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51 1000年前の少女

檻の中の少女は、他の者達同様

辛うじて体を覆う椅子汚れた布一枚と

鎖が巻かれた足は何度も外そうとしたのか

その周囲は出血し張れ上がり酷い状態となっている


他にも体の至る所に擦り傷や出血

青紫の打撲痕が見受けられ、ぐったりと床に付している


「っ...酷い、」


自分とそれ程離れてはいないであろう年頃の

少女の惨状を目の当たりにし、思わずセルヴィが目を背ける


「この少女は何故奴隷となった」


「はて...少々お待ちください」


男が脇から手帳を取り出し、中を確認する


「ああ、有りました、なになに

 この奴隷はバルザック路上にて商団の馬車を襲撃

 幸いにも商団が付けていた護衛が取り押さえられ

 以上の事が複数の証言で明らかとなり

 身元も不明、罪も明らかな為、

 都市簡易裁判にて強盗及び殺人未遂により

 奴隷落ちの罪になったようですな」


コツッ...コツッ...


プロメがゆっくりと檻のすぐ近くまで歩み寄ると

地に伏せた少女は瞳をにらむ様に瞳を開け

歯をむき出しにしながら

明かな敵意を持った視線を向ける


「*****!*******っ!!」


言葉らしき規則性のある音を発しながら

擦れた声で、怒気を含めてプロメを威嚇する


「まるで亜人の様な気性の荒さで

 おまけに言葉も解せぬときまして

 ほとほと手を焼いておりましたのです

 もしもお客様のニーズに合うようでしたら

 どうでしょう?お安くしておきますよ」


両手を前でこすりながら嫌らしく笑う男

その間も檻の中の少女は何か激しく

プロメに罵声を飛ばしている

そしてプロメはただ少女を見つめ黙って檻の前に佇む


「で、でも、こんな女の子が一人で

 商団なんて襲いますか?

 それも武装した護衛のついている複数の相手にっ」


セルヴィが至極当然の疑問をぶつける

それに対し男も当然の様に答える


「はてさて、何故その様な事を

 この者がしたのかは私には分かりかねます

 私はただ正式な手続きに基づいて

 この奴隷を引き取ったまででございます」


明らかに状況として不自然だ

この男はそれを知りながらあえて事実を歪めている

しかし嘘ではない建前の築いた上での言葉なのだろう

それを打ち崩す言葉を持たない自分の未熟さに

セルヴィが歯痒く情けなくなる


その時だった、黙って檻の中の少女を

見つめていたプロメがゆっくり口を開く


『わたしたちはあなたのてきじゃない』


それを聞いて一瞬檻の中の少女が

驚いた様に目を見開く、が

すぐに再び敵意の表情へと立ち戻る


「ぇ?お客様、今何と仰いましたか?」


奴隷商の男もやや驚いた様にそう問いかけた

何がそこまで驚く事があったのだろうか?と

セルヴィは不思議に思う


『黙れ!野蛮人共の言う事等信用出来るか!この****!』


「えっ!?」


セルヴィが思わず驚きの声を上げる

その言葉が檻の中の少女が発した物だったからだ


「お話し、出来たのですか?」


「どうされましたかなお嬢様?」


セルヴィの言葉を聞いた男が、再び不思議そうに問いかける


(もしかして...この人には言葉が聞き取れてない...?)


横のゼロスを見上げると、セルヴィの視線に気付き

ゆっくりと肯定の意を示す

どうやらゼロス達の技術による影響の様だ


「まだ完全ではないけれど、遺跡に文字列と照らし合わせて

 大体の言語解析は完了したわ」


そう言うとプロメが少し脇にずれ、次にゼロスが檻の前に立つ


『俺達は君に害を成す為に来た訳じゃない

 話を聞かせて欲しい』


『うるさい!敵の戯言等聞く気はないっ!

