿の亭主ご夫婦の料理は本当に美味しいんですよ!」


どうやらここは何処かの、恐らく民間の宿泊施設らしい


ベットから座って手が届く距離のテーブルの上に盆を置くと

そこには野菜入りのクリームスープ、固そうなパン

芋とウリ科の煮つけ等様々な料理、柑橘類の飲み物が見て取れる


差し出された料理に若干の警戒を抱きつつも

ニコニコ無邪気に話す少女を見ていると、まるで

自分一人で無意味な事をしている様に思ってしまう


(今更毒もへったくれも無いわよね...)


木製の器に入ったスープの器を手に取り

横のスプーンで掬い恐る恐る一口、口に含む


「...っ!」(おいしいっ!)


溜まらず次は煮物を、パンを、

喉を詰まらせそうになり、慌てて飲み物を

その全てが美味で堪らず、止まらない


隣で少女は相も変わらずニコニコとその様子を見ている

正直食事の様子を隣で見守られると言うのは落ち着かないが

今はそれより目の前の食事の魅力が上回った


そうしているうちに盆の上の食事は

見事なまでに平らげられていた


「お口に合った様で何よりです

 時代が違っても美味しい物の感覚は通じるのですね!」


(ん...?時代...確か最初もそんな事を...)


「そういえばまだ自己紹介してませんでしたね

 私はセルヴィと言います、よろしくお願いします!」


少女が座りながらこちらにペコリと礼をする

少し考え込み、若干の間が空いた後


「...ヴァレラス・リーンスト三等曹長よ」


「ヴァレラス、曹長さん、良いですか?」


「ヴァレラでいいわ」


「分かりました、ヴァレラさんですね

 曹長...というのは軍隊の階級、だったでしょうか?」


「ええそうよ、所でアンタ、さっき

 時代が何とかって言ってたわよね?

 それってどういう意味」


「え?あー、えとその事はですね、あのー...」


少女が露骨にしどろもどろになり目を反らす

自分より少し年下くらいだろうか

先程から見ている限り、幼さの残るこの少女は

本当に分かりやすい反応をする子だと思う

逆にこの仕草全てが演技なのであれば

それはそれで恐ろしい事だが、恐らくそうでは無いだろう


そしてそんな子がこういう反応をするという事は

自分に言い辛い事なのだろう

それは秘匿する情報である無いでは無く

恐らく配慮から着ている物だろうと思う


「詰まらない遠慮なんかしないで

 冷凍睡眠から目が覚めた時、周囲の様子は

 何もかも変わってしまっていた...

 そしてさっきの言葉、

 ほんとは自分でも薄々分かっているのよ」


 【どれ位経ったの】


すると少女がゆっくりと口を開く


「ヴァレラさんは...恐らく1000年以上眠っていたみたいです...」


「はぁ!?せ、1000年?!」


予想を桁一つ上回る思わず声が漏れる

正直、精々それでも100年ちょっと位だと思っていた

本来の数十年の冷凍保存の予定を大幅に超過している


「...」


目覚めた時、停止していた他の冷凍ポッドは

既に皆目覚めて何処かへ行ってしまったのだと思った


いや、思いたかった


しかし恐らくは、乗員を抱えたまま

皆機能を停止してしまったのだろう

そうでなければ【誰かが起こしてくれた】はずだ


「そっか、1000年以上...

 そりゃ帝国も共和国もとっくに無くなってるわよね...

 敵なんかとっくに居なかったのに、馬鹿みたい」


「あの、何と言っていいか...」


少女が申し訳なさそうに声を掛ける


「いや、いいのよ、自分が生き残れただけでも

 奇跡的な事だし、それを今は感謝しないとね」


「ヴァレラさんは強い方なのですね

 寂しいとか、元の時代に帰りたいとか

 思ったりしないのですか?」


「んー…驚きはしたけれど、そういう感じは余り湧かないのよね

 私が居た時代はね、私が産まれた時から

 ずっと戦争していて、貧しい時代が続いてたの

 私は両親の顔も知らないし

 物心ついた時から軍に徴兵されてたから

 元々そこまで元居た世界に愛着何て無いのよ」


「戦争?って魔物や、アデスとですか?」


「人間と、よ

 因みに魔物やアデスって何の事?」


こちらの世界の常識なのかもしれないが

何の事を差しているのか良く分からない


「えと、普通の動物とは違って、人間にとても攻撃的で

 強力な生物の様なもので、脅威の存在です」


「んー、それって多分魔導生物の事かしら?

 確かに非武装で遭遇したら危険だけど

 その辺は大型の野生動物と大差無いと思うけど...」


「はぅ、確かにヴァレラさんの装備、すっごかったです

 あれだけの技術力があるなら魔物何て敵じゃないですね...」


「はぁ?何言ってんの、あの黒い奴、何なのよ

 私の攻撃なんか何一つ通用しなかったじゃない、

 あいつはこの時代の兵士か何かじゃないの?」


先の戦いで、圧倒的な防御力・スピード・攻撃力を持った

黒い強化服らしき物に身を包む男が思い起こされる

本当の戦闘力の一部も発揮しては居なかっただろう

しかしそれで尚、あの男の装備は明らかに

自分の時代の技術水準を超越していた


「彼はゼロスさんという方で、彼もヴァレラさんと同じく

 この時代の人では無く、遥か古代の生き残りの方です」


「え、ちょっと待って、それってどういう事?

 私あんな奴や装備何か見た事ないんだけど...」


「はい、ゼロスさんはヴァレラさんの時代よりももっと昔

 数百万年前の時代の兵士さんだそうです」


「はぁっ!?」


数1000年という時間でさえ

遥か途方もなく長い時の流れに感じて居たが

その更に数1000倍となると最早現実的に認識出来ない


「は、はははっ...、」


頭の処理が追い付かず乾いた笑いが口から洩れる


「あ、あの...大丈夫ですか、

 因みに私から見ればヴァレラさんも

 ゼロスさんと同じくらい信じられない力をお持ちの方ですよ?」


「え、でもそれっておかしくない?

 ここって私の世界から1000年後の世界なんでしょ?

 それなら今頃、もっと凄い魔導や科学や技術が

 産み出されているんじゃないの?」


「いえ...魔導、というのと恐らく似たような

 魔具という技術はありますが

 先日のヴァレラさんの武器や装備を見る限り

 ずっと私達の時代の物より遥かに凄いです」


(技術が衰退している...?

 逆に超古代に私達を遥かに凌ぐ技術文明が...?)


余りに衝撃的な事実のオンパレードに寄り

思わず頭を抱えそうになる


「良ければ色々話を聞かせて貰えないかしら」


「はい!幾らでもお話ししますよ

 それならちょっとお茶を取ってきますね!」


そう言うと少女は空の食器の乗った盆を抱え

再び部屋を後にした


そっとベットから立ち上がり

窓から外の景色を眺めると

改めて落ち着いてみたその景色は

自分の世界とはまるで何もかもが違う異世界であった

 

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