 ここはどこなのよ!お前等は帝国の奴等かっ!』


言葉は通じている様だが

全く取り合って貰える様子はない


「あ、あの、いったい...」


男が何が起きているのか分からないという様子で

困ったように声を掛ける


「おい、この奴隷は幾らだ」


「え、はいっ、そうですねーこちらの商品ですと...」


男はすぐに落ち着きを取り戻すと

ワザとらしく手元から手帳を取り出し

捲りながらチラチラとゼロスの装備を

下から上まで見定めて行く、足元を見ているのだろう


「金貨50枚となります」


「金50、それは適正な価格か?」


「ええ、何分ひとひとりの”命”で御座いますので」


「都合の良い時だけ”人”か

 貴様の言う命とは随分軽いのだな」


ゼロスが周囲の檻を今一度見回し

男に1歩、重い足音を立てながら歩み寄る

その威圧感に気おされた男が一歩後ずさる


「おっとおっと、暴力は行けませんなぁお客様

 その様な対処を専門とする従業員も居ります故...おい」


奴隷商の男が奥の暗がりの方に声をかけると

そこから気だるそうな男が声が返る


「ったく...まだ傷が疼くんだよ...一々呼ぶんじゃねぇよ」


そしてゆっくりと如何にもガラの悪そうな

筋骨隆々の男が暗がりから姿を見せる

用心棒という所だろう

右腕にはグルグル巻きの包帯を巻きつけ

左手には短剣が握られている


「んで、なんのs...」


カラン...


が直後その男はこちらの姿を見るなり

左手の短剣をそのまま地面に落とし、完全に凍り付いた

額から大粒の汗がいくつも噴き出し

顔を滝の様に流れ、顎をガチガチと音を鳴らす程震わせている


その男は数日前、セルヴィを攫い

ゼロスにより左腕を引きちぎられかけた男だった


「う、うぁぁああああ゛あ゛あ゛っ!!!」


大の男が突如悲鳴に近い叫び声を上げ

顔中からあらゆる液体を垂れ流しながら

そのまま出口の方に一心不乱にかけて行った


「お、おい!何処に行くんだっ!」


一体何が起こったのか分からないという様子で

奴隷商の男が叫ぶも、男が戻ってくる様子は無い


「全く、ケダモノが

 泣きたいのはセルヴィちゃんの方よ

 大丈夫?」


「え、あ、はいっ、大丈夫です

 何だか余りにも突然の事で

 思い出して怖いとかより唖然としちゃって...」


「そう、なら良かったわ」


プロメがそっと微笑んでセルヴィを安心させる


「それで、適性価格なのか?」


何事も無かったかのようにゼロスが更に1歩

奴隷商の男に近付く


「い、いえっ!先程の金額は別の商品と見間違えて居りました!

 こちらは廃棄処分前の物ですので引き取って頂けるなら

 無料で構いません!!」


この男も長年闇に携わっている故だろう

危険を察知する嗅覚には長けているのか

何かを感じ取ったのか手の平を返す様に対応を変える


「そうか」


すると男はそそくさと少女の檻の前に行き

鍵束から一つの鍵を取り出し、檻を開錠する


「ささっ!どうぞお持ちください!

 私は必要書類を記入しております故

 先に上の受付で待っております!」


そう言うと男はそそくさとその場を後にし

階段を駆け上っていく様は、最初の紳士ぶった

下品な商人の余裕等微塵も感じられない


改めて一同檻の中の少女と向かい合う


「極度の栄養失調状態、

 外傷から複数の感染症を引き起こしているわね

 また、体内から複数の薬物反応も検知

 余り良くないわ、早急に治療が必要ね」


「わかった」


ゼロスがゆっくりと檻のドアを開け、1歩中へ踏み入れると

中の少女は慌てて足を引きずる様に立ち上がり

背後の格子に後ずさる


「く、来るなっ‼」


ゼロスがゆっくりと右手を少女の方に翳す

何かされると思った少女は咄嗟に両腕で防御の姿勢を取る


チュイン!! ガチャリ...


ゼロスの手から一瞬僅かに閃光が放たれたかと思うと

その閃光は正確に少女の足首に付けられた鉄製の枷へと命中し

枷は二つに割れ、地面に崩れ落ちた


「な、どういうつもりよ!敵の施しなんて受けないわっ!」


しかし少女の警戒心、敵意は解ける様子は無い


「話を聞いてほしい

 その後は自由に開放すると約束しよう」


「うるさいっ!!」


少女はよろめきながらも戦闘の姿勢を取り、蹴りを繰り出す

が、ゼロスは受け身を取る事なく

そのまま少女の足首付近が左ももに打ち付けられる


「あぐっ...痛っつ!」


しかしダメージを受けたのは少女の方だった


「辞めるんだ、君を傷つけるつもりは無い」


「うるさいうるさいうるさい!!!」


しかし少女は攻撃を辞めようとしない

次の攻撃を繰り出すべく再びゼロスに突進する


すると次はゼロスはそのまま受ける事はせず

少女の一撃をすんでの所で交わし

素早く脇から少女の背後に回り込むと

手刀で素早く後頭部付近を軽く叩きつけた


「うぐっ!!」


少女が僅かな呻き声を上げながら意識を失いその場に崩れ落ち

地面に倒れ込む前にゼロスが腕で抱え受け止める


「え、えとっ、」


「一時的に気絶させただけだ

 今は治療を優先する」


慌てるセルヴィに心配いらぬ事を伝え

少女を両腕で抱えながら檻から出る


「まずは治療が先決ね、ここからなら宿に戻るより

 この先の西門から出ればすぐ外よ

 人目に付かない場所なら

 1度街から外に出た方が早いでしょう」


「了解した」


ゼロスがそのまま階段へと歩みを進め

一同その後を追う

1階に戻ると奴隷商の男は終始ヘコヘコした様子で

手早く奴隷購入に必要な物と思われる証明書類を差し出す

少しでも早く出て行って欲しいのだろう


一行はそのまま西地区の街道を抜け西門から外へ出る

ボロボロの布一枚の半裸の少女を抱える姿を見ても

西地区は元々そういう地域である為か

誰もそれを不思議に思う物は居なかった


そして街から少し離れた林まで来ると

少女を柔らかい草の上にそっと寝かせ

ゼロスが腰元から一つの筒状の装置を取り出す


「いいのね?メディカルキットはそれが最後よ」


「ああ、構わない」


プロメがゼロスの取り出したであろう物をさし、確認する

そしてゼロスが迷うことなくそれを少女の胸元に当てると


プシュ!!


僅かな圧縮音の後、筒状の装置が点滅を始める


「あれは...治療魔具の様な物ですか?」


「そうよ、あの中には無数のナノマシンと呼ばれる

 小さな機械、神機が入っていて

 人間の傷を内外問わず修復してくれるの

 セルヴィちゃんの中にも入ってるわよ」


すると少女の全身に有った痣や擦り傷が

みるみるうちに薄れて行く


「凄いです!あんな酷い傷がこんな一瞬で...

 私を助けてくれた時もこれを使ってくれたのですね!」


「そう、そしてナノマシンの働きは治療だけじゃないわ

 その子の言葉、分かるでしょ?

 あなたの体の中に残ったナノマシンに働きかけて

 言語を私が解析、変換して貴女にも聞こえる様に

 作用してるの、だからその子の言葉が分かるのよ」


「ほぁー!すっごい技術です...」


すると話している内にもう少女の傷跡は

外からでは確認出来ない程となっていた

しかし布の隙間から覗かせる脇腹等は

骨が薄っすらと浮かびあがり

やつれた体その物はどうにもならない様だった


程なくして紅髪の少女の瞼が僅かに動き

商館の地下では薄暗く良く分からなかったが

ゆっくりと開けたその瞳は綺麗に透き通るグリーンだった

